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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
42/87

神の問いかけと新人冒険者

 なんだ、これは……。これが神の問いかけってヤツか?


『資格有りし者よ!汝に問う。商売に必要なものとは何か!』


 いきなりなんだ? 商売に必要なもの? というか、この声の主が神って事でいいのか?


『左様、我は商業を司りし神。商売に関わる者を見定める者也』


 うぉっ! なんだ、こっちの心を読めるのか? ならとりあえず、神ってのはなんだ?


『神とはこの世界を司りし者。この世界を創りし神と、その神より生まれし者たち也。さあ、汝に問う。商売に必要なものとは何か!』


 なんか普通に会話出来そうで、出来ない感じだな。


『我と話をしたければ、最下層まで来るがよい。さあ、汝に問う。商売に必要なものとは何か!』


 なんかオレが思ってた神とは随分違うな。もっと緊張感があると思ってたんだが全然緊張しない。まぁとりあえず答えなきゃ駄目か。商売に必要なもの……。


 ……


 ……


「目」だな。


『目、とな? その理由を問う』


 物を買うにしても売るにしても、信用が無ければ商売はできないだろう。


『ならば「信用」で良いのでは無いか?』


 だが、信用を得るためには「目」が必要だ。粗悪な物を普通の値段で売っても周りから信用を失うし、高品質な物を安値で買おうとしても相手から信用を失うだろう。だから、「物の品質や価値を見極める目」が必要だ。


 そして、「相手を見る目」も必要だ。普通の人ならいいが、相手が犯罪者や悪人だった場合、犯罪に巻き込まれる可能性があるし、悪人たちを増強させてしまうかもしれない。信用してお金や荷物を預けた相手が、そのまま盗んでいなくなることもある。だから「相手を見る目」も必要だ。


『ほう、面白い。それで全てか?』


 ……あとは、「見極める目」か?


『「見極める目」とな?』


 あぁ、物を売る場合、必要とされている物を必要とされている場所で売るのが一番いいだろう。武器や防具を売る場合、安全な場所より冒険者や傭兵が多い場所の方が売れるだろう。

 そして売るにしても、どんなものが必要とされているか見極める必要がある。初心者が多い場所で高価な武器はあまり売れないだろうし、高ランクの人が集まる場所で安い鉄の剣などが売れるとは思えない。


 まぁかなり偏った例だが、そんな感じで「物を見る目」、「人を見る目」「ニーズを見極める目」、総じて「目」が大切だとおもうんだが?


『フフフッ、面白い!それがお主の答えか? 異なる世界から落ちて来し者よ!』


 やはり、わかってるのか。まぁ、元の世界で読んだ本を参考にさせて貰ってるだけなんだがな。


『お主の答え、しかと聞いた!よって『商人』のジョブと『鑑定』のスキルを授けよう!』


 おっ? ここで鑑定のスキルが貰えるのか。ついでにこのスキルについて説明してもらえるか?


『もし我と話をしたければ、最下層まで来るが良い。異なる世界より落ちて来し者よ!』


 そう言って、声は遠ざかっていった。なんか、最下層まで行かなきゃ駄目っぽいな。まぁ、深層で希少なアイテムを探すつもりだったから、行けたら最下層まで行ってみるか。


 後ろを振り返ると、ゼットのメンバーが驚いた顔をしてこっちを見ていた。


「おい、どうした?」

「いや、お前、なんで魔法陣が反応してんだよ?」

「オレに言われてもわかるわけないだろ?」


 なんか、予想外の事みたいだな。この魔方陣は商売のスキルがなきゃ反応しないって言ってたが……。


「で、魔法陣が反応したってことは、ジョブが手に入ったって事でいいのか?」

「あぁ、商人のジョブと鑑定のスキルも手に入ったぞ」

「……は?」

「オイオイ、なんでここで鑑定のスキルが手に入るんだ?」

「そうね、確かもっと深い層だったと思ったんだけど……」


 オレがジョブとスキルが手に入った事を言うと、また驚かれた。どうやらここで鑑定のスキルが手に入るのはおかしいらしい。


「大迷宮初心者のオレがわかる訳無いだろ」

「そうだな、一応迷宮ギルドに報告しておくか」


 なんか面倒臭いことになりそうだ。

 それから数分で、この層のボス部屋へとたどり着く。目の前には重厚な扉がある。


「ここがこの層のボスだ。基本的にボスは次の層でちゃんと戦えるかどうかの確認も兼ねている。だからここで苦戦するようなら、次の階へは行かない方がいい」


 なるほど、さすが神々の試練。ただ、モンスターを配置してるだけじゃ無いんだな。


「ちなみにボス戦は、無理だと思ったら扉から撤退出来るから、やばそうなら逃げるのもアリだ。あとは一定時間が経つと強制的に終了になり、結果が悪いと次の層へ行けないから気を付けてくれ」

