大迷宮と神
期間が空いてしまいましたが、再開します。
よろしくお願いいたします。
「よし、それじゃあ行くか!」
気合いを入れ直して階段を下りる。王都へ向かうにはまだ時間があるし、せっかくここまで来たのに攻略せずに帰るという選択肢はない。
下りた先は、今までの水晶のある部屋と同じだが、肝心の水晶が無い。まぁそんな気はしてたが……。
後でこの部屋で一旦休むとして、その前にいつもの様に21層の様子を少し確認してみる。
部屋を出るとそこは一回り大きな部屋で、床に魔法陣が描かれていた。そして中央に台座があり、その上に手の平に乗るくらいの光の玉が浮かんでいる。
「これは、迷宮ーーなのか?」
どうやら外ではなく、迷宮の部屋の様だ。辺りを確認してみるが、出入り口はオレが入ってきた1つしかなく、その出入り口の正面の壁にに見たことのない模様のレリーフが刻まれている。
せっかく気合いを入れて来たのに、なん肩透かしを食らった気分だ。もしかして、ここが最下層で良いんだろうか? それなら、神様がここに居る筈だ。しかし確認してもあるのは浮いている光の玉だけだ。という事はこの光の玉に触れば良いのか? というか、それ以外に選択肢は無いな。
恐る恐る光の玉に触れてみる。すると光の玉は強く光を放ち、辺りを真っ白に染め上げる。そして、オレの意識もその光の中に溶けていった。
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白く眩しい光の中で、オレの頭の中に様々な情報が流れてくる……。
大迷宮の事……。
アイテムの事……。
各層にあったスキルの事……。
そして深層の魔法陣の映像の事……。
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光が収まると、光の玉は元の台座の上で、静かに浮かんでいた。
……
……
……
……頭の中で情報を整理する。そして、理解した。大迷宮の存在意義をーー。
ここは、一種の方舟の役割を持っているのだ。それは、いざという時に人が避難するという事ともう一つ、過去の物事を保存し、未来へと伝えるという事だ。いや、保存というよりは、過去の物事を提供する場、だろうか。
魔法やスキル然り、壺シリーズやマジックバッグ類然り……。これらは過去にこの世界に存在し、そしてこの世界から消えていった文明の生み出したものだ。それを今の世に提供しているのだ。
今の技術では作れない、生み出せない物を提供し、それを使い研究して、新たな文明が発展するのを手助けしようとしているんだ。
神の愛? 親心? とでも言えば良いんだろうか? この世界の神は、過去に人間が生み出したものを無にしようとはしていないようだし、その後生まれた文明の力になって欲しいと考えているようだ。
過去にどれほどの文明があり、どれほどの文明が消えていったかはわからないが、最初の文明ができた時からこの神々の大迷宮は存在していたようだ。
魔法文明があり、戦争があり、貧困の次第を経て豊かな時代になり、そしてまた戦争があり……。
その度に人々を助け、匿い、情報を蓄積し、それをまた人間へと還元する。
そうやって人々を守り、支え、援助しながらも、甘やかさず自立して文明を築いていけるように大迷宮を運用して来たようだ。その為に大迷宮の中に魔物やトラップがあり、それを乗り越えて初めて恩恵にあずかれるようにしているのだ。ただ与えられるだけでは人は成長しないと分かっているからだろう。
だこらこの世界の神々は人類の発展と成長を思ってこの大迷宮を存在させていたというのは伝わってきた。魔法陣に乗ると出てきた映像も、同じような失敗をしないで欲しいという思いから見せていたようだ。
スキルについても、商人のジョブスキルや鑑定のスキルのように、人間に必要なものと、、過去にあったもので人間の役に立ちそうなものを神様が選んで置いているようだ。
まあとにかく、この世界の神々は人類を大切にしているーーそれがわかったのは良かったかもしれない。オレはこの世界を前より好きになれた気がする。地球では、神様がいるかどうかもわからなかったからな。
それと大迷宮の存在意義の他にも、頭に入ってきた情報がある。この大迷宮の攻略情報だ。どの層でどのアイテムやスキルなどが手に入るかとか、そのアイテムやスキルの効果、ボス部屋の事や、11層からの自然のエリアの対象方法など、まるで攻略本みたいな情報だ。この大迷宮を攻略したご褒美なんだろうか?
