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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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自分の生き方

 街に着いたオレたちは、手続きをして門の中へ入る。と言っても手続きが必要なのは、身分証がないオレだけなんだが……。


 門のところで、身分証を紛失した事、道中でセイブンさんたちに会い同行させてもらった事、セイブンさんがそれを肯定してくれた事で無事に街へ入れた。やはり大きい街だと身分証がないと面倒臭いな。


 街の中へ入った後は、まずセイブンさんのお店へ。道中、セイブンさんとロンソーさんが話し合っていたのだが、まずは店に行き、荷物を店の人に預け、そのあと国の警備隊の詰所へと向かう事になった。


 なんでも、詰所にはセイブンさんの顔見知りがいるらしく、オレたちだけで行くより、一緒に行った方が速く済むだろうとのことだ。さすが商人、顔が広い。


 なので、まず店に行き荷物を下ろす。オレも預かっている荷物を出す。その後セイブンさんは店員になにか指示を出してから、こちらに来る。ちなみにゼットのメンバーは、店に荷物を届けるまで護衛するのが依頼だったので、ここで依頼終了だ。

 ただ、今回は街へ着くのが遅くなってしまったので、セイブンさんの自宅で一晩お世話になるそうだ。今の時間から宿を探すのは大変だかららしい。手の空いていた店員に案内されて、店を去って行った。


 オレ達はセイブンさんと一緒に馬車に乗り、国の警備隊の詰所へと向かう。

 さて、どういう言い訳をしたら良いだろうか? どこの町の身分証を持っていたのか、とか、仕事はなにをしていたのか、とか、色々考えなければいけない事がある。


 と、思っていたのだが、そういう事は全然聞かれなかった。後でセイブンさんに聞いてみたところ、身分証の真偽や犯罪の有無は調べることが可能だが、それ以外は不可能だかららしい。

 どこの町の身分証を持っていたと言っても、それを調べるすべは無いし、旅人がどこでお金を稼いだかなんて調べようが無い。


 なので聞かれたのは、ロンソーさん親子がどの辺りで攫われたのか、そしてその後どのようなルートで連れていかれたのか。そして、オレはどこから、どのようなルートで盗賊のアジトに着いたのか、ということだった。


 しかし、ロンソーさんは馬車に閉じ込められていたし、オレも森を彷徨っていたことになっているので、具体的な場所がわからない。結局、ロンソーさんが攫われた辺りの森を調べてみるということになった。


 実際はオレが盗賊に襲われたのはもっと南だ。しかし、セイブンさん達には、北の魔霧の渓谷の入り口あたりから来たと言ってしまった。だからセイブンさんの知り合いの警備隊の人に悪いと思いながらも、今更言っていることを変える訳にはいかった。


 その後、商業ギルドへ赴き、今日手に入れたグラスボアの肉とフォレストウルフの素材、リーダーの肉の大半をセイブンさんに流してもらった。グラスボアの毛皮とリーダーの素材も欲しがられたが、利用価値がありそうなので取っておく。そして、残したリーダーの肉は今日みんなで食べることになっている。




「ようこそ、我が家へ」


 セイブンさんが笑顔で言う。そこは、かなり大きな邸宅だった。中へ入ると、使用人の人たちが「おかえりなさいませ」とセイブンさんに頭を下げる。おぉ、本物のメイドさんだ。

 オレがメイドさんに感動していると、女性が声をかけてくる。


「おかえりなさい、あなた、義父様、そしてミリィ」

「お母様!」


 ミリィが声をかけてきた女性に抱きつく。この人がミリィの母親でロンソーさんの奥さんか。


「大丈夫?どこも怪我してない?」

「はい、大丈夫です。そちらのヨシキ様に助けていただきましたから」


 ミリィの母親は、こちらを向くと頭を下げる。


「私はロンソーの妻のファムと申します。この度は娘と、そして主人を助けていただいてありがとうございます」

「いや、偶然通りがかったりだけだから気にしないでくれ」


 ファムさんは、目に薄っすら涙を浮かべながら、ミリィを抱きしめている。ミリィもファムさんから離れようとしない。先に案内されていたゼットのメンバーから話を聞いていたらしいが、攫われていた事も知らなかったので、かなり驚いたそうだ。オレはロンソーさんに


「家族でゆっくり過ごした方がいいんじゃないか?」


 と言ってみる。無事に会えたんだから、家族の時間を取った方がいいだろう。


「そうですね、それでは夕食の時間まで、家族で過ごさせてもらいます」

「あっ、あの、これお返しします」


 ミリィがグラスボアの毛皮を渡してくる。表情は少し残念そうだ。


「気に入ったか? もし気に入ったんならそのままプレゼントするが」

「えっ、良いのですか?」

「あぁ、今日もう一枚手に入ったからな。女の子に対して、色気のないプレゼントで申し訳ないが」


 オレが笑いながらそういうと、ミリィはとても嬉しそうにして、お礼を言ってきた。そしてファムさんに草原のとても良い香りがすると、笑顔で話している。それを見て、ファムさんもロンソーさんも幸せそうな顔をしている。


 その後、持っていたリーダーの肉をセイブンさんに渡すと、セイブンさんはメイドさんに今日の夕食で使うように指示を出し渡していた。


 そしてオレは、メイドさんに客室へと案内された。夕食の支度が出来たら呼びに来てくれるそうだ。


「ふぅ」


 オレはベッドに腰掛け、身体の力を抜く。こうして、一人きりになると勝手に始まるのが、自問自答だ。




 オレは何がしたいんだろうか。当初の目的は、身分証を手に入れて王都へ赴き、エリーゼ姫に生きていることを伝える為だった。だが、昨日今日とセイブンさん一家や冒険者達と過ごして、こういうのも悪くないと思っている自分がいる。


 そして何より、フォレストウルフリーダーが馬車に向かってきているとわかった時、オレは迷わず迎え撃ちに行ってしまった。あの程度の強さなら、冒険者でもきっと勝てただろうし、共闘する事も出来た。だがオレはミリィを不安がらせない為に迎え撃ってしまった。


 オレはどうしたいんだ? 人と関わらずに引きこもろうと思ってたのに、人と関わることを悪くないと思っている。平穏に生きるのを邪魔する奴をぶっ潰すと思ってたのに、他人の心の平穏の為に戦ってしまう。


 そして何より、昨日自問自答した時と違うのは、自分が満足していると言うことだ。ホント、オレはどう生きたいんだ? どう生きるのが一番良いんだ?


 オレが自問自答していると、コンコン、とノックの音がした。


「よお、明日のことで話があるんだが、今いいか?」


 ザインだった。まぁ、気分転換になるからいいか、と思い部屋の中へ招き入れようかと思ったのだが……。


「それは人に聞かれちゃマズい話か?」

「あ?いや、別にそんな事はないが……」

「じゃあ、どこか落ち着ける場所で話をしよう」


 オレは近くを通ったメイドさんに、どこか話をする場所はないか聞き、サロンへと案内してもらった。しかも、冷たいレモン水も出してもらった。さすがメイドさん。


「別にアンタの部屋でも良かったんだが……」

「それはオレが困る」


 そんな事を話してると、


「あら、二人ともどうしたの?」


 イザベラがやってきた。危なかった、ザインと二人で部屋にいたら、昼間の二の舞になるところだった。


「あぁ、明日俺たちは冒険者ギルドに依頼達成の報告に行くだろ? だったらついでに案内をしてやろうと思ってな?」


 そう言うことか。確かに場所を知らないし、案内をしてもらえるなら助かるな。


「たしかにそうね。冒険者登録するなら一緒に行った方がいいわね」

「そうだな、じゃあ頼むわ」

「そのかわり、昨日の素材はちゃんとセイブンさんに渡してね」

「あぁ、わかってる」


 3人で話をしていると、メイドさんが呼びにきた。夕食の支度が出来たらしい。


 夕食のメインは、フォレストウルフリーダーのステーキだ。グラスボアに比べて少し独特の臭みがあるが、それが良い方に作用していて、しかも肉の味が濃い。独特の風味と相まって、肉を食っている!と感じさせてくれる味だ。


 だが、なんだろう? 魔霧の渓谷で食べたシャドーウルフの方が肉の味としては上なんだが、この肉の方が美味しく感じる。周りをみると、セイブンさん一家もゼットのメンバーも嬉しそうに食事をしている。リーダー種の肉はなかなか手に入らないので、ご馳走だと喜んでいる。


 軽い雑談をしながら、そしてロンソーさんとミリィの無事を喜びながら食事は進んでいく。オレも軽く話しに参加し、楽しみながら食事をしていたが、心の中では別の気持ちが湧いてきていた。


 …………オレは寂しかったんだろうか?こんな風に誰かと食事をするなんて、王宮に居る時以来だ。それ以前は何年も人と食事なんてしていなかった。

 王宮ではオレは来賓扱いで、天落者というだけでもてなして貰えていたが、今回はオレが行動し人を助けその結果、繋がりが出来てもてなして貰えている。


 食事が終わっても考えはまとまらず、オレは外に出て夜風で頭を冷やすことにした。すると、


「どうしたのですか?」

「あぁ、セイブンさんか……」

「何かお悩みですか?」

「ん?どうしてだ?」

「いえ、食事をしている時から、なにか考えているような感じでしたので」


 そんなに顔に出ていただろうか?


「いや、ちょっと自分がどうしたいのかわからなくなってな……」


 不思議と素直に言葉が出てきた。今までは誰にも心の内側を見せようとは思わなかったんだが……いや、自分の本心を話せるような相手が1人も居なかっただけか。

 それ以外にも、実直なこの人の性格に好感を持っているのもあるのか。


「実はオレは仕事や人付き合いに疲れたんで、隠居して山奥でひっそりと暮らそうかと思っていたんだが……。何かこう、人と関わらずに生きていくのもどうかなと思っちまってな? 自分がどうしたいのか分からなくなってきちまったんだよ」


 オレが自分の悩みを打ち明けると、セイブンさんはニッコリと笑みを浮かべて、


「それでいいのではありませんか?」


 と言ってきた。どう言う意味だろうか。この人のことだから、決してバカにしている訳ではないだろう。


「私がヨシキさんの人生を決めることは出来ません。なので、明確に何が良いとは言えません。ですが、ひっそりと暮らす事と人と関わる事、この2つがヨシキさんに必要な事ならそれで良いのではありませんか? 答えは1つでは無いと思いますよ」


 セイブンさんはそう答えてくれた。そして、あまり遅くまで外に居ると風邪を引きますよ、とオレを気遣う言葉をかけて家の中へ戻って行った。


 しばらく外で考えていたがまとまらず、肌寒くなってきたので部屋へ戻ることにした。


 セイブンさんはどういう意味で言ったのだろうか? 山奥でひっそりと暮らしていたら、人とは関わることはできない。逆に人と関わりながら生きていれば、ひっそりと暮らす事は出来ない。


「ふぅ、どうせなら人と関わりながら引きこもれれば良いんだが……」



 と、ふと気づく。オレは何故、1つに決めようとしているのだろうか? 引きこもりたい時には引きこもればいいし、人に会いたくなったら会いに行けばいいのではないか? セイブンさんが言っていたのはこう言うことか。


 何故、オレはどちらか1つに決めようとしていたのか。何故オレは選択肢は1つしか無いと思っていたのか……。


 …………


 …………


 …………!


 そうかーー過去の経験か!


 過去の嫌な記憶が頭の中に蘇ってくる。


 自分にとって都合が良いのが正しくて、悪いのは間違っているという奴らや、自分の意見を聞く奴は正しくて、反論する奴は間違っているといった奴ら。


 一番大きいのは、正しいのは当たり前、間違えたら強く怒り叱る両親の影響だろうか?


 そうか、思えばオレの周りにはそういう極端な考えの奴が多かったな。だから、オレも正しいか間違っているかの二つでしか考えられなくなっていたのか。対人運が全くなかったんだな、オレは。


 たが、だからといってオレまでそんな極端な人生を送る必要はない。今が人と関わるのが心地いいのなら、そうすればいいし、人と関わるのに疲れてきたら、また引きこもればいい。それに、今出た答えが必ず良いとは限らない。もしかしたらもっと良い答えが出てくるかもしれない。


 きっとオレは自分で引きこもると決めたことに、縛られていたんだろう。だからそれ以外の選択肢はダメだと思い込んでいたのだろう。


 しかし、ミリィやロンソーさんを見捨てられなかったのもオレの本心だ。山田さんの手紙にあった自由に生きるという事は、きっと心のこともあるのだろう。


 そして、もう一つ気づいたことがある。それは強さだ。自由に生きていくには、きっと理不尽な事もあるだろう。理不尽な暴力を振るう奴も出てくるだろう。そういうものから自分を、そして周りの人を守るためには強さが必要だ。


 この世界は強さがあれば、食いっぱぐれる事は無い。そして、食うのに困らなければ、日本にいた時のように、職もお金もなくて自殺するなんてことにはならないだろう。


 多分、オレは強くなった。ゼットのメンバーと比べてもオレは強い。たがしかし、意味なく強さをひけらかすような人間にはなりたく無いし、誰でも彼でも助けるような聖人君子にもなりたくない。盗賊のように助けたいと思えない奴らもいるからな。だから……


 オレは自分の考えを、頭の中でまとめた。


 ・自由に強く生きる

 ・人に関わりたいと思ったら関わるし、関わりたいと思わなかったら関わらない

 ・助けたいと思った人は助けるが、助けたいと思えなかったら無理に助けない

 ・引きこもりたくなったら引きこもる

 ・無闇に強さをひけらかさない

 ・理不尽に負けないように強く在る


 うん、こんな感じだろうか。まぁ、上手くいかなかったら、その時また考えて変えていけば良い。セイブンさんが教えてくれたように、生き方は一つじゃないし、無理に決めつける必要もない。


 頭の中がスッキリした。これなら今日はいい夢が見れそうだ。まぁ、また悩むことがあるかもしれないが……。


 そう思いながら、オレは眠りに就いた。


 あぁ、明日セイブンさんにお礼を言わなきゃなぁ。













お読みいただきありがとうございます。

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