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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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研究所の把握

「さて、まずはこの研究所を調べないとな」


 引きこもる事を決意したオレは、研究所の中を調べることにした。まずは食料庫からだ。オレは昨夜入ってきた入口とは別のドアから通路に出て、手紙に入っていた見取り図に従って移動した。


 移動している最中、心が少し軽くなっていることに気付く。引きこもる事を決心したおかげだろうか?

 よく考えたら、他人と関わるから騙されたり辛い目にあったりするんだ。なら、他人と関わらなければ、そう言う煩わしさは起こらないと言う事だ。

 他人との煩わしさがないと言う事で、ここまで心が楽になるなんて……。オレは昨日より軽い足取りで、食料庫へ向かった。


 食料庫は大体4畳半ぐらいの部屋で、床には半畳ほどの大きさの魔法陣がいくつか描かれていた。入り口には、山田さんの説明が書いてある。


『魔法陣の中は時が止まっています。人が部屋へ入ると魔法陣は止まり、人が部屋から出ると魔法陣は作動します』


 丁寧な説明ありがとう、山田さん。食料庫の中には、小麦の入った袋が4袋。玉ねぎやジャガイモなど根菜がたくさん、葉物野菜もたくさん、果物もたくさんあった。それぞれが別の魔法陣の上に乗っているので、おそらく種類ごとに分けて用意してくれているのだろう。


 次にキッチンへ向かう。キッチンには火の魔石を使ったコンロが2つ、水の魔石を使った洗い物用と飲み水用の蛇口が1つづつ、そしてテーブルと椅子が置いてある。


 テーブルの上にキッチンの使い方が書いてある紙が置いてあった。そうだった、水は魔法で出しても一定時間で消えてしまうんだった。そのための飲み水用の魔道具の蛇口か。


 そして、肉類は食料庫にはなかったが、自分で狩って捌いて欲しいと書いてある……。イヤイヤ、あの魔物達は普通に戦っても勝てないでしょ? そう思ったら、そのためにまとめた本があるから、是非読んで欲しいとかいてあった。


 まあ、取り敢えず読んでみて、出来そうだったら倒して、無理だったら野菜だけでもいいか。


「あとは、トイレと緊急脱出路の確認をしておこう」


 そう思ってトイレを確認し、緊急脱出路へと向かう途中、見取り図には書いてない扉を見つけた。


「……ここは?」


 オレは扉を見てみる。取っ手は見当たらない。もしかして、この研究所に来るために通った扉のように、魔法の属性が関係しているのだろうか?


 オレはゆっくりと体に4つの属性の魔力を纏わせていく。

 が、扉は全く反応しない。試しに扉を押してみる。が、扉はビクともしない。何だろう? とても気になる。


 オレは扉を調べてみる。と、扉ではなく、壁の一部が材質が違うことに気付く。丁度手の平と同じぐらいの大きさだろうか? 壁と同じ色だから最初は気づかなかったが、どうやら魔石と同じような感じの材質だ。


 オレはそこに4つの属性の魔力を流してみる。が、魔力が流れる感じはするものの、反応はない。

 もしかして、属性が違うのか?オレは火、水、土、風の属性を組み合わせて、色々やってみる。しかし、扉は全く反応しない。


「あとは、光が闇か、もしくは属性無しか……」


 取り敢えず、光の属性を込めてみる。光の魔法は難しくて、今のところライトしか使えない。なのでライトの魔法を使うような感覚で魔力を込めてみる。すると、


 フッ


 と扉が消えてしまった。なるほど、能力が低いと開かない扉があると手紙に書いてあったが、ここは光の属性を使えないと開かない扉だったのか。


 オレは折角扉が開いたので、中に入ってみることにする。中は6畳ぐらいの部屋で、壁には見取り図のような図面が書いてあり、所々に白い魔石が埋まっている。


 そして机が見取り図の前に置いてあり、その上には占い師が使っている水晶と同じくらいの大きさの白い魔石が置いてある。もちろん予想通り、そこには山田さんからのメッセージも置いてあった。




『あなたは光の属性も使えるようですね、おめでとうございます。

 ここは光の魔力を使って、この研究所の全てを把握できる管理室です。研究所の周りや、上層部の様子を監視することができます。


 大きい魔石は全てを一度に把握できますが、慣れるまで大変でしょう。壁の見取り図の魔石は、その場所を見ることしかできませんが、負担は少ないはずです。是非ご活用を』



 そして、机の引き出しの中には、この研究所の詳しい設備の説明書が入ってあった。これは運がいい。説明書には、山田さんの手書きの見取り図よりも正確に、全ての部屋とその特徴が描かれてあった。そして地上の遺跡部分、上層部へと移動できる通路や魔法陣の存在も書いてあった。


 やはり本当は、上層部の遺跡の秘密の通路からこの場所へ来るのが通常の方法なのだろう。オレが落ちた落とし穴は、4つの属性に反応して、敵を落としたり、自分が逃げるために使うものだったらしい。


 まぁ取り敢えず、試しに上層部の様子を見てみるか。

 オレは見取り図を眺める。おそらくここが、上層部の遺跡の入り口だろう。とすると、おそらくこの部屋が、捕まっていた部屋だろう。オレはその部屋の魔石に触れ、光の魔力を込める。すると頭の中にその部屋の様子が伝わってくる。


 部屋の中は明るく、小さい窓からは陽の光が入ってきている。朝だろうか? 部屋の中には誰もいない。


 オレは次にあのボスのいた部屋を確認してみる。本当は見たくないのだが、身の安全に関わってくるため確認しなければならない。オレが死んだと思ってくれていたらいいのだが……。


 だが、予想に反して部屋の中には誰も居なかった。外だろうか?オレは見取り図を確認して、研究所の周りを確認できる場所の魔石に魔力を込めていく。


 何箇所か確認して、盗賊たちが居たのは遺跡の入り口から少し離れた、広場のような場所だった。そこで盗賊たちは朝食を食べているようだが、音声がないため状況が把握できない。


 ……この大きい方の魔石を使ってみるか?


 試しに、椅子に座り魔石に魔力をこめてみる。すると研究所内の全ての映像が、頭の中に一気に流れ込んでくる。


「ウァッ!」


 変な声を出して、魔石から手を離してしまう。確かにこれは負担が大きい。しかし、状況の把握はしておきたい。盗賊たちが上層部に住み着いていると、安心して引きこもれないからな。


 オレは、今度は少しずつ魔力を込めてみる。うん、流れ込んでくる映像もゆっくりで負担は少ない。その状態で、盗賊たちがいる広場に意識を集中してみる。徐々に映像がしっかりしてくると同時に、話し声が聞こえてくる……。




『……と言うわけで、あいつが落ちた穴はかなりの深さがあった。生きてる可能性はほぼ無いだろう。一緒に落ちた2人には通信の魔道具を持たせていたが、連絡はない。だからあの2人もダメだろう。』


『それじゃあボス、俺たちはどうするんです?』


『本部の連絡待ちだ。任務は失敗だし、昨日逃した馬車から俺たちの情報が流れるだろうから、撤収の可能性もあると思っておけ』




 ……なるほど、このまま撤収してくれたらありがたいな。取り敢えず、上層部の様子は定期的に確認していくことにしよう。そう決めて、オレは部屋を出る。そして、緊急脱出路を確認せずにキッチンへ向かう。盗賊たちが飯を食っているのを見て、お腹が空いてきたからだ。


 しかし、キッチンで食事を作ろう思った矢先、オレは重大なことに気がついた…………。



「調味料がねぇ…………」




お読みいただきありがとうございます。

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