確認してみると、大体のアイテムは手に入れているし、鑑定してある程度把握しているが、まだ手に入れていないアイテムもあり、アイテムの使い方なども、鑑定するより詳しく頭の中に入ってきている。
ちなみにボス部屋でいいアイテムが出た理由も頭の中に入ってきていて、やはり人数と時間が関係していた。少ない人数で素早く倒すことがいいアイテムを手に入れる理由のようだ。
そして、自然のエリアがある層の正規の攻略ルートも分かった。どうやら結構力押しして攻略してきたみたいで、正規の方法ならもっと楽に攻略出来たみたいだ。まぁ攻略しちまったからもういいけど……。
そうやってオレが手に入れた情報について考えていると、正面にあるレリーフが光り、その前に先ほどのより少し大きな光の玉が現れた。そして、オレの頭の中へ直接話しかけてくる。
『よくぞこの大迷宮を攻略した』
「これは……もしかして、神様か?」
『うむ、我は商売を司りし神なり。よくぞこの大迷宮を攻略した、異なる世界より落ちて来し者よ』
やっぱり出てきたか……。 と、おもむろに
『さあ、カードを出すが良い』
「カード?」
『うむ、この大迷宮に入るのに使っているカードだ』
あぁ、ギルドのカードか。何をするんだ? と思いながらも、魔法庫からカードを出す。するとカードは自然に浮かび上がり、神様の所までゆっくりと飛んでいく。そして少し光ったかと思うと、またゆっくりとこちらへと戻ってくる。
確認してみると、今まで無地だった裏面の左上に、レリーフと同じ模様が描かれていた。
これは?
『この模様は商売の大迷宮を表す模様、大迷宮の攻略の証だ』
「えっ!」
コイツはーー困ったかもしれない。
「な、なぁ神様、これは他の奴が見たら攻略したって分かるもんなのか?」
『カードに模様が刻まれるのは大迷宮を攻略したものだけだ。見ればすぐに気付くであろう』
つい言われるままにカードを出しちまったが、これは予想外だ。
「これって消す事は出来ないのか?」
『消す、とな? 消せなくは無いが、理由を聞いても良いか?』
オレは国王の生誕祭のイベントに合わせて、商人たちが集まっている事、そしてその商人たちがレアなアイテムを求めている事、大迷宮の深い場所のアイテムは需要があり、そのせいで商人たちに目をつけられている事、そしてあまり目立ちたく無い事を説明する。
『ふむ、成る程。この模様があれば実力の証になると思っておったが……。そのように考えて生きている者もおるのだな』
「あぁ、確かに普通の人なら喜ぶ所なんだろうが、生憎オレは大迷宮を攻略してみたかっただけで、自慢したり言いふらしたりとかはしたく無いんだ」
『それでカードの記録が16層で止まっておるのじゃな?』
「あぁ、そうだ」
『わかった、ようは他のものに知られなければ良いのだろう?』
そう言うと、再びカードが神様の元へ飛んでいき、そして戻ってくる。確認すると確かに裏の模様は消えている。
『魔力を込めてみるが良い』
そう言われたのでカードに魔力を込めると、再び模様が浮かび上がってくる。が、魔力を止めると模様は消えてしまう。
『お主の魔力にのみ反応して現れるようにした。そして、攻略の記録も16層で固定しておいた。十分活用するが良い』
「活用する?」
『この模様が刻まれたカードがあれば、この大迷宮に限り水晶の間より好きな層に行けるようになる』
っーーと、それは便利だ。魚が食いたくなったら直接13層へ行けるし、炎属性の素材が欲しければ17層へすぐに行けるということか。本来だったら11層や16層から順に攻略しなくちゃいけないから、これは良い。そして、16層で固定してくれたという事は、17層以降の層に飛んでもカードの記録が更新されないという事か。ありがたいな。
『せっかくここまで来たのだ、其方から何か聞きたい事はないか?』
オレがカードの有用性を考えていると、神様から聞かれた。聞きたい事、か。
「そういや1層で神とは『この世界を創りし神と、その神より生まれし者たち也』って言ってたが、あんたはその『神より生まれしもの』ってやつなのか?」
『左様、我は商売を司る為に神より生まれし者。ただ適任者が現れし時は、再び神の元へ戻る者也』
適任者?
