国王様の誕生日
さて、今日は生誕祭の二日目、そして国王様の誕生日だ。王宮では国王様が多くの貴族や他所の国から、お祝いの言葉と品を貰っているらしい。そして、午後になるとこのイベントに顔を出すのが通例だそうだ。
なので、午前中は昨日と同じように商人や冒険者、観光客相手に話をする。そして、午後になるとワーワーと大きな歓声が上がり
「国王様おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「いつまでもお元気で!」
と言った声が聞こえてくる。どうやら国王様が会場に来たようだ。入り口を見ると、豪華な鎧を纏った兵士に囲まれて、国王様と王子、そしてあの大臣とこのイベントの責任者の商業ギルドのギルマスが展示品を見ながら歩いてくる。
っていうか大臣ってアイツ1人しか居ないんだろうか? 他の大臣を見た記憶がない。国王様達は、気になる物を見つけては、出店者に話しかけながら進んでくる。そしてオレの前までやって来た。
「いらっしゃいませ、国王様。よければ見ていって下さい」
周りの商人の会話を聞いて、同じように当たり障りのないセリフを吐く。つい、昨日はどうも、とか言いそうになったが、昨日はどっかの商会の会長という設定だったから、初対面という感じで話さなければいけない。メンドいな。
「ほお、これは素晴らしい品揃えじゃのう」
「確かに、これはなかなかお目にかかれませんね」
国王様と王子が、さも初めて見ました的な感じで感想を言う。
「そうでしょう? これは私が頑張って集めた物ですから」
と、ここで大臣が口を挟んでくる。
「こ、このキングゴブリンソードはミスリル製なんですね?」
「ええ、ゴブリン達が偶然どこかで手に入れたんでしょうが、そのお陰でかなり魔力の宿った一品になっています」
何故だか焦ったような顔をしている。ゴブリンの群れの事は国王様も知っていたから、大臣も知っていると思ったんだが、どうやら知らなかったようだ。管轄が違うんだろうか?しかし、一応大臣だけあって、鑑定はできる様だ。
「む? これは……馬の置物? いや、ゴーレムか?」
「はい、独自に研究中の馬のゴーレムです。出力が弱くて体重が軽いものしか乗れませんが、なかなか滑らかに動けるように作ってあります。見てみますか?」
国王様が興味を持ったみたいなので、動かすことに。昨日はゴブリンソードやアイテムバックに目がいっていた上に、エリーゼ姫の話もあって気づいて無かったっぽいからな。なので鞍の前を開けてゴブリンの魔石を10個魔道具へセットする。
「そ、それはゴブリンの魔石では? それで動くのですか?」
「ええ、色々試行錯誤をしてゴブリンの魔石を使えるようにする魔道具を作ってみたんです。ただ、その魔道具自体が費用がかかる上に大きさもあるんで、あまり実用的では無いんですが……」
そう言いながら、魔石をセットしてゴーレム馬を動かす。ゴーレム馬は普通の馬のように滑らかにスロープを降り、通路を軽く回り元の場所へ戻り動かなくなる。
「これは、なかなか見事な動きじゃな」
「ええ、小さいだけで動きは普通の馬とほとんど変わらないですね」
国王様と王子が感心している。大臣と案内役のギルマスは驚いているようだ。そして、大臣がギルマスに何か聞いている。
「ふむ、このコレクションといいゴーレム馬といい、お主はなかなか見所がありそうじゃの。大臣、アレを」
「えっ? いやしかし、いま確認したところ、この者はまだ『黒ランク』で特に商売をしている様子も無いようなんですが」
「それは関係ない。たとえ黒でもこのイベント後に成長する可能性がある。何より、ここまでのコレクションを集めることができ、このような魔道具を生み出すことが出来る人材はなかなか現れまい」
「そ、それにこの者は冒険者にもなったばかりで、それなのにこれだけの物を集められるというのは、些かおかしいのではないでしょうか?」
なるほど、さっきギルマスと話してたのはその確認か。
「た、確かにこれだけの物を商売もせず、冒険者になったばかりで集めるというのは、難しいですね」
王子も大臣の言葉に乗せられてしまう。まぁ確かに何もせずにこれだけの物を集めるというのは、普通は無理だろう。それに、エリーゼ姫のお母さんの知り合いと言いながら、冒険者でも無かったというのはかなり不自然だろう。
「実は私はずっと『旅人』をしていましたから」
「そうか! 『旅人』か」
『旅人』ーー それはこの世界ではある意味冒険者より冒険者らしい職業。町から街ではなく辺境を旅して、遺跡や未知の魔物、食材、素材、遺跡などを発見しながら、時折村に寄っては物を売買して旅を続けるという、それはもう探検家と言ってもいいぐらいの職業、それがこの世界の『旅人』と呼ばれる人たちだ。
自由に気ままに生きていたいと思う人たちばかりで、そして一人で旅をする事が多いので、強い人が多い。
冒険者の資格の維持や、人付き合いが面倒だと言ってなる人が殆どなので、変わり者扱いされている。
大きな町や街に寄ることが少ないので情報に疎く、そしてそれを気にしない。
辺境にある村は村同士で物を回さないとやっていけないので、商売のスキルが無くても大目に見てもらえる。そこで売買されたものが町へ行き、新発見だと大騒ぎされる事もあるらしいが、誰がどこで手に入れたかが分からず、誰が手に入れたかが分かっても、それが旅人だとどこに行ったかが分からず困惑する事も偶にあるそうだ。
だが、冒険者のように資格の凍結などを気にせずに、長期間旅が出来るので、そのおかげで発見された遺跡や魔道具なども結構あるらしい。国から依頼を受ける事もあるそうだ。
なので旅人だとレアな物を手に入れる事が多く、そのお陰で意外とお金を持っている。そしてそれを持ち歩くためにアイテムバッグを所持しているので、アイテムバックを多数持っていても不思議では無い……ハズだ。
「成る程、確かに『旅人』ならアイテムバックは必需品じゃな」
「それに、『旅人』なら今までギルドに登録してなかったのも頷けますね」
「そ、それは……」
大臣は口籠って黙ってしまう。そして、国王が再び促すと一枚の白いカードを手渡してくる。
「それはワシが気にいった商人に渡している面会用のカードじゃ。この生誕祭が終わったら、是非会いに来て欲しい。面会の時間などは商業ギルドで相談できるようになっておる。何か分からないことがあったらついでに聞いてくれれば説明してもらえるじゃろう」
そう言って、国王様達は同じように他の展示品をみて、話しかけながら去っていった。渡されたカードを見てみると、『トレー』という文字と、国章が描かれている。
「ふぅ」
なんとか国王様と、面会できる事になった。大臣がいたから嫌な予感はしてたが、やっぱりだった。まぁ言っている事は間違っちゃいないが……。とりあえず今日のイベントが終わったら、商業ギルドに行って詳しく聞いてみるか。
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「おめでとうございます」
「あ、ありがとう? っていきなりなんだ?」
「国王様から面会の許可を貰えたんですよね? なかなか無いんですよ。数年に1人居るくらいですから」
「って、それってもう情報が流れてんのか?」
「はい、ギルマス含め周りの商人さん達もお客さん達も見てましたから」
そうか、まぁそれならしょうがないか。
「で、質問なんだが、この面会って決まりとかあるのか? 何か献上した方が良いとか、服装の決まりとか」
「そうですね……決まりではありませんが、大体の方は国王様の誕生日のイベントですし、面会の時間をとってもらえたお礼も兼ねて何かを差し上げる事はしています。あと、服装は皆さん上質な物を新しく買って着て行っていますね」
そうか、誕生日なんだから何かあったほうがいいな。それと服装については、ギルドにどこか良いところを紹介してもらうか。
「それと、面会の日時なんだが、いつぐらいが良いんだろうか?」
「はい、生誕祭の1週間後までは午後5時からしか空いていないそうです。その後でしたら急な予定が入らない限り、午前10時と午後3時、午後5時が面会可能な時間になっています」
「えーといきなり明後日、つまりイベント最終日の次の日に面会しても大丈夫なのか?」
「はい、日にちが掛かればその分商人の方に負担が増えますから、すぐに会って下さいますよ」
「国王様は優しいんだな」
「はい商業の国ですから」
そうか、商業の国だから商人に優しいのか。時は金なりと言うし、滞在費もバカにならないから気を使ってくれているのか。そういやオレがこの世界に来た時も、国王様は親身になってくれていたっけ。大臣はウザかったが……。
それじゃお言葉に甘えて、明後日の午後5時に面会の予約を入れておこう。それから後は上質な服を売っているお店を教えてもらって、商業ギルドを後にする。
お店では、シルクの様な光沢のある白いシャツと茶色のゆったりめのパンツ、薄緑色の革のベストをすすめられ、品質は良かったのでそれを購入して、宿に戻る。
そして国王様への献上品は……
「んー、これが無難だろう」
選んだのは魔晶石、5/10と10/10の2つ。つまり最大レベルの魔晶石とその半分のレベルの魔晶石だ。これなら大きい方は国としても使えるだろうし、小さい方は個人で使ってもらえるだろう。
武器は好みや得手不得手があるだろうし、防具はサイズが分からない。後はアイテムバッグも考えたが、魔晶石の方が余っているのでこっちにした。
さて、遂にここまで来れた。もし明後日が国王様と2人だけで会えるのなら、正体をバラして話をして、国王様からエリーゼ姫に説明してもらって終わりだ。ただ、護衛は付くだろうからこれは難しいだろう。
あとは昨日のエリーゼ姫のお母さんの話、あれがどうなるか……。明日何かアクションがあるのか、明後日に何かあるのか。もしくは何も無いのかーーいや、何もないと言う事は無いだろう。
エリーゼ姫に渡す物はもう作ってある。これを不自然じゃなくエリーゼ姫に渡せる状況を作らなければいけない。
そういや国王様に同じ様な物を作って渡しても良いのか? そうだな、念のため国王様に渡す用の物も作っておくか。
こうして国王様用のアイテムも作ってから、オレはベットに潜りこんだ。
お読みいただきありがとうございます。




