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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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来客と討伐作戦

 

 王都へ到着してから1週間。


「ふぅ〜、まぁこんなもんかな」


 完成したディスプレイを見て、オレは満足する。これなら周りから興味を引きつけるだろう。後はもう一つ、メインの魔道具を調整して展示すれば良いだけだ。それで、展示するものは完成だ。


 あと足りないのはーー必要な魔石だな。魔道具を動かすのに魔石が必要だが、あまり高い値段の魔石じゃ無い方がいいよな? となると、量が多くて安いゴブリンの魔石で動かすのが一番なんだが、ゴブリンの魔石は小さすぎて魔道具には使えない。


 となると、次に安いウルフ系の魔石か。取り敢えず商業ギルドで買えるか確認してみるか。





「申し訳ありませんが、今は在庫が殆ど無いんです」


「えっ?」


「今回のように魔道具が展示されるイベントの場合は、参加する方たちが、魔道具用に大量に買って行ってしまうんです。それがわかっているので、一般市民の方達もこの時期は、あらかじめ家庭で使う分の魔石を大量に確保してしまうので、どうしても在庫が薄くなってしまうんです」


 あぁ〜、考えることは同じか。確かに大量の魔石を持って移動するのは大変だし、自分の馬車を持っていない商人は、王都で買った方が荷物が少なくてすむからな。


 確認すると、あるのはゴブリンの魔石が少し。他は一般市民向けの在庫が少しあるだけらしい。ギルドも在庫全てを売ってしまうわけにもいかないだろうから仕方がないか。






「さて、どうするか……」


 宿の部屋へ戻ってきて考える。ウルフの群れでもいれば倒しに行くんだが、冒険者ギルドにあった依頼はゴブリンの群れだったからな。いっそゴブリンの魔石を使えるようにする魔道具でも考えるか? と思っていると、複数の人の気配が近づいてくるのがわかった。そして、


 コンコン


 ドアがノックされた。この気配はーーアイツら何でここにいるんだ? そう思いながらも、ドアを開ける。


「よぉ、久しぶりだな、黒猫」


「あぁ、久しぶりだな『ゼット』」


 そこにいたのは、『ゼット』の4人だった。


「取り敢えず聞きたいんだが、何で王都に居るんだ? あと何でここがわかったんだ?」


「王都へは、イベントに参加する商人の護衛で来た。この場所がわかったのは、商業ギルドで聞いたからだ」


「なるほど……、わかった。じゃあな」


 そう言ってオレはドアを閉めようとするが、ザインが靴を挟んできて締められなかった。


「オイ、何で閉める!?」


「いや、話が終わったから、つい……」


「終わってねぇから! つーか、ここからが本題だ」


 そう言って、ザインは真剣な顔をする。


「魔物の討伐に協力しないか?」


「……なんかへんな依頼でも受けたのか?」


「いや、冒険者ギルドの緊急依頼だ」



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎


「成る程、つまりゴブリンの群れが想定以上に大きくなり過ぎていて、早急に潰す必要がある、と」


「あぁ、最初は100匹ほどの群れだという話だったらしいが、依頼を受けたパーティーが逃げ帰ってきて、数が依頼内容よりも多すぎだと言って来たらしい」


「そうそう。それで、情報収集に長けた奴が確認しに行ったら500匹を超える群れだったそうだ」


「5倍かよ」


「しかも、依頼を受けたパーティーの女性が1人捕まったみたいなのよ」


 あぁ、ゴブリンやオークは人間の女や動物のメスを襲うんだったな。それを聞いただけでなんか胸糞が悪くなるな。


「で、その女性は助かる見込みはあるのか?」


「早ければ〜まだなんとか。でも〜時間が経てば難しくなっていくかも〜」


「わかった、手伝おう」


 最初は面倒だと思ったが、オレは手伝うことを決める。別に正義の味方気取りなわけでは無いが、やはり胸糞が悪いというのが一番の理由だ。

 あとは、ゴブリンの魔石が大量に手に入るかもしれないという打算もある。


 なので、急いで用意をして『ゼット』と共に冒険者ギルドへ向かう。





 ゴブリンの群れができた場所は、王都から馬車を飛ばして2日の距離。依頼を受けたパーティーが戻って来たのが一昨日の朝。そこから直ぐに情報収集に出て、連絡が来たのが昨日の夜。馬だけだったので、馬車より早く到着出来たそうだ。


 連絡は貴重な魔道具で行なっているらしく、簡単な言葉しか送れないが、その魔道具から、ゴブリン500、危険、直ぐに対応、と言った言葉が送られてきたらしい。


 そして、まだ確認できてはいないが、ゴブリンキングがいる可能性があるという事だ。ゴブリンキングはビネスの大迷宮で倒しているが、地上で見るのは初めてだ。


 また、ゴブリンたちの素材や武器、溜め込んでいる金品は一旦ギルドで回収し、後日冒険者達に分配するので、討伐に集中して欲しい、と言われた。もちろんこれは、緊急依頼の依頼料とは別だ。


「という訳で、直ぐに馬車で向かってほしい」


 王都のギルマスから説明があった後、直ぐに出発になった。オレはソロの冒険者だから、他のパーティーから大丈夫なのか? という声が上がったが、ザインが説明してくれ、ギルマスも金ランクなら問題ないと直ぐに参加を認めてくれた。


 どうやら、ソロでやってる冒険者は性格に問題があり、パーティーが組めない奴が多いからのようだ。


 ちなみに参加するのはオレと『ゼット』の他に、

 ライルとガッシュの剣士二人組の『ラッシュ』

 槍使いのゴドー、ウインドランスが得意な斥候のリュー、ファイアランスが得意な魔道士ルシーの『ランサー』

 あとは今回捕まった女性のパーティー、剣士で弓士のアル、弓士のゴードン、治癒士のルナの『シューターズ』


 全員金ランクの冒険者だ。

 馬車は2台あり、オレは『ゼット』、『ラッシュ』と一緒の馬車になる。御者はギルドの職員がやってくれているのでやらなくて済むのはありがたい。


 馬車は結構な速度で進んでいくが、やはり自分で移動するより遅い。ザインは『ラッシュ』の2人とは知り合いらしく、剣士同士話に華を咲かせている。オレは特にすることがないので、ゴブリンの魔石を使えるようにする魔道具を頭の中で考えていく。


 途中、馬を休ませながら進み、無事に今日の野営地へとたどり着く。携帯食で夕食を済ませたあと、何故か『ラッシュ』の2人が話しかけてきた。


「なぁ、あんたザインより強いんだってな」


「よかったら俺たちと手合わせしないか?」


 コイツら緊急依頼の時に何を言ってるんだ? そう思ってザインを見ると、申し訳なさそうな顔をしてきた。


「なんでも、ザインが手も足も出なかったらしいじゃないか? それがどんなもんか試してみたいんだ」


 ライルもガッシュもふざけているような感じではない。理由を聞いてみると、どうやら剣士としてやり辛い相手との戦い方を一度経験しておきたいらしい。


 なるほど、一度経験しておけば、同じような戦い方の敵と会った時、対処出来るからということか。確かザインと戦った時は、アレをやったんだよな。あの時はまだ戦い慣れてなかったし、魔法も使いなれてなかったが、今は前よりもっと早く、もっと上手く魔法を使えるはずだ。なら、試してみるのも悪くはないか。


 オレは2人の申し出を受けることにした。そして……





「ハァハァ、マジでやり辛れぇ……」


「まともに剣も振れやしねぇよ……」


 2人は地面に大の字になっている。


 踏み込んではバランスを崩し、避けようとすれば引っかかり、間合いを詰めようとすれば突っかかる。その結果踏み込みが甘くなり、攻撃を弾かれてまたバランスを崩す。


 最終的に二人掛かりでもオレには攻撃を与えられず、地面に横たわることになった。『ゼット』以外の冒険者達は、最初ふざけているのかと思っていたらしいが、ザインとエゾが説明すると、『ラッシュ』の2人を哀れむような目で見ていた。


 また、仲間が捕まっている『シューターズ』は討伐前にこんな事をして怒るかと思っていたが、

「最初は不快だったが、一緒に戦う冒険者の実力を知ることができて、少し安心できた」

 と言っていた。



 そして、次の日も魔物に遭遇する事もなく、夕方には無事にゴブリンの群れの近くまでくることができ、情報収集役のギルド職員とも合流できた。そして、情報確認と作戦会議が始まる。


「ゴブリン達は、この近くにある廃村を根城にしていると思われていました。しかし、その奥に洞窟があり、そこが本当の本拠地のようです」


 どうやら廃村にいるゴブリンが全てと思われていたらしく、そこの数で依頼を出していたみたいだ。これは依頼を出した側の落ち度だな。


「今、廃村には150匹程、洞窟と廃村の間に200匹程のゴブリンの群れがあります。ですので洞窟内にも200匹はいるでしょう」


 ゴブリンは群れが大きくなると、その群れの近くに新しい群れを作るらしい。その数がおよそ200匹。それを超えると新しく群れを作り、どんどん支配地をひろげていく。そして、群れができるということは、それを支配している者が居ると言う事で、それがゴブリンキングだ。


 過去には5つの群れができ、本拠地を合わせて1200匹のゴブリンを討伐したと言う記録もあると言う。


 もしゴブリンキングがいなければ、ゴブリン達は数匹でまとまって、森の中でエサを探して彷徨っているだけだそうだ。


 情報収集役の職員によると、廃村には捕まった冒険者は見当たらないらしい。なので、おそらくゴブリンキングのいる洞窟に連れていかれたのだろうと言う。


 いくつかの群れができた場合、セオリーとしては群れを一つずつ潰していく事。そうすることによって、こちらの被害を最小限にしながら討伐していける。物量で押されたら確かに厳しいからな。


 そういった説明を受けながら、ゴブリンとその群れの性質を記憶していく。



 それから作戦の内容は夜中に廃村の四方から奇襲をかける事になった。ゴブリンは夜行性ではないので、夜に攻めるのが一番効果があるそうだ。


『ゼット』には重要な場所である、もう一つの群れとの道を塞ぐ形で待機してもらう。人数が多い事と遠近両方の攻撃が出来ること、そしてイザベラという治癒士がいるというのが理由で、逃げたゴブリンにもう一つの群れに連絡をされないように倒しきる事と、万が一、もう一つの群れからゴブリンが来た場合に対処してもらう為だ。


 あとのパーティーは決められた場所から廃村に入り、ゴブリンを逃さないように倒していく事になる。ちなみにオレはソロなので受け持つ範囲は他のパーティーより狭い。


 作戦と配置が決まったので、各々食事をし、武器の手入れや確認をしてから夜中まで仮眠をとる。


 そして、それぞれ持ち場に移動し合図を待つ。しばらくして、廃村の中にファイアーボールが投げ込まれた。


 討伐の始まりだ。









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