「あぁわかった」

「じゃ、俺たちは一度攻略してるんで、先に次の層へ行っている。なるべく早く来てくれよ」


 そう言って、ゼットのメンバーたちはボス部屋の扉の横にある魔法陣に乗り、そして消えた。


「さて、行くか!」


 オレは重厚な扉を開けて中へ入る。中は50m四方ぐらいの部屋だ。扉を閉めると部屋の中に魔力が集まり、魔物が出てくる。ゴブリンが10匹、灰色のウルフが5匹。そして、天井にも魔力反応が。体長50cmぐらいの魔物ーーあれはコウモリか?

 折角だから鑑定してみるか。


 ゴブリン

 ウルフ

 ジャイアントバット


 と出てくる。なんだ、名前しか出てこないのか? まぁいいか。オレは扉の前から魔物の方へ近づいていく。すると、魔物が反応し襲いかかって来る。

 まずはウルフが5匹迫って来る。ゴブリンより速いから当然か。それをストーンピラーを5本地面から出し、魔石の部分を狙って攻撃する。狙い通りウルフは魔石を破壊され消滅する。が、アイテムはドロップしない。だが、魔力が辺りに漂っている。どういうことだ?


 オレが考えているうちに、今度はゴブリンが10匹迫って来る。オレはこちらから迎え撃ち、攻撃を躱しながら的確に魔石に攻撃を加えていく。その途中でジャイアントバットが攻撃して来るが、取り敢えず避けてゴブリンを殲滅する。

 あとはジャイアントバットだけだ。飛んでいるから大変かと思ったが、前に戦ったハリケーンイーグルに比べれば苦ではない。大体1分ぐらいでボス部屋の魔物は全滅した。


 さて、終わりか? だが倒した魔物は魔力や魔素に分解されてまだ辺りを漂っている。すると辺りに新しく魔力が集まり、同じ魔物が出て来る。もしかして連戦の試練なのか?まぁしょうがないか。オレは先程と同じように全滅させる。


 それを繰り返すこと計5回。魔物の出現の待ち時間を入れて10分ぐらいでようやく終わる。魔物を倒すたびに辺りの魔力や魔素が増えているので、薄く靄のようになっている。


 すると、オレが入ってきた扉と反対側の扉の近くに魔力と魔素が集まり、宝箱が現れる。普通にアイテムがドロップするのかと思っていたが、凝ってるな。中を開けてみると、透明な魔石が付いたウエストポーチのような物と魔物の牙のような材質のナイフが入っている。鑑定してみると、


 アイテムバッグ 2/5

 ーー物を沢山収納できるバッグ。容積8㎥


 ブラッドナイフ 1/3

 ーー血を吸収するナイフ。血を沢山吸収すると成長する。


 おっ、アイテムバッグか。ちょっと容量が少ないがまぁいいか。横の2/5っていうのはなんだ? アイテムのレベルだろうか。というかアイテムは普通に鑑定出来るんだな。魔物は名前しかわからなかったのに。もしかして鑑定にも種類やレベルがあるのか?


 まぁそれは置いておいて、こっちのブラッドナイフは魔物の血抜き用だろうか? 魔物の背中とかに刺しておいたら血を吸って倒してくれるかもしれないな。時間は掛かるかもしれないが。


 まぁ、最初にしては良いアイテムが手に入ったな。この調子で希少なアイテムが出てくれれば良いんだが……。




「おっ、遅かったな。もしかして苦戦したか?」


 ボス部屋の扉を開けて階段を降りると、エゾが軽い口調で話しかけてくる。


「あぁ、流石に雑魚とはいえ、5連戦は時間がかかるな」

「「「「5連戦!?」」」」


 何故かゼットのメンバー全員が声を揃えて叫ぶ。


「おい、5連戦ってどういう事だ?」

「あ?いや、そのままだろ? 魔物が群れで出て、倒したらまた群れで出て、それを5回繰り返したんだが?」

「いや、普通は一回だけで終わりだぞ?」

「いや、オレが知るかよ。普通に全滅させたらまた出てきたんだからよ」


 どうやら異常事態だったらしい。それがオレが早く倒したせいなのか、それともさっきの神が何か仕組んだのか。


「取り敢えず、さっきの件と一緒に迷宮ギルドに報告だな。それで、何が出たんだ?」

「あぁ、これだ」


 オレはアイテムバッグとナイフを見せる。


「「「「……」」」」


「何故黙る?」

「いや、おかしいだろ!? なんで第1層でアイテムバッグが出るんだよ!?」

「いや、オレが知るわけないだろ? 大迷宮初めてなんだぞ」

「それに、このナイフは何?何か不思議な力がありそうなのだけど……」

「これはブラッドナイフって出てるな。血を吸収するらしいから魔物の血抜きとかに使えるんじゃないか?」

「ブラッドナイフって、そもそもここで出た事無いんじゃないか?」

「知らねえって。もしかしたらオレが1人だったからってのもあるんじゃねぇのか?」

「成る程、神々の試練だからより難易度が高い方が良いアイテムが出るのか?」


 オレが適当に言ったのに、なぜか納得されてしまった。まぁいいか。


「それより〜、アイテムバッグはどうするの〜?」

「どうするってどういう意味だ?」

「知らないの?アイテムバッグは持ち主以外が使えないようにする事ができるのよ」


 聞くと、付いている透明な宝石に自分の血を垂らす事で、自分以外の人が使えなく出来るらしい。が、そうすると売れなくなってしまうそうだ。


「いや、取り敢えずいいや。魔力庫があるしな」


 売りたくなった時に売れないと困るからな。取り敢えず両方魔法陣に入れて先は進むことにした。


 2層では、ゴブリンやウルフの他にさっきのジャイアントバットが出てくるが、オレもゼットのメンバーも苦戦はしない。サクサク進み、またセーフティールームで休み、ボスの部屋へ向けて進んでいく。すると、


「ん?なんだアレ、魔物か?」

「んーどれどれ。あぁ、アレは袋だな」

「ふくろ?」

「あぁ、アイツは倒すと偶にアイテム袋を落とすんだ」


 よくみると、たしかに巾着袋の様な物に顔が付いている。鑑定すると「袋の魔物」と出る。雑だな。


「アイテム袋ってバッグと何が違うんだ?」

「アイテム袋はバッグより小さくて、容量が少ないんだ。ただ、バッグより嵩張らないから、前衛なんかにはバッグより好まれる事もあるな。オレはバッグ派だが」


 と言って、エゾは自分のバッグをポンポンと叩く。


「じゃあ、アレはオレが倒しても良いのか?」


 ゼットのメンバーを見渡すと、皆頷いている。それじゃ、遠慮なく行くか。

 袋の魔物を見ると、どうやら紐の先に付いているのが魔石っぽいな。だとしたらあそこが本体か? なんか微妙な感じだが、取り敢えずやってみるか。


 オレが近づくと、気付いた袋の魔物はなんと逃げ出した。


「なっ、ちょっと待て」


 慌ててストーンピラーで跳び、すぐに追いついて魔石を破壊。後にはオレの掌ぐらいの大きさの革製の巾着袋が残った。


 アイテム袋 2/3

 ーー物を沢山収納出来る袋。容量0.125㎥


 と言うことは、一辺50cmの立方体の大きさか。結構入るな。それにこっちの方が嵩張らない。これは財布代わりにしてもーーいや、魔法庫の方が安全だな。取り敢えず取っておこう。


「おいおい、またドロップしたのか? さっきからドロップしすぎだろ?」


 しまった、自重すべきだったか。この2層に降りてから、ちょっと調子に乗りすぎてしまった。確かに、80%ぐらいの確率でドロップしてるから、おかしいと思われるか。まぁやってしまったものはしょうがない。取り敢えず誤魔化しておくか。


「きっと、初心者だから神様が優遇してくれてんじゃないのか?」

「そんなことあるかよ!?」


 駄目か。まぁ、オレが初心者だって言うのは分かっているから、コツがあるとは思ってないだろう。取り敢えずさっきより自重しながら行こう。


 そして、また重厚な扉が目の前に現れる。


「ん?この層には魔法陣は無いのか?」

「あぁ、全ての層にあるわけじゃないらしい。この大迷宮では1層、6層、11層で確認されている」

「ホントは6層で鑑定のスキルが手に入るって言われてたのだけど……」

「まぁ、そう言う事もあるさ」

「普通は無いよね〜」


 そんなこんなで2層のボス部屋へ。ゼットのメンバーは魔法陣で先にいっている。さて、次は何が出てくるのか。


 ゴブリン

 ゴブリンアーチャー

 ウルフ

 ハイウルフ

 ジャイアントバット


 以上


 ゴブリンアーチャーは弓を使うゴブリンで、ハイウルフはウルフより一回り大きいウルフだ。が、そこまで格段に強くなる訳じゃない。1層と同じように1分で倒す。それをまた5回繰り返して終わる。


 こんどは1層と同じアイテムバッグと、ゴーレム粘土が出てきた。


 ゴーレム粘土 1/3

 ーーゴーレムをつくる為の粘土。魔石をエネルギーにして、簡単な動きをさせることが出来る。


 量はそんなに多くない。これが3〜4個あれば人間1人分の大きさになるくらいだろうか。今のところゴーレム製作に手を出すつもりは無いが、取り敢えず取っておこう。

 さて、それじゃあ、次の層へ行くか。



 またアイテムバッグが出たことで、ゼットのメンバーに呆れられてしまったが、オレのせいでは無いので気にしないでおく。3層目も順調に進み、途中のセーフティールームで仮眠を取ることになった。


「しかし、なんでこうアイテムが違うかねぇ」

「そうね、黒猫さんの方が良いアイテムが多く出るのよねぇ」


 エゾが言い、イザベラが同意する。


「オレが分かるわけないだろ、大迷宮は初めてなんだから。まぁ、違いがあるとすればオレは1人だって言うことと、スピード重視の一撃必殺型だってことぐらいじゃないか?」

「でも〜、ザインもエゾも一撃で倒してるよね〜」


 本当は分かっているが、あまり言わない方がいいよな。一撃必殺って言ったが、正確には残存魔力を多くするって事なんだがーー


 ーーここの魔物は生身ではなく、魔力で具現化されているものだ。その中心になっているのが魔石だ。魔物を倒すと魔石のある場所を中心として残った魔力が集まり、その魔力が一定量あればアイテムがドロップする。


 ゴブリンで例えると、魔石だけを破壊すると身体全部の魔力が残っていることになり、その結果、その魔力の分のアイテムがドロップする。

 しかし上半身と下半身を真っ二つにしてしまうと、魔石のある上半身の魔力だけが集まる。つまり残存魔力が半分になるのだ。だから、いかに少ない傷で相手を倒すかが重要になるのだが、恐らくそれも相手が弱いうちだけだろう。相手が強くなればそんな事を考える余裕はなくなるからな。


 それに初心者が知って、無茶をして魔石だけを狙うようになれば、恐らく死者がふえるだろうーー


「ところで、この大迷宮って人気が無いのか? 今まで他の冒険者と一度も会ってないんだが」

「あぁ、それは俺たちが次の層へ降りる道を来たからだな。他の冒険者は魔物を倒すのが目的だから、人があまり通らない所で稼いでいる筈だ」


 なるほど、つまり

 次の層へ降りる道

 =人が多く通る道

 =魔物が少ない道

 と言うことか。


 確かに魔物を倒さなきゃアイテムは手に入らないし、倒しても必ず手に入る訳じゃない。そうなると必然的に、人の通らない魔物が多く出そうな所に行くわけか。


「まぁ手に入るのは大体ポーションだが、それでも迷宮産のポーションは品質にバラツキがないから重宝されているからな」


 確かポーションの買取価格は銅貨5枚だったか。10個ぐらい手に入れば、1日の稼ぎとしてはマズマズか。いや、それはソロの場合だな。パーティーだと、20〜30個は手に入れなきゃやってられないか。


「んじゃ、そろそろ飯食って休もうぜ」


 ゼットのメンバーは携帯食を食べ、オレは残っていたサンドイッチと串焼きを食べる。恨めしそうな視線を感じるが、魔力庫だと1日が限度だから、明日からは携帯食だな。こう言う所でも、やはり他人と潜るのは大変だ。

 今回は教えて貰うと言う立場だから仕方がないが、次からは一人で潜ろう。オレはそう決意した。


 そして、交代で見張りをしながら休むことに。魔物は入ってこれないが、偶に他の冒険者が寝込みを襲ってくることがあるらしい。なので俺たちは、部屋の隅で固まって休む。


 最初にイザベラ、次にリザ。睡眠時間が中途半端になる中頃にエゾとザイン。最後にオレだ。オレはこう言うのに慣れていないという事で、気を遣ってもらって最後にしてくれた。オレはグラスボアの毛皮を出し、その上に寝転がる。


 身体はしっかり休まっているが、意識はかなりしっかりしている。やはり、この迷宮と言う環境に体が適応しているようだ。周りの気配を感知しながら休んでいると、前と後ろに人が来るのが分かる。まぁしょうがないか。


 しばらくして、ザインが近づいてきたので起きる。


「お? 起きてたのか?」

「いや、なんとなく気配で分かった」

「そうか、すげえな」

「じゃあ、場所かわるぞ」

「えっ?ここに入るのか?」


 オレが寝ていた場所は、何故か後ろにイザベラ、前にリザがいる。恐らくグラスボアの毛皮の所為だろうが。


「あぁ、この毛皮は思った以上に心地いいぞ」


 そう言うと、ザインは迷いながらも二人の間に入り、眠り始める。オレは壁に寄りかかって座り、意識を集中する。


 やはり、迷宮という環境に適応しているな。気配察知も迷宮では魔力察知になっているようで、魔力で具現された魔物の位置も把握出来る。そしてなんとなくだが、ボスの位置や魔法陣のある場所も感じられる。やはりこの層にも魔法陣はありそうだ。2層でも感じたので、まだ見つかってないだけで、おそらく全ての層にあるのだろう。


 冒険者の気配はーーあるな。走っているのか、速く動いているようだ。これはこっちに向かっているのか? 後ろから魔力反応が追いかけていると言うことは、逃げているということか。さて、どうするか。この様子だと、ここまで逃げて来れそうだが、魔物に入り口を塞がれることはあるのか?


 魔法の音が聞こえてきたので、取り敢えずザインを起こすことにした。


「ザイン、悪いが起きてくれ」

「ん?どうした?」


 さすが金ランク、すぐに起きてくれた。


「魔法の音がした。どうやら他の冒険者が近くで戦ってるようだ」


 オレがそういうとまた大きな魔法の音がして、少しすると若い冒険者たち4人が部屋へなだれ込んでくる。


「チッキショー!数が多すぎんだよ!」

「だから1匹ずつ倒していこうって言ったでしょ!」

「2人とも落ち着いて。他の冒険者が居るんだよ」


 剣士風の男の子が魔道士風の女の子と口論して、それを斥候風の男の子がなだめている。最後の大きな盾を持った男の子は、入り口を見張っている。


「あっ、すいません。お騒がせしました」

「スマネェ、騒いじまった」

「申し訳ありません……って、もしかして貴方はザインさんですか?あのゼットの!」

「ん?あぁそうだが?」


 斥候風の男の子がザインを見て興奮しだした。そして話を聞いた2人も嬉しそうな顔をしている。


「あの、僕たちファンなんです!実は僕たちも孤児院出身で、ゼットのような冒険者になりたくて、頑張ってるんです!」

「おお、そうか!まぁ、最初は大変だが無理して死んだら意味ないからな!自分たちの出来る範囲でやれよ?」

「「「はい!ありがとうございます!」」」


 3人は元気よく返事をする。


「そっちの君も、この中には魔物は入って来れないから休んだ方がいいぞ」


 ザインがそういうと大きな盾を持った男の子は、一礼して仲間の所へ来る。そして持っていたポーションで回復をする。この子たちはつい先日、銅ランクに上がったばかりの新人冒険者パーティー「エース」だそうだ。ゼットへの憧れの気持ちからこの名前にしたらしい。


 初めて知ったのだが、ゼットの由来はみんな名前にゼットの文字が入っているからだった。


 名前は剣士風の男の子がアヤト、魔道士風の女の子がアクア、斥候風の男の子がアルト、大盾を持った男の子がアックス。みんな名前がエーから始まっているので、このパーティー名だとか。


 いつの間にかみんな起きてきて、話をしている。というか、この子たちがここまで憧れるゼットって、一体なにをしたんだ?


「あれ?そちらの方はもしかして噂の黒猫さんですか?」


 オレが考えているとアルトが声をかけてくる。黒猫……こんな子供にまで広まってるのか?


「あ、あぁそうだが」

「あの、金ランクのトーイさんを倒したって本当ですか?」

「まぁ、一応本当だ」

「黒猫、あんた本当に強いのか?」


 アヤトが疑ってくる。察するに本当は強くなくて、ゼットに助けてもらってんだろ?みたいな感じだろうか?おそらくオレが憧れのゼットと一緒に行動しているのが気に入らないんだろうが。

 しかしこんなガキンチョに黒猫と呼び捨てにされるとは……。そこでオレはピンと閃いた。


「いや、実はそんなに強くないぞ。ゼットが助けてくれるからなんとかなっているだけだ」

「おい、お前!」


 ザインが驚くが無視する。


「じゃあオレと戦ってくれよ。あんたに勝てたら俺も金ランクに勝てるって事だからな」


 ……失敗だったか? 強くなければこっちに興味を無くすかと思ったんだが逆だったか。だったらこの名前を利用してやるか。


「いや、断る。オレは気まぐれな黒猫だからな。気分が乗らなきゃやらないぜ」

「へっ、怖いのか?」

「あぁ、怖いね。無鉄砲なガキンチョは何をするかわからないからな」

「な、なんだと!」


 アヤトは激怒するが、なんとか周りに抑えられている。ちょっと大人げなかったか? でも、なんかイラッとするんだよな。ああいう人を見下してくる奴って。


 ーーあぁ、アイツか。アイツがそういう言動を取っていたからか。少し腹の中が熱くなってくる。怒りを感じてるんだろうか。まぁ、今となってはどうしようもないんだが。


 ゼットのメンバーに睨まれだが、気にしないでおこう。そして、少し早いが出発する事にしたのだが……。


「そんな弱い奴より俺たちの方が役に立つぜ、ザインさん!」


 と言って、エースのメンバーが強引に付いてきたのだ。まぁ、強引なのはアヤトだけで、他のメンバーは済まなそうな顔をしているのだが。仕方なく、この層だけ一緒に行動する事にしたようだ。ゼットのメンバーも、自分たちに憧れてくれている子を無下にはできないんだろう。


 取り敢えず、入り口の前にたむろしているゴブリンをゼットが蹴散らし、その後上を飛んでいたジャイアントバットをエースが倒す。


 ザインは筋は良いが、もう少し相手の動きや仲間の連係を考えて動いた方が良いとアドバイスしていた。オレはーー何もしない。ただ後ろからついていくだけだ。アヤトはオレに得意げな顔を見せているが無視する。コイツはこのまま行くと、あの金ランクの馬鹿みたいになるのかねぇ。


 その後も、途中まで何事もなく進んでいたのだがーー


「あっ、宝箱があるぜ!」


 アヤトが通路の先の部屋に宝箱を見つけ走っていく。エースのメンバーも追いかける。が、なんだ? あの部屋が普通ではないと、感じている。魔物の魔力反応は無い。しかし、よく見ると、部屋の中は魔素と魔力が集まっている。


 オレは慌てて追いかける。ゼットも気づいたのか追いかけている。


「アヤト、部屋に入るな!」


 ザインが叫ぶがアヤトは宝箱に目がいっているのか、部屋へ入ってしまう。マズイな、人が多いし部屋の入り口が人一人分と狭くなってるからストーンピラーで跳べない。


 俺たちがなんとか部屋へ入ると、アヤトは宝箱の前にいた。


「オレが一番最初に触ったから俺のもんだー!」


 ドオォォォン!


 アヤトが叫ぶのと同時に大きな音がして、部屋の入り口が石の扉で塞がれる。俺たちが慌ててアヤトのいる宝箱の前へ集まると、周りに漂っていた魔素や魔力が徐々に実体化していく。そして、部屋の中に無数の魔物が現れ始める。


「な、な、なんだ!?」

「バカ!これはモンスターハウスだ!」


 ザインが叫ぶ。アックスは大盾を構えて仲間を庇おうとしているが、他の3人は腰を抜かしてへたり込んでいる。


 モンスターハウスーー魔物が大量に現れる部屋で、宝箱が1つある。中に入ると閉じ込められるが、魔物を全て倒すか、一定時間耐えると脱出出来る。

 宝箱からは倒した魔物の数によって色々なアイテムが手に入る。


 って情報課の本に書いてあったな。


「おいおい、どうするザイン?」

「俺たちだけならまだなんとかなるが……」


 エゾに言われ、ザインはチラッとエースのメンバーを見る。これはーーしょうがないか。腹は立ったが、ガキンチョを見殺しにするのも気が引けるしな。


 そして、魔物が実体化し終わる。数は200匹は超えてるだろうか?よく見ると、この部屋はかなり広くなっているが、それでもかなり魔物が密集している。せめてもの救いは宝箱が部屋の中央ではなく壁際にあるという事だろうか。


 そして、


「ウォォォォォー!」

「グギャァァァー!」


 という声と共に魔物が一斉に襲い掛かってくる。

 が、一瞬で俺たちの周りに石の壁が出来上がり、魔物は近づいて来れなくなる。


「なっ!これは……?」

「なあゼット、それにエース。取引しないか?」

「取引だと?」

「あぁ、俺が魔物を倒すから宝箱の中身は俺が貰うっていう取引だ」

「おいおい黒猫、この数をなんとか出来るのか?」

「あぁ、だが流石に無報酬ってのは嫌だからな」


 俺の提案に、ゼットもエースも黙り込む。が、


「もし可能なら俺は構わないが?」


 そう言ってザインはメンバーを見渡す。その間に魔物は石の壁を壊そうと、ガンガン攻撃してきている。


「そうね、この子たちも見殺しに出来ないし、可能なら私も良いわ」

「まぁみんなが良いなら私も〜」

「俺だけ反対する訳にもいかないか」


 ゼットは了承してくれたみたいだな。エースは、


「わ、わたしは、命が助かるなら」

「ぼ、ぼくも……」

「俺もだ」


 3人は良いみたいだ。あとは


「っ!わ、わかった、命には変えられない」


 最後にアヤトも了承した。さて、それじゃあやるか。


「壁が無くなった時に攻撃が来るかもしれないから、備えだけはしてくれ」


 俺がそういうと、アックスは大盾を構え直し、メンバーを庇う。ザインとエゾも武器を構え、イザベラとリザも直ぐに魔法を使える準備をする。


 俺は皆の前に立ち、魔法庫から腕輪を出して装着する。そして、腕輪に魔力を込め、石の壁を消す。直ぐに魔物が迫ってくるが、その前に魔法を放つ。


「殺れっ!」


 俺の足元を中心にストーンピラーが発動する。

 範囲は俺の左から右の180度。発動角度は30度。数は無数。

 先端は尖っていて、魔物を貫通していく。そしてランダムな方向に枝分かれしていく。


 敵を貫通した先で2つに分かれ、2体の魔物を貫通。

 その先でさらに2つに分かれ、4体の魔物を貫通。

 さらに分かれて魔物を殲滅していく。

 場合によっては左右から刺され、上下から刺され、前後から刺される。無数に刺されているものもいるようだ。

 やがてオレの後ろ以外の全てが尖ったストーンピラーで埋め尽くされ、魔物は針のむしろ状態で消滅していく。


 これが地属性の広範囲殲滅魔法『茨の庭』(ソーンガーデン)


「ス、スゲェ」

「マジかよ……」


 オレは、魔物が全て消滅した事を確認して、魔法を解除する。そして、その場に座り込む。


「おい、大丈夫か?」

「ん?あぁ、ちょっと魔力を使い過ぎただけだ」


 軽く手を振って、ザインに返事をする。他のみんな呆けているようだが、仕方がないか。さて、少し休んだら宝箱の中身を確認しないとな。何か良いものであれば嬉しいんだが。




お読みいただきありがとうございます。

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