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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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討伐隊と誤解

「お前は既に包囲されている! 抵抗せずに大人しくしろ!」


 コイツは何を言ってるんだ? オレが疑問を投げかけようとした時、


「おまえーー黒猫か!?」


 悪人ヅラの男が驚いた顔で言ってきた。


「え? 黒猫?」


 左から声がしたので見ると、ザインとイザベラが森から出てきた。後ろからはリザとエゾ、右からは見たことのない冒険者風の男が2人近づいてくる。そこで思い出した。


「もしかしてギルマスか!?」

「もしかしなくてもそうだ。黒猫、おまえはここで何をやってるんだ?」

「何って、ギルドでラバーフロッグの依頼を受けてここに来たんだが……」


 何があったのか全くわからない。するとザイン達がが説明してくれた。


「一昨日の夜にこの湖の近くで膨大な魔力反応があったと、冒険者ギルドに連絡があった。もしかしたら魔物の上位種か何かが現れたのかも知れないと、冒険者ギルドで調査及び討伐隊が組まれた。それが昨日の昼だ」

「そう、そしてたまたまギルドにいた金ランクの私達とギルドの調査部隊がここへ向かったんだけど、昨日の夜も膨大な魔力反応があって、可能だったら即時討伐って事になったの」

「でだ、さっきここに着いた時も魔力反応があったもんだから、慎重に包囲して討伐しようって話になったんだが……」

「そこにいたのが〜、ひとりの人間だったから〜、とりあえず話が出来るかもと〜、ギルマスが声をかける事になったんだけど〜」


 なるほど、つまり魔石の実験で魔力を放出しすぎて、勘違いされてたわけか……。


「で、黒猫!お前は何をしていたんだ!? 場合によっては罰則や資格停止もあり得るぞ!」


 これはーー嘘を言う訳にはいかないか。仕方ない、本当のことを混ぜつつ誤魔化すか。


「あー、実はな、変わった魔石をビネスの魔法屋で見つけてな。それの検証と実験をやってたんだが、そこまで影響があるとは思ってなかった。すまない」

「変わった魔石? 何だそれは」


 オレはギルマスに、魔道具屋で買った魔石を手渡す。


「何だこれは? 魔石に魔法陣が刻まれてるだけじゃないのか?」

「あー、この中で鑑定出来る奴はいるか?」


 周りを見るが、どうやら誰も出来ないみたいだ。


「じゃあコレを使ってみてくれ」

「これは鑑定石? 良いのか?」

「あぁ、資格停止になるよりはマシだろ」


 ギルマスは鑑定石を使うと、ハッと息を飲む。


「これはっ、じ、人工魔石だと!?」

「人工魔石!?」

「何だそれは?」

「魔石は作れるのか?」


 周りはかなり驚いている。その中で唯一違う反応をしていたのは、


「これが〜、噂の〜?」


 リザだ。


「何か知っているのか?」

「ん〜、魔法国家『アルマギア』が〜、人工魔石を開発したって言う噂が〜、魔道士の間に流れてるんだよね〜」

「それだけなのか?」

「うん、作り方とか〜実用性とかは〜、まだよくわからないんだよね〜」


 オレから見たら失敗作に見えるんだが、もしかしたら失敗作は売り払って資金にして、成功作は自分たちで使っている可能性もある訳だな。


「成る程。で、黒猫、お前はこれを作ろうとしていたのか?」

「あぁ、自慢じゃないが魔力量には自信があるんでな、試しにやってみた」

「で? うまくいったのか?」


 オレは親指サイズの地属性の魔石を出す。さっきまで作っていた中途半端な魔石だ。


「作れはしたが3日かけてこのサイズだ。これなら普通に魔物を狩ったほうが早い。恐らく、専用の魔道具か魔法陣が必要なんじゃないか?」


