国王と面会
「朝か………」
俺は周りを見渡す。うん、夢じゃなかった。
一瞬、昨日のことは夢で、いつもの汚いオンボロアパートで眼を覚ますのかもと思ったけど、昨日の白っぽい綺麗な部屋だ。
俺は軽くストレッチをしてから、ベッドを降りる。
「さて、どうしたらいいんだろう?」
勝手にお城の中を歩き回ったら駄目だよな?それ以前にお城の中について何も知識がないから、必ず迷う。
…
…
…
やっぱり待つか。
窓を開けてみる。キレイだな。
昨日、夕日が見えたから、朝日は反対側だよな?それでも森や湖、山が朝日を浴びてキラキラしている。
景色を見てると、
コンコン
とドアをノックする音がした。
「はい」
返事をすると、やっぱりエルさんが入ってきた。
「おはようございます、ヨシキ様。体調はいかがでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。いつもより調子が良いくらいですよ」
「それは良かったです。では、隣の部屋へどうぞ。湯桶をご用意致しておりますので。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
「終わりましたら、朝食をご用意いたします。」
俺は隣の部屋へ移動した。部屋の中はタイル張りで、それほど広くなく、真ん中にお湯の入った大きな桶と、タオルがおいてあった。
こっちの世界では、湯船に浸かる習慣はないのか?そんなことを考えながら、俺はお湯とタオルで身体を拭った。
部屋へ戻ると、エルさんが、朝食を机の上に並べ終わるところだった。
「朝食の準備が終わりました。どうぞお召し上がりください。」
「ありがとうございます」
俺は朝食をいただくことにした。
朝食は、パンにポタージュスープ、ハムにソーセージに肉のソテーっぽいものと肉に偏ってるが、結構豪華だ。これもおもてなしなのか?
朝食を平らげた俺は 「ふぅ」 と一息つく。少し緊張してきた。
「こちらにお召し物をご用意いたしてますので、お着替えください。後ほど、国王様の元へご案内させて頂きます。」
「わかりました。何から何までありがとうございます。」
「いえ、これも仕事ですから。」
そう言って、エルさんは部屋から出て行った。
ついに来たか…。昨日は突然だったからどうして良いかわからなかったが、今日は国王様にもキチンと対応しなきゃ。
与えられた服は、装飾の入った白い長袖シャツと、肌触りのいい茶色いズボン、皮製の靴だった。
…よかった、カボチャパンツとかだったらどうしようかと思ったけど、これなら普通に着れる。
俺は着替えた後、エルさんに国王様の元へ案内された。
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「お身体の調子はいかがですかな?ヨシキ様。」
部屋に入るなり、俺は国王様から声をかけられた。
「は、はい大丈夫です。それと、昨日は国王様と知らずに、失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「いえいえ気になさらないでください。知らない世界に来て、落ち着いていられる人はいないでしょうし、とても動揺されて対応に困ることもあるそうですので…。」
ん?対応に困ることもあるそう?どういう意味だろう?
「天落者の方々は、この世界にたまに現れるのです。数年から十数年に一人ぐらいですが…。」
国王様によると、天落者は今までも様々な国に、何人も落ちて来ているが、かなりの人が取り乱したり、動揺したり、呆然として何も出来ない日々を過ごしたりということがあるそうだ。
天落者を大切にもてなすようにという、神様のお告げがあったり、世界や国を救った過去もあるので、各国は丁重にもてなしてるそうだが……。
「ヨシキ様は何か望むことはありますかな?」
突然、国王様が聞いてきた。
望むこと………
これもおもてなしの一つだろうか?
素直に言うべきか、それとももう少し様子を見てからにするべきか…。
考えた末、俺は素直に言うことにした。この国王様は、なんか信用できる気がする。
「それでしたら、この世界で生きて行くために、知識や情報が欲しいです。昨日もエリーゼ姫様から少し伺いましたか、私はこの世界について、全然知りませんので。」
「そうですか、わかりました。必要な知識や情報はご用意いたしましょう。」
国王様が協力を受け入れてくれた。これで、情報収集はなんとかなるか。
「それにしても、しっかりされてますな、ヨシキ様は。昨日は念の為、あまり人を近づけないようにしていたのですが、必要ありませんでしたね。」
成る程、取り乱したり動揺したりしてたら危険だから一応距離を置いてたのか。
としたら、
「申し訳ありません、エリーゼ姫にはこちらから色々聞いてしまって…。」
と、接触してきたのはあちらからだが、一応謝っておく。
「いえ構いません。あの子もとても楽しかったようですし。もしよろしければ、これからもあの子の話し相手になってあげて下さい。」
「はい、国王様がよろしければ。」
国王様の許可が出たってことは、これからもエリーゼ姫から話を聞けるってことか。
ふと、エリーゼ姫の笑顔が瞼に浮かぶ。あ、お菓子を作る約束もしてたっけ。
俺はその話も国王様にしてみたが、あっさりとOKがでた。というか、国王様も食べてみたいそうだ。まあ、多めに作れば大丈夫だから、わかりました、と言っておく。
そして、話をした後は、俺自身の能力の確認をしてもらえることになった。王城には、スキルや魔法の能力を調べる魔道具があるそうだ。なんでも、
「スキルを偽って就職しようとするのを防いだり、能力を確認して配属を決めたりするのに必要なのです。」
との事。たしかに防犯を考えると、国王がいる場所で嘘をつく人を使うわけにはいかないし、戦闘能力や事務能力で配属を決めるのは、必要なことだ。
最後に俺は、
「朝早くから、お時間を作っていただき、ありがとうこざいました。これからよろしくおねがいいたします。」
と、御礼を言う。 そして俺は、能力を確認する為、エルさんに案内されて、魔道具のある部屋へと向かった。