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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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討伐と捜索

 さて、行くか。オレは周りの気配を調べながら外へ出る。日は登っているが少し肌寒いな。よく考えれば、雪山の装備を何も用意していなかった。


 今から1時間もあれば作れるか? まぁ、とりあえずやってみよう。オレはハリケーンイーグルの魔石とヒートリザードの魔石を使い魔道具を作る。出力を下げる為に魔石は小さくしておく。形はペンダントの方が使いやすいだろう。そういえば、光と闇の魔石を使ったペンダントは最近使ってなかったな。とりあえず、仕舞っておくか。オレは光と闇の魔道具を仕舞い、風と熱の魔道具をつける。


 んー、『光も闇の魔道具』とか、『風と熱の魔道具』だと呼びづらいな。そのうち何が名前を付けるか。

 とりあえずできた魔道具の実験をする。魔道具に少し魔力を込めると魔道具から暖かい風が出て、服の中を満たしていく。そして、首や袖口から風が出てくる。これならかなり良いな。欠点としては、もっと暖かくしようと魔力を強くすると、風も強くなってしまうというところか。後で改善しておこう。

 さて、朝食を食べたら行くか。


 雪山に入るとスノウウルフが出てくる。この辺はまだ雪が少ないから、スノウウルフは目立つ。だが、出てきたのは1匹のようだ。偵察か? まぁいいか。オレはストーンピラーを使い一気に近づき、顎を蹴る。そして魔石をナイフで切抉り取り、その傷口にブラッドナイフを突き刺す。ウルフはすぐに動かなくなり、30秒ほどで血抜きが終わったのか、ナイフがひとりでに抜け落ちる。分かりやすいな。とりあえず魔法庫の中へ入れておくか。


 その後、気配のする方向へ向かって歩いていくと、かなり雪が深くなってきた。何か雪の上で動きやすくなるものを持って来ればよかったか、スキーとか。とりあえず行けるところまで行ってみるか。


 幸いさっき作った魔道具のお陰で寒さは無い。だが、流石に膝ぐらいまで雪が積もっていると動き辛い。この辺に魔物の気配がするんだがーーあたりをよく見渡してみると、雪の中に青白い光が見える。これはーー魔力か?


 なるほど、保護色で白くて見えないから、魔力だけが見えているということか。という事は、そこにスノウウルフが居るという事だ。数は、6匹。この足場の悪い中でどう戦うか……。


 とりあえずいつもと同じように戦ってみる。1番近くのスノウウルフへ、ストーンピラーで近づき蹴り上げ魔石を抉り取る。血抜きは後回しで魔法庫へ。すぐに2匹が近づいて来たので、同時にストーンピラーで顎を打ち魔石を抉り取り魔法庫へ。この流れでもう2匹も倒し戦闘終了。


 ただ、雪が積もっている分、ストーンピラーが使いづらかったな。ストーンピラーは地面から石の柱を出すので、地面と距離があると発動が遅くなり、魔力も多く消費する。まだ足元は地面との距離が短いから良いが、これが1mの雪の上でスキーを履いた状態で使うとなると、かなり大変だ。何かほかの方法を考えておいた方が良さそうだ。


 さて、これで依頼の数は達成出来た。あとはどうするか……。まだ、期日までは日数があるし、せっかくだからこの辺を探索してみるか。他の魔物もいるかもしれないしな。


 その後、昼食をとって雪山を探索してみるが、出てくるのはスノウウルフばかりだ。5羽ほどアイスバードという、羽が透き通っている体長1mほどの鳥を倒したが、それ以外はスノウウルフだ。数は30を超えてから数えていない。この辺はスノウウルフの縄張りだったりするんだろうか?


 まぁ、いいか。討伐はもう十分なので、スノウウルフの解体をする。とりあえず5匹でいいか。そういえば、スノウウルフの肉は美味いんだろうか? ヒートリザードのように肉に特徴があるのか? 鑑定してみると、


 スノウウルフの肉

 ーー冷めても美味しい肉


 冷めても美味しい肉? どういうことだ? 冷めても柔らかく食べられるのか、それとも冷めてもジューシーなままなのか。これだけじゃわからないな。しょうがない、せっかくだから近くの町で肉の情報や調理法を手に入れてくるか。


 町に着く頃にはもう夕暮れだった。さて、どこで情報を仕入れるか。とりあえずは冒険者ギルドか。確か肉を買い取ってくれるって、受付で言っていたっけ。ギルドへ入ると少し慌ただしい様子だ。何かあったのか?まぁいいか。


 オレは買取カウンターへ行き、受付の男にギルドカードを見せてスノウウルフの肉を出す。


「買い取ってくれないか?」

「おお、スノウウルフか。これなら金貨4枚だな」

「あぁ、わかった。ちなみにこの肉はなんか美味い調理法ってあるのか?」

「そうだな、この肉は冷めても柔らかくジューシーだから、遠出をするときに焼いてパンに挟んで持っていくといいな。あとは冷たいスープなんかにもいいぞ」

「そうか、ありがとう」


 オレは金貨を受け取り、男に礼を言って帰ろうとする。が、


「ところであんた、見かけない顔だな?他所の町を拠点にしてる冒険者か?」

「あぁそうだか?」

「スノウウルフは手強かったか?」

「ん? いや、大して強いとおもわなかったが?」

「そうか、ちょっと待っててくれないか?」


 男はそう言って、「ギルマスー!」と、中へ声をかける。そして、やってきた男と話をする。


「あんたはスノウウルフを楽に討伐出来るんだってな」

「雪が深くなってたら難しいが、そうでなければそれほど苦ではないな」

「そうか、ならちょっと依頼を受けてくれないか?」

「依頼? オレは今、ビネスで依頼を受けてるんだが、複数の依頼を受けることって出来るのか?」

「なに? そうか、基本的には複数の依頼を同時に受けることは出来ないな。だが、ギルドからの特殊依頼なら可能だ。受けてもらえないか?」

「依頼の内容による。どういった依頼なんだ?」

「あぁ、実はな……」


 話によると、この町を拠点にしている冒険者パーティーが、スノウウルフの討伐に行ったっきり帰ってこないらしい。そのパーティーは女性4人組で、昨日討伐に向かったきり帰ってこないそうだ。


「って、昨日かよ!? 冒険者なんだから野営の1泊や2泊するだろう?」

「そんなことはない! あの子は今まで一度も門限を破ったことが無いんだ。だからきっと何かあったな違いない!」

「あの子って、自分の娘か?」

「あぁそうだ。こんなことなら冒険者になんてさせなければ良かった……」


 なんか、急に緊張感が無くなったな。特殊依頼っていうくらいだから、どんな特殊な内容かと思ったら、冒険者の捜索か……。


「ていうか、アンタはギルマスなんだろ? この町の冒険者に依頼を出せばいいんじゃないのか?」


 オレはギルド内にいる冒険者達をみる。すると、皆一斉に目を逸らす。


「オイ!?」

「いや、この町は大きくないからな。冒険者の質はそこまで高くないんだ。スノウウルフなら1匹2匹なら相手にできるが、それ以上に対処できるやつは、ウチには……」


 情けないな、これが冒険者の現状なのか? まぁ確かにスノウウルフは、雪の中で複数に囲まれたら厄介だし、それに近くにビネスがあるから、稼げるやつはそっちの方へ行っちまうんだろうな。


 さて、どうするか……。別にオレにとってメリットが無いんだよな。出来れば他人と関わるのは最小限にしたいんだがーーギルマスが本当に心配している顔をしているので、断りづらい。


「はぁ。で? 依頼料はいくらなんだ?」

「おお、受けてくれるのか! ありがとう」


 そう言ってギルマスはオレを依頼受付カウンターへ引っ張っていく。


「おい、特殊依頼だ。内容は冒険者パーティーの捜索」


 ギルマスが受付の女性にそう言うと、


「えっ? 今からですか? もう夕暮れで、もう少ししたら門も閉まりますよ?」

「うっ、そうか。それなら明日……、だが娘に何かあったら……」


 なんか悩みだした。


「ていうか、もう手遅れの可能性もあるんじゃないのか?」


 よく考えたら、この町の冒険者は強くないって話だし、町を出たのが昨日ってことは1日半は経つわけだ。場所はスノウウルフがいる足元の悪い雪山だし、可能性は高いよな?

 オレがそう言うと、


「ジ、ジュリーーーー!」


 ギルマスは青い顔をして、叫んで突っ伏してしまった。ジュリーってのが娘の名前か。ギルマスじゃ話にはならないので、受付の女性と話をする。


「で、特殊依頼だが、今からで構わない。依頼の詳しい内容と報酬はどうなる?」

「あっ、はい、わかりました。依頼内容は冒険者パーティー『レディ・ジャスティス』のメンバーの捜索。リーダーはギルマスの娘さんのジュリーさん。このパーティーが最初に向かった場所は、地図でいうとこの辺りです」

「オレが行ってた場所とちょうど反対側か」

「報酬は基本金貨5枚、もう夕暮れですので緊急依頼でさらに5枚、あとは無事に見つけられたら金貨10枚になります。見つけるのは本人だけでなく、遺品でも大丈夫です」

「オイ! まだ死んだとは限らないだろ!」


 ギルマスが騒いでいるが、相手にすると時間が勿体無いからスルーだ。


「なるほど。あと期間は?」

「この場合は、長くても3日でしょうか? 雪山ですからそれ以上になりますと、捜索者の負担が増えますので」

「わかった」

「それではギルドカードをお願いします」


 オレはギルドカードを受付の女性に出す。


「銀ランクのヨシキさん……、そして、その全身黒い格好……。あのもしかして噂の黒猫本人ですか?」

「うわさ? あーっと、確かに黒猫ってあだ名はつけられたが……」

「あの、ビネスの街で金ランクの冒険者を瞬殺したとか……」

「いや、殺してない。一応生かしておいた」


 なんだ、その噂は。もしかしてあの馬鹿、あのあと死んだのか? だからオレが殺したことになってるんだろうか。それに、黒猫って名前が出た途端、周りの冒険者たちがザワザワしだした。


「つーか、なんでそんなこと知ってるんだ?」

「あ、はい、ビネスから来た冒険者が、そういう噂をしていかれましたので。とても速くて強かったと」

「……ちなみにこういう事ってよくあるのか?」

「はい、特に強い冒険者や、なにか新しい発見をした冒険者の噂はすぐに広まります。冒険者の中には、色々な町を渡り歩いている方もいらっしゃいますから」

「なるほど、為になった。それじゃあ、行ってくる」

「はい、お気をつけて」


 オレが出て行こうとすると、


「黒猫!ウチの娘を頼むぞ!」


 ギルマスに肩を掴まれ、目の前で叫ばれた。すると横から、


  「あ、あの、もしジュリーが見つかったら、デップが心配してるって伝えてもらえませんか?」

「あ゛!? オイ若造!ウチの娘に手ェ出す気か?」

「い、いえ、そういうわけでは……」


 なんか知らんが、ギルマスが気の弱そうな冒険者に絡み始めた。


「そんなに心配だったら、2人とも捜索に行けばいいだろ?」

「え?いや、自分は、その……」

「あー、俺はちょっと昔の古傷が痛んでな……」


 使えねぇ……。しょうがない、取り敢えず急いで行くか。もし日帰りの予定だったなら、保存食等を用意してないかもしれない。オレはすぐに町を出て、夕暮れの中雪山へと戻って行った。


「はぁ、この性格もなんとかしなくちゃな……」


 オレは雪山に向かいながら独りごちる。困っている人がいるとついつい助けてしまう。それで騙されて散々痛い目にあったりしているのに。まぁ、若い頃よりは大分マシになってるとは思うし、嘘をついたり利用しようとしている人間は、なんとなくわかるようになっているんだが……。




「さて、この辺りか」


 オレは冒険者パーティーが向かったという場所についた。あたりは真っ暗になっているが、魔霧の渓谷で夜に活動した時に適応していたので、よく見える。ここは意外と拓けている場所で雪は脛あたりまで積もっている。連携を取って戦うならこのぐらいの方が戦いやすいだろうな。


「っと、そんなことより早く探さないとな」


 オレは辺りの気配を調べてみる。人の気配はしない。まぁ、この辺りに居るんだったら自力で町まで戻ってこれるか。オレはもう少し奥へ行く。


 雪が深くなりかなり歩きづらくなってきたので、オレは木の枝の上を跳んで進むことにした。2時間程探し回った頃、スノウウルフの気配が一箇所に纏まっている場所を感じ取った。これは、最悪食われている可能性もあるか。オレはその場所に急いで向かう。


 近づいてわかったが、スノウウルフがまとまっている場所に、人の気配が1つあった。が、そんなに強く無い。これはマズイか? 更にスピードを上げてその場所へと向かう。

 だがその場所に着く頃には、人の気配は強くなっていた。


 どういうことだ? 木の上から辺りを調べてみると、スノウウルフが10匹いて、一箇所を向いている。その方向には洞窟があり、そこに人の気配がある。そして、その奥に更に3つの弱い人の気配があった。成る程、洞窟に隠れていたから気配が弱かったのか。


 さて、取り敢えずスノウウルフを倒さないと話は出来なさそうだな。今のところ、スノウウルフはオレには気づいて無いようだ。と、考えていると1匹が洞窟へ走っていく。洞窟の中へ入ったスノウウルフは追い返され、すぐに出てくる。


 雪の中だとスノウウルフは見つけられないから、洞窟の中へ誘い込んで撃退してるのか? それとも、雪の影響や複数に囲まれるのを警戒しているのか。まぁ、いいか。オレはストーンバレットの魔法を使う。数は10、大きさは親指程、狙うのはスノウウルフの頭。スノウウルフの動きを読み、そして同時に撃つ!


 自分で言うのもなんだが、見事にすべて命中した。スノウウルフは「ギャン!」と言う声を上げて全て生き絶える。さて行くか。オレはスノウウルフを回収しながら、洞窟へ近づく。すると、ボロボロの毛皮を着た人が洞窟の入り口から姿を現わす。が、剣を構えこちらを警戒しているようだ。そりゃそうか。取り敢えず話しかけてみる。


「あんた、名前はなんだ?」

「貴様に名乗る名前などない!」


 いきなり拒絶された。しかし、声の感じから女のようだ。


「質問を変える。あんたは『レディ・ジャスティス』のメンバーか?」


 オレがそう言うと、女は動揺したのか少し沈黙し、そして口を開く。


「貴様は人攫いの仲間じゃないのか?」

「人攫い? 生憎、オレは町のギルマスから依頼を受けて『レディ・ジャスティス』の捜索に来ただけだ」

「本当か? なにか証明出来るものはあるか?」


 証明出来るもの……無いな。さて、どうするか。取り敢えず冒険者だという事は証明しておくか。


「依頼を証明するものはないが、冒険者だという事なら証明出来る」


 オレはそう言って、自分のギルドカードを女に投げ渡す。女はそれを剣を持ったまま片手でキャッチし、内容を確認する。


「銀ランク、ヨシキ、そしてその格好……もしかしてアンタ、黒猫か?」


 オレの呼び方が貴様からアンタに変わった。そしてホントに黒猫って名前、広まってるんだな。もう、それで良いか。


「あぁそうだ。それで信用してもらえるか?」


 女はしばらく考え込み、そして頷く。


「わかった、取り敢えず信用しよう。奥に仲間がいるから見てやってくれないか? 私はここを動けないからな」

「ん? どうしてだ? スノウウルフは倒したし、入り口を狭くすれば警戒は最小限で良いだろ?」

「生憎、ウチのメンバーに地属性が得意なやつは居ない。土属性なら使えるんだがな」

「そうか、ならオレがやっておく。アンタもかなり疲弊してるだろ?」


 オレはそう言って洞窟の入り口を狭くしていく。完全には塞がず、猫が通れるくらいの穴をいくつか開けておく。


「じゃあ行くか」

「あ、あぁ……」


 ギルドカードを返してもらい、洞窟の奥へ向かう。洞窟の中は薄っすらと明るくなっている。どうやら光の魔道具を使っているみたいだ。奥へ行くと、同じようにボロボロの毛皮を着た人が3人いた。かなり疲弊してるみたいで、地面に横になっている。


「おい、アンタら大丈夫か?」


 オレが声をかけると、3人は慌てて起きてこちらを警戒してくる。


「あぁ、この人なら多分大丈夫だ。ギルドの依頼で私たちの捜索に来てくれたらしい」

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

「あぁ、この人は噂の黒猫らしい」

「えっ、あの噂の?」

「そう、あの噂の黒猫だ」

「どんな噂だよ……」


 噂の一人歩きって、こういう事をいうのか?そう思っていると、律儀に質問に答えてきた。


「金ランクを瞬殺したとか」

「殺してねぇ」

「ストーンピラーを攻撃に使っているとか」

「それは……事実だな」

「早くて強い、とか」

「まぁ、そこそこだろ?」


 あの馬鹿を殺した事以外は事実だな。思った以上にこじれてなくて良かった。


「まぁそれはともかく、アンタら体調は大丈夫か?」


 オレが言うと、


「私たちは怪我は大丈夫。多分ジュリーちゃんが一番酷いと思う」


 そう言って、入り口にいた女の方を見る。この女がジュリーか。


「じゃあ、アンタがギルマスの娘か」

「あぁ、そうだ。まったく、親父はいつまでたっても娘離れが出来ないんだが、今回はそれで助かった」

「そうか、ポーションの類はあるか?」

「いや、全部使い切ってしまった」

「そうか、じゃあ使ってくれ」


 オレはポーションの瓶を4つ渡す。


「良いのか? こんなに」

「あぁ、高いもんじゃ無いし、アンタらを町まで連れ戻すのが依頼だからな」

「そうか、恩に着る」


 そう言ってジュリーは毛皮と鎧を脱ぎ、一本は飲み、もう一本は怪我に塗っていく。と、突然「ぎゅるるるる〜」と言う音が洞窟内に響き渡った。


「あ、あのぉ〜、何か食料を分けてもらえませんか?」


 斥候風の女の子が言ってきた。


「そうだな、せっかくスノウウルフの肉があるんだから、食うか」

「やった! あ、でも洞窟内だと火が起こせないか」


 確かに洞窟内で火を起こすと、一酸化炭素中毒を起こす可能性があるか。まぁでも、その為に魔道具があるからな。


「大丈夫だ。そういや、入り口にいたスノウウルフの分配はどうする? オレが勝手に倒しちまったが」

「いや、そっちで貰ってくれ。助けて貰ったのに、寄越せとは流石に言えないから」


 オレの言葉に、ジュリーはそう返してくれる。ならお返しに飯を作るか。


 まず、スノウウルフを解体する。魔石を取りブラッドナイフを刺す。ナイフが抜けたら毛皮を剥ぎ肉を取り出す。そして鍋に水を入れ魔力を込め加熱する。そこに小さく刻んだスノウウルフの肉を入れ、保存食の乾燥野菜を入れる。


 鍋で煮込んでいる間に、スノウウルフの肉を大きめに切り、塩胡椒をしてフライパンで焼いていく。食器はーー取り敢えず盗賊の所にあったやつでいいか。人数分出して洗浄の魔道具で洗い、肉を乗せスープもよそう。そして保存食のパンをみんなに配り、準備完了だ。


「んじゃ食うか」


 オレがそう言って皆を見ると、何故か呆気に取られている。


「どうした?」

「いや、いまのスノウウルフ、それに魔道具や食器も何処から……」

「……魔力庫だ」

「解体も早過ぎるし……」

「……慣れだ」

「調理の手際が良すぎて……」

「……これも慣れだ」

「見たことない魔道具が……」

「……趣味だ」


 取り敢えず、簡潔に答えていく。しまった、自重し忘れた。特に魔道具は自分で作ったから、市販されたものとは違うんだよな。忘れてた。取り敢えず話を逸らすか。


「早く食わないと、冷めるぞ」


 オレがそう言うと、みんな慌てて食べ始める。


「お、美味しいよ〜」

「2日ぶりのまともな食事だー」

「ふぅ、あったかいわ」

「すまないな、黒猫さん。助けて貰ったばかりか、こんなに美味い食事まで……」

「気にするな、オレが食いたくてやっただけだ」


 ジュリーは呼び方が黒猫から黒猫さんに変わった。少し緊張は解けたか。やっぱり寒い時は暖かい食事だな。みんな夢中になって食べている。そして、あっという間に平らげる。食後はみんな幸せそうな顔をして横になっている。が、休む前に確認しないといけない事がある。


「休んでるとこ悪いが、人攫いが出たのは間違いないんだな?」


 オレがそう言うと、皆ハッとなって起き上がる。そして、ジュリーが口を開く。


「あぁ、恐らく間違いない。3人は高く売れるだのヤリ甲斐があるとか言われていたし、私は別口で用があると言われたしな」

「それじゃ、ただの盗賊とは違うみたいだな」

「まぁ私が個人的に恨みを買ってる可能性もあるが」

「恨み?」

「……私は親父の権力を使っていろいろやった事があるからな」


 ジュリーが自嘲気味にそう言うと、


「そんなこと無いです!ジュリーさんが居なかったら、私たちは酷い目にあってたかもしれないんですよ!?」

「そうです、リーダーが助けてくれたから今の私がいるんです」

「そうね、ジュリーちゃんが頑張ってたから、私も力になりたいって思ったんだから」


 話を聞いてみると、ジュリーは小さい頃から冒険者ギルドに遊びに行っていたらしい。そして、女性の冒険者が虐げられたり、軽く見られたり、襲われたりしているのを見たり聞いたりしているうちに、なんとかしてあげたいと思うようになり、父親の権力や人脈を使っていろいろしていたらしい。


 もちろん反感も買ったしボロボロにされた事もあるそうだ。だから自分も冒険者になって強くなり、そう言う被害を減らそうと頑張っているんだとか。


 今のパーティーも、そんな中で助けて仲間に加わって来たそうだ。中には冒険者を辞めていく娘もいたらしいが。


「だから、私が恨みを買っていて、みんなに迷惑を掛けた可能性もある。すまない」


 そう言って、メンバーに頭を下げる。


「何言ってるの? 私たちがいつも助けて貰ってるのに。私たちはジュリーちゃんに迷惑をかけられたなんて思ってないし、むしろ大変な時は力になりたいって思ってるくらいなんだから。ねぇ?」


 1人がそう言うと、残りの2人も頷く。なかなかいいパーティーだな。


「ありがとう。でも、もっと警戒していればこんなことにならなかったと思うんだ」


 どうやら今回は、直接依頼を受けたらしい。この町で1番信用できるパーティーだからと言われて、他所の町の女性からスノウウルフの毛皮の依頼を受けたそうだ。

 自分たちの事が信用され、直接依頼してもらえた事に舞い上がってしまった。だからしっかりと相手の素性を調べもせず、ギルドに直接依頼を受けた事を報告だけして、雪山へ向かったらしい。


 そうしたら人攫いに囲まれてしまい、必死で逃げている最中にスノウウルフの群れに当たり、この洞窟に逃げ込んだそうだ。運が良かったのは、人攫い達もスノウウルフに襲われて、逃げ出した事だろう。そこからさっきまで、交代で休みながら、スノウウルフを牽制していたらしい。


「よく2日ももったな」

「ジュリーさんが頑張ってくれたから」

「リーダーが1番強いからって、一人で受け持ってくれて……。私たちは2人ずつローテーションを組んで戦ったから」


 そうか、なら急いで来て正解だったな。食料も無い状況では持たなかっただろうし、仮にうまく逃げたとしても人攫いがどこかにいるかもしれないからな。


「じゃあ入り口はオレが見張っているから、今日はゆっくり休んでくれ。明日、日が昇ったら町へ向かおう」

「良いのか?」

「あぁ、ていうかこの中で今一番動けるのはオレだ。 それに男がいると、安心して休めないだろ?」

「……わかった、心遣い感謝する」


 オレが入り口に向かって歩いていると、すぐに寝息が聞こえてきた。かなり無理をしていたみたいだな。当然か。気を抜いたら死ぬかもしれないような状況だったんだから。


「さて、わかるかどうか」


 オレは入口に着くと、開けた穴から外の気配を感じ取る。洞窟の中だと気配がかなり弱くなるが、入り口辺りならきっと……。目を閉じて意識を集中する。


「いた!」


 人の気配を察知できた。恐らく人攫いだろう。だが、距離はかなりあるし、方向もオレが来たのとかなりズレてる。これなら明日は大丈夫だろう。


 一安心したオレは、洞窟の中と外、両方の気配を意識しながら朝を待った。



お読みいただきありがとうございます。

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