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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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生誕祭の初日

 国王様の誕生日の前日、今日から生誕祭が開始される。国王様がいつ来るか分からないから、今日から気合を入れなければいけない。たとえ国王様が来なかったとしても、噂になれば国王様の耳に入るかもしれない。それを期待して宿を出る。


 イベント会場へ着くと、もう既に準備を始めている人達がいて、皆一生懸命に展示品を並べてチェックしている。オレも自分のスペースに向かい準備を始める。


 まずアイテムバッグから木の板を出し、他人と自分のブースを区切る。これは他にやってる人がいるから、問題はないだろう。そして片方のブースには2mほどの高さの白い板を斜めに設置して、フックを上向につける。このフックに展示物を掛けて飾る訳だ。


 そしてその板の前に白いテーブルを置く。ここにはアイテム袋とアイテムバッグを並べるつもりだ。もちろんこれらも、盗まれない様に制限魔法でオレしか動かせない様にする。


 最初はアイテム袋とアイテムバッグ、そしてポーションからエリクシールまでの回復薬を並べようとしていたのだが、エリクシールを使ったこと、ゴブリンの武器が手に入ったことで変更した。


 それからもう1つのブースには10cmくらいの高さの土台を作り、その展示用の土台から通路へスロープを作る。その土台の上が今回の魔道具を置くスペースだ。とりあえず準備はこれでいい。


 ある程度の準備が出来たので、周りをチェックしてみると、見たことのない魔道具を並べていたり、瓶を並べていたり、はたまた綺麗な装飾の剣を一本だけ置いていたりと様々だ。


 剣一本だけというのはかなり目立つので、その剣が素晴らしい物ならかなり有効な見せ方だろう。しかし鑑定しても装飾が素晴らしいだけで、剣自体は鋼の剣だった。なのでオレとしては魅力を感じない。どっちかというと、機能美の方に引かれるからな。まぁ貴族とかなら買うんだろうが。


 そんなこんなで時間が経ち、もうすぐ開場となるのでオレも並べ始める。まず、ゴブリンソード、つぎにホブゴブリンソード、ウォーリアゴブリンソードと並べ、ジェネラルゴブリンソード、最後にキングゴブリンソードを飾る。


 最初ゴブリンソードを出した時は蔑んだ視線を感じたが、武器を並べていくうちに驚きに変わり、最後のキングゴブリンソードを出した時は感嘆する声も聞こえたほどだ。


 ゴブリン討伐の後調べたが、キングゴブリンソードはなかなか手に入らないようだ。キング自体がなかなか出現しないのと、武器が魔力を受けて変化するのに時間がかかるから、キングの討伐が早ければキングゴブリンソードが手に入らなかったりするらしい。今回は魔力と親和性の高いミスリルソードだから、かなり魔力の強い剣になった様だ。


 剣を並び終えて、ついでにアーチャーのゴブリンボウとウィザードのゴブリンロッドも並べておく。ここまでゴブリンの武器を一堂に観れる機会はなかなかないだろう、と思っている。


 アイテム袋とアイテムバッグも、テーブルの上に全レベル並べる。大迷宮を攻略した後、再び潜った時に全レベルの物を集めていたのだ。それから武器と一緒に制限魔法をかける。これでオレ以外が動かす事はできなくなった筈だ。


 そしてもう1つのブースには、アイテムバックから出したように見せながら、ゴーレムの馬を置く。これは勿論デュオホーンを使って作った物ではなく、一般に見せても大丈夫な様に新たに作った物だ。


 骨格は大迷宮で手に入れたトレントの木材で作り、それをゴーレム粘土で覆って馬の形にしてある。鞍と手綱もつけていて、目は勿論記憶石と記録石のオッドアイ。大きさは体高は130cmほどでポニーの様な感じだ。


 因みにこのゴーレム馬に使ったのは、普通の茶色いゴーレム粘土だ。ハイゴーレム粘土は調べたら結構高価な物だったので、一番手頃な普通のゴーレム粘土を使った。ゴーレム粘土とハイゴーレム粘土の間には、ゴーレム粘土改というのもあるが、試作機という事にしているので、安いゴーレム粘土で試行錯誤しているという設定にしている。


 ゴーレムを作った後で知ったが、このゴーレムに記憶石と記録石を使う方法は既に知られていたみたいだ。誰にも言ってなかったからいいが、もしオレが自慢げに自分が発見したと言ってれば大恥をかいただろう。


 まぁしょうがないと言えばしょうがない。なんせゴーレムについて調べても出てこない情報だったからな。これは記録石と記憶石の情報の中にあったから、ゴーレムについてしか調べてなかったオレには知り用も無かった。


 そんな苦い過去を思い出しながら、ゴーレム馬の調整や置き場所をチェックする。うん、大丈夫だな。オレが用意している間に、他の出店者達が覗きに来ていた。が、話かけてはこない。おそらく敵情視察だろう。相手をしなくていいのは助かる。元々人と話すのは得意じゃないからな。


 準備を終えて少しすると開場になり人が入ってくる。客層は商人が半分、観光客っぽい家族が1/4、残り1/4は冒険者という感じだろうか?


