2つの群れの殲滅
投げ込まれたファイアーボールは、廃村の中央あたりにあった木に当たり、
ボンッ
と軽い音を立てる。そして、木が燃えてあたりを照らし始める。
上手いな。音は小さすぎず大きすぎず、威力もそこそこだ。これが無駄に威力が高ければ、かなり爆音が響き、もう一つの群れに気づかれるかもしれない。しかし、このファイアーボールは合図として丁度いい音だったし、木が燃えることにより、廃村の中が見えやすくなっている。
廃村の中を見渡すと、ゴブリン達が警戒しながらボロボロの家の隙間から顔を覗かせている。そして、手に折れた剣や槍、木の棒などを持ちながら出てくる。
気配を探知してみると、殆どのゴブリンが建物の中から出てきたみたいだな。と、戦闘音が聞こえ始める。予定通り『ラッシュ』の2人が廃村の入り口から入り込み、ゴブリンを蹴散らしている。多くのゴブリン達がその音を聞きつけ、入り口に殺到する。
オレと『ランサー』『シューターズ』は、逃げたり隠れたりする個体がいないかを確認しながら、廃村の中央へと進み、入り口に群がっているゴブリンに後ろと左右から攻撃をする事になっている。
オレの方には隠れている個体はいなかったので、入り口に群がっているゴブリンに向けてストーンバレットを放つ。もちろん『ラッシュ』には当たらない角度でだ。
その後『シューターズ』も入り口にやってきて殲滅に参加する。『ランサー』は隠れていたゴブリン達を発見し交戦中だ。おそらく村長の家なんだろうが、一番大きな家の中に隠れていたようだ。
『ランサー』と交戦中のゴブリン達を尻目に、裏口から6匹のゴブリンが逃げ出し、もう一つの群れの方へと逃げていく。気配からして、この群れで一番強い個体だ。
だが、そっちには『ゼット』がいる。6匹くらいなら問題はないだろう。
そうこうしているうちに、入り口付近のゴブリンは全滅、『ランサー』と『ゼット』も倒し終え、こちらに向かってきている。
「皆さん、お疲れ様でした。負傷した方はいませんか?」
ギルドの職員が聞いてくるが、全員怪我もしてないようだ。この職員は元冒険者だろうか? オレ達が戦っている最中も廃村の中を動き回っていて、撃ち漏らしの確認をしたり、薄暗い場所の木へ火を着けて戦いやすくしたりといった裏方をこなしていた。
「それでは、連戦になりますが次の群れもお願いします」
そう言って歩き始める。皆も疲れていないのか、何も言わずについて行く。もちろん、オレも全く疲れていないので後に続く。
周りは林から岩山になっていき、500m程歩いたところで、ギルド職員が止まる。
「この先に群れがありますが、ここから簡単な罠もありますので注意して下さい」
そう言って罠を避けながら歩いて行く。オレ達も職員が歩いた跡を踏みながら続いて行く。しかし、ゴブリンが罠を作っているということは、ここには上位種のゴブリンが居ると言う事か。
「ここがもう一つの群れです」
小声で、岩の陰から様子を見ながら職員が言う。オレ達も同じように確認してみると、岩に囲まれた直径150mほどの広い場所に、簡単な小屋が何戸か並んでいる。中央付近にわりとしっかりした建物があり、丁度その建物を挟んだ反対側に、本拠地の洞窟に続いている道があるそうだ。
ゴブリン達は地面に直接寝ており、その数は150匹程。あとは建物の中だ。中央付近の建物の中からかなり強い気配がしており、周りにある小屋からも、地面に寝ているゴブリンより強い気配がしている。
さて、ここはどう言う作戦で行くのか……。
「ここは正面突破しかないでしょう。出来れば予め反対側の道を塞いでおきたいんですが、周りは岩山で移動するにも大変です。なので、数人で強行突破し反対側の道へ向かい道を塞ぐ。残った人でゴブリンを殲滅しましょう」
職員がそういうと、ザインが
「だったら黒猫が適任だな。この中で一番早く動けるはずだ」
「わかった。じゃあオレが向こうの道を塞いでおくから、殲滅は任せる」
ザインの言葉にオレは返す。
「えっ? 1人でですか? 何人かで行った方が……」
「いや、オレが予め向こうの道を塞いでおいた方が確実だろう。それじゃあ1分経ったら攻め込んでくれ」
そう言ってオレは姿を消す。
「き、消えた!?」
動揺する面子を尻目に、オレは群れの中を高速で横切り、建物の横を通過し、反対側の道へとたどり着く。
しばらくして、群れの気配が動き出し戦闘が始まる。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「き、消えた!?」
ギルドの職員を含めてみんなが動揺している。していないのは俺たち『ゼット』ぐらいだ。
「ザインさん、あの人は一体……」
「さあな、俺にもわからねぇよ。ただ、実力はホンモノだ。向こうはアイツ1人でも撃ち漏らしはないだろう」
「そうそう、大迷宮でもゴブリンは瞬殺だったからなぁ。ストーンバレットの一撃で」
「オイ、ストーンバレットは攻撃系の基礎魔法の中でも一番簡単なヤツだろ? そこまでの威力は……」
「まぁ、信じられないのもわかる。俺も初めて見たときは信じられなかったからな。まあ、今はゴブリンの殲滅が先だ。もうすぐ1分たつぜ」
「わ、わかりました。それではみなさん、よろしくお願いします」
「おう」
先ず『シューターズ』のアルとゴードンが火矢を放ち、小屋に火を着ける。これによって周りが見やすくなる。そして俺たち『ゼット』は中央、「ラッシュ』は左、『ランサー』は右から進みゴブリンを殲滅して行く。
近くにいた、地べたで寝ていたゴブリンは、状況を把握する前に倒されて行く。そして火を着けた小屋からは、一回り大きいホブゴブリンやゴブリンウォーリアが飛び出し、こちらを確認すると襲いかかってくる。
イザベラが俺とエゾに強化の魔法をかけてくれる。リザがウォーターアローをゴブリン達の顔面にぶつけ、怯んだ隙に俺とエゾで倒して行く。左右から同時に攻撃されても、片方をリザが魔法で足止めしている間に片付け、すぐに対処する。複数に囲まれてもこっちは問題ない。
左を見ると、ライルとガッシュが綺麗な連携でゴブリン達を倒している。ライルが右へ横薙ぎの一閃を放つと同時に、その左からガッシュが前へ出て袈裟斬りにする。剣を振り抜いた直後のガッシュに右から襲いかかるゴブリンをライルが右へ出て剣を振り、左からきたゴブリンはライルに背中を合わせるようにガッシュが斬る。
複数のゴブリンに囲まれながらも、危なげなく倒して行っている。さすが『双剣のラッシュ』と呼ばれている事はある。
綺麗な連携で、まるで1人の人間が二つの剣を操っているように見えることから、この名がついたらしいが、その名の通りだな。
反対の右を見ると、どうやら『ランサー』は苦戦しているようだ。槍使いのゴドーは、やはりゴブリンが集まって密集してくると、間合いが取れずに大変そうだ。
斥候のリューは善戦しているが、やはりナイフでは一撃が軽いため苦戦している。魔法を使う余裕もないようだ。
魔道士のルシーは、少し離れた場所から得意なファイアランスで攻撃しているが、それだと1発で1匹しか倒せない。なので自分に向かってくるのに対応するので精一杯で、仲間の援護が出来ていない。
このパーティーはまだ金ランクになったばかりだから、こう言う集団戦に慣れていないようだ。
と、中央付近の建物へ弓矢で攻撃していた『シューターズ』が、『ランサー』の状態に気づき援護を始める。
『シューターズ』は遠距離攻撃を中心としたパーティーで〈近づかれる前に倒す〉をモットーとしているパーティーだ。弓矢の扱いは一流で、ランサーを避けてゴブリンだけに的確に当てて行く。
槍使いのゴドーはその隙に間合いを取り、槍を十二分に奮って行く。『シューターズ』のお陰で余裕のできた斥候のリューと魔道士のルシーは目の前のゴブリンを倒すと、ウインドランスとファイアランスでゴドーを援護し始める。
こっちも持ち直したから大丈夫だな。
俺達もゴブリンを倒しながら進み、中央付近の建物へ近づいて行く。すると、建物から別のゴブリンが出てくる。これはーーウィザードか!
「全員、魔法に気をつけろ!」
俺は声を張り上げる。ウィザードまではまだ距離がある。ウィザードは魔法の詠唱を終え、杖を頭上へ突き上げる。
「あ、あの杖はマギーの!」
『シューターズ』のアルが叫ぶ。
マギー……ゴブリンに捕まった仲間の魔道士か。そう思った瞬間、魔法が放たれる。放たれた真っ赤な火球は上空に上がり、そしてーー大爆発を起こす。
今のはファイアボム……! しまった、そう言うことか!
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「え、えーと、大丈夫そうですね……」
「ん? あぁ、この程度のゴブリンなら問題ない」
オレはそう答える。周りには30匹を超えるゴブリンの死体が転がっている。その全てのゴブリンの頭には穴が開いていて、緑色の血を流している。それを見てギルドの職員は呆気に取られている。
しかしこの職員、戦闘がまだ終わってないのに、どうやってここまで来たんだか……。しかも最初の自己紹介の時から名前を名乗っていない。まぁなにか言えない理由があるのかもしれないから、あえて聞いてはいないが、戦闘をしている中を無事に通り抜けて来るんだから只者じゃないな。
「向こうは大丈夫なのか?」
「ええ、いっとき『ランサー』の皆さんが押されていましたが、今は持ち直しているので大丈夫ですよ」
クゴッ ギャギャ
「そうか、なら良い」
新たに向かってきたゴブリン2匹にストーンバレットを放ちながら答える。
「ホントにストーンバレットで倒しているんですね」
「あぁ、雑魚相手だとこの方が早くて楽だからな」
「楽……ですか」
ギルドの職員は納得出来ないような顔をしながら、首を傾げている。なんか変な事言ったか? まぁいいか。気にしてもしょうがないので、群れの中を見る。気配はーーかなり少なくなっている。もうすぐ終わるか。
とーーその時、上空に真っ赤な火球が上がり、そして大爆発を起こす。これは不味くないか? ギルド職員を見ると、同じことを考えてみたいで、直ぐに群れの中央へと向かって行った。そして、しばらくして戦闘音が止まり、メンバー全員がやってくる。
「これはーーちょっとマズいかとしれませんね」
神妙な面持ちでギルド職員が口を開いた。
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