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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
57/87

報告と騒動

「で、詳しく話を聞きたいんですが……」


 話しかけてきたのは、ビネス大迷宮の迷宮管理部部長、ラースだ。今オレは2階にある迷宮管理部の部長室にいる。というか、連れてこられた。


「その前にまずは15階層突破おめでとうございます。16階層にたどり着いたのは黒猫さん、あなたが初めてです。それで、できれば大迷宮の様子や攻略の方法など、教えて貰いたいんですが……」


 どうやら迷宮管理部は、冒険者から大迷宮の情報を集めてまとめ、それを冒険者に提供しているようだ。そういえば最初に来た時に情報課で情報を手に入れたっけか。オレの場合は魔物の情報以外あまり役に立たなかったが……。


「その前に聞きたいんだが、何故オレが15層を突破出来たとわかったんだ?」

「それは簡単なことです。入り口の部屋にある3つ目の水晶が光ったからです。いままで、5層攻略で1つ目の水晶に、10層攻略で2つ目の水晶に光が灯ったと聞いています。そして今回、3つ目の水晶に光が灯り、職員が驚いているところに黒猫さんが帰還されました。なので黒猫さんが15層を攻略したのだとわかったのです」


 どうやら入り口の部屋の水晶は、ある層を攻略しないと光らないものだったようだ。そして今までは2つの水晶しかしか光ってなかったらしい。全然気がつかなかった、というか気にしてなかった。


 まぁ、とりあえず理由がわかったからいいか。それにここで嘘をついて隠しても良いことは無いだろう。


「成る程、理由はわかった。だが教えるのはいいが、大迷宮の情報だけで良いよな? オレ個人の能力に関係することは話したくないんだが……」

「ええ、構いません。冒険者が自分の能力を他人に知られたくないといういうのは普通ですから」


 という事で、大迷宮の様子や攻略の仕方を話していく。まぁ攻略の仕方といっても、どこら辺に入り口があったとか、ボスは何だったかと言った話だが。12層までは攻略者がいるので、13層からの情報を話す。


 ……


 ……


「成る程、水の上の移動方法とか、砂漠での暑さ対策など気になる部分はありますが、大迷宮の様相はわかりました」


 そう、オレはついうっかり水の上を移動したとか、暑さの対策をしないと厳しいとか言ってしまったのだ。そこらへんは言えないと言っておいたので、詳しくは聞いてこなかったから助かったが。念のため低ランクの水上移動や暑さ対策の魔道具を作っておいた方が良いか。


 その後、出てきた魔物の特徴や攻撃手段など分かる範囲で伝えていく。普段から瞬殺していると、こういう時魔物の攻撃手段が分からなくて困る。まぁ殺られる前に殺る事にしていると言ったら、なんとなく察してくれたようだ。




 だいたい1時間くらい話してただろうか? ようやく15層の攻略まで話し終わったので、オレが席を立とうとすると、


「あの、ボスの宝箱のアイテムは教えて貰えないんですか?」


 と、言われてしまった。……どうしようか。多分壺系のアイテムは言わない方が良いと思う。あとは各属性の装備品ーーこれらも微妙なところだ。肉や魔石、鑑定板は大丈夫だと思うが、それしか宝箱に入っていなかったと言っても信じてもらえない気がする。


 ーーそれなら


「その前に聞きたいんだが、11層と12層のボスはどんなアイテムが出るんだ?」

「? 11層と12層ですか?」


 不思議そうな顔をしながらもラースは机の引き出しを漁り、ボスのアイテムをまとめたリストを出して見せてくれた。どうやら他の冒険者の時も、防具は出ている。だが、魔晶角や魔晶牙の武器は出てないようだ。それにやはり壺系のアイテムも出ていない。


「あの、11層と12層は攻略されてるんですよね? 何を気にしているんです?」

「いや、珍しそうな武器が手に入ったから、普段から出ているのか気になってな。それに、どの位価値があるかオレ自身にも分からなかったから、言っていいものかどうか……」

「珍しい武器?」


 オレは13層で出た水の魔晶牙のショートソードを出す。


「こ、これはっーー」


 ラースが息を呑むのが分かる。


「13層のボスの宝箱から出てきたんだが、どの位の価値があるんだ?」

「こ、これはかなり価値があります。素材は魔晶牙でしょうか?」

「あぁ、鑑定では『水の魔晶牙のショートソード』って出てるな」

「魔晶牙自体が、高ランクの魔物からしか手に入らないものなんです」


 そうなのか、初めて聞いたな。


「そもそも魔晶牙は、魔物が体内に溜め込んだ魔力を攻撃力に変換するために生み出すもので、魔石よりも強い魔力を持ち、ミスリル並みに硬度もある素材です。そのため、強い魔力を持った魔物にしか付いておらず、しかも入手が困難なんです」

「困難? 魔物を倒すだけじゃダメなのか?」

「ええ、戦いが長引けば魔物も魔晶牙に宿した魔力を使ってしまうので、そうなると硬度も下がり魔石と同じ程度になってしまいます。そうなると、人がいくら魔力を込めても硬度は上がりません。まぁ、飾り物としての需要はありますが……」


 成る程、良い状態のまま手に入れるのが困難なんだな。


「なので、魔物になるべく魔力を使わせずに一気に倒さなければ、武器に使える魔晶牙は手に入らないんです」


 そう言って、ラースはうっとりとした表情でショートソードを見つめている。うん、男のうっとりとした表情は気持ちが悪い。なので魔法庫へ仕舞う。


「あぁ……」


 切ない声を上げてくるが、無視しておく。それにしても、水のように綺麗な刃なのにミスリル並みに硬いのか。と言うことは、魔晶角も同じ感じだろう。まぁ出したらまた面倒くさいことになるので出さないが。


 この後、普通に防具も手に入れたことを伝えて席を立つ。すると、


「あぁ、少し待っていてください。情報料をお支払いしますので」


 そう言ってラースは部屋を出て行ってしまった。気配を追ってみると、どうやら奥にある部屋へと行ったようだ。あそこが金庫のある部屋なんだろうか? まぁ盗みに入るつもりはないが。


 それより気になるのは、1階に人がかなり集まっている事だ。普段よりかなり多い上に、冒険者じゃない人の気配もある。冒険者よりかなり気配が弱いのだ。何かあったんだろうか?


 気配を消して、部長室の窓から覗いてみる。この部長室からは、1階の様子がちゃんと見えるようになっている。見ると冒険者と、それと同じくらいの商人と思われる人がいる。と、ラースが戻ってくる。


「どうしました?」

「いや、1階にかなりの人が集まってるんで、何事かと思ってな」

「…………」

「ん? どうした?」

「何事かって、黒猫さんのせいでしょう?」

「オレの!?」

「あなたが15層を攻略したから、集まって来ているんですよ。冒険者は情報を、商人はレアなアイテムを求めて来ているんです」

「なっ! だって攻略したのはたった1時間くらい前だろ? なんでこんなにーー」

「うちは冒険者ギルドの一部ですから、冒険者ギルドへは報告しなければいけませんし、そうなるとギルドで話題になります。そうなれば、話はどんどん広まっていきます。それに今は国王様の生誕祭のイベントに向けて、商人達がかなり集まって来てますからね。良いアイテムを売ってもらおうと、我先にと押しかけて来ますよ」


 これは面倒くさい臭いがする。このまま出て行ったら絶対に揉みくちゃにされる。となればーー


「なぁ、そこの窓から出て行っても良いか?」

「えっ!? ま、まぁダメじゃないですけど、あの人たちを放って置くんですか?」

「一々相手にしたら面倒くさいだろ?」

「そうすると、ウチが大変になるんですが……。それに、有名になるチャンスですよ。多くの冒険者が名前を売るために頑張っているのに」

「だがこのままオレが出て行っても、大変じゃないか? 商人達がオレに詰めかけ、身動きが取れなくなり、更に商人が集まり大迷宮の入り口が混乱する。そうなったらそっちも大変だろ? それに、オレは別に名前を売りたい訳じゃないし、有名になりたい訳でもないからな」

「……わかりました、冒険者と商人には裏口から出たと言っておきます」

「あぁ、頼む。てか、冒険者は関係無くないか?」

「いえ、冒険者も黒猫さんから直接情報を貰えれば、お金がかかりませんから」


 そうか、情報を買うとなるとお金が掛かるからか。セコイな。まぁとにかく、無事にここを出る方が優先だ。オレはラースから情報料を貰い、気配を消して窓から屋根に登る。一応確認してみると、やはり裏口にも商人が集まっている。なので、入り口と裏口から1番遠い場所から裏路地へと降りる。


 が、ここで痛恨のミスをしてしまった。急ぐあまり、気配を確認し忘れたのだ。そして、光と闇の魔道具で姿を変えるのも忘れてしまった。


「よぉ、黒猫。相変わらず景気が良さそうだな」

「な、なんでお前らがここにいる!」


 そこにいたのは、ザイン達『ゼット』のメンバーだった。


「なっ、オレの言った通りだろ?」

「えぇ、本当に言った通りだったわね」

「流石にオレもこれは予想出来なかった」

「エゾは〜、こう言うところが凄いよね〜」


 どうやらエゾが、オレの行動を読んでいたらしい。オレは小声で


(とりあえず、あまり騒がないでくれ)

(そうだなぁー、情報を少しくれるんなら黙っているが?)

(……、わかった。情報をやるから黙っててくれ)

(じゃあ、今日はオレ達に付き合わないか? 近場の討伐依頼を受けて来たんだが、街中だと落ち着いて話せないだろ?)


 確かに、どこに商人の目があるかわからないからな。一旦街の外に出るのも悪くないか。


(わかった、オレは落ち着かないから先に外へ出ている)

(じゃあ、南門を真っ直ぐ行った先にある森の辺りで待っていてくれ)


 オレは『ゼット』と別れて速攻で南門へ向かう。流石に門番までは情報は届いてないらしく、すんなりと通過出来た。そして、森の入り口で待つこと30分、『ゼット』のメンバーがやって来る。周りには他に気配はない。


「よう、待たせたなー」


 エゾが軽く言ってくる。オレを軽く脅したくせに陽気だな。


「先に確認したいんだが、何故オレがあそこに出るとわかった?」

「ん? そりゃ、アンタの性格を考えたらわかるだろ?」

「オレの性格?」

「そ、アンタはかなり強いがあまり進んで目立とうとはしてなかったからな。それに強さを隠そうともしていた。あんまり上手く隠せては無かったけど……」

「で?」

「だとしたら、あんなに商人や冒険者が集まっている場所に出てくるとは思えない。恐らく裏口も警戒するだろう。だとしたら、1番遠くて目立たない場所に来るだろうと予測したわけだ」


 確かにその通りなんだが、エゾに読まれているとなんか腹立つな。


「てか、よく丁度良いタイミングで来れたな。アンタらもギルドにいたのか?」

「ええ、丁度依頼を受けたところで黒猫さんが15層を攻略したって情報が入ってきてね。なので、ちょっと寄って行こうって話にりなったのよ」


 まぁ偶然にしちゃ出来すぎている気もするが、これも何かの縁なのかね。


「で、何が知りたいんだ。一応情報は迷宮ギルドに報告してるぞ」


 森の中を歩きながら聞いてみる。コイツらならタダで情報を貰おうなんてセコいことは言わないと思うんだが。


「いやいや、情報自体は迷宮ギルドで買うがそれ以外にも色々あるだろ? 例えばレアなアイテムを生で見せてもらうとか、他にも言ってないことがあるとか」

「アンタの事だ、前のボスの連戦みたいに何かやらかしてる気がするんだよ」


 なんでわかるんだ? コイツらが凄いのか、オレが分かりやすいのか……。まぁ言って差し支えない事だけ言えばいいか。


「わかった。とりあえずレアなアイテムはコレ、『水の魔晶牙のショートソード』だ」


「うぉぉーー! 魔晶牙の剣かよ! こんなの滅多に見られないぜ」

「綺麗な刃ね。本当に硬いのかしら」

「綺麗だけど〜剣か〜。杖だったら良かったのに〜」

「なぁ、風属性の武器は無いのか?」


 なんか好き勝手に言ってる。リザは自身が水属性だから気になってはいるが、剣は使えないようだ。ザインは風属性だからか。そういや、今回手に入れた武器って、どの位強いんだ? とりあえず、風のナイフならザインに試して貰ってもいいか。


「これは、迷宮ギルドに言ってないヤツだから、あんまり口外するなよ」


 そう言ってオレは『風の魔晶角のナイフ』を出してザインに渡す。


「これはっーーな、なぁ、少し試し切りしてみてもいいか?」

「良いけど、壊すなよ。壊したら弁償だからな。あと、ナイフの魔力を使いすぎるなよ」

「大丈夫だ。魔晶牙の魔力は、魔石と違って人間には使えない」


 そう言って、ザインは嬉しそうな表情でナイフに魔力を集める。成る程、人間の魔力を込めても硬くできないのと同じで中の魔力を使う事も出来ないのか。つまり人間の魔力じゃ干渉できないんだな。あと、それは魔晶牙じゃなくて魔晶角なんだが。まぁ丁度試してくれるんだから細かいことはいいか。