 商人と冒険者はゴブリンの武器とアイテムバッグに注目していたが、子供連れはゴーレム馬に興味を持っていた。なのでここでゴーレム馬を動かす事にする。


 首元につけた魔道具を開けてゴブリンの魔石を並べる。そして興味津々だった子供を乗せて魔力を込める。するとゴーレム馬が動き出す。スロープを降りて通路へ出て、軽く一回りして直ぐに戻る。そして動かなくなる。


 乗っていた子供は最初驚いた顔をしていたが、すぐにキャッキャして喜んでいた。そして他に2人いた子供がなりたそうにしていたので乗せてあげる。1人大体3分ちょいで3人で魔力が切れる。予想通り持続時間は10分だった。まぁゴブリンの魔石を使ったにしては十分だろう。


 商人達もゴブリンの魔石を使ったところを見ていたので、その後質問責めにあうが、まだ試作品で、しかもこの魔道具自体が金がかかり過ぎているので量産は難しいと説明しておいた。だがゴブリンの魔石で魔道具を動かす事は衝撃的らしく、かなり驚いてくれた。これなら噂も直ぐに広まるかもしれないな。その中で国王様の耳に入れば良いんだが……。


 その後も、1時間に一回くらいゴーレム馬を動かしながら、見に来た商人や冒険者達と会話をしていく。大体は売ってくれと言ってくるので、コレクションなので売る気はない、と言っておいた。


 実際このイベント自体は、希少なアイテムを見る機会を多くの人に与えるのが狙いだから、無理に販売はしなくてもいい事になっている。もちろん販売をしても構わないそうだが。


 そんな感じで時間は進み、昼を過ぎた頃にそいつらはやってきた。そして、オレの展示品を見てオレを見て、また展示品を見てオレを見る。そして、


「もしかして、黒猫か?」


「……」


「……」


「……何しに来たんだ? と言うか、なんでわかった、ザイン?」


 そこにはザインを含む『ゼット』がいた。なんでかコイツらとはよく会うな。思い出すと、ストーキングされてるんじゃないかと思うくらい会っている気がする。


「その前になんだそれは? 服はともかく髪の色がなんでかわってるんだ? あと雰囲気も」


「……これは商人らしくしようと思って変えてある。髪の色は魔道具で、雰囲気はなんとなく自分の魔力の出し加減で変えている」


 オレがそう言うと、かなり訝しげな目で見てくる。まさかここに『ゼット』が来るとは思わなかった、と言うか考えてなかった。まぁ他の冒険者も来てるんだから、おかしくはないが。


「で、なんですぐにオレだってわかった?」


「オイオイ、そのキングゴブリンソードをみたら一発だろ?」


「何寝ぼけた事言ってるのかしら?」


「意外と〜抜けてる〜?」


 なんか馬鹿にされた。聞いたらゴブリンソードは、元の剣から形はほとんど変わらないから、ほぼ全て違う形をしているらしい。なので見れば一発でわかるそうだ。知らなかったから仕方がない。


「で? アンタらはイベントを見に来たのか?」


「ああ、出店する商人から毎年護衛の依頼が入る。だから大体毎年来るぞ」


「普通は傭兵に頼むんじゃ無いのか?」


「オレ達は贔屓にしてくれる商人が何人か居るからな。このイベントの時は毎年頼んでくれる」


「それにしても、かなり圧巻な品揃えね」


 イザベラがオレの展示品を見て言う。


「そうだな、ゴブリンソード自体は珍しく無いが、ここまでの種類をまとめて展示してあるとかなり目を引くな」


「そうそう、それにキングゴブリンソードもあるしーーって、なんだ? このアイテムバッグや袋の品揃えは!?」


 エゾがゴブリンソードから目を下ろし、テーブルの上を見て驚く。つられて他のメンバーも見て驚く。


「黒猫……お前どっから盗んだ?」


「盗んでねぇよ」


「嘘でしょ? 普通はこんなに集められないわよ」


「大人しく〜自首しよ〜?」


 こ、コイツらは……。他の奴らはからかい半分な感じだが、ザインは何故か険しい顔でオレを見ている。なんだ? なんか腹が立つ感じだな。オレが文句を言おうと思った時、集団が近づいて来るのが見えた。仕方なく文句を言うのを諦め、その集団にアピールしようと思ったが……。


 その集団は、身なりの綺麗な眼鏡をかけた初老の男性と、いかにも若旦那と言った風貌のハンサムな男性、その後ろからメイド服を着たクールビューティーな雰囲気の女性と、同じくメイド服を着た可愛らしいが元気のない様子の女の子、そして、護衛といった感じの戦士風の男が3人。


「はぁ」


「ん? どうしたんだ黒猫?」


「いや、なんでもない」


 エゾが声をかけて来るが、とりあえず流す。会えれば良いと思っていたが、まさか初日に会えるとは……。変装はしてるが、アレは絶対に国王様だ。それにアレク王子とエルさん、そしてエリーゼ姫。以前エリーゼ姫と買い物に行った時と全く同じ変装だ。


 確かに髪の色も変えてあるから、国王様とはわからないだろうが、あの人は普段からこう言うことをしていたのか……。周りの護衛は王宮の騎士だろうが、かなり疲れた顔をしている。


 ただ、エリーゼ姫の元気がないのは気になるが、これはチャンスだ。『ゼット』のメンバーはこの際無視してオレは話しかける。


「どうですか、見て行きませんか?」


 国王様はオレのことを一瞥して、それから並んでいる品を見て驚く。


「こ、これは……」


 近づき触ろうとして、護衛に止められる。


「会長、無闇に商品に手を出さない様にお願いします」


「う、うむ、すまん。しかし、これは凄い品揃えだな」


「ありがとうございます。売り物ではないんですが、せっかくのイベントなのでコレクションを展示してみました」


 オレは丁寧に対応する。そういや敬語なんてしばらく使ってなかったな。


「そうか、売り物ではないのか。しかし、ここまで種類が揃ってるのは初めてじゃな」


「ええ、父上。私もここまでのものは見たことがありません。特にこのキングゴブリンソードは、初めて見ましたよ」


「若旦那もあまり無闇に触らない様にお願いします」


 アレク王子も護衛に注意されている。似た者親子か。でも今のでなんとなくわかった。今回国王様達は、どっかの商会の会長と若旦那という設定できているんだろう。それなら護衛とメイドを連れているのはそこまで違和感は無い。しかし他の国の国王達もこんな感じなんだろうか?


「しかし、よくこんなレアなモノを手に入れられたのぉ」


「その剣はついこの前手に入れたばかりだぜ」


 国王様がキングゴブリンソードを見て呟やくと、突然ザインが答える。コイツ、何考えてやがる?


「この前……と言うと、ゴブリンの群れができていたと言うあれか?」


「ああ、その時のゴブリンキングが持っていたのがその剣だ」


「ということは、その時の冒険者から買い取ったということか」


「いや、その時の冒険者がそいつだ。なぁ黒猫?」


 やはり何かがおかしい。ザインはかなり冷たい目でこちらを見ている。ホントに何考えてるんだ? 分かるのはオレをかなり怪しんでいるという事だけだ。


「お主があの黒猫か? 色々と噂は聞いておるが……」


ここは誤魔化す事は難しいか。仕方ない。


「……そうです、私が黒猫です。どうやら商人達の間でもウワサになっているみたいですね」


「そ、そ、そうじゃな、商人達の間でもウワサになっておるな」


 あ、今自分が商会の会長だという設定を忘れてたな。多分今回のゴブリン討伐の件や、以前の人工魔石の件で報告は入っているだろうから、それで知っているんだろうが、もう少し上手く演じてもらえなだろうか?


「それでーー名は何というのだ? まさか黒猫が本名ではあるまい」


 突然話をそらしてきた。しかし名前か……。言っても良いものだろうか? だが偽名を言っても冒険者ギルドで調べられたら直ぐに分かるか。ならーー


「名前はヨシキです」


 その瞬間、国王様と王子は驚いた顔をして、エリーゼ姫は俯いた顔を上げて目を見開いてオレを見てきた。エルさんもオレの顔を凝視してくる。


「どうかしましたか?」


「い、いや、なんでもない。ただ、知り合いに同じ名前のものがいて驚いただけじゃ」


「そうですか。そんなに珍しい名前ですかね?」


 国王様達は明らかに動揺している。むしろ動揺し過ぎだ。だが、オレのことを忘れてはいなかったとおもうと、少し嬉しくもあるな。だがちょっと思ってたより展開が早すぎる。理想では、このイベントで名を知ってもらって、後日王宮なりなんなりで会って話を出来れば良かったんだが……。ザインの所為で少しおかしくなってきたか。


「し、しかし冒険者がこのイベントに出店するというのはなかなか珍しいですね」


 と、王子が取り繕う様に言ってくる。オレは勝負に出ても良いものかと考え、辺りの気配や視線を感じとる。おそらく大丈夫、変な輩は居ない。それならやってみるか。


「ええ、実はこれからは行商みたいな感じで世界を見て回れたらなと思いまして。商人のジョブも持ってましたから。あとは、人探しーーですね」


「人探し?」


「ええ、昔一緒に活動したことがある人の娘さんが、この王都にいるらしいんですよ。その人はもう亡くなってしまったんですが、もしその人に何かあったら、その娘さんに渡してほしいと言われてたものがあったんです」


「ほう、その人の名は何という?」


 よし、ちゃんと話に乗ってくれた。あとはこれが上手くいくか逆に悪手になるか……。


「ええ、その人の名はリンゼ。娘さんの名前はたしか、エリーゼちゃんだったかと」


「「!」」


 国王様とエリーゼ姫が息を飲むのがわかる。が、ここで更に踏み込んでも良いものだろうか? いや、いきなりやり過ぎても不味いか。実際エリーゼ姫がすごく動揺している。


「会長さん……でしたよね? もし何か情報がありましたら教えて頂けるとありがたいです。勿論、お礼はさせて頂きますので」


「あ、ああ、その娘さんの名前はわからないが、昔リンゼという名の冒険者の事は聞いた様な気がする。もし思い出したら連絡しよう」


「ありがとうございます。一応この生誕祭の期間中はここで出展してますし、しばらくはこの王都に滞在する予定ですので」


「うむ、わかった。それでは失礼する」


 そう言って、一団は去っていく。エリーゼ姫は何度も振り返って、こっちを見ていたが、結局一言も話す事は無かった。そして国王様達が見えなくなって……


「ふぅ」


 一息つく。亡くなっているエリーゼ姫のお母さん、リンゼさんには申し訳ないとは思ったが、他にエリーゼ姫を探している理由が思いつかなかった。なので心の中で謝罪する。


 これが護衛が居なくて、尚且つ『ゼット』が居なければ、ここで正体を明かしても良かったかもしれないが、こればかりは仕方がない。『ゼット』はともかく護衛なしで国王様が出歩くわけにはいかな……そういや、護衛なしで出歩いてた事あったな。


 他の方法としてはかなりレアな、例えばダークベヒモスの魔石や魔石核などを並べて、王宮に取り立ててもらう方法も考えたが、そうなるとまた大臣に会うことになるだろうし、そうなると正体がバレたりしつこく勧誘される可能性があるから却下した。


 できればそこそこ目立って国王様の目に止まり、それでエリーゼ姫に生存を伝えられればいいと思ったので、今回の方法をとった訳だ。



 さて、今日の結果がどうなるのか。


「お前、人探しのために王都に来たかったのか?」


 しばらくしてからザインが話しかけてくる。


「ん? あぁ、大して親しい間柄だった訳じゃないが、故人の想いはなるべく汲んでやりたいからな」


「おいおい、大して親しくない奴に預けるもんなのか?」


「ん〜、そういえば〜」


「さあな、オレに聞かれても知らねぇよ。ただ、オレが旅人をやってたから、いつか会うかもしれないと思っての事かも知れないし、もしかしたら他のヤツにも頼んでる可能性もあるからな」


「なるほどな」


 ザインは納得したのか、さっきまでの冷たい目はしていないが、完全に納得している訳ではなさそうだな。まぁ邪魔してこなければ良いか。


 しかし、オレも嘘をつくのが上手くなったな。今も自然に口からセリフが出てきた。もしかしたら詐欺師やペテン師と言ったジョブがついてるかもしれない。


 まぁとりあえず、変装してたとはいえ初日に会えたのは幸運だった。後はこれがどう転ぶか、あらゆる状況に対応できるように対策を色々練っておこう。


 そう思いながら、オレはその日のイベント終了まで、見にきた人の対応をこなした。



お読みいただきありがとうございます。

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