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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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面会と依頼

「この度は、お時間をとっていただき、ありがとうございます。」

「うむ、今回お主が揃えたアイテムはなかなかに素晴らしい物じゃった」

「ありがとうございます。それと、こちらはお礼と誕生日のお祝いを兼ねた品でございます。よろしければ、お受け取りください」


 オレは魔晶石の入った木箱を2つ机の上に差し出す。


「うむ、こらはありがたく受け取っておこう」


 国王様はそれを受け取り、机の隅に移動する。それを訝しそうに大臣が見ている。思った通り、国王様と2人で会うことはできなかった。


 プレゼントを渡した後は、世間話になったので、オレは王都の名物や、名所なんかを聞いた。


 名物は近くの大きな湖で取れる 《シルバークイーントラウト》 で、身は柔らかくて脂が乗っていて、煮ても焼いても良いらしい。卵もそのままでも塩漬けにしても美味しいそうだ。


 トラウトーーつまり鮭の仲間だから、卵を醤油漬けにしてご飯で食べたい所だが、今のところ醤油も米も見ていない。食の大迷宮に行けば見つかるだろうか?


 国王様からは、あのアイテムバッグやゴブリンコレクションの事を聞かれた。どうして集めたのかと聞かれたので、趣味だと答え、どうやって集めたのかと聞かれたので、高ランクのアイテムバッグは偶然手に入れ、アイテム袋や低ランクのバッグはビネスの大迷宮やその周りの小迷宮で集めたと言っておいた。


 ゴブリンコレクションの方はこの前のゴブリンの群れの討伐で集めたと言うと、納得してくれた。そのままゴブリン討伐の話になると、大臣が居心地悪そうな気配を出して来たので、やはり関わっていたようだ。


 と、不意に大臣が口を挟んでくる。


「ところで、貴方は《旅人》をしていたと言うことですが、何か面白い話はありませんか? 例えば古代の遺物とか、失われた魔法などーー」


 どうやらゴブリン討伐の話を打ち切りたいみたいだ。しかし、この話題はオレには厳しいな。実際に《旅人》をしていたわけでは無いからーーっと、そうか。あれがあるか。


「そうですね……ビネスに行く前ですが、実は盗賊? のような輩に会ったんですよね。場所は食のフォードより南の街道の西、魔霧の渓谷に違い辺りだと思うんですが……」


 オレがそう言うと、大臣の顔が青くなる。が、自分から話を振った以上、止めることが出来ずにいる。なので気にせずに話を続ける。


「その盗賊達が根城にしていたのが不思議な遺跡でして。たまたまそこに辿り着いて、襲ってきた盗賊達を追い払い、捕まっていた商人の親子を助けたんですがーー夜、その遺跡で寝ているうちに他の場所へと移動してたんです。」


 オレがそう言うと、2人とも驚いた顔をする。


「ですから、もしかしたらその遺跡は転移魔法に関する何かが眠っているのでは? と考えています」


 この話は、ビネスの街で国の警備隊へ伝えているので、隠す必要がない。出来れば隠しておきたいが、セイブンさんに嘘をつかせる訳にはいかなかったからな。


「成る程。して、その盗賊達は……」


 国王様が大臣を見ると、


「え、ええ、盗賊達は捕まえてありますし、遺跡の場所も人を使って調査しているところです」


 どうやら大臣には報告は入っていたようだ。が、引き続き顔色が悪い。と、不意にノックの音が響く。


 コンコン


 国王様が入室を許可すると、冒険者ギルドで会った依頼主の男が入ってくる。あの依頼は国か貴族絡みだと思ってたが、やはりそうだったようだ。依頼内容は後日って事だったが、今日オレが来る事を知ってたからなのか?


 国王様に会う日は一昨日決めて、依頼は昨日受ける事になったから、時間的には不思議では無いか。


「失礼します」

「うむ、悪いが少し話を変えさせてもらおう、ヨシキ殿。お主に昨日受けてもらう事になった依頼じゃが、あれは国からの依頼じゃ。今日会うことがわかっておったので、ついでに話をしたいのじゃがよろしいか?」


 依頼についてはオレも気になっているので、OKする。すると男は話し始める。


 内容をまとめると、

 ・女性2人の護衛

 ・期間は半年の5ヶ月

 ・その半年の間にこの国の主要な街4カ所を回る


 という事だ。しかし半年ってのはかなり長いな。ただの護衛ってだけじゃ無いようだ。しかも女性の護衛だ。これは女性のパーティに頼んだ方が良かったのでは? と思って聞いてみると、


「ええ、ですからもう1つのパーティには女性が2人居ますので大丈夫です」


 つーことは、恐らくアイツらと一緒の依頼って事だな。この依頼主と一緒にいた訳だし。まぁ全く知らないヤツらよりはいいか。


 あとは、街中では街の方から護衛が付くので、そのパーティと交互に休みを取って良いとの事だ。依頼中になるので、その間冒険者の資格は凍結にならないが、大迷宮に潜るのであれば、いつも通りに普通の依頼をこなさなければ入れないらしい。


 という事は、依頼の間に大迷宮に潜れるって事だな。それは有難い。大迷宮に潜れるし、滞在費は国持ちだし、依頼料も半分前払いで払ってくれる。思った以上に良い依頼だと思う。


 そして、再びノックの音が響き、人が入ってくる。それはエリーゼ姫とエルさんーーそうか、この2人が護衛対象かーーそしてブタみたいに太った20代くらいの男が入ってきた。


「む、お主何故ここにいるのじゃ?」


 国王様がそのブタみたいな男に言うと、


「自分の婚約者と一緒に居るのが、おかしい事ですか?」


 豚男はニタニタ笑いながら言う。


「何を言っておる。それはまだ決まっておらんだろう? それに本人の意思を一番に考えると言っておるのに、何故勝手に婚約者を名乗っておる!?」

「やだなぁ、それくらい大切に思っているって言う意味で言っているんですよ。ですが、私はそこの大臣の孫ですから、商売についてもかなり勉強してますから、相応しいと思いますがね?」


 ハッキリ言って気持ち悪い。エリーゼ姫もかなり不快な気配を出しているし、あのエルさんですら不快感を露わにしている。そして、何故だか大臣はオロオロしている。どうやらこのブタ男が勝手にやっているみたいだ。


 ニタニタ笑って人を見下した態度。見ていて不愉快になる言動だ。


「と言うわけで、彼女のことをしっかり守って下さいよ、冒険者さん?」

「断る!」

「は?」

「断ると言っている」

「え? な、何で……」


 どうやら断られると思わなかったらしい。と言うか、オレも口が勝手に動いて驚いている。だが、コイツがエリーゼ姫と婚約するのは不愉快だから、このまま流れで言ってしまえ。


「オレが依頼を受けたのはアンタじゃねぇ。国からの依頼だ。なのにアンタから偉そうに言われる謂れはねえ」

「なっ! 私は大臣の孫ですよ!? その私にそんな口を聞いて良いと思ってるんですか!?」

「良いに決まってるだろ? そもそも大臣の孫ってのはそんなに偉いもんなのか? どうせ大臣の権力を借りて威張ってるだけだろ? そもそもアンタは自分だけの力で、何か事を成した事はあるのか?」


 そう言うと、ブタ男は顔を真っ赤にしながら怒鳴りだす。


「ふ、不敬だ! 不敬過ぎる! 処罰を要求する!」

「なら、まずアンタを処罰しなきゃな」

「な、なんだと?」

「まだ決まってもないのに勝手に婚約者を名乗り、本人の意思を一番に考えると言っているのに、勝手に相応しいなどとほざく。それは、国王様の決定した事を否定しているって事だよな? ならアンタは国王様に対して不敬になる訳だ」


 そう言うと、国王様もこれ幸いと乗ってくる。


「そうじゃな、それに国にとって大切な話をしている所に、呼んでもいないのに勝手に入ってきて、勝手な事を話す。それはワシに対して不敬じゃし、国の品位を落とすものじゃ。さて、どのような処罰をするべきか……」


 その台詞を聞いて、豚男は青くなっていく。反対にエリーゼ姫はホッとした表情を浮かべ、エルさんは表情には表れないが、嬉しそうな気配を出す。依頼してきた男は何故かこの状況を観察している。


「こ、国王様! 孫が申し訳ありません。キツく、キツーく言い聞かせますので、何卒ご容赦を!」


 大臣が急に国王様にあたまを下げる。それを見てブタ男も一緒に並んで頭を下げる。


「大臣、孫の教育ができておらんようじゃな? しかし其方の普段の活躍にはワシもとても助かっておる。じゃから今回の事は目を瞑ろう。しかし、そこの孫は婚約者を名乗る事も、娘に近づく事も許さん。それで良いな」

「は、はい。畏まりました」


 そして、豚男は部屋の外へ連れ出されていった。しかし、普通だったら国王様に会ったり、平気で話しかけたりは出来ないものだと思うんだが。もしかしたらこの国は、オレが思っているような、王族や貴族といった感じではないのかも知れない。


「済まなかったな。もう戻って休んでおれ」

「あ、はい、お父様。あの……ありがとうございました」


 国王様に促され、エリーゼ姫は部屋を出ようとして、オレにお礼を言ってきた。


「ん? 何、気にすんな。オレがああ言うヤツを嫌ってるだけだーーっと、すみません。余りお気になさらずに」


 途中まで冒険者口調で言ってしまい、慌てて丁寧な口調に直す。それが可笑しかったのか、エリーゼ姫はクスリと笑ってエルさんと退室した。


「国王様の前で、勝手な発言をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

「何、気にするでない。それよりも、その口調では疲れるのではないか?普通に喋っても良いぞ?」

「……良いのか?」

「うむ、ワシも昔は冒険者に紛れて活動しておったからの。特に気にはせん」


 チラリと依頼してきた男を見るが、この男も特に気にしなさそうだ。


「わかった、有り難くそうさせてもらう」

「ちょっとしたトラブルが有りましたが、あの2人が今回黒猫さんに護衛してもらう事になる方々です」

「む、しまった。疲れてそうだから、返してしまったわい」


 成る程、本来はここで面会して説明をする予定だったのか。まぁ仕方がない。さて、依頼の話に戻った訳だが、一応オレは初対面という事になっているから、その辺を注意しなくちゃな。


「さっきお父様と言ってたが、あの子が娘って事で良いんだよな?」

「うむ、そうじゃ。名をエリーゼと言う」

「エリーゼ!?」

「確か、お主はリンゼの娘を探しているのだったな?」

「どこでそれを?」

「っ……」

「……」

「し、知り合いの商人から聞いたのぢゃ」


 うっかり口を滑らしたな、この人。


「ホントは娘もお主に会う事を楽しみにしてたのじゃが……」


 あのブタ男の所為で台無しになったと。


「まぁ、護衛するんだからその時でいいさ。その時まで楽しみにしといてくれと伝えてくれれば良い」


 予定とは違う形だが、これでエリーゼ姫に会う事が出来る。作ったアイテムは不要になったが、大臣の居ない所で話をするチャンスが増えたんだから予定より確実だろう。


 その後、国王様や依頼してきた男とルートや必要なもの等を話し、買取などをしてもらい、終了した。


 さて、後は出発までに王都を出る準備を終わらせないとな。差しあたっては、あの大量の手紙を何とかしないと……。















お読みいただきありがとうございます。

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