表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
30/87

先人の手紙

 オレは改めて手紙を見る。確かに日本語で日本人の名前だ。


 タイチ・ヤマダ……山田 太一


 オレはゆっくりと封筒を開ける。

 中の手紙はこの世界の言葉で書かれた。オレは手紙を読む。


  ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎


 〜この部屋にたどり着いた人へ〜



 ここは私が魔法や魔力の研究をし、私が晩年を過ごした場所だ。

 私はこの世界とは違う世界から落ちてきた。そして、何故だか分からないが、魔法の才能を与えられ魔法や魔力の研究に勤しんできた。


 だが、中には一般に公開出来ないような内容の研究結果も出てきてしまった。しかし、努力して得た結果を消してしまうことは私には出来ない。

 なのでこの場所に、公開した研究も含めて、全ての研究結果を残そうと思う。


 あなたはどの様にして、この場所にたどり着いたのだろうか?

 上の研究所から入ってきたのだろうか?

 それとも魔霧の渓谷を彷徨って、偶然見つけたのだろうか?

 もしくは研究所のトラップで、たどり着いたのだろうか?


 なんにしろ、この場所には最低でも4つの基礎属性を満遍なくつ使えなければ入れない。

 なのでこの場所に入れたあなたは、魔法の才能がある。


 おめでとう!


 あなたがどのような人なのかは、私には分からない。

 世のため人のために活動する善人だろうか?

 それとも犯罪を犯す悪人だろうか?

 もしかして、私と同じ様に、他の世界から来た人だろうか?


 私は、あなたが悪人ではない事を祈っている。

 そして、この研究結果を後世に役立てて欲しい。危険な研究結果を、私に代わって処分して欲しい。


 私の研究が、世界に生きる人々の笑顔につながる事を願って……。



 タイチ・ヤマダ





 追伸

 この場所と、ここにあるものは好きに使って下さい。

 ただし、あなたの能力が低いと、開かない部屋や使えない魔道具等もあるので、お気をつけて……





 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



 ……そういえば、なにかの本に書いてあったな。魔法の適応能力を持った天落者が、魔霧の渓谷へ向かったきり行方不明になっていたって……。


 とりあえず、この場所は安全なのだろう。なので有り難く使わせて貰おう。


 ありがとう、山田さん。


 心の中で山田さんにお礼を言い、封筒に手紙をしまおうとしたとき、


「ん?まだ手紙か入っている?」


 封筒には二枚の紙が残っていた。その内一枚は、日本語で書かれた手紙だった……。



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎


 これが読めるということは、あなたは日本人なのだろう。もしくは、同じ地球から来たのだろう。


 あなたがどの様な経緯でこの世界に来たのかは分からない。だがこの世界には、地球に戻る方法がある様だ。


 私も地球に戻る方法を探そうか考えたが、地球での生活よりこちらの世界での生活の方が充実していたので、帰らないことにした。この世界に大切な人が出来たのも理由の一つだ。


 もしあなたが、地球に戻らなければならない理由があるのならば、是非、探して欲しい。諦めないで欲しい。


 そして、もし戻る必要が無いのだったら、この世界を楽しんで欲しい。心のままに生きて欲しい。この世界は地球より自由に生きることができると思う。

 私自身がそうであった様に……。



 それでは、同胞の未来に幸多き事を願って……。



 山田 太一



 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎



 ……山田さん、気遣いありがとう。目頭が熱くなってくる。元の世界に未練は無いが、心の片隅に留めておこう。もしかしたら、この世界から逃げ出したくなることもあるかもしれない。


 そう思ってから、オレは封筒の中のもう一枚の紙を見てみる。それはこの場所の簡単な見取り図だった。


「きっと、優しい人だったんだろうな……」


 見取り図を見て、そう思った。そこには、食料庫にはある程度食料があること、水や火もきちんと使える場所があること、空調の管理も出来ていること、緊急脱出路も用意してあること、そして、それらが魔法で全て保全されていることも書いてあった。


 オレはベットに腰掛け、ふぅ、と息を吐いた。涙が溢れてくる。

 今はもういない先人の、優しさが心に染みたからだろうか?それとも、緊張の糸が解けたからだろうか?


 オレはベットに横になる。今日は本当に大変だった。

 休憩中に盗賊に襲われ、目の前で人が斬られ、馬車には置いていかれる。

 盗賊に捕まり、身分証も取られ、さらに盗賊のボスに迫られる。

 そして、落とし穴に落ち、目の前で巨大な魔物の捕食が繰り広げられ、今に至る。


 オレ、よく生きてたなぁ……。今日だけで、何度死にそうな目にあったか分からない。盗賊に殺されていたかもしれない。落とし穴で死んでいたかもしれない。魔物に食い殺されてたかもしれない。


 オレは運が良かった……のか?いや、よく考えたら、危険な目に遭っている時点で運は良くないな。というか、今まで運が良かった事なんてあっただろうか?


 ……両親のこと。

 ……学校でのこと。

 ……バイト先でのこと。

 ……就職した店でのこと。

 ……転職中の面接でのこと。


 ガバッ!


 オレはベットから起き上がる。

 ダメだダメだ!どうしてもネガティブな事しか考えられなくなる。オレの悪い癖だな。どうしても物事を悪い方へと考えてしまう。


「ふぅーーーーっ」


 深呼吸をしてみる。他に今考える事、今オレがやるべき事はあるか?


 考えてみる。と、


「そういえば、いつから自分のことをオレって呼んでた?」


 いつのまにか、一人称がオレになっていたことに気付く。


「そういえば、昔はオレって言ってたなぁ」


 逆に、いつから自分のことを、私と言うようになったんだろう。


 しばらく考えたが、全然思い出せない。


 ……まぁいいか。取り敢えず、今日はもう寝てしまおう。これからのことは、明日起きてから考えればいい。


 オレは再びベットに横になり、目を閉じる。すると、部屋の明かりが徐々に暗くなっていく。


「便利だな」


 そう思いながら、オレは意識を沈めていった。


 ……


 ……


 ……


 ……


 …………なんで、なんでオレがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ?


 暗い部屋の中、頭にに浮かんでくるのは、そんな思いだった。一生懸命考えないようにしていたのに、まぶたの裏に今日の光景が浮かんでくる。


 血飛沫をあげて倒れる馬車の乗客、周りを取り囲む盗賊たち、迫ってくる盗賊のボス、落とし穴を落下している時の浮遊感、目の前で盗賊の死体を運ぶ巨大な蟻、3mもの巨体の魔物……。


 オレは、オレは普通に生きたいだけなのに、何でこんなに悲惨な目に遭わなくちゃいけないんだ!


 日本にいた時も悲惨だった。学校ではイジメられ、親は仲違いで家庭内別居状態、職場でも差別され、勤務先は潰れて転職はことごとく失敗。


 何で何もかも上手くいかないんだ!?

 普通に真面目に生きちゃいけないのか!?

 どうしてオレの周りには、ヒドい奴らが集まってくる!?


「もう、もう嫌だ……」


 どんなに平静を装っても、どんなにポジティブな事を考えようとしても、どんなに強がろうとしても、頭から、心から不安が消えていかない。涙が止まらない。


 オレはベットの上で丸くなり、ずっと泣き続けてしまった。


 ……


 ……


 ……


 ふと、眼が覚める。いつのまにか寝てしまっていたようだ。思いっきり泣いたせいだろうか? 昨日よりは、頭がスッキリしている。そして、ふと、口から出たのは


「もう、どうでもいいや……」


 そんな言葉だった。

 結局、みんな自分のことしか考えてないんだ。

 自分さえ良ければそれでいいんだ。

 だから、だったら、


「引きこもろう……」


 オレが出したのは、そんな答えだった。

読んでいただきありがとございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