女神の涙
「ふぅ……」
王様達が出て行った後、1人になった私は考え込んでいた。死んだはずだったのに、異世界に落ちてきてしまったからだ。
それに、あの大臣の言ってた女神……。多分、私が会ったあの娘のことだろう。
私は、あの不思議な空間で出会った少女のことを思い出していた。
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「待ってください、そのままだと死んじゃいますよ!?」
ピンク色の光に包まれた瞬間、そんな声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?痛くないですか?苦しくないですