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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
75/87

再戦と再戦

かなり時間が空きましたm(_ _)m

 試合が始まったーーが、リザが後ろから小声で話しかけてくる。


(依頼って〜黒猫さんが受けるんじゃ無いの〜?)


 カンッ


(いや、多分表向きは完全に依頼がなくなった事にするんだろう。そうする事によって、他の冒険者達の気を引き締めるんだろう。あとは、その依頼自体が本当に表沙汰にしたくないってのもあるんだろうが)


 カンッ キンッ


(そっか〜、なるほど〜)


「よそ見して、くっちゃべりながら戦うんじゃねぇー!」

「お〜、見なくても矢を打ち落とせるんだねぇ〜」

「んー、まぁ出来そうな感じがしたからやってみたが、出来たな」

「ちょっと〜、下手したらわたしに当たるんだよ〜」

「でも魔法陣の中なら怪我はしないんだろ?」

「しないけど〜痛みはあるみたいなんだよ〜?」

「マジか。まぁ当たらなきゃ良いだけだな」


 さっきから手下AとBが矢で牽制してきているが、魔力の込めてない普通の矢だ。簡単にストーンバレットで打ち落とせる。流石にこれでは拉致があかないと分かったのか、接近戦に持ち込もうと近づいて来る。


 護りながら3人を相手にするのは、骨が折れそうだな。それなら


「ストーンバインド!」

「なっ!」 「くそっ!」


 手下AとBの足元から、土で出来たロープが何本も伸び、絡まってから石化する。そして


「ストーンバレット!」

「えっ!」

「オイオイ、ウソだろ?」


 ストーンバレットを発動。弾は2発、だが大きさが直径1mある。驚いて硬直している手下AとBに向かって、巨大な石の弾丸が高速で発射される。


「「ぐあぁぁぁっ!」」


 簡単に吹っ飛び、そのまま魔法陣の外へとはじき出される。さて、後は馬鹿が1匹だけだ。


「キサマアッ、あの時と同じと思うなよ!?」


 だが言葉とは裏腹に、あの時と同じように『龍神の斧』を手に突っ込んでくる。なのであの時と同じように、顔面に向けてストーンピラーを放ち、馬鹿が仰け反ったところを身体強化の魔法を使い接近、腹に一撃をいれ襟元を掴んで遠くへ投げる。


 やっぱりあの時と同じままだ。全く成長していない。


「オイ、あの時と同じと思うなよーとか言ってたくせに、あの時と全く同じじゃねえか? 少しは成長したところを見せてみろよ、ゴブリン野郎」

「うわぁ〜、相変わらずエゲツない言い方〜」


 とか言いながら、リザの奴はオレの魔法をかなり分析していたようだ。まぁ突っ立ってるだけだからな。少しくらい攻撃を流してやっても良かったか?


 さて、ぶん投げられた馬鹿は起き上がってこちらを睨みつけて来る。お約束通りなら、また『龍神の斧』を使って来る筈だが……。


「ぶ……」

「ぶ?」

「ぶ……ぶち殺してやる!」


 おおー、ちゃんとお約束通りだ。というかワンパターンといった方が良いか? だがこちらは前回と違い後ろにお荷物がいる。だから避けることは出来ない。


 馬鹿は『龍神の斧』を振りかざし、衝撃波がこちらへと向かって来る。


「あれはヤバくない〜?」


 が、前回ビネスで確認している。建物の前に造られたストーンウォールで龍神の斧の一撃を防いでいたのを。


 なので目の前にストーンウォールを作る。念の為3枚作ったが、一枚で十分に相殺出来た。ならもう十分だな。念の為もう1枚作って3枚にして、前と同じようにストーンピラーを使って距離を詰める。前回より魔法を使い慣れていたので、1発打つ間に接近戦できた。そして、首裏に手刀を打って意識を刈る。



「あれが噂の黒猫の実力なのか……」

「見ないで矢を落としたぞ」

「魔法の発動が早すぎだろ!?」

「つーか、あれはもはやストーンバレットじゃねーよ」


 周りがガヤガヤしだすが、気にせずにギルマスのところへ戻る。


「えー、今回の試合は黒猫の勝ちだ!」


 ギルマスが宣言をして、今回の試合は終了した。そして馬鹿達は職員に担架で運ばれていく。観客は勝利宣言の後から一気に騒ぎ出し、冒険者は試合の良かった点や自分ならどうするかを話し出し、他の観客は良い試合だったとか、もっと見たかったなどと言っている。


「つーか、こんな公の場で依頼の取り消しをかけた試合をやるってのは、冒険者にとっては厳しいんじゃねぇのか?」

「いや、むしろ逆だな」


 オレが言うと、ギルマスが答えてくれる。


「こう言う厳しい事をしていると言う事実が、冒険者ギルドの、ひいては冒険者の信用に繋がるのだ。冒険者を厳しく罰する事によって、同じことを繰り返さないようになるし、他の者も気が引き締まる。そして、ギルドがしっかりとしていることを見せる事により、安心して依頼をしてもらい、その依頼が冒険者の収入に繋がるのだ」


 なるほど、日本でも確かに内部で揉み消したり誤魔化したりする企業よりも、起きた事に対して厳粛に対応している企業の方が、最終的に信用できるからな。一度不祥事が明るみになると、他にもやっているんじゃないかって疑心暗鬼になる。

 だから厳しくしている方がギルドの信用が出来るし、そうすれば依頼が増え、冒険者にとっても良い状況になる、と言う事か。


「しっかし相変わらず余裕だなぁ、黒猫。リザを守りながらでも全然本気出してなかったし」

「ん? まぁ、本気出すほどじゃ無かっただろ?」


 そう返したが、エゾの言葉に一瞬戸惑ってしまう。

 本気……、そういや最後に本気出したのっていつだったか……。



 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


 確か二十歳過ぎーーだったか? あの店に就職して、料理や素材について教えてもらって、あの頃は新しい事を知るのが楽しかった。だから本やTVを見たり、他のお店に行ったりして一生懸命に勉強してたっけ……。


 そして店が新しいメニューを募集した時も、積極的に出していた。まぁ若い時は採用されなくても仕方がないと思っていた。だって周りはベテランの料理人ばかりだったから。


 だが、それが10年たっても一度も採用されなかった時は、さすがにおかしいと思った。調べてみたら、ほぼ同期で入った()()()の所為だった。


 ()()()は年が近いヤツらを口先だけで上手く取り込み、自分に票を入れて貰っていた。


 その後不景気で、オーナーが別の人に店を売り、新しいオーナーとベテランの人達がウマが合わず辞めていき、新しい料理長が入ってきた。


 それからだ。アイツの料理が次々に採用されるようになったのは。他の人から聞いたが、()()()は料理長に取り入り、レシピを教えて貰っていたのだ。


 それを知ったオレは愕然とした。他人の料理を自分の料理として出すことも、実力が無いのに口先だけでやっていくのも、オレには信じられない事だった。


 だが、確かに人間関係は大事だ。人間関係が悪ければ、それは店にも悪い影響を与える。そして人とのコミュニケーションを取る、と言う事に関しては()()()は上手かった。だから仕方がないーーオレは自分をそう納得させた。


 しかし、その頃からオレは本気で料理に打ち込む……と言う事をできなくなってしまった。それがいつしか体に染みつき、何に対しても本気にならなくなってしまったんだ。



 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


「オイオイ、どうした黒猫?」

「あぁ、悪い。ちょっとイヤな過去を思い出しただけだ」

「なんか……魔力が漏れてるぞ」


 気づけば、体から少し魔力が溢れてたみたいだ。だが、前の時みたいに、怒りに任せて魔力を放出しなかっだけよかったか。


 しかし、今のオレの本気はどのくらいなんだろうか? フレイムカイザーやダークベヒモスの時は本気で戦う、というより必死になったって感じだったからな。いっそ外に出て全力で走り回ってみるか。そう思っていたときに、


「しかし、思った以上に早く終わりすぎたな。魔晶石の魔力がかなり余ったぞ」


 ギルマスが装置の魔晶石を見ながら言う。すると、依頼主の1人が


「それなら、他に試合や訓練をしたい人がいたら使ってください」

「良いのですか? これだけの魔力を貯めるのはかなりかかると思いますが?」

「ええ、非番の者や戦闘職以外の者に協力して貰えば、1〜2週間で貯まりますから。それに私たちも他の冒険者の実力を見てみたいですから」

「それならオレ達が!」


 と、『ラッシュ』の2人が出てくる。


「だったら、黒猫との再戦なんて良いんじゃないか?」

「ゲッ! ザインお前なんて事を言うんだよ!」

「だったらザイン、お前が再戦すれば良いだろ? お前だってコテンパンにやられたんだから」

「グッ」


 しばらく『ラッシュ』とザインが睨み合っていたが、その間に他の立候補者はてこない。周りを見渡すと、なぜが速攻で目を逸らされる。ナゼ?


「だったら、お前ら3人とも戦えば良いだろう?」

「おいギルマス、オレはあの3人を同時に相手しなきゃなんないのか?」


 あの馬鹿達なら余裕だが、『ラッシュ』とザインを同時に相手して無事に済むとは思えない。魔法陣のお陰で死ぬ事は無いが、訓練だとしたら瞬殺なんてダメだろうからなぁ。


 あ、それなら……。でもそうすると目立ち過ぎるかーーいやここまできたらそう変わらないか。いざとなったら、本当に旅人にでもなれば良いんだし、山田さんの研究所に引き籠っても良い。


 そういや最初が悪かったな。目立たずに冒険者登録をしようと思っていたのに、あの馬鹿が絡んできて、その所為で最初っから目立つ羽目になったんだよな。まぁその話は今はいいか。


「なら、最初は『ラッシュ』と、そのあとでザインと戦うってのはどうだ?」

「ウッ」


オレの提案に『ラッシュ』の2人は少し後ろに下がる。あの時やりすぎたか? まぁでもオレも今の自分が本気を出したら、どのくらい出来るか知りたいからな。なのでハンデを提案する。


「オレもナイフの使い方をもっと上手くなりたいからな。今回は攻撃系の魔法無しってのはどうだ?」

「おぉっ、それなら!」

「でも〜ストーンピラーは〜防御系の魔法だからね〜」


 リザ。余計な事を言うな。『ラッシュ』の2人が顔を青くしてるだろ?


「わかった、じゃあ防御系の魔法も無しだ。使うのはオレ自身に掛かる魔法だけだ。それでどうだ?」

「おぉ! それならやってやるぜ」


 さて、今のオレがナイフだけでどこまで出来るのか……そして本気になれるのかーー試してみるか!



「それでは、始め!」


 ギルマスの声で2人が迫ってくる。まずはーーライルの突きか! 横に避けると、そこにガッシュの横薙ぎの一線が来る。後ろへ跳んで避けるとそこに掬い上げるようなライルの剣が迫り、それを横へズレて躱すとガッシュが挟み込むように剣を振るう。それをナイフで上へ弾き屈んで避け、そのままガッシュに迫りナイフを振るう。避けるガッシュを追いかけようとするが、横からライルの突きが入り一旦距離を置く。


 今使ってるのは身体強化だけだが、これに重量魔法を組み込みたい。今度はこちらからライルに迫り、振るった剣をナイフで弾くーー瞬間にナイフの重量を倍にする。予想外の威力に体が泳いだライルの顔に向かって左手のナイフを突き出し、右手のナイフは太腿を狙う。


「グッ」


 浅く太腿を切ったところで、ライルの脇から剣が伸びて来たので下がる。血は出ていないが痛そうだ。あと、ズボンも破けて無い。ライルが立て直す間、ガッシュが前に出て縦横無尽に剣を振るってくる。それを受け、払い、流して攻める。こちらが攻め、ガッシュが躱した先にライルがいた。陰で見えなかった。


 ライルの腰に溜めた横薙ぎの一撃が来るーーそれをナイフをクロスして受けその瞬間、自分の重量を軽くする。そのお陰で衝撃は軽くなり、ふわりと後ろへ飛ばされながら軽く着地する。


 ガッシュに隠れてライルが見えなかった。気配も至近距離だと後ろの気配は掴み辛い。あと、自重を軽くすると、衝撃は軽くなるが、その分空中で体が泳ぐ。少し早めに自重を戻した方が良いかもしれないな。


「チッ、今のもダメか」

「良いタイミングだったんだがな」


 その後も打ち合い避け合い躱し合うが、決着は着かない。オレはようやく重量魔法のタイミングを掴めてきた。なのでそろそろ終わらせようかと思った矢先、


「仕方ねぇ、アレを試すか」

「あぁ、そうだな」


 そう言って、腰の後ろにあるマジックバッグから、2人はもう一本剣を取り出す。


「オイオイ、オレは腕は二本しか無いんだぞ?」

「大丈夫だ、俺たちもこれは練習中だからな」

「安心して切り刻まれてくれ!」


 そう言って、4本の剣で迫ってくる。利き腕の右手の剣は、左手の剣に意識を持っていかれて威力が下がると思ったが、力も速さも落ちていない。そこに左手の剣が隙を埋めるように振るわれる。左手の剣は力も速さも右手には劣るが、その分こちらの進路上に置いたりけん制に使ったりと、やり辛いところに使ってくる。


 たまに自分の、そして相手の左手の剣が邪魔になり、上手く剣を振るえない事もあるが、それを差し引いても前よりも戦い辛く、こちらは防戦になっている。


 何か、何か無いか? この状態で勝つ方法がーーと、腰の後ろから鋭い気配を感じ、慌てて転がり避ける。ライルが剣を突いたあと、戻さずにそのまま自分が回転して剣を振ったようだ。


「はぁ、はぁ、今の普通避けられないだろ?」

「はぁ、なんでまだ、立って、られるんだ?」

「ハァ、しらねぇよ、そんなん」


 息はかなり上がってきた。身体強化の影響か、少し休めば直ぐに戻る程度だ。だが、それよりも、今、剣の気配がわかった気がする。武器にも気配があるのか?


 改めて剣を見てみると、魔力とそして気配が感じられる。今の戦いで気配が移ったのか、それともオレの気配察知の能力が上がったのか……いや、これは気配の動きがしっかり感じられるのか。今までは気配の強さや大きさ、距離ぐらいしかわからなかったが、その気配の動きが把握出来る様になったのだ。だからさっき見えない後ろの剣の気配を感じられたのか。


『ラッシュ』が攻めてくるが、落ち着いて気配を感じてみれば360°動きが分かる。今まで分からなかった至近距離にある気配の、その後ろの気配も前より把握出来る。目で見なくても、その動きが、その剣の軌道が大体分かる。


「クソっ、さっきより攻撃が当たらなくなってきたぞ?」

「もしかして攻撃が読まれてきたのか?」


 攻撃がーー避けられる。今まで受けていた攻撃が流せるようになり、流していた攻撃が避けられるようになっている。攻撃を避け、流し、そして至近距離へ迫ると、剣では対応し辛くなる。そこでナイフを振るう。連続で手、腕、足を斬り、避ける。


「ガッシュ、大丈夫か?」

「ああ、まだ戦える」


 右腕を斬ったのに剣は離していなかった。これが実戦なら剣を振るのはキツいはずだが、ここでは直ぐに戦えるようになる。再び剣とナイフを打ち合い躱し合う。


 ライルの左手の剣を打ち払い、ガッシュの右手の剣を避け、ライルの右手の剣を流し、ガッシュの左手の剣の突きを体をずらして躱す。そして、ナイフを振ろうとして、右後ろからの剣を左手後ろへ跳び躱す。


「チッ、やっぱ避けられたか」

「オイ、後ろから不意打ちすんなよ、ザイン?」

「なんだザイン、乱入か?」

「ああ、見てたら俺も混ざりたくなってな」

「ホントか?」

「1/3はな。残りの1/3は魔法陣の魔力が少なくなってきたってのと、もう1/3は……この後俺1人でコイツとやり合える自信がない」


「「確かに……」」


「チッ、3対1かーーまぁ残り時間が少ないなら仕方がないか!」


 その後、魔法陣の魔力が切れるまでオレたちは打ち合った。結果はドロー。なんとか引き分けに持ち込んだが、久しぶりに本気になれた気がした。終わってみると、帰ってきた冒険者や歓声を聞いた近隣住民などの観客が増えて一杯になっており、近年で最高の盛り上がりだったと言われた。ギルマスは入場料で収入があったと喜んでいた。


 まぁ、こっちは気配察知のレベルアップや重量魔法の実戦使用が出来たからかなり良かった。『ラッシュ』の2人も引き分けは悔しいが二刀流の訓練が出来たと喜んでいた。


 ザインだけが、相手が疲れた状態の途中参加で、しかも3対1で引き分けた事に落ち込んでいた。






お読み頂きありがとうございます。

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