商業ギルドとゴーレム実験
……さて、どうする? 魔法庫が使えると知られると、目立つと思ったから黙っていたが、この場合はどう答えたらいいんだ?周りでは『ゼット』のメンバーが驚いた顔をしてこっちを見ているが。
…………
「できれば、黙っていてくれ」
オレは結局そう答えた。
「わかりました。まぁ、冒険者が自分の能力について人に知られないようにする事は良くありますので。こちらこそ、迂闊な発言をして申し訳ありません」
よかった、誠実な人そうだ。『ゼット』のメンバーも了承してくれた。
「では、ボス部屋での連戦については、他の冒険者にも依頼をして確認してみます」
「わかりました、お願いします」
ザインが返事をする。確かにオレたちの証言だけで決めつける事は出来ないか。
「それと、1層の魔方陣についてですが……。実はこういう事は稀にあるんです。神の問いかけの答えは商業ギルドで売ってはいるんですが、それは最低限商人のジョブを手に入れる為のものなんです」
「最低限?」
「はい、それは商売でその答えを買えるだけの収入を得ているという事、そして冒険者を雇うことができ、1層の奥まで来られる勇気がある事。これらの事が出来てギリギリ商人として認められるということですね」
「最初の収入はともかく、冒険者と勇気は商人に必要なのか?」
「はい。冒険者を雇うにも人を見なければなりません。すぐに逃げたり、逆に商人を襲うような冒険者ではいけませんから、人を見る目と冒険者との信頼関係を築ける力が必要になります。また、商売は時には勇気が必要です。あるものが売れるのか売れないのか、しっかり情報を集めて、そして行動に移さなければ利益は出ません。情報だけ集めて何もしなければ、利益は出ませんから。なので、ここぞという時に行動出来る勇気がなければ商人としてやっていくのは難しいでしょう」
なるほど、確かにそうか。それに盗賊や魔物のいるこの世界じゃ、仕入れに行くのにも冒険者や傭兵が必要だし、勇気や度胸も必要か。
「ですが偶にそれを知らずに行って、自分の答えを言い、ジョブとスキルをもらう人もいるんです。ただこの場合、自分で見つけた答えでなければ、すぐに神様に見破られてしまいます。場合によってはスキルやジョブを何も貰えないこともありますので、黒猫さんも今回の答えを、なるべく人に言わないでおいて下さい」
「えーと、つまりギルドで買った答えか、自分で見つけた答え以外だとジョブもスキルも貰えない可能性があるから、人には言うなって事で良いんだよな?」
「はい、その通りです。まぁ、ジョブも頑張れば自力で取れますから、そこまで厳しく取り締まってるわけじゃないですけどね」
まぁ、誰にも言わなきゃ良いんだから問題はないか。
「それじゃ、帰るか」
オレがそう言うと『ゼット』のメンバーも立ち上がるが、
「あの、これ売りませんか?」
そう言ったラースさんが持っているのは、オレがさっき見せたアイテムバッグ(2/5)だった。
「いや、アイテムバッグってかなり高く売れるんだな」
オレが売ったアイテムバッグは金貨200枚になった。レベル2でこの値段ならレベル5のバッグはいくらになるんだ?
「つーか、アンタ魔法庫も使えたのかよ?」
「正確には魔法庫しか使えないって感じだな。魔力庫ってどう使うんだ?」
ザインの質問に答え、逆にエゾに質問する。
「魔力庫の使い方? 俺は地属性だから、魔力で石の倉庫のような物を作るイメージをしたら出来たな。魔法庫はどうやったんだ?」
「オレは魔力を風船みたいにイメージして、それがこの世界ではない所で膨らんでいくような感じで使えるようになったな」
「この世界ではない所?」
「異次元? もしくは亜空間といったら良いか」
「わかんねぇな」
上手く伝わらなかったか。まぁ、仕方がない。異次元とか亜空間とか言っても普通はピンと来ないだろうしな。
そんな雑談をしながらセイブンさんの店へ向かう。あたりはもう夕暮れになっている。店へ着くとロンソーさんが出迎えてくれた。
「ヨシキさん、おかえりなさい。『ゼット』の皆さんもお元気そうで」
「あぁ、ただいま。また泊めてもらいたいんだが大丈夫か?」
ただいまというところで少し照れてしまった。ただいまなんて言葉を使うのはいつぶりだろうか?
「ええ、構いませんよ。『ゼット』の皆さんもお泊りになられますか?」
「え? 俺たちも良いのか?」
「大丈夫だと思いますよ? 一応父に確認してみますね」
そう言ってロンソーさんは奥へと下がっていった。しばらくして、
「おお、おかえりなさい、ヨシキ殿。成果はどうでしたかな?」
「あぁ、最初にしては上出来だったな」
「上出来どころじゃないだろ?普通はあそこまでレアなアイテムは出ないぞ?」
オレが返事をすると、ザインに呆れられてしまった。
「そうですか。では、夕食の時まで楽しみは取っておきますか。『ゼット』の皆さんも、うちでゆっくりしていって下さい」
「ありがとうございます」
セイブンさんの言葉に『ゼット』のメンバーが頭を下げる。
「そうだ、いい肉が手に入ったから夕食の時に使って欲しいんだが、大丈夫か?」
「本当ですか?わかりました、すぐに使いのものを行かせます」
そう言ってセイブンさんは使いの人を自宅へと走らせた。
その後、店じまいを終えたセイブンさん、ロンソーさんと共に邸宅にお邪魔する。玄関ではミリィが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
「あぁ、ただいま、ミリィ」
頭を撫でると嬉しそうな顔をしてくれる。おっと、先に肉を渡しておかないと。
「セイブンさん、これがさっき言ってた肉だ」
「これは! 黒牛ですか!?」
「あぁ、ボスからドロップしたんだ。『ゼット』もこれが食べたくて付いてきたぐらいだから、美味いはずだ」
「ありがとうございます」
夕食はやはり、黒牛のステーキだ。やはり言ってた通りに美味い。ヒートサラマンダーが熱に強くしっかりした食べ応えなのに対して、こちらは口の中で溶けていくような食感で肉を食べている気がしない。肉汁も脂の旨味も強く、味だけで言ったらヒートリザード以上だ。
「これは、ヤバイ……」
「これが黒牛……」
「こんなの初めてだわ」
「美味しいよ〜」
『ゼット』のメンバーが驚きで止まっている。セイブンさん一家も驚きながら、食事をしている。
「これは!今まで食べた黒牛よりも断然上だ」
「あの肉の塊だと、金貨50枚はいくんじゃないか?」
「ふぁ〜、美味しい」
「あら、とても食べやすくて美味しいわ」
今、金貨50枚って聞こえたな。ヒートリザードが金貨4枚くらいだったか? その10倍以上か……。
「あの、ヨシキさん? ホントに頂いて良かったんですか?」
「ん?あぁ、いつも世話になってるしな」
「いや、私たちは命を助けられてるんですよ? これ、本当に恩返しになってるんでしょうか……」
それから、余った肉はどうするかの話になった。
「もしよければ、またギルドに流しましょうか?」
「そうだな……」
オレは『ゼット』のメンバーをチラッと見て、
「いや、余ったんなら5kgぐらい返してもらえるか?オレもこの味を気に入っちまったから」
「ですが、魔力庫だと1日で駄目になりますよ?」
「あぁ、実はな……」
オレは魔法庫の事を話し、なるべく秘密にしておいて欲しいとお願いしておいた。『ゼット』にも知られてしまったし、この人たちなら信用できるから、言いふらされなければ知られても大丈夫だろうと思ったからだ。
「わかりました、絶対に言いません」
「私もお約束します」
そして、それなら肉は全てお返ししますと言われ、残り15kgが帰ってきた。その後は大迷宮の話で盛り上がった。
オレが商人のジョブと、鑑定のスキルを手に入れたと言ったら、商業ギルドに登録したらどうかと言われた。また、ボス戦が連続であり、アイテムバッグが手に入った事を言うと見せて欲しいと言われ、ゴーレム粘土を手に入れた事を言うと、使い方を商業ギルドで買えることを教えてもらった。
最後に明日の予定を聞かれたので、オレは試したいことがあるので、数日遠出をすると言っておいた。『ゼット』は何か依頼を受けて、大迷宮をまた1層から攻略してみるらしい。オレが低層でレアアイテムを手に入れたから、自分たちもやってみるそうだ。
そういえば、オレもまた依頼を受けなきゃ大迷宮に入れないんだったな。遠出をするついでに、何か丁度いい依頼を探してみるか。
翌朝、『ゼット』は冒険者ギルドへ行き、オレはロンソーさんに商業ギルドに連れて行ってもらった。なんでも、冒険者と商人を兼業することは可能だそうで、登録すれば手に入れた素材を自分で売ってもいいそうだ。また、商業ギルドの持っている情報を手に入れるには、ギルドに登録するか、噂話で聞くかしかないので、登録した方が確実らしい。
商業ギルドに着き、早速登録カウンターへ。
「では、こちらの魔石2つに魔力を通してください」
オレは、目の前にある2つの魔石に魔力を通していく。すると、魔石は両方とも青く光る。
「はい、大丈夫ですね」
「あの、これは?」
「こちらは鑑定石になります。向かって左側が商売のスキル、右側が商人のジョブに対応してます。スキルやジョブがあれば青く光り、なければ赤く光ります
今回は両方とも青く光ったので、商売のスキルと商人のジョブ共に持っていると確認できました」
鑑定石? そんなものがあるのか。なるほど、これなら嘘をついて登録は出来ないな。その後、身分証を何か持ってないかをきかれ、冒険者ギルドのギルドカードを出す。すると、その鑑定石に繋がった金属板の上にカードを置く。しばらくするとカードが光り、それが収まるとカードを返してくれた。見ると、カードに記載されている情報が増えている。そういえば、カードを貰ってからあまり確認してなかったな。
「これで登録は終了致しました。商売をする際は、事前にその街の商業ギルドに申請をしなければいけませんのでご注意下さい。申請がなく商売をした場合、罰金が発生する恐れがあります」
なるほど、なにかを売るときは事前に言わなきゃいけないのか。その後も説明は続く。
「商人にもランクがあり、冒険者と同じ黒、銀、金、ミスリル、セヴィールとなっています。そして、ギルドに貢献していただいている方はランクが上がっていきます。具体的には、ギルドとたくさん売買してくれる方、多く税金を納めてくれる方、そしてギルドに有益な行動を取ってくれる方がランクが上がっていきます。もし高ランクを目指されるのでしたらご活用下さい」
カードを見ると、『冒険者ギルドランク 銀』の下に商業ギルドランクがあるのだが、
「この、『商業ギルドランク黒』の予告にある金貨0枚っていうのは?」
「こちらは商業ギルドに預けてあるお金の金額になります。商業ギルドで預けたり下ろしたりできるのと、ギルドと直接取引する場合に使うことが出来ます。初回お預け時と銀ランク以上でしたら手数料がかからなくなります」
つまりギルドから買ったり、逆に売ったりする時に金貨を使わずにカードで取引出来るということか。
その後、税金についても確認してカウンターを後にする。
税金は各ランクごとに最低金額が決まっていて、ひと月あたり黒が金貨1枚、銀が金貨5枚、金が金貨10枚……と上がっていく。
そして、それ以外に利益によって納税するそうだ。金額は利益の10%でそれは自己申告らしいが、納税が少ないとギルドや国から監査が入り、場合によってはギルド資格剥奪になることもあるようだ。
逆にランクを上げる為に多く納税して、生活が立ち行かなくなる人もいるらしい。他にも適当に商売をして、売り上げや利益がわからなくなる人もいるそうなので、きちんと帳簿をつける癖をつけたほうが良いとロンソーさんに教えてもらった。
その後は、ゴーレムについて情報を買い、ギルドを後にする。そこでロンソーさんと別れて今度は冒険者ギルドへ。そこで、2〜3日かけてもいい依頼を探すが、よくわからない。受付が空いていたので聞いてみると、特になにも書かれていなければ、だいたい1週間以内だったらいいそうだ。討伐場所が遠いと、移動だけで1日以上かかる場合があるからだそうだ。逆に期限が書かれている依頼は1日でも遅れると依頼失敗扱いになるので注意が必要だと言われた。
ということで、適当な依頼を探す。またヒートリザードがいれば受けようかと思ったんだが、今回は無かった。前回倒し過ぎただろうか?まだ奥の方には居たと思うんだが……。それとも、ほかの冒険者が討伐したのか?
とりあえず気になったのは、『スノウウルフの毛皮5匹分』という依頼だ。金額は金貨15枚。1匹あたり金貨3枚か。前回ヒートリザードを倒した街道を進むこと馬車で2日。そこはかなり標高が高く、雪が積もっているらしい。そこに出るウルフは雪山に適応していて、真っ白な毛皮と氷の魔石を持っているらしい。ということで、この依頼にする。
さっき話を聞いた受付へ行くと、この依頼は遠いので10日以内なら大丈夫とのこと。そして依頼は毛皮だけなので、魔石は別料金で買い取ってくれるそうだ。また、肉も近くの町の冒険者ギルドへ持っていけば買い取ってくれると教えてもらった。
依頼を受けた後は、魔道具屋へ寄って記憶石と記録石を買う。レベルが2/5なのがあったのでそれを2個ずつ計4個買い金貨8枚。そんなに高くないんだな、この2つは。
そして、街を出てこのヒートリザードのいた街道沿いの岩山へ。少し奥の方まで入るが、周りには人も魔物も居ないようだ。もう少し奥の方に魔物の気配がするので、多分それがヒートリザードだろう。前来た時より気配が少ないので、誰かが討伐したか場所を移動したんだろう。今日はここで一泊する予定だ。
では、始めるか。まずはゴーレムを作る。ゴーレム粘土を出し、足りない分はゴーレム粘土の壺に魔力を込めて生み出す。そして、人間の形にしていく。サイズはオレと同じだ。今朝買った情報によると、作るゴーレムは作った人の動きを真似するので、同じサイズの方がスムーズにいくらしい。手足や胴体のバランスが同じになるようにすれば、サイズが小さくてもなんとかなるそうだが。
そして、魔石の代わりに魔晶石を埋め込み魔力を込める。するとゴールムは起き上がる。が、
「なんか気持ち悪いなぁ……」
表面は綺麗にしてあるが顔がないので、のっぺらぼうの全身タイツ人間みたいな感じになっている。まぁ、おいおい改良していけばいいか。
次は前に倒したヒートリザードを出し、記憶石と記録石に魔力を込め、それを持ちながら解体をする。その後、その記憶石と記録石をゴーレムに埋め込み、新しく出したヒートリザードの解体をさせてみる。するとやはり時間はかかるが、見事に解体を終わらせた。だいたいオレの2倍くらいの時間がかかっただろうか?
思った通り、この2つの石はゴーレムに使える。最初は特徴がよくわからなかったので、読んだ本の内容を記録したり、魔法の使い方を記憶したりするのかと思った。
しかし、複雑な動きを記憶石で記憶し、目で見た状態を記録石で記録する。そしてその2つを埋め込めばゴーレムに複雑な仕事をさせることが出来る。おそらく記憶された動きと、記録された視覚情報を照らし合わせてるんだろう。ゴーレム粘土と同じ場所で手に入らなければ気づかなかったかもしれない。
まぁ、ゴーレムのどこに目があるのかはわからないが……。もしかしたら粘土自体が色々な感覚を持っているかもしれない。
とりあえず、実験は上手くいった。あとは、このゴーレムを仕舞えばーー
そういえば、魔力庫は時が止まらないんだよな?
オレは試しに魔力庫を使ってみる事にした。地属性の魔力を巨大な岩でできた倉庫にするイメージで……
……
……
うん、こんな感じだろうか? 確かに魔法庫と違う感じがする。なにか魔力でできた倉庫を背負っている感じだろうか? べつに重いわけでは無いんだが。ただ、魔法庫よりかなり大きい感じがする。確か魔力を使い過ぎると小さくなるんだったか。だが、なんとなく感覚でわかるな。
あとは、近くの岩山を魔力で加工して3×3×3mのキューブを作り、中をくり抜く。そして壁を圧縮してかなり硬くする。んー、ドアを買ってくれば良かったか。流石に岩からドアは作れないからな。まぁ、今日は実験だから魔法で塞げばいいか。
オレはキューブの中にゴーレムとヒートリザードを3匹入れ、先程と同じように解体するように命令する。そして、岩で入り口を塞ぎ魔力庫へ仕舞う。
さて、1時間ぐらい様子を見るか。その間に作っておこう。
オレは先ほど解体したヒートリザードの肉を3cm角に切り、そして前に盗賊の所で大量に持ってきた使ってない武器を出す。鑑定して銅の剣を見つけ、それを魔力で小さくして銅の串を大量に作る。そしてそれを洗浄の魔道具で洗い肉を数個刺す。それをヒートリザード1匹分作る。
その後、前回作った熱源の要らないフライパンで焼き、焼くそばから魔法庫の中へしまい、大量の焼きたての串焼きのストックを作っていく。
そういえば、研究所で作ったおかずを入れたパンがまだ残ってたな。出してみるとまだ温かい。1週間ぐらい前の筈だよな? ホントに時間がたたないのはいいな。ただ、入れっぱなしだと、なにがあるのか分からなくなるから、キチンと整理や管理が出来る様にならないと。
とりあえず、研究所にいた時のもので昼食を済ませ、ゴーレムの様子を見てみる。魔力庫からキューブを出し入り口を塞いでいた岩を外す。中を見るとゴーレムが立っていて、解体も終わっていた。
これで魔力庫の中でゴーレムに解体をさせておくことが出来る事が証明できた。解体した素材とゴーレムを魔法庫の中へ仕舞う。このキューブはーー折角だからこのまま
解体倉庫として使うか。これも魔法庫の中へと仕舞う。
さて、後はアレを作るだけだ。オレは手頃な岩を探す。丁度ワゴン車ぐらいのサイズの岩があったので、まずこれを使う。魔法で腰ぐらいの高さの入り口を作り中へ入る。中では掘るというより圧縮していくイメージで中を広くしていく。高さはギリギリ立てるくらいで、広めのベッドと机と椅子を作る。天井にはライティングウッドの魔石から作ったライトをつけ、端の方に空気穴を作る。ちゃんと下向きにして雨が入らない様にして、判りづらい様に加工しておく。入口は綺麗な形だとわかりやすいので、わざと歪な形にしてほかの岩で塞ぐ。これで簡易宿泊場所が完成だ。
その後も、もっと大きな岩で4畳半くらいの宿泊場所をつくる。こちらにはちゃんとキッチンを作っておく。空気穴も下向きにして作ったが、そういえば、この世界で雨は降るんだろうか? 今まで一度も雨に降られたことが無いんだが。
後は、洗浄の魔道具を新しく改良して作る。ヒートリザードの魔石を使ってお湯で身体を洗う魔道具だ。名前はリフレッシュとつけた。持続時間は30秒ほどで、その間温かいお湯と風が身体の周りを巡り、汚れを落としてくれる。時間になると効果が切れて水気も無くなるので、服を着たまま使えるのも便利だ。
さて、予想以上に早く終わったな。夕食までまだ時間があるから、今のうちに距離を稼いでおくか。オレは岩山を超え、さらにその先にある街を超えて街道を進む。そして雪山に結構近づいた所で野宿をする事に。近くに人の気配はない。近くに森があるが、弱い気配しかしない。多分大丈夫だろう。オレは街道を少し外れ、見えにくい場所へ行くと、小さい方の簡易宿泊場所の岩を出す。そして、リフレッシュで身体と服を綺麗にして、中へ入る。ベッドにグラスボアの毛皮を敷いて、研究所で作った最後のパンを食べる。
さて、明日は雪山だ。元々雪国出身だから、久しぶりの雪が楽しみだーー
ダメだな、約束を守らなきゃ行けないのに、楽しいことに夢中になってしまう。もっとちゃんとーー
ーー
ーー
いや、今は焦って無理をしても良い事はないか。大切なのは問題を起こさずに、国王様かエリーゼ姫に無事と隠れている理由を伝える事だ。だからと言って、自分の心を抑える必要は無いよな。自分も楽しむし、そして約束を守るために最善も尽くす。両方取れるなら両方取ってもいいか。
雪山で依頼を終えて、また大迷宮に潜って、深層まで行けば、もっと希少なアイテムが手に入るだろう。そうすれば、王都で国王様に会う機会が作れる可能性がある。今はその為に努力をする。でも、それは苦しみながらじゃなくても良いんだよな? うん、楽しみながら努力をする。そんな生き方でもいいか。
なんか久しぶりに、考えがまとまるのが早かったな。考えることに慣れてきたのか?
こんな感じで、オレは今日はスッキリした気持ちで眠りに就くことが出来たのだった。
お読みいただきありがとうございます。




