新ゴーレムと魔晶石
「魔晶石だと……?」
どうやら魔石は、成長すると魔晶石になるらしい。しかし、大迷宮で手に入った魔晶石は属性は無かった。何か違いがあるんだろうか?
試しに大迷宮で手に入った魔晶石に地属性の魔力を込めてみるが地属性にはならないし、溜まっている魔力は無属性になっているようだ。
今度は自分で作った地属性の魔晶石に魔力を込めてみるが、魔力に属性を込めなくても地属性の魔力が溜まり、他の属性だと魔力を込める事が出来なかった。
魔道具にも使ってみたが、自分で作った魔晶石は地属性の魔石の代わりに使う事が出来たが、大迷宮の魔晶石は魔石の代わりとして使う事が出来ず、ただ魔力を貯めるだけのものだった。
つまり、ほとんど別のものだという事がわかった。同じなのは名前と魔力を貯める事が出来るという事だけだ。
だが、それぞれメリットがある事が分かっただけいいか。
大迷宮の魔晶石のメリットはどの属性の魔力でも貯める事が出来、かつ無属性の魔力になるので、仲間内での魔力の受け渡しや共有が出来る事。あとは、家などで複数の魔道具を使う場合、大迷宮の魔晶石と繋げた方が、個別に魔力を補充するよりも楽な事か。
人工の魔晶石のメリットは、魔石の代わりに使え、かつ魔力を貯める事が出来る。という事は、予め魔力を貯めておけば、自分の魔力の消費無しで魔法や魔道具を使えるという事だ。ピンチの時に咄嗟に使えたり、他の人に魔道具を使わせる時に便利だな。
現時点で考えると、人工の魔晶石の方がメリットが多いな。これで大迷宮で魔晶石を集める理由が無くなった。そういや、魔力に属性を込めずに魔石や魔晶石を作ったらどうなるんだ? 大迷宮の魔晶石と同じものが作れるんだろうか? まぁ明日余裕があったら試してみるか。
今日はもう寝ようと思って、簡易宿泊場所を取り出し中に入る。と、ここでまた思い出す。空間拡張と空間固定をまだ試してなかった。折角なので、この簡易宿泊場所の内部を広げてみる事にした。
今メインで使っているのはワゴン車サイズの岩で、中は縦1m 横2m 高さ1.8mくらいだ。魔力を込めて空間拡張をしていくと、縦、横、高さが同じ比率で広がっていく。魔力が減っているが、魔石や魔晶石を作るよりは消費しない。
最終的に3倍になったところで、固定する。縦3m 横6m 高さ5.4mだ。かなり天井が高くなってしまったが、まぁいいか。
ここまで広いとキッチンや風呂、トイレ等必要なものは全て入りそうだな。ちなみに空間が広がってもベットの大きさは変わってなかった。そういや布団を買おうと思って忘れてたな。今度は忘れないようにしないと。いつもの如く、グラスボアの毛皮を敷いてオレは眠りに就いた。
翌朝、オレは本来の目的を果たすために移動を始める。人工魔石のせいで忘れそうになったが、本来はある魔物を狩るためにこの場所に来たんだった。その魔物とは、デュオホーン。馬によく似た魔物で、額と鼻先に一本ずつ大きな角を生やしている。体高は2mで獰猛で力強く、足も速い。更に森や岩場など悪路でも平気で走り、追いかけられたら逃げられないと言われるほどだ。
コイツの為にオレは朝から専用の魔道具を作り、探している。悪路に強いので森や湖の浅瀬、草原や岩場などあらゆるところを獲物を探して走り周っているらしい。なので、速い動きをしている気配を探しながら、こちらも移動する。
森の近くまで来た時、かなりの速さで移動している気配を見つけた。森の中から湖の方へ走っているようだ。こちらも急いで湖の方へ移動するが、途中で止まってしまった。向かってみると、2本角の馬が魔物を捕食している最中だった。これがデュオホーンか。オレは魔道具で姿と気配を消して近づく。そして、朝作った魔道具を組み込んだ首輪をそのデュオホーンに付けた。
突然首輪を付けられたデュオホーンは、振り払う様に暴れてから周りを警戒する。少し離れた位置にオレが姿を現わすと、デュオホーンは角を突き出しながら突っ込んでくる。速い、だがまだ余裕で躱せる速さだ。オレは三角飛びの要領で木を蹴り、軽く躱す。が、デュオホーンも軽く跳んだかと思うと、空中で180度方向転換し再びこちらへ駆けてくる。
オレは太い木の前で待ち構え、デュオホーンの角が刺さる直前、ストーンピラーで上へ避ける。そのまま木へ突っ込むと思ったのだが、デュオホーンは器用に横へ飛び、衝突を避ける。そして、また空中で方向転換しこちらへ向かってくる。なかなかやるな。
それから暫くの間、追いかけっこが続いた。木を避けて走り回り、草原を全速力で走り、足場の悪い岩山を猛然と駆け上る。そろそろいいか? オレは湖の方へ行き、待ち構える。そして、向かってきたところでストーンバレットを頭部へ放つ。が、何かに弾かれる様にストーンバレットは逸らされてしまう。
「魔法か!?」
咄嗟に屈んで角を避け、胴体の下へ入り込み、そのまま下からデュオホーンを全力で突き上げる。空を舞うデュオホーンは、そのまま湖に落ちーーることは無く、なんと湖の上に立っていた。
「なんだ、この魔物は!?」
今まで戦ってきた魔物とは全然違う。強い、というか移動力や行動可能範囲が広い。そして反応速度が速い。となると……しょうがない、あれを使ったほうが確実か。
再びこちらへ迫ってくるデュオホーンに対し、オレは魔道具で姿を消す。そして、戸惑うデュオホーンに意識を奪う魔道具を使い気絶させる。そして魔石をくり抜きブラッドナイフをそこへ刺す。これで目的は達成した。
この魔道具は悪用されると危険なので、あまり使いたくはないが、今回はしょうがない。しかし、最後の水の上に立つ方法は気になるな。デュオホーンはオレよりかなり重い筈だ。後で確認してみるか。
昨日と同じ小高い丘に戻ってきたオレは、早速デュオホーンの解体をする。しかし、今回は記録石を使いしっかり記録を取りながら、ゆっくり解体していく。皮も丁寧に取り、肉や筋も綺麗に骨から取っていく。
そして、ストーンピラーで足場を作り支えながら、魔道具で綺麗にした骨を組み上げていく。骨同士はラバーフロッグの皮で外れない様に繋ぎ、体重がかかるところは金属で補強、そしてハイゴーレム粘土の壺からハイゴーレム粘土を作り、それを骨に肉付けしていく。
このハイゴーレム粘土を鑑定してみると、普通のゴーレム粘土より魔力の消費が少ない上に力が強く、さらに記憶容量が多いらしい。そういえば、魔石を埋め込むだけで決められた動きをするって言う話だから、粘土自体にある程度の記憶力があるんだろう。
ちなみにレベルは 3/3 だった。普通のゴーレム粘土は 1/3 だったので、この下にもう1つゴーレム粘土があるみたいだ。使う予定はないが、集めたくなるのは何故だろう?
そうこうしているうちに、全体がハイゴーレム粘土で覆われ、ゴーレム馬が出来上がった。綺麗な白色で、2本の角がインパクトがある。普通のゴーレム粘土は茶色だったから、こっちの方が綺麗だな。今度、解体用のゴーレムもハイゴーレム粘土に変えてあげるか。
さて、次はデュオホーンに付けていた首輪だ。これには記憶石 5/5 と記録石 5/5 が付けてある。この2つを確認してみると、デュオホーンの動きの記憶と記録がしっかり入っている。最後の水の上に立つ方法を確認してみると、どうやらデュオホーン自体が水と風の複合属性持ちで、風を纏い体を軽くすると同時に、足元に水を集めて固定し、その上に立っていた様だ。魔石を鑑定してみると、予想通り防御系の魔法と相性が良かった。
さて、この2つの石をゴーレム粘土に埋め込む訳だがーーやっぱりここしかないな。オレは、ゴーレム馬の目に当たる部分に2つの石を埋め込んだ。黄色とオレンジの綺麗なオッドアイだ。さて、これで準備は出来上がった。ゴーレム馬に鞍を乗せて手綱をつけ乗ってみる。そして魔力を込めると見事に走り出した。
「おおっ! これは速い」
スピード的にはストーンピラーで移動した方が早いのだが、こちらの方が爽快感がある。骨格もちゃんとオレの体重を受け止めてくれているし、ハイゴーレム粘土もデュオホーンの動きについてきている。多分普通のゴーレム粘土だと、デュオホーンの動きには耐えられなかっただろう。
折角なので、森の中や岩山を駆けてみる。こちらが意識しなくても木を避けてくれるし、足場が悪くても躓いたり転んだりしない。岩山も爽快に駆け上がっていくし、重量軽減のスキルをゴーレム馬に使うとかなりの高さまでジャンプ出来た。
気配察知を忘れて魔物の近くを通ったりもしたが、この速さについてこれないので心配をする必要は無かった。時間を忘れて遊んでいたら、いつの間にか夕方になっていたので、湖の側の小高い丘へ戻ってきた。
「いやぁー、楽しかった」
オレが離れると、ゴーレム馬は動きを止める。解体用ゴーレムは自立して行動してもらう必要があるから魔晶石が必要だが、ゴーレム馬はオレが乗るために作ったので、今のところ魔晶石は必要ない。ただ、水の上を走らせる為にはデュオホーンの魔石が必要なので、ついでにこの魔石を魔晶石化させようかと思っている。
それよりもまずは飯だな。今日はラバーフロッグの唐揚げだ。ラバーフロッグの肉を一口大に切り、塩胡椒とスパイスをまぶして揉み込み、少し置いておく。その間に昨日の残りのキャベツを千切りにしておく。というか、キャベツは千切りにして魔法庫の中に入れておけばいいんだよな。
漬け込んだラバーフロッグの肉を油で揚げている最中に、キャベツ1玉を全て千切りにしてしまっておく。切り終わる頃にちょうど揚がっていたので、皿に盛ってキャベツと一緒に食べる。
うまい、鶏肉より柔らかく肉汁が多い。だが、やはり唐揚げは醤油味が好みだ。山田さんがこの世界に来ていることから、日本人が他に来ている可能性はある。なのでもしかしたらどこかに醤油があるかもしれない。それに魚醤だったら他の国にもあった筈だ。それを使えば好みの唐揚げに近づけるかも知れない。となると、やはり食の大迷宮に行ってみたくなるな。よし、今回の件が終わったら必ずフォードへ行こう。
さて、食後の一休みが終わったら、昨日と同じ魔石の実験だ。今日は魔力に属性を込めずに魔石と魔晶石を作ってみる。昨日やってみてわかったが、最初に魔力を凝縮した後すぐに圧縮して小さい魔石を作り、そこにさらに凝縮した魔力を注ぎ込んだ方が楽みたいだ。
と言うことで、まずは自分の魔力から属性を抜いていく。イメージとしては魔力から色を抜いていく感じだろうか? すると魔力が透明な水のようにに感じられる様になったので、そこから魔力を凝縮し、魔力で圧力をかけて圧縮する。すると出来た小さい魔石が出来たのでさらに魔力を注ぎ込んで行く。そしてゴルフボール程の大きさになったところで辞める。
「ふぅ、上手く行ったか」
属性を込めないというのは意外と難しいな。とりあえず鑑定してみる
人工魔石 純
ーー人工的に作られた魔石 純属性
は? 純? 誰?
じゃねぇな。なんだ純属性って。無属性じゃないのか?
とりあえず持っている無属性の魔石を取り出してみる。鑑定すると無属性と出るのだが……
「これは、属性が入っているが偏ってないのか?」
観察してみると、ゴブリンの魔石は土水火風の属性が全て入っているようだった。
グラスボアの魔石は土と風が入っていて無属性になっているようだ。
大迷宮のオークの魔石は土と風と火が少し、フォレストウルフリーダーは土と風と闇が入っている。
つまり、属性が入っているが偏ってないのが無属性で、属性が全く入ってないのが純属性ってことか。
さて、どうするか。ゴーレム馬で遊んだ所為で昨日より魔力が少ないんだが、これは気になるな。ちょっと無理をするか。
とりあえず、作った純属性の魔石を魔晶石へとランクアップさせる。そして、その魔晶石に地属性の魔力を込めようとしたが魔力は込められず、純属性の魔力なら込めることが出来た。
ならば次は全ての属性を込めた魔晶石を作れば、どの属性の魔力でも貯められるかも、と思いやってみたが、出来たのは
人工魔晶石 全
ーー人工的に作られた魔石 基礎全属性
基礎全属性? そうだった、今込めたのは土水火風光闇の6属性で、上位属性の地氷炎雷を忘れていた。しかもまだ雷属性は使えない。それと光と闇は特殊属性じゃなかったか? 基礎属性に入るんだろうか?
まぁとりあえず魔力を込めてみるか。やってみた結果、この6属性なら魔力を込められ、魔力を取り出すことが出来た。
土属性で魔力を込めても、火属性の魔力として取り出すことも出来たので、大迷宮の魔晶石にかなり近づいた。まぁ、大迷宮の魔晶石があるから無理に作らなくてもいいんだが、気になるからついやっちまうんだよな。
結論としては全ての属性を込めて魔晶石を作れば、全ての属性で魔力を込めたり取り出したりできるということか。まぁ上位属性が使える人は、基礎属性も使えるんだから、一応全ての人が使える魔晶石を作れたということでいいだろう。
あとは雷属性が使えるようになったら、ホントの全属性が可能になるわけだから、その時にまた試してみればいいか。
今日1日でかなり魔力を使ったな。残り2割を切っている。こんなに使ったのは王宮に居た時以来か。とりあえず明日はもう少し実験して明後日には街に戻ろう。オレはベットに横になるとすぐに眠りについた。
「これは、面白いな」
オレは今、湖の上にいる。昨日のデュオホーンがやっていた魔法を真似しているところだ。足元に水を集めて密度を高くし、体の周りに風を上昇気流の様に発生させて水の上に立っている。重量軽減が自分の体にも使えれば楽だったんだが、出来ないので仕方がない。
やってみるとかなり楽しいが、これは水の上に立っているので、湖面が揺れるたびにこちらも揺れる。なので慣れないと気持ち悪くなりそうだ。
「さて、次は……」
魔法庫からゴーレム馬を取り出し、魔晶石を埋め込む。朝起きると魔力は回復していたので、デュオホーンの魔石を魔晶石にランクアップさせてみた。魔物の魔石も魔晶石に出来る事が分かったが、そうすると鑑定では人工魔晶石になってしまう事も分かった。
ただ、魔石の特徴は残るので、デュオホーンの魔晶石は防御系の魔法と相性が良いままだ。
その魔晶石をつけたゴーレム馬に乗り、湖の上へ駆け出す。デュオホーンの記憶と記録があるので、ゴーレム馬はすぐに魔法を発動、湖の上を華麗に走る。重量軽減のスキルをゴーレム馬に使っているのと、魔晶石の力もあってかなり安定している。
一通り湖上での動きを確認した後は、また魔晶石の実験へ戻る。やってみた結果、魔晶石を使った魔道具は、魔力の充填率によって性能が変わる事がわかった。
例えば地属性の魔晶石の場合、魔力充填率が0%だと魔石とほぼ同じ性能だが、充填率が100%だと数倍の威力を発揮する。ストーンピラーだと魔石の時と同じ魔力で、発動スピードは3倍、硬度も3倍、発動範囲は4倍で、持続時間も2倍になった。ここら辺は魔法を使う時に調整出来るが、今までと同じ威力で使うなら、消費魔力は3〜4分の1くらいだろうか。
ストーンバレットも威力、硬度、速さが数倍になっており、メタルバレットも前より簡単に撃てるようになった。
なので、今までの魔道具の改良と新しく思いついた魔道具の製作に丸1日使ってしまった。まぁ楽しかったからいいんだが。
そして夕方、魔力に余裕があったので、地属性の魔晶石を作っている時、気配が近づいてきた。速さ的には馬車か馬だろうか? それがこちらに向かってきている。そして、距離が1kmほどになったところで気配は止まる。そして、ひと塊りだった気配が分かれる。
気配の正体はやはり人のようだ。馬車から降りたのだろう。数は8人くらいか? それがゆっくりとこちらに近づいてくる。どうやらここからは歩いて近づいて来るようだ。とりあえず、周りにある魔道具や簡易宿泊場所は仕舞う。そして武器を構える。辺りは少しずつ暗くなってきた。
コイツらは間違いなくオレを狙っている。もしかしてあの人攫いの仲間か? だとしたら、暗くなってきたこのタイミングを狙っていたのだろう。まぁオレは夜間適応があるから暗闇でも大丈夫なんだが、向こうはそれを知らないか。
さて、どうする? 先手を打つか、それとも向こうの言い分を聞くかーーとりあえず目的を聞いておきたいな。まぁ問答無用で攻撃してくるかも知れないが、その時は返り討ちにすれば良いか。
8人はオレを囲むように広がり、包囲してくる。今までの馬鹿な人攫い達とは違うようだ。左の森に4人、右に2人、正面から2人。左の森の4人のうち、2人は左後ろへ回り込んできた。
森の中の2人は木が邪魔してよく見えないが、正面の2人はよく見える。そのうち1人はどこかで見た顔だな。悪人ヅラで少し腹は出ているがガタイはいい。どこで見た? 盗賊のところか? そいつを思い出す前に、左の森から光の魔法が放たれる。ライトの魔法か!? と、同時に悪人ヅラの男が叫ぶ。
「お前は既に包囲されている! 抵抗せずに大人しくしろ!」
お読みいただきありがとうございます。