 ギルマスはオレの持つ魔石を手にとって見る。


「ふむ、確かにこのサイズだと魔物を狩った方が速いし、売っても大した金にはなりそうに無いな」

「まぁ、そんな訳だ。迷惑かけて済まなかったな」

「理由はわかった。一応悪意は無いことはわかったが、どうなるかは街にいる領主様に報告してからだな。この2つの魔石は証拠としてこちらに貰うが勿論いいな?」

「あぁ、わかった。少しでも口添えをしておいてくれると嬉しいんだが……」

「善処しよう」


 後は領主様次第か。まぁいざとなったら引き篭ればいいか。しかし、ギルマスが現場まで出てくることがあるんだな。そのことを言うと、


「オレは元々冒険者だからな。こう言う現場で適切な指示を出すのが得意なんだ。というか、事務仕事の方が苦手なんだがな」


 とのことだ。まぁ冒険者上がりだとそうなのかもしれない。その後、オレ1人先に帰る訳にも行かないので、ギルマス達が乗ってきた馬車の近くで一泊、ビネス近くの町でもう一泊して戻る事になった。


「で、今度はちゃんと割のいい依頼を選んだのか?」


 馬車の近くで野宿をしていると、ザインが声を掛けてきた。


「ん? あぁ、今回は割といい依頼だと思うぞ。1匹あたり金貨2枚だったからな」

「へぇ、肉か? それとも皮か?」

「いや、何に使うかわからないが、腸だ」

「腸……」


 それを聞いた途端、何故だか気まずい空気が流れてしまった。ザインは目をそらし、イザベラとリズは顔を赤くしてソッポを向いてしまった。


「何かマズい物なのか?」


 少し不安になって聞いて見ると、


「おお、あれか! アレには良く世話になったからな」


 ギルマスが詳しく教えてくれた。ラバーフロッグの腸は薄くて丈夫で弾力があるので、加工してよく娼館などで使われているそうだ。主に避妊目的で。つまりコン◯ームか。

 こちらの世界のは丈夫なので使い捨てではなく、更に一定の需要があるため、単価が高いらしい。だから依頼料も高めだと言う事だ。


 その話にザインとエゾは少し困った顔をしていて、イザベラとリザは顔を赤くして不機嫌そうな顔をしているが、ギルマスには文句を言えないようだ。他のギルドの職員は、いつもの事なのか普通にしている。


 まぁいいか。取り敢えず腹が減ったから、飯を食おう。と思ってふと気づく。ギルマス他、ギルド職員には魔法庫を使えることを言ってないんだよな。となれば、新鮮な肉や野菜は使えない訳だ。仕方ない、保存食にするか。


 オレは保存食を出して調理しはじめる。ゼットのメンバーやギルマス達もおもむろに保存食を出し、食べ始める。と、そうだ、アレを作ったんだから使って見るか。ヒートリザードの干し肉を出して少しスープに加え、残りはパンに乗せる。スープからいい匂いが立ち上ってくる。すると、


「なんだ、その干し肉は?」


 ギルマスが目を付けてくる。


「あぁ、これはこの前試しに作ってみた、ヒートリザードの干し肉だ」

「ほう、うまそうだな」


 ヒートリザードと聞いて、他のメンバーもこっちに注目してくる。仕方がない。


「あんまり量がないから、1人一枚だぞ」


 オレは手の平大の干し肉を全員に配る。


「お? 思った以上に柔らかいな」

「それにふつうの干し肉よりもうまみが強い」

「クーッ、これでエールがありゃあ最高なんだがな」


 やはり好評で、ギルマスは思った通りに酒飲みのようだ。そういやあまり酒を飲んでないな。飲むとしても、セイブンさんの家で出されるワインくらいか。だが、久しぶりに趣味で飲んでみるのもいいかもな。街に戻ったら、うまい酒を探してみるか。そんなことを考えながら、夜は更けていった。



 交代で見張りをしたものの、夜に魔物が出てくることはなかったので、翌朝は予定通りに出発できた。だが、久しぶりに馬車に乗って気がついたことがある。


 ヒマだ!


 最後に馬車に乗ったのはーーザイン達と会った時だな。雪山では、馬車が狭くて結局歩いて町は戻ったし。そういやあの時は冒険者についてザイン達に聞いていたから、ヒマじゃなかったんだよな。

 一応魔物の気配も探してみるが、なにも感じられない。御者もギルド職員がしているのでやらなくていい。魔道具の実験や調整も人前ではやりたく無いし。何もやる事が無い。仕方ないので、気配察知がどこまで広げられるか試していると、ギルマスが声を掛けてきた。


「なぁ、黒猫。お前、何か変わったアイテムは持ってないか?」

「なんだ、いきなり」

「2ヶ月後に、王都で様々なアイテムが集まるイベントがあるんだが……」

「あぁ、あのイベントか」

「知ってるのか?」

「あぁ、オレも参加しようと思ってるからな」

「そうか……」


 オレが言うと、ギルマスは残念な顔をする。


「もしかして、商人から問い合わせがあるのか?」

「ああ、ビネスには商業ギルドの本部があるからな。この時期は多くの商人達がこの街に来て、珍しくアイテムを探していくんだ」

「成る程ね。だが、イベントがあるってわかってるんなら、予め用意しておけばいいのにな」

「いや、その年になんのイベントをやるかは、2ヶ月前に発表されるんだ。去年は一般的な魔道具がメインだったし、一昨年は今年と同じアイテム全般。その前はたしか戦闘用魔道具のイベントだったか」


 その年によって違うのか。なら、よほど金に余裕がない限りは用意できないな。さて、何か譲ってもいいアイテムはあったかーーあぁ、これなら要らないな。本数も何本かあるし。


「なぁ、このオークソードなら要らないから譲っても良いんだが」

「ゲッ」


 オレがオークソードを出すと、イザベラか心底嫌そうな顔をする。というか女の出す声じゃねぇよな、今のは。逆にギルマスは安堵の表情を浮かべる。


「おぉ、これならそこそこ珍しいから、商人達も納得するだろう」

「ね〜、オークの剣ってなにか効果があるの〜?」


 リザが聞いてきたので、効果を説明すると、


「げ〜」


 と言って不愉快そうな顔をする。まぁ女性からしたらそうだろうな。だが、気になる事が1つ。


「1本で何とかなるのか?」


 さっきギルマスは商人達と言っていた。つまり複数人いるわけだが、1本で対応出来るのだろうか?


「まぁたしかに心許ないが、何もないよりは遥かにマシだ。後は1ヶ月後に抽選すると言っておけば、それまでは多少緩和されるだろう」


 聞くと、やはり結構しつこく通って来るらしい。まぁ商人としては名前を売るチャンスだから仕方がないのかも知れないが。しょうがない、これも付けるか。


「じゃあ、コイツも使ってくれ。バラで売るか、セットにするかはそっちに任せる」


 そう言ってオレはオークランスも取り出す。


「いいのか?」

「あぁ、なんか大変そうだからな」


 こうして、オレはオークソードとオークランスをギルドに買い取ってもらうことになった。価格はオークソードが金貨30枚、オークランスが金貨40枚だ。どうやら性能の差ではなく、オークランスの方が珍しいかららしい。


 とりあえず暇つぶしにはなった。あと少しで町に着くとのことなので、もう少しの辛抱だ。しかし、


「今回の依頼といい、今のオークの武器といい、黒猫さんってそう言う人なの?」

「なんかや〜」


 なにも悪い事をしていないのに、女性陣からの株が大幅に下がってしまった。エゾには慰めるように肩を叩かれるし、なんかとても心外だ。



 その後町で一泊してから朝イチでビネスへ向かう。そして数時間でビネスへ到着した。


「それじゃ、俺は領主様に報告に行ってくる」


 ギルマスは早速領主の館へ向かっていった。オレも一緒に行った方が良いのかと思ったが、


「いや、今回はもしかしたら大きな話になるかもしれないから遠慮してくれ」


 と言われた。恐らく、人工魔石の件で人に言えない話になる可能性があるんだろう。なので、取り敢えずギルド職員ににオークソードとオークランスを渡して、金貨を受け取る。その後、依頼カウンターへ行きラバーフロッグの依頼を終わらせ、報酬を受け取る。ザイン達も今回は特殊依頼だったらしく、報酬を受け取っていた。


「で、黒猫はこの後はどうするんだ?」

「……そうだな、ギルド資格剥奪の可能性があると言われているからな。とりあえず、今日は結果がわかるまで大人しくしてるさ」

「そうか、まぁその方がいいだろうな」

「で、あんたらはどうするんだ?」

「あぁ、俺たちも依頼が終わったばかりだから、今日1日はゆっくりするさ」


 ギルドの1階でザイン達と別れ、2階の資料室へ。そこで、近隣の魔物の特徴や生息地、使える素材などを覚えていく。まぁ結果がわかるまですることがないので、この機会にいろいろ覚えておこう。午前中にはあらかた読み終えたので、昼飯ついでに街をぶらつく。一応面倒臭いことが起こらないように、光と闇の魔道具を使って、認識されにくくして移動する。


 屋台を冷やかし、うまそうな料理屋を見つけて入り、ちょうど家具屋があったので、金貨30枚で布団一式を買う。あとは本屋で面白そうな本を探して買い、更に街をぶらついていると、夕方になっていた。


「さて、そろそろ戻るか」


 冒険者ギルドへ戻り、受付でギルマスが戻っているかを確認する。すると、


「こちらへどうぞ」


 と、奥の部屋へ案内されてしまった。部屋にはギルマスだけだ。案内してくれた受付嬢が部屋から出ると、ギルマスが口を開く。


「単刀直入に言う。今回の件はお咎めは無しだ」


 その言葉に、ホッとする。


「ただ、この件は国に報告しなければいけなくなったので、お前の買った人工魔石と作った人工魔石は、国に渡すので戻ってこない。そして、この人工魔石については他言無用だ」


 オレは頷く。


「だが領主様は感謝してたぞ。今まで人工魔石の噂はあったらしいが、現物は手に入らなかったようだ。それが今回手に入った。魔石を人工的に作ることは違法ではないが、もし、これが戦争などに使えるような性能を持っているとしたら、この国でも対策を考えなければいけないからな」


 確かに悪用できる可能性があるなら、対策を考えなければいけない。


「まぁそんなわけで、お前に罰はない。だが、これからは魔力の放出しすぎには気をつけてくれ。もし、魔法の研究をしたければ、国に場所と内容を申請すれば、多少は大丈夫だからな」

「あぁ、わかった」

 

とりあえず、資格剥奪にならなくて良かった。大迷宮にはまだ潜っていたいからな。さて、それじゃ、また大迷宮に行くか。オレは部屋を後にしようとしたが、


「あぁ、後もう1つ。お前を金ランクに上げることにした。大迷宮での新発見にも関わっている事、今回の人工魔石の事、そして、オークの武器をギルドに譲ってくれた事。ギルドに対して貢献しており、さらに、強さの上でも申し分はない。なのでお前は今日から金ランクだ。帰るときに受付へ寄って行ってくれ。以上だ」


 大迷宮での新発見って事は、あのボスを瞬殺すれば連戦になってアイテムのランクが上がるやつだな。正式に認められたんだな。


「わかった、ありがとう」


 話が終わったのでオレは部屋を後にする。そして、受付へ向かう。


「金ランク、おめでとうございます。金ランクは、迷宮滞在期間は1ヶ月、通常依頼の猶予期間は2ヶ月、資格凍結までは1年になっています。それでは、今後もよろしくお願いにいたします」

「あぁ、ありがとう」


 無事、カードを更新。これで金ランクか。大迷宮の滞在期間が伸びるのは嬉しいな。


 さて、とりあえず罰は免れたが、これからは簡単に魔晶石を作るわけにはいかなくなった。馬車で1日半の距離でも駄目となると、やはり魔霧の渓谷か、もっと遠い人が居ない場所か、あとはーー


「大迷宮の中、か……」


 おそらく、大迷宮の中でさらに人が居ない層まで行けば大丈夫だろう。地上で人が居ないエリアまで行くのも、今から魔霧の渓谷まで戻るのも大変だ。なので、現状で魔晶石の実験をするなら大迷宮の中しかない。まぁ、もともと深層へは行く予定だったからちょうどいい。


 それじゃあ、大迷宮へ行くか。今の時間だとだと宿を探すのも大変だし、セイブンさん家へ行っても迷惑になるだろうからな。という事で、オレは大迷宮へと向かうのだった。









お読みいただきありがとうございます。

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