『この大迷宮を司るに相応しい魂を持つものが現れし時、その者に大迷宮を任せ、この世界を創りし神と再び一つになる』
「再び一つに? という事は、神様の分霊みたいなもんか。」
『うむ、そのような存在だ』
そうか、神様は一時的にこの大迷宮を司っていて、相応しい者が現れたら、その人に大迷宮を任せるのか。という事は、もうすでに他の人に任されている大迷宮もあるかもしれないな。
『他に何か聞きたい事はあるか?』
「そうだな……、いくらでも聞いて良いのか?」
『其方の時間が許す限り、そして我が話せる内容に限り応じよう。我は神の一部ゆえ話せないこともあるからの』
まあ神様の分霊だから全てを知ってるわけじゃないんだな。それはしょうがないか。それじゃあもう少し聞いてみるか。
オレはその後、数時間にわたって色々と聞いてみたのだった。
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「ふぅ、なかなか面白かったな……」
階段のある部屋に戻って、簡易宿泊場所の中で神様との話を振り返る。
かなり色々教えてもらえた。大迷宮の維持管理のシステムや、大迷宮の周辺にある迷宮(小迷宮とも呼ばれているらしい)の事。ほかに元の世界へ還る方法も知っていたので教えてもらった。今のところ地球に還りたいと思ってるわけじゃないが、念のため知っておいた方がいいと思って聞いてみた。まぁ方法はわかっても直ぐに還る事が出来るわけじゃないこともわかったんだが……。
とりあえず、必要なアイテムと魔力と場所はわかった。もし還りたくなったらアイテムと魔力を集めてその場所へ行き、試練を乗り越えれば良いらしい。
それと神様は全知全能では無い事も分かった。もちろんかなりの知識や能力はあるのだが、なんでも出来る訳ではないらしい。
知識に関しては、人が死んだあと魂から記憶を抜いて転生させるらしいのだが、その時に抜いた記憶を集めて蓄積しているようだ。
地球でいうアカシックレコードに近いものだろう。なので過去の出来事や記憶に関しては全て把握しているが、今現在起こっている事は確認しなければわからないらしい。一応それぞれの神様が管轄しているエリアがあるらしく、そのエリアの中なら確認できるが、それ以外の場所のことは知る術が無いそうだ。
商売の神様だと、ビネスとその周辺の街あたりまでは見れるらしいが、それ以上離れると見えない。それも見ようと思えば見えるだけで、普段から監視しているわけではないらしい。あまり過干渉にならないようにしているのだろう。
そして能力は、それぞれの司っている事柄に関してはかなりの力が出せる。例えばこの街の周辺では、素材の需要に合わせて周辺の魔物の数を調整したり、荷箱を作るための木を多く育てたり、馬車用の馬を育成させやすい環境を作ったりなどなど。大迷宮の、商人のジョブや鑑定のスキルなんかを与えたりするのも自分が司っている事ならできるそうだ。
逆に自分に関係ない事に関しては、力が出せないそうで、戦闘用の技術や魔法はスキルとして与えたり出来ないらしい。
「ふぅ」
ベッドの上に寝転がりながら息を吐く。色々な情報を手に入れることができ、満足感があるがーーそれ以上に心の中から湧き上がる感情がある。
「よしっ!」
オレは握り拳を天井へ向かってかかげる。今のオレの心の中には大迷宮を攻略した達成感と……そして安心感がある。
1番最後に神様に聞いてみたのだ。
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「なぁ、神様。オレはこの世界に居ていいのか? 」
オレは神様に問いかけてみる。前から不安は少しあったのだ。他所の世界から来た人間が、この世界に居てもいいのか? と。すると、
『構わぬ。むしろ歓迎しよう』
「 歓迎?」
『うむ、この世界は他の世界に比べてまだ若く、成長している最中だ。だから他の世界の知識や技術は良い刺激になる。なのでお主も歓迎しよう。勿論、お主の知識や技術が平和的なものであればより良いがな』
それを聞いたオレはーー思わず泣きそうになってしまった。多分、今まで自分の居場所を見つけられなかったからだろう。
地球では、家族も職場にもオレの居場所は無かったし、この世界に来てからも、異なる世界のオレが本当にこの世界に居ても良いのかと、多少の不安があった。
だが神様がそんなオレを受け入れてくれたのだ。嬉しかった。オレはこの世界に居ても良いんだ。そう思うと安心してこの世界で生きていける気がした。
お読みいただきありがとうございます。
プライベートでトラブルがあり、執筆できませんでしたが、また書いていこうと思います。
よろしくお願いします。




