金ランクの冒険者
「セイブンさん、昨日は助かった、ありがとう」
オレはセイブンさんにお礼を言う。
「迷いは晴れましたかな?」
「あぁ、一応な。また迷う事もあるかもしれねぇが、今は前に進めそうだ」
「それは良かった」
「この歳になっても生き方に迷うなんて、情けないとは思うがな」
オレは軽く笑いながら言う。セイブンさんも笑顔で返してくれる。
「人間いくつになっても迷うものですよ」
「そういうもんかな……」
その後、朝食をご馳走になり、ミリぃとお別れの挨拶をしてからオレとゼットのメンバーはセイブンさんの邸宅を後にする。ミリィはかなり寂しそうな顔をしていたが、こればかりはしょうがない。一応、また会おうと言っておいた。
今日は冒険者ギルドへ行き、その後セイブンさんのお店で素材を買い取ってもらう予定だ。
「きっとみんな驚くぜ!あそこまでの地属性の使い手なんてあまりいないからな!」
エゾが嬉々とした顔で言ってくる。地属性の使い手か……。他の属性の魔法も使おうと思ってたんだが、ゼットのメンバーはオレを地属性魔法が得意と思ってるのか。流石に全属性の魔法を使うわけにはいかないか。
まぁいいか、地属性が得意としておいても。まだ、実戦で試していない技があるしな。
冒険者ギルドは、セイブンさんの邸宅から30分離れたところにあった。かなり大きな建物だ。流石に大迷宮がある街だから冒険者の数も多いのだろう。
中に入るとかなり人でごった返していた。聞くと、朝に依頼を受けて夕方依頼を終えて帰ってくるのが、大体の流れらしい。サラリーマンみたいだな。
ゼットのメンバーは依頼達成の報告なので、普通の受付カウンターへ行く。オレは教えてもらった一番端の登録カウンターへ向かう。流石に登録カウンターは人が居なかった。
そういえば、よくファンタジー物だと、「ここはガキの来るところじゃねぇ!」とかいうテンプレがあるんだよな。まぁ、オレはガキじゃないからそんなお約束はないか。
「冒険者の登録をしたいんだが……」
「はい、どこかの身分証などはありますか?」
「いや、無い」
「でしたら、こちらに記入をお願いします」
受付嬢は紙とペンを渡してくれる。
名前はヨシキのままでいいよな、ゼットのメンバーにも言ってあるし。
得意属性はーー地属性
年齢と生年月日ーーどうすればいいんだ?日本の暦を書くわけにもいかないだろうし……。すると
「年齢は大体で構いません。生年月日は無記入でも」
「いいのか?」
「はい、村などの出身者は、わからない人がほとんどですので」
成る程ーーとりあえず年齢は40にしておくか。生年月日は無記入で。
「えっ、40歳なんですか?」
「ん?何かマズかったか?」
「いえ、この歳だと辞めていく方が多いので。あの、大丈夫ですか?」
確かに、40過ぎてから戦闘系の仕事につくのは不自然か。だが、ギルドカードは欲しいんだよな。
「あぁ、頼む」
オレがそう言うと、馬鹿デカい声が出て響いてきた。
「オイオイ、いつからここは年寄りの寄合所になったんだ?」
見ると、冒険者というより盗賊のボスと呼んだ方がいいような、恰幅の良すぎる男が立っていた。
「トーイさん!」
「トーイ?あの男の名前か?」
「えぇ、一応金ランクの冒険者です」
一応か……。確かに強く見えないし、気配も弱い。ただ、背中に担いでいる斧が、かなり強い力を放っている。
「来る場所間違えてるんじゃねぇのか? 職が欲しいなら、商業ギルドでドブ掃除の仕事でも貰ったらどうだ?」
「ケヘヘ、ジジイはお呼びじゃないぜ?」
「それとも既にボケちまってんのか?」
トーイとやらの言葉に便乗して、取り巻きらしき2人が騒ぎ立てる。周りを見ると、冒険者達は呆れた顔をしている。
参ったな、年齢的に絡まれないと思ったのだが、歳のせいで逆に絡まれるとは……。
とりあえず、馬鹿には関わらないでおこう。
「ちなみに、登録には年齢の上限はあるのか?」
オレは受付嬢に聞いてみる。
「いえ、規約ではそのようなことはありません。ただ、体力的に落ちてくる歳ですので、一応大丈夫かの確認をさせてもらいました」
「じゃあ、登録を頼む」
「オイ、無視してんじゃねぇ!」
トーイとやらがまた叫ぶ。すると
「何を騒いでいる!」
奥へと続く扉から、ガタイの良い男が出てきた。少し腹は出ていて頭も薄く、顔が悪人ヅラだ。ただ、かなり強い気配がする。
「トーイ、ギルドでは騒ぐなと言っていただろうが」
「ち、違ぇよ、おやっさん。その男が40過ぎて冒険者に登録しようとしてたから止めただけだ」
おやっさんと呼ばれた男はこちらを睨む。
「貴様は正気か?」
「あぁ、規約では大丈夫みたいだが?」
「ふん、だからと言って、弱い年寄りを登録させる訳にはいかないな。傭兵をやっていた訳でもなかったのだろう?」
男はこちらを見下した目をして話してくる。コイツはオレが嫌いなタイプの人間だな。関わりたく無い奴とは関わらないと決めたし、面倒臭いから帰るか。
「ギルマス、そいつはかなり強いぜ」
「なに?」
帰ろうと思ったのに、ザインが出てきた。出てこなくても良かったんだが……。っていうか、コイツがギルマスなのか?犯罪者や悪徳商人とかの方が似合ってるだろ?
「そいつは強い。恐らく俺たち『ゼット』やその『竜の息吹き』よりも」
「馬鹿な、そんなことある訳ねぇだろ!」
「ほう?あのゼットのザインがそこまで言うのか? もしそれが本当なら、登録しても構わないんだがね?」
ザインの言葉にトーイは激怒し、ギルマスは値踏みするようにこっちを見てくる。
「だったら、オレと勝負だ!オレに勝ったら登録を認めてやるぜ!」
一々ウザいな。こいつは馬鹿か? いや、こいつはもう馬鹿でいいな、馬鹿と呼ぼう。というか、登録の許可は馬鹿が出す訳じゃないだろ? なに偉そうなこと言ってるんだ、コイツは。
それにザインだ。コイツもなに企んでるんだ? 最初に馬鹿に絡まれた時は遠くから様子を見てるだけだったのに、ギルマスが出てきてから、雰囲気が変わった。表情から察するに焚き付けているのか?
「そうだな、もし本当にトーイよりも強ければ、銀ランクから始めても問題はないが?」
ギルマスはオレにそう言ってくる。さて、この場合オレのメリットは……。
金ランクの実力を知れることと、あとはまだ実戦で使ってない技の練習。あと、本当に銀ランクから始められるのなら、迷宮の探索が2週間取れる事。
デメリットとしては、関わりたくないやつと関わらなきゃいけない事と、面倒臭い事、あとはオレの実力を他人に見せなきゃいけない事、か。
まぁ、他の冒険者の程度を確認する意味でも受けてみるのも悪く無いか。オレは馬鹿と戦うことを決める。
が、話にならなかった。
場所はギルドの裏にある広めの練習場。周りは何故か多くの冒険者達で囲まれている。お前らは仕事をしろよ! と言いたくなるが、手の空いているギルド職員も来ているのでどうしょうもない。
そして、戦いと呼べないような戦いが始まる。
馬鹿は模擬戦用の両手斧、オレは模擬戦用のショートソードを使ったが、攻撃が遅すぎる。しかも斧だから大ぶりで、フェイントや駆け引きが無い。ホントにこれが金ランクなのか? おそらく、ザインの方が強いだろう。そういやザインのランクを聞いてなかったな。
まぁ、いい。魔法の練習をしよう。オレは斧を上に振りかぶった馬鹿にストーンピラーを撃つ。狙った場所は斧の柄頭にあたる部分だ。そこを抑えられた馬鹿は斧が触れなくなる。
今度は横薙ぎに斧を払おうとする。斧が向かって左に振りかぶられた瞬間、今度は左肘にストーンピラーを当てる。当然斧は触れなくなる。
そんなやり取りが何度か続く。馬鹿は学習したのか、今度は斧を構えたまま突進してきた。が、足元にできた5cmほどのストーンピラーに引っかかり盛大にこける。
周りから嘲笑が上がる。ギルマスも顔に手を当てて、「はぁ」とため息をついている。すると、馬鹿は顔を真っ赤にして起き上がり、なにかを言おうとする。が、その前にオレが口を開く。
「なんだ? 金ランクのくせにストーンピラーを避けることも出来ないのか?」
馬鹿は開けた口を閉じ、ワナワナ震えている。まぁ、こういう場合だと、「卑怯者」とか「正々堂々正面から戦え!」とか言ってくるパターンだからな。先手を打ったが、予想は当たってたみたいだ。馬鹿は俺を睨みなおすと、
「野郎ども、来い! コイツを潰すぞ!」
さっきの取り巻き2匹が出てくる。杖と弓を持っている。馬鹿が前衛でこの2匹がサポートか。だが、ギルマスが叫ぶ。
「トーイ、もう辞めろ! コイツの実力は分かった。もう戦う必要はない!」
「ウルセェ! 俺様をここまでコケにしたやつを、このままにしておけるか!」
「面倒臭ぇな」
「なんだと!どういう意味だ!」
オレの言葉に過剰に反応する。
「オレにメリットが無い。そもそもオレが冒険者としてやっていけるか、強さを見るための試合だっただろ? 金ランクと対等以上にやり合えるのを証明したのに、これ以上続けるメリットはオレにないだろ?」
「だったら! だったら俺たちを倒すことが出来たら、なんでも言うこと聞いてやるよ!」
と言って、馬鹿はまた突っ込んでくる。もしかして、3人揃うと使える必殺技とかあるのか?
……が、何もなかった。ただ、さっきまでのやりとりに魔法と矢が飛んでくるようになっただけだ。なので、突っ込んでくる馬鹿は、今まで通りストーンピラーで対処。もともとオレ自身は大して何もしてなかったので、飛んでくる魔法や矢は普通に避ければいい。何がしたいんだ?こいつら。
さっきこいつは、倒せば言うことを聞くと言っていたが、こう言う奴はまた何かやらかすだろう。大体予想はつくがーーそれなら先手を打っておくか。
オレは今度は、ストーンピラーを馬鹿の顔面目掛けて撃つ。
「うぉっ」
馬鹿が仰け反って避けたのを確認した後、身体強化の魔法を使い接近、力を加減して腹に一撃をいれる。そして、襟元を掴んで遠くへ投げる。
周りの冒険者達は、巨体を軽々投げるオレに驚いているが、何故かオレに攻撃していた取り巻き2匹も驚いている。いや、お前らは止まるなよ。まぁ、丁度いいか。オレはもう一つの技を試してみる事にする。
取り巻き2匹に向かって構える。距離は15mぐらいか。そして、魔法を発動。一瞬で眼前に飛び、2匹の腹に手加減した一撃を食らわす。2匹はそのまま、崩れ動かなくなる。
「なっ!いま、何をした!?」
ギルマスが叫んでるが、やはり気づかなかったのか。
「あれもストーンピラーかよ……」
「えっ、マジで?」
ザインは気づいたようだが、エゾは気づかなかった。単純に自分の足の裏にストーンピラーを発動して、その勢いで跳んだだけだ。発動するストーンピラーの角度を変えれば色々できる。垂直にすれば真上に跳べるし、水平に近い角度にすれば、一気に跳んで距離を詰めることが出来る。今回は水平に近い角度で跳んで距離を詰めた。
「さて……」
取り巻き2匹は端の方にいたので、ちゃんと目標の位置に合わせて、歩いて移動する。
馬鹿はやっと起き上がり周りを見渡す。自分の取り巻きが倒されているのを見る。そして自分が投げられた事を理解したのか、更に激昂した顔で叫び出す。
「クソジジィがぁ! いい気になりやがってぇ! 」
やはり馬鹿か……。コイツは本能のままに、感情のままに動いている。まるで、そうまるで、
「まるでゴブリンだな」
「なんだと!?」
「相手の強さを理解できず、騒ぐだけ騒いだ上に戦いを挑み、1人では勝てないと見ると仲間を呼ぶ。そして負けるとまた騒ぐ。ほとんどゴブリンじゃねぇか?」
「ふざけるな!オレをゴブリン如きといっしょにするんじゃねぇ!」
「そうだな、ゴブリンは相手が強いとわかると、ちゃんと撤退する。それすらも出来ないお前はゴブリン以下だ」
オレの言葉に馬鹿は押し黙る。周りもシーンとしている。なんか、「そこまで言うか?」みたいな空気になっているが、こんな奴に遠慮なんてしてやる義理はない。
しばらくして、やっと馬鹿がこちらを睨みながら言う。
「ギザマ゛ァァァ!ゴロ゛ジデヤル!」
そう言うと馬鹿は予想通りに、アイテムバッグから自分の斧を取り出す。予想通りと言ったが、こっちが仕向けたと言った方が良かったか? まぁ、あの斧の特性はなんとなく理解出来る。その為にこの位置に移動したのだから。
「バカモン!こんな所でそれを使うんじゃない!」
ギルマスがかなり焦った様子で叫ぶが、馬鹿は聞こえていないのか、そのまま斧を振り下ろす。やはり、闘気と言えばいいのだろうか? 魔法とは違う衝撃波が地面を走り、こちらへ向かってくる。が、避けられない速さじゃない。オレはストーンピラーを足裏に発動させ、難なく飛び越える。
「うぉっ!」「バキッ!メキメキ!ドーン!」
という、叫び声と何かが壊れる音が後ろから聞こえてくる。まぁ、その為にあの馬鹿とギルマスのちょうど間に移動したのだ。
が、ちょっとやり過ぎたか? 建物の被害は考えてなかったな。馬鹿は衝撃波をオレに向かって何度も放っている。このままだと被害が増えるか。仕方がない、とりあえずあの馬鹿を止めるか。
オレはストーンピラーを駆使し、時には前、時には右、左と跳躍をしながら、衝撃波を避けつつ接近する。そして眼前まで行き、振り下ろしてきた斧をすれ違いながら避け、首裏に手刀を叩き込む。
よく漫画などで見るアレだ。アレの真似を、相手を気絶させる魔道具を使ってやってみた。まぁ、一度やってみたかっただけだ。実戦で使えるかどうかの確認も兼ねているが。馬鹿はそのまま意識を失い、倒れる。
「ふぅ、終わった終わった」
オレが後ろを振り返ると、ギルドの建物の壁が結構破壊されている。所々ストーンウォールがあるから防いだ所もあるみたいだが。まぁでも、ギルドの被害だけで済んだんだからいいか。近隣のほかの建物に被害があったらもっと大変だっただろうしな。
その後、ギルドの依頼に「ギルドの改修の手伝い」という依頼が出たとか出ないとか……。
ー ー ー ー ー ー ー ー
「で、ザイン。再戦したら勝てそうか?」
ニヤニヤしながらエゾのやつが話しかけてくる。ちくしょう!トーイの奴をけしかければ、アイツの強さや攻略法がわかるかも知れないと思ったのに、実際は逆だった。
前に戦った時も本気じゃなかったのは分かっていたが、ここまで実力に差があるとは思わなかった。
おそらくオレが斬りかかっても、ストーンピラーで攻撃を止められ、足元をすくわれ、まともに攻撃する事は出来ないだろう。唯一跳躍中に風の魔法を当てれば攻撃できそうだが、さっきのスピードに当たるのはかなり難しい。
しかも、アイツはまだまともに武器を振るっていない。魔法もストーンピラーしか使ってないんだ。なのにあの強さーーもし、他に魔法が使えるなら、100%俺に勝ち目は無いだろう。
いや、昨日グラスボアにストーンバレットを使っていたか。あのコントロールも凄かった。グラスボアの丁度反対側に、完璧な距離感で放っていた。
一体どうやったら、あそこまで正確に素早く魔法を使えるようになるんだ? 悔しいが、あいつと再戦するのはしばらくお預けだ。
ー ー ー ー ー ー ー ー
戦闘が終わったので、オレは再び登録カウンターへ戻ってきた。カウンターには、先ほどの受付嬢と何故かギルマスもいる。そして、周りには冒険者が集まっている。いい加減仕事しろよ。
「では、こちらが銀ランクのギルドカードになります。銀ランクは迷宮に入っていられる期間は2週間です。それ以上経つと資格は凍結されます。また、通常の依頼も1ヶ月以上受けなかった場合、資格が凍結され、半年、つまり5ヶ月以上依頼を受けなかった場合、資格が剥奪されます。」
そういえば、この世界は1年が10ヶ月だったか。1ヶ月が5週で1週間が7日。すっかり忘れてたな。
「資格が凍結した場合、それを解除するのにお金がかかります。更にランクに合わせた特殊依頼を受けて頂く決まりになっています。お金を払い、そして特殊依頼を達成して、はじめて凍結解除出来ますので覚えておいて下さい」
なかなか面倒臭い決まりだな。なるべく、凍結させないようにしよう。
「また、迷宮から一度出た場合、通常の依頼を受けなければ、再び入る事は出来ませんのでご注意下さい」
「なるほど、迷宮に入るのと依頼を受けるのを交互にする感じなのか」
「はい、冒険者に迷宮にばかり行かれても、通常の依頼が滞ってしまうので、このような形になっております。また、経験の浅い冒険者に深入りさせない為の決まりでもあります」
たしかに、新人冒険者が一攫千金を狙って深層へ行っても帰ってこない可能性の方が高いか。だから、迷宮探索期間が短いのか。銅ランクで1週間だから、低層しか回れないだろう。そうやって経験を積ませて冒険者を成長させているのか。
「ちなみに、金ランクにはどうしたらなれるんだ?」
「金ランクはギルドに何らかの功績を残さなければなれません。例えば、依頼を多数こなしてギルドの信用を得るとか、貴重な素材やアイテムを多数納めるとか、迷宮や魔物に関して新しい情報を提供するなど、ギルドに有益な人しか金ランクにはなれません。また、それ以上のランクは、複数のギルドマスターや国の推薦がなければなれませんのでご理解下さい」
「あぁ、わかった。それにしても、あんな馬鹿でも金ランクになれるんだな」
オレがそういうと、周りの冒険者達が笑い出し、受付嬢は笑いを我慢しながら目をそらす。ギルマスはこちらを睨んでくる。そういえば……
「そういえば、さっきあの馬鹿が倒したら何でも言うことを聞くって言ってたよな?」
「オマエ何をさせる気だ?」
オレの発言に、ギルマスが訝しげな表情をする。
「何でもいいだろ? あいつが自分で言ったことだし。それはここに居る冒険者全員が聞いていたんだから、無かったことにはできないだろう? それに、戦闘をけしかけ、不利になったら仲間を呼び複数人で攻撃し、更にギルドの建物や周りに居た冒険者に被害を与える。ここまでして何のお咎めも無しだったら、他の冒険者達に示しがつかないんじゃないのか?」
「うっ」
オレの言葉にギルマスは言葉を、詰まらせる。周りからは「そうだ、そうだ」「確かに」と言う声が聞こえてくる。
「わ、分かっている。アイツは1カ月の謹慎処分にする。そして、勝手に周りの人間にちょっかいを出さないように指導するつもりだ」
一応ギルマスの仕事はするみたいだな。それが表っ面だけかも知れないが……。
「あとはオレの言うことを一つ聞いて貰えばいいだけだな」
「なにを企んでいる?」
「大したことじゃねぇよ。オレが望んでんのは……」
直後、周りから爆笑が起こる。
「キサマ、本気か!?」
「あぁ、出来るよな?」
「あ、あの、でもそれは半年経てば戻せますけど……」
オレの発言にギルマスは驚き、受付嬢は効果期間を教えてくれる。だが、半年もかかるなら、かなりの嫌がらせになるだろう。
「あぁ、半年もあるんならそれでいい」
「クッーーわかった、そのようにしておこう」
最終的にギルマスも認めざるを得なかったようだ。まぁ、自分で何でも言う事を聞くと言ってしまったし、それを数多くの冒険者が聞いていたんだから、無かったことには出来ないだろう。
その後、受付嬢から依頼の受け方や依頼達成の報告の仕方を教えてもらう。
「あの、直ぐに依頼を受けられますか?」
「いや、この後は用事があるんでな。また明日にでも依頼を受けに来るよ」
「最初の依頼は、登録から1週間以内に受けなければいけない決まりになっていますのでご注意下さい」
「あぁ、わかった」
そう言ってオレはギルドを後にする。最初は面倒臭いと思ったが、魔法の練習も出来たし、冒険者としての情報も手に入ったし、銀ランクのカードも手に入ったしまぁ良かったか。そしてオレはそのままセイブンさんのお店に向かった。
ー ー ー ー ー ー ー ー
「いやぁ、凄かったな、今日の戦い!」
「あぁ、まさかあのトーイがあそこまでコテンパンにやられるとはな」
「まったくだ、いつも威張ってばかりだったから清々したぜ」
アイツが出て行ったあと、冒険者達が一斉に話し始める。ギルマスも既に居なくなっている。確かにあのトーイがあそこまで一方的にやられるとは思わなかった。
確かに斧の一撃はスピードこそ遅いものの、その威力や武器の大きさによる威圧感で、恐怖心を煽られるものだ。それを全く感じさせずに捌くなんて、今までどんな戦闘をしてきたんだ?
「しかし、ストーンピラーだけであそこまで戦えるもんかね?」
「あれは普通じゃないだろ。相手の動きより速い発動速度と、相手の攻撃にピッタリと合わせられる正確さがなきゃ出来ない。何か特別な魔道具でも使ってるのか?」
「それも凄かったが、あの跳躍もヤバかったな。あの距離を一瞬で詰められるなら、魔道士の立場が無いぞ?」
確かにあの距離を一瞬で詰められるなら、遠距離から攻撃できる魔道士の優位性が崩れる。
「あと、最後のトーイの連撃を避けたのも凄かったな。あのスピードで、右に左に動いて躱して、あっという間に接近してたからな」
アレはヤバイな。あの速度で攻撃を避けながら接近されれば対処が難しい。普通の魔法をつかっても避けられるだろうし、近づいてきたところを攻撃しようにも、かなり不規則な動きをしてたから、合わせるのは至難の技だ。対策としては、広範囲の魔法で迎え撃つぐらいだろうか?
全く、ストーンピラーだけでも厄介だと思っていたのに、高速で不規則に飛び回って、攻撃を避けるなんて、まるで、
「まるで猫かよ……」
ボソッと声が出てしまった。すると、隣にいたらエゾが
「猫か……。確かに猫っぽい動きだったな。そういや装備が黒一色だから、さしずめ『黒猫』ってところか?」
「黒猫か……。動きもそうだし、言動も読めないところがあるし、黒猫がピッタリだな」
俺はエゾの言葉に同意した。すると、周りの冒険者達も聞いていたのか、
「なるほど、黒猫か!」
「新人で、オッサンで、いきなり銀ランクの黒猫か……」
周りで黒猫、黒猫、と言いだしている。まぁいいか。俺のことじゃないしな。
冒険者達が話をしていると、いきなり
「ウルセェ!大人しくしてればいいんだろ!」
「まて!まだ話は終わっておらんぞ!」
奥からトーイとギルマスが出てくる。
相変わらず騒がしい奴だ。冒険者達はそんなトーイをニタニタとした笑顔で見ている。あぁ、この後のことは予想できるが、今までトーイがしてきたことを考えると自業自得だな。散々他人をこき下ろしてきた罰だ。
「なんだ?貴様ら。なにを見て笑っている?」
トーイのその言葉に、何人かは笑いを堪えられずに噴き出している。俺も危なく噴き出しそうになった。それを見たトーイは怒りで声を荒げながら、
「何を笑っている!この俺が誰だか分かってんのか!?」
「もちろん分かってるぜ?『ゴブリンの臭い息』のトーイさん?」
半笑いで言ったのは、トーイに負けないくらいの実力を持つ銀ランクの冒険者だ。周りでは更に噴き出す冒険者が増える。
「ーーもう一度言ってみろ!?」
「あぁ、何度でも言ってやるぜ?金ランクパーティ『ゴブリンの臭い息』のトーイさん?」
言った瞬間、周りの冒険者達が爆笑し始め、ギルドの職員や受付嬢も必死で笑いを堪えている。
「キサマァ!」
トーイが掴みかかろうとするが、相手の方が速い。さっと避けると、トーイはバランスを崩し、床に転がる。そこへギルマスがやってきて、頭にゲンコツを食らわす。
「いい加減にしろ!オマエの所為でどれだけ被害が出たと思っている!」
ギルマスが本気で怒っている。ギルマスは元々トーイの親父と同じパーティだったらしく、色々目をかけていたらしいが、今までは甘やかし過ぎていたんだろう。激怒しているギルマスを見て、トーイは珍しく大人しくなる。
「さっきも言ったが、オマエ達のパーティは1ヶ月の活動停止処分!その後、壊したギルドの修理費を一年以内に支払う事。そして、オマエ達のパーティ名は今日より『ゴブリンの臭い息』だ!」
ギルマスに殴られて少し冷静さを取り戻したのか、トーイは話を聞いて青くなっている。
「な、なんでそんな変な名前にしなきゃなんないんだよ!」
「オマエがあの男と変な約束をするからだろ!なにが俺を倒したら何でも言うことを聞くだ!そのせいでパーティ名を変更することになったんだぞ!」
更に、ギルマスの話は続く。
「そしてギルドの敷地内とはいえ、街中で龍神の斧を使う馬鹿がいるか!周りに被害があったらどうするつもりだったんだ!場合によっては捕まるかもしれなかったんだぞ!」
捕まると聞いた瞬間、トーイはビクッとする。そしてみるみるうちに顔が青ざめていく。
「仮に捕まらなかったとしても、ギルドカードは剥奪だ。今回はこれだけで済んだ事を有り難く思え!」
そう言って、ギルマスは戻って行く。それをポカンと間抜けな顔で見送ったトーイを見て、また周りから笑いが起こる。まぁ、今まで散々他人を馬鹿にして見下していた罰が当たったんだな。
しばらくして我にかえったトーイは、自分が笑われていることに気づいたが、流石に学習したのか暴れることはしなかった。が、体をプルプル震わせながら、
「貴様ら!覚えておけよ!」
そう叫んで一人で去っていった。
そういや、取り巻きの2人はどうしたんだ?
お読みいただきありがとうございます。