 ザインはナイフに魔力を集め終わると、魔法を放つ。これはウインドカッターか。ウインドカッターは10m先の木に当たるとそれを切断し、その先の2本の木も切断した。


「おぉ、スゲェ! 威力がかなり上がるな。ミスリルの剣より魔法は使いやすい」


 なんか子供のようにはしゃいでいる。それを他のメンバーが温かい目で見ている。


「あんなにはしゃぐザインを見るのはいつぶりかしら」

「いつもはリーダーたからって、しっかりし過ぎてるからな」

「ん〜」


 とりあえず、魔法を使うんなら、ミスリルよりも良いと言うのはわかった。その後、防御系の魔法も試していたザインだが、急にこちらを振り返り、


「なぁこれ……」

「譲らないぞ」

「ーーだよな。だけど、アンタ地属性だろ?」

「まぁ趣味のコレクションだな。あ、ちなみにそのナイフは11層のボスで手に入れたから、他のよりは手に入れやすいと思うぞ」

「他の〜?」


 しまった、口が滑った。


「あ、いや、その『水の魔晶牙のショートソード』よりって意味だ」

「「「「ホントに〜?」」」」


 全員の視線がオレに刺さる。誤魔化そうと思うが、良い言い訳が出てこない。仕方なくオレは『火の魔晶角の槍』『ロックトレントの魔石の杖』『金のハルバード』を出す。


「これも口外するなよ」


 と言ってみるが、全員が聞こえてないような雰囲気だ。

 しばらくして、


「お、お前! これ一生遊んで暮らせるぞ!」


 聞くと、魔晶牙や魔晶角はそれ自体がなかなか手に入らないので、かなり高値が付くらしい。素材だけで金貨400枚前後。武器に加工するとなるとかなり大変なので、金貨800〜1000枚。


『金のハルバード』は魔力を無効化出来る能力があるので、こちらは推定金貨1200枚。つまり、ここにある武器を売ると、安く見積もっても金貨3600枚以上か。これじゃあ一生遊んで暮らすのは無理だな。うん、金貨1万枚以上無いと。


 ちなみにロックトレントの杖はそんなに高くないらしい。まぁこれだけ魔晶牙や魔晶角で出来てないからな。


 その後、大迷宮の情報を言おうと思ったのだが、全員お腹いっぱいな感じだったのでやめておく。なのでそのまま森を進み、今度はこちらから今回の依頼について聞いてみる。『ゼット』が受けた依頼はアイアンスネークの討伐。この先の鉱山に出たらしい。


 アイアンスネークは、全身を鉄のような硬い鱗で覆われている地属性の蛇で、体長は長いもので5m、太さは直径30cm。基本肉食だが鉱物も食べるらしく、鉱山で採掘された鉄鉱石などが食べられる被害が出ているそうだ。


「で、そんな硬いやつをどうやって倒すんだ?」

「倒し方は色々ある。まずはより硬い武器で攻撃する」


 そう言ってザインは、腰の剣を軽く叩く。そういやミスリルの剣を使ってるんだったか。


「そうそう。他には毒を食らわせるとか、マジックボールを口の中で発動させるとか」

「あとは、打撃系の武器で内部にダメージを与える方法もあるわね」


 成る程ね、色々やり方はあるんだな。さすが『ゼット』。16層が岩山だけの場所だったので、参考になるかもしれない。


 そして日が暮れる前に無事鉱山へ到着。ザインがリーダーなので詳細を管理課へ聞きに行き、オレたちは使ってない小屋へ案内された。どうやら討伐完了までこの小屋を使って良いらしい。


 その後、ザインが戻ってきて打ち合わせが始まる。アイアンスネークは番いで、どうやら産卵の為にやってきたらしい。なので、卵を産まれる前に討伐して欲しいそうだ。


 ちなみに、生まれたばかりのアイアンスネークは、すぐに地中に潜り大きくなるまで岩を食べて暮らすそうだ。そうなると、全てを討伐する事は難しくなり、大きくなったアイアンスネークがまた出てきて、産卵。数を増やし、最終的に鉱山を閉鎖しなくてはならなくなるらしい。


「ところで、オレはどうしたら良いんだ?」


 これは『ゼット』の依頼であってオレの依頼では無い。オレが手を出しても良いものだろうか?


「……スマン、忘れてた」

「今日は付き合わないかって言ったけど、討伐までやって貰う訳にはいかないよな」

「じゃあ、オレは討伐の見学でもしているか。他人の戦う様子なんてそう見れるものじゃ無いし」


 という事で、オレは見学する事になったが今日はもう暗いのでこのまま休み、明日討伐に向かうことにした。となると、夕食の支度をしなくちゃいけないんだが……。


「何を見てるんだ?」


『ゼット』全員がこちらを見ている。


「それは」

「もちろん」

「そうそう」

「ね〜」


 何を言いたいのかは分かる。が、そう何度も奢ってばかりいるのも癪だな。明日は見学させて貰うが、その見返りは今日見せた武器や大迷宮の情報で十分な筈だ。ならば、


「1人銀貨1枚でどうだ?」


 そういうと、少し驚いたような顔をしたが、


「そうだな、毎回美味いものをご馳走して貰うのも悪いよな」


 と、素直に銀貨4枚を渡してきた。まぁ貰った以上はキチンと仕事をしないとな。と言うわけで、今日はオーク肉を使って、トンカツを作る事にした。


 オーク肉を切って筋を切り、塩胡椒をする。数は1人2枚計算で10枚作っておけばいいか。そして小麦粉、卵、パン粉をつけ、フライパンに1cmほど入れた油で揚げ焼きにする。その間にキャベツとパンを用意して、出来たところで皿に盛り付ける。今回は塩とレモンで食べる事にした。


『ゼット』のメンバーはトンカツを食べたことがないらしく、不思議な物を見るような目をしていたが、オレが食べるのを見て自分達も口にすると、一気に食べ始めた。


 焼き揚げているので、普通のトンカツよりカロリーは低く、塩とレモンをかけると脂が多くてもサッパリと食べられる。ソースがあればカツサンドにしたいところだ。


『ゼット』のメンバーも満足したのか、かなり幸せそうな表情をしている。ちゃんと1人銀貨1枚分の仕事は出来たかな。その後、幸せな余韻に浸りながら、全員眠りに就く。明日はアイアンスネークの討伐だ。




 翌朝、朝食の準備の時も見つめられたが、面倒なので前に作り置きしておいたヒートリザードの串焼きを3本ずつ出した。もちろん銀貨1枚だ。手抜きしたわけだが、それでも美味そうに食べてたので、まぁいいか。




「でだ、この坑道に出たらしいから、ここからは慎重に行くぞ」


 ザインの指示に従いながら、坑道を進んでいく。流石に魔物は出ないが、奥の方に魔物の気配はある。これがアイアンスネークなのだろう。だが、2匹以上居るんだが……。これは言うべきか? だが、オレが魔物の気配を詳しく分かるとバレるのも嫌だな。とりあえず様子を見るか。


 進む事1時間、開けた場所に出る。行動が幅と高さが2m程だったのに対し、この場所は幅と奥行きが10mで高さは5mある。壁の岩には削り取ったような跡が無数にあることから、おそらくアイアンスネークが、食べてひろげたのだろう。そして、その部屋の中央には、5mはありそうな鈍色の蛇が1匹と、その周りに睨み合っている4mほどの4匹の鈍色の蛇がいた。


「これは、聞いていたのと違うな」

「ひょっとして、メスを狙って他のオスが来たのかしら?」


 という事は、あの1番デカいのがメスで、その周りにいるのがオスって事か。


「オイオイ、流石に5匹同時はキツいぜ」

「うん、ムリ〜」


 さて、どうするのか。1匹ずつおびき出して倒すのか、それとも一度撤退して他の冒険者を集めるのか。するとザインが


「なぁ黒猫、助太刀は頼めるか?」

「ん? あぁ、別に構わないが良いのか? これは『ゼット』の受けた依頼だろ?」

「ああ、他の冒険者に助太刀を頼む事は駄目な事じゃない。ただ、報酬の話で揉めることが多いからあまりしないだけだ」


 確かに助太刀を頼んだ分自分たちの報酬も減るわけだし、下手したら足元を見られるかもしれないからな。


「でも、一旦戻る手もあるんじゃないのか?」

「だがそうすると産卵が終わって手遅れになる可能性がある。出来ればそうなる前に終わらせたい」


 オレはアイアンスネークを見る。こんなのは普通の人間が遭遇したら絶対に助からないだろう。それがこれから先、どんどん数を増やしていく可能性があるわけだ。


「わかった、協力しよう」


 オレはそう言ってアイアンスネークに向き合った。












お読みいただきありがとうございます。

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