決意と王女様
「そうか……、やっぱり私は死ねなかったんだな」
私は自分の身体を見てみる。酷い火傷がなくなっている。
右手のホクロ、左腕の傷の跡、右太ももには、昔の火傷の跡がある。確かに俺の身体だ。
やっぱりあの娘が治してくれたようだ。……でも、女神様でも、昔の古傷は治せないんだな。
フッと笑みがこぼれる、と同時に驚いた。
こんな風に笑ったのはいつぶりだろう?一度死にかけたせいか、または違う世界に来たせいか、心が少し軽くなってるのだろうか。いや、単に負のしがらみが無くなったからか。それだけ、前の世界、日本が自分にとって、辛い場所だったんだろう。
少しの間物思いにふけっていたが、こうしていてもしょうがないので、私は今までの状況を振り返ってみた。
ます、私は自殺をした。
それから、死後の世界に行ったと思っていた。
そこで女神の少女に出会って、話をして意識を手放した。
すると、別の知らない世界に来ていた。
うん、訳がわからない。何が起きたんだろう……。
もしかして、死後の世界だと思っていたのは、漫画やアニメ、ゲームでよく出てくる、亜空間とか次元の狭間とかいうやつだったのだろうか?
……
……
……
考えても答えは出ない。
ならしょうがない。それなら次はどうするかという事だ。
また自殺する……って言うのは違う気がする。私の命を助けてくれたあの娘に失礼だし、何より心の負担が無くなっているからか、そんな気も起きてこない。
それじゃどうする?
生きる?
どうやって?
私に何が出来る?
考えていると、ふと、さっきの大臣の言葉を思い出した。
『天落者は、凄い力を持っていると聞いています』
凄い力……もし私に本当に凄い力があるなら、それを使って生きていくのもありかもしれない。女神の祝福というのも気になる。
その為には、やはり情報が必要だ。
そしてその情報を得る為には、相手に合わせて上手く情報を引き出さなければ。
日本にいた時みたいに、考えや価値観が合わないからといって会話を打ち切ったり、冷たくあしらったりしたら、情報は聞き出せないからな。
私に出来るか?いや、やらなければ。せっかく助けてもらった命、新しい第二の人生みたいなもんなんだから、今まで出来なかったことも、出来るようにならなくては。
私はそう決意してベッドを降り、ドアへ向かった。
「ん?」
なんだろう、ドアの向こうから話し声が聞こえる。
どうする?ドアを開けるか?声からすると、1人は先程のメイドさんだろう。もう1人は女の子だろうか?
んー、でも私の為にメイドさんを残してくれた訳だし、だったら多分大丈夫だろう。
私はとりあえず、ドアを開けてみる事にした。
ガチャ
「えっ」
見ると先程のメイドさんと少女がいて、少女の方と思い切り目があってしまった。どうしよう……。
「えぇと……」
すると少女は、ササッとメイドさんの後ろに隠れてしまった。しまったな、出てくるタイミングを間違えたかも。
「体調はもう大丈夫ですか?」
どうしようかと考えていると、メイドさんが話しかけてくれた。これはチャンスかも。この状況やメイドさんの立場を考えて上手く世間話に持っていければ情報が手に入るかも。大丈夫、真面目過ぎたぐらいだし、敬語も得意だ。きっと上手くできる!
そうやって自分を信じて、私は口を開いた。
「はい、おかげさまで。先程は国王様や大臣様に不躾な態度をとってしまい申し訳ありませんでした。なにぶん、目を覚ましたら、突然知らない世界に来ていたので…」
「いえ、お気になさらないでください。天落者様はこの世界の救世主でしたし、天落者様を大切にするようにという神託も下されたことがありましたから、お気になさらないでください」
なるほど、天落者っていうのは、この世界ではかなり大切な扱いを受けているんだな。そういえば、今この世界には、他の天落者って居るんだろうか?
私が、そうメイドさんに聞こうと思った時、不意に声をかけられた。
「あっ、あのっ」
先程からメイドさんの後ろに隠れていた少女だった。
「は、初めまして、天落者さま。あっ、あのっ、こ、この国の第3王女の、エリーゼ・トレーと申します!!」
見ると、中学生ぐらいだろうか?可愛らしい女の子が、メイドさんの横に立っていた。
童顔で緑色の瞳をしている。髪はエメラルドグリーンにシルバーを足したような綺麗な色で、身長は150あるかないかぐらいか。
そんな可愛らしい少女が、スカートの前をギュッと掴み、いかにも
「緊張してます!」
って感じでこっちを見ていた。
「初めまして、エリーゼ姫さま、私は……
ヨシキと申します。以後、お見知りおきを」
私はそう自己紹介をかえした。
自己紹介はするたびに嫌なことを思い出す。母親がお笑いが好きだからって、私に「良基」(よしもと)って名前をつけたけど、私は真面目を地で行くような人間だったからなぁ。
お陰で小中高と、自己紹介するたびに、笑いを取れ、面白いことを言えと、散々弄られたんだっけ……。はぁ。
まぁ、とりあえず、一般市民は苗字かない可能性があるから、名前だけで大丈夫だと思う。それに本名はわからないんだから、これからはヨシキとして生きていこう。
「あ……、はい!ありがとうございます!」
私が少し考えてる間に、エリーゼ姫は満面の笑みを浮かべながら、そう返してきた。
さっきよりもリラックスしてるみたいだ。挨拶するのに、凄く緊張してたのか?
それを察したのか、
「姫さまはあまり人前には立つことがない為、挨拶や自己紹介などが得意ではないんです」
メイドさんが、そう教えてくれた。エリーゼ姫は、少し寂しそうな顔をしている。
うーん、相手は王族だし、あまり深く聞かない方がいいかな?
「そうなんですね、実は私も自己紹介が苦手なんですよ。仕事柄、人と会うことがほとんど無かったんで……。」
「そ、そうなんですか!良かったぁ…」
私が言葉を返すと、エリーゼ姫は嬉しそうにニコニコしていた。なんか、俗に言う「お姫様」って感じはしないな。
どっちかというと、「箱入りお嬢様」ってかんじだろうか?
「でも、これから人前に立つことが増えていくのですから、キチンと出来るようになって下さいね、姫さま」
メイドさんがクギを刺す。
「それで、天落者様はどうされたのですか?何が御用でしょうか?」
そうだ、忘れるとこだった……。
と、その前に、
「その天落者っていうのは、やめてもらえますか?なんか、こちらには馴染みがない言葉なので」
「かしこまりました、それでは『ヨシキ様』とお呼びさせていただきます。私のことは、『エル』とお呼び下さい。」
「わかりました、エルさん」
ふぅ、良かった。天落者って、転落者みたいな感じでいいイメージが湧かないんだよな。
さて、ここからが本題だ。
「それで、お願いしたいことがあるんですが、この世界について教えて貰えないでしょうか?なにぶん、この世界のことは何も知らないので。それか、この世界のことが書かれてる本を読ませてもらえるのでも良いのですが、いかがでしょうか?」
エルさんは少し考えてから、
「なるほど、確かにそうですね。ですが、本については私には権限がありませんので、少しお話をする、ぐらいのことでしたら可能ですが、それでよろしいでしょうか?」
よし、なんとか話は聞けそうだ。
「ええ、それで構いません。忙しい中お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
ところがそこで、予想外のことが起きた。
「あ、あの、私もお話しに参加してもいいですか?」
エリーゼ姫だ。いいのか?一国の姫がこういう会話に参加しても。というか、姫さまから得られる情報って価値があるのだろうか?
私はエルさんの方を見る。
「そうですね、私からはなんとも……。国王様が許可してくだされば、可能なんですが」
エリーゼ姫は凄く寂しそうな顔をしている。
なんだろう、この子の顔をを見てると、なんか胸が痛くなる。なんというか、いろいろやってみてるのに上手くいかず、誰も認めてくれなくて、寂しい感じ…。
あぁ、この子は私に似てるのか?人生に、他人に絶望する前の自分に……。
真面目にやっても上手くいかず、口先だけだったりノリのいいやつの方が評価されて、一番働いてた私は評価されなかったんだ。何か意見を言っても聞いてもらえず、評価されない日々……。
もしかしたら、私が普通に挨拶を返しただけで、あんなに喜んでいたのも、自分に好意的な返事をしてくれる人が少ないからかも。
いや、もしかしたら違うかもしれない。俺の勝手な憶測に過ぎないから。でも、そうかもしれないと思ってしまった以上、この寂しそうな女の子をないがしろにはしたくない。そう思ってしまった。
「……それじゃあ、今日は少しだけ話を聞こうと思ってたので、参加してもらうのはいかがでしょうか?それ以降は、国王様の許可がでたらどいうことで」
私はエルさんに提案してみる。
「わかりました、ヨシキ様がそう仰るのでしたら」
ということで、私は2人から情報を得られることになった。エリーゼ姫は思った以上に賢く、この世界のスキルやジョブ、魔法の事を、エルさんからはこの世界の一般常識などを教えて貰えることになった。