極寒の世界
「今度は寒ぃな」
今、目の前は猛烈に吹雪いている。ウォーターバレットを撃ったらすぐに凍ってしまうくらいだ。なのでここでも時間をかけて魔道具の改良を施した。お陰でこの吹雪の中、凍りつかずに済んでいる。
「さてと、今回は一筋縄じゃいかないか……」
オレは吹雪の中、歩き始める。
結局、オレは進むことを選んだ。17層のボスで死んでいたかもしれない状況があったわけだが、それでも冒険をするという事を辞めたいとは思わなかった。
確かにあの時を思い出すと恐ろしかったし、今でも少し震えてしまう。しかし、それでも冒険をする事によって得られる、未知のものに出会える興奮や感動は忘れられない。特に食、あのヒートリザードの肉や黒牛の肉を初めて食べた時の驚きは未だに心に残っている。
もしかしたらこれから先に、もっと旨い食材に会えるかもしれないし、もっと別の感動があるかもしれない。そう考えると、冒険者を辞めて安全な暮らしをしたいとは思えなかったのだ。
「こっちに来てから、かなり変わったな……」
地球にいた頃は、なるべく目立たず安全に生きていた筈だったのに。まぁそれでも人生行き詰まった訳だが。
そんな事を考えながら進んでいると、魔物の気配が感じられた。相変わらず視界は吹雪で塞がれて見えないが。
気配のする方へ進むと、吹雪の中うっすらと影が見えてくる。あれはーースノウゴートか。12層でも出てきたが、ここにも出てくるんだな。サクっと倒して更に進む。
17層では行くべき場所が見えていたから、直ぐにわかったが、今回は吹雪の所為で周りが見えない。なので地道に探すしかない。
敵もスノウウルフやアイスバードなど戦ったことのあるやつの他に、初めて見る魔物、ブリザードタイガーやクリアディアなども出てきた。
ブリザードタイガーは氷の魔晶牙を持っており、クリアディアは水晶のように透明で美しい角をもっていた。こちらは残念ながら魔晶角ではなかったが……。
その後、吹雪の中を彷徨うこと数時間、一旦最初の水晶の部屋へ戻ろうかと思った時、それが目の前に現れた。
確かイグルーだったか? 雪のブロックを積み上げて作られた、ドーム状の建物が目の前に現れたのだ。
「これは、罠じゃ無いよな?」
近づくと、イグルーは5個あった。そして、そのイグルーがあるエリアは吹雪いていなかったのだ。
「セーフティールームのようなものか?」
確認してみると、全てのイグルーの中に煮炊きできる場所があり、休めるように氷のベッドもあった。
「ここは好意に甘えて一休みするか」
オレは軽く食事をして、氷のベッドにこの層で手に入ったブリザードタイガーの毛皮を敷いて一休みする事にした。
「! なんだ?」
目が覚めたのは、強い魔物の気配を感じたからだった。慌てて外へ出てみると、あたりは暗くなっており強い気配が一箇所から感じられた。
「これはーーこの層には夜があるのか?」
今までの層では常に昼間だった。太陽の位置は変わらず常に明るかったのだが、この層で初めて夜が訪れた。これは、何かあるな。
イグルーに戻り、置いていたものを全て仕舞い、外に出る。周りを観察してみると、どうやら吹雪も収まっているようだ。
落ち着いて、慎重に強い気配がする方向へと進んでいく。イグルーから100mほど進んだだろうか? 気配は木々に囲まれた場所からしている。その木々の間を慎重に進むと、そこには全身氷でできていて、虹色に輝く魔力を纏う孔雀がいた。
オーロラピーコック
鑑定で出てきた名前だ。オレの中ではオーロラは緑のイメージだが、確かに周りの魔力はオーロラのようにカーテン状に漂っている。そして、
「キレイだ……」
思わずポツリと呟いてしまった。無意識に言ってしまうほどオーロラピーコックは美しかった。
透明でありながらも孔雀の羽根の質感はあり、その透明な羽根にオーロラのような虹色の魔力が反射したり、透けて見えたりして美しく彩っている。
と、オレの声が聞こえたのか、オーロラピーコックはこちらを見つめてくる。
ハッとなって戦闘態勢をとるが、出来ればこの魔物は倒したくないという思いに囚われてしまった。オーロラピーコックは気配は強いが、フレイムカイザー程ではない。なので戦いになれぼ勝てるだろう。だが、出来れば戦いたくない。
そんな想いが通じたのか、はたまた最初から戦う気がなかったのか、オーロラピーコックは戦う素振りも威嚇する様子もない。オレも戦闘態勢を崩してじっと見つめる。
しばらくそのままで見つめあっていると、突如オーロラピーコックはガラスのような澄んだ鳴き声をあげ、そのまま夜の闇の中へ羽ばたいて行ってしまった。
………………
オーロラピーコックの美しさに魅了され、しばらくの間その場から動けなかったが、ようやく落ち着いてきた。ふとオーロラピーコックがいた場所を見ると、美しい羽根が3枚落ちていた。オレはこれを拾い上げ、今のこの感動を忘れないように大切にしまっておくことにした。
そしてイグルーに戻ろうとした時、あの感覚が感じられた。そう、いつもの何かあるという感覚だ。周りを見渡してみると、森の奥になにやら大きなカマクラのようなものがある。近づいてみると、カマクラの中は階段になっておりこれが迷宮部分の入り口だった。
階段を下りると気温が常温に戻ったので、魔道具をしまう。そして探索を開始する。今回は宝箱の気配があったので、まずはそちらに向かう事にした。
魔物を倒しつつ進んでいくと、部屋中に宝箱が2つ並んで置いてあった。だが、宝箱の気配は1つ。つまり片方は前に戦ったミミックボックスだな。
しかし、ミミックボックスは何故魔物の気配も宝箱の気配もしないのだろうか? もしかしたら気配を察知されなくなる特徴やスキルがあるのかもしれない。
とりあえず、先にミミックボックスを倒す事にしよう。宝箱を開けた途端、横から襲われたらたまらないからな。
距離を取りストーンピラーで上手く蓋を開ける。すると突然歯が生えてきて、ストーンピラーをガシガシ噛み始めた。もしかしたらコイツは思った以上に頭が悪いのかも知れないな。そんな事を思いながら、動きを止め、箱の中にストーンバレットを撃ち倒す。
ミミックの中身は、またもや保存バッグだった。容量は一辺60cmの箱と同じだけだ。前のよりも容量が多い。
そして、本命の宝箱の中身は……
「よし! これは嬉しいな」
エリクシールだった。
エリクシール
ーー飲むだけで体力 怪我 魔力 身体の異常を回復する 但し失われた身体の部位は蘇らない また死者蘇生も出来ない
エリクシール、今現在知られている回復役の中で、もっとも効果が高いと言われているものだ。万が一の為に1本は持っていたいと思ってただけに、これは素直に嬉しい。ビネスの街で探したことはあったが、1本も見つからなかったんだよな。
宝箱のあった部屋を後にして魔法陣の場所へ。この魔法陣は
重量魔法
ーー対象の重さを変えることができる 変化させる時間や量によって消費魔力は変わる
これは今まで持っていた重量軽減のスキルの上位互換だな。今までは手に持っていたものだけだったが、これはおそらく自分にもかけられるだろう。その分魔力は食いそうだが……。そう思いながら魔法陣の上へ乗ってみる。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
これは、どこかの町の工事現場だろうか? かなり大きな岩を運ぼうとしているところへ魔道士がやってくる。そして岩に魔法をかけると、その岩を男が1人で担いで運んでいく。
なるほど、この魔法は工事現場で作業を楽にする為に生まれた魔法なんだろう。
だが、こんな便利な魔法があったら恐らく……。そう思ったら場面が切り替わった。
予想通りに場面は戦場になる。そこでは1人では持つことが出来ないような巨大な剣や槍を振り回して、敵を圧倒している複数の戦士が映っている。
そりゃそうだ。こんな便利な魔法、戦争に利用されない訳が無い。見ていると、馬を使った戦車が何も引いてないかのごとく疾走していたり、重装備の戦士がありえないスピードで戦場を走り回っていたりする。
そして、最終的には魔法で城を宙に飛ばし、上空から攻撃する所までいってしまった。だが、こんな巨大な物を宙に浮かせているのに何のリスクもない訳が無い。映像を見て分かったが、どうやら奴隷を集めてその魔力で城を浮かせているみたいだ。やはりかなりの魔力を消費するようだ。
やがて、王と魔道士が口論になっているシーンが映り、激昂した王は魔道士を切り捨ててしまう。その後何事も無かったかのように王は指示を出し進撃を続けるが、魔力が尽きた奴隷たちが1人、また1人と倒れていく。
そして浮かぶ為の魔力が無くなった空飛ぶ城は、地上に落下、王の野望とともに粉々に砕け散っていった。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
やっぱり便利なものは戦争に使われちゃうんだよな。地球でもそうだったが、大空を自由に飛びたいという思いで生まれた飛行機が、結局戦争で多くの人の命を奪う事になった。
最初の工事現場の映像を見ると、この魔法もきっと人々の生活が楽になるようにと、生まれたものなんだろう。それが戦争で利用されてしまった訳だが、果たしてこの魔法を開発した人はどう思ったんだろう?
人を傷つける為に使われて嘆いたんだろうか?
それとも、国のために使われて喜んだんだろうか?
もう既にこの世には居ないだろうから確認できないが、できれば前者であって欲しいものだ……。身体に入ってくる光を見ながらそう思った。
魔法陣を後にして階段を下り、ボス部屋を見つけて入る。今まで通りならボスは氷属性の筈だ。出てきたのは
コキュートス
と言う名の巨大な鳥だ。高さ5mくらい、羽を広げると10mくらいはあるんじゃないだろうか? 色は水色が基本で背中は深い青、お腹のあたりは雪のように真っ白い。嘴と足の爪は長く氷のようになっている。
そしてーー飛んでくる羽を躱す。やはりここでもいきなり攻撃してきたか。飛んで来た羽は半透明な水色で、とても綺麗な色をしている。まぁ岩の地面に突き刺さっている以上、直撃したら死ぬ可能性が高いわけだが。
羽を躱してる隙に飛んでいたようで、上空から羽やアイスバレット、アイスアローを撃ってくる。避けられない速さでは無いが、数が多いので大変だ。一撃でも食らえば致命傷になりかねないからだ。それに飛ばれていると『茨の庭』が届かないから厄介だ。
それならーーオレは地属性のバレット専用の魔道具を出す。そして、ストーンバレットを乱射する。コキュートスの攻撃を躱しながら撃ち続けるが、当たっても対してダメージは無さそうだ。なので今度はメタルバレットに変えて撃ち続ける。やはりメタルバレットならダメージが入る。
だがもう一押しだな。魔道具に更に魔力を込めてメタルバレットの大きさを大きくしていく。速度は同じなので魔力の消費は増えるが、ダメージがどんどん蓄積されていくのがわかる。やがて羽にダメージが増えすぎたのか、フラフラしながら地面に下りてきた。
「『茨の庭』」
すかさず『茨の庭』を発動。コキュートスの体に刺さり、身動きが取れなくなる。あとは一気に近づいて、フレイムピラーを圧縮して刃状にする魔道具で魔石を破壊。コキュートスは消滅する。
「ふぅ、大変だったがフレイムカイザーよりはましだったか」
フレイムカイザーは動きが速かったし反応速度も速かった。その上氷も岩も溶かす程の高温を纏っていたからかなり厄介だった。
コキュートスは遠距離攻撃が主体だったから落ち着いて躱せば問題は無い。飛んでいるのは大変だったが、こっちも遠距離攻撃が得意だったので、なんとかなった。まぁ相性が良かったって言うのもあるのか。
だが、最近は魔法による遠距離攻撃がメインだったから、これからは近距離での戦闘も考えなければいけないかもしれない。そう思いながら宝箱を開ける。
まずは氷の魔晶爪の弓と氷の魔晶爪を加工して作られた鎧。弓は弦を引くと魔力を消費して氷の矢が自動で生まれてくる。つまり魔力があればいくらでも矢を撃てるという訳だ。鎧はやはり氷属性の無効化が付いていた。
あとは巨大な氷の魔石と8本の魔晶爪、コキュートスの肉、あとはおなじみ壺シリーズで、マジックハイポーションの壺だ。魔力を貯めればマジックハイポーションが生み出される。
さて、こんなもんか。しかし、魔物もどんどん強くなっていくな。あまり油断しないようにしていかないと……。
オレは階段を下り、万全の状態で次の層を進むために、水晶の部屋で一休みする事にした。
お読みいただきありがとうございます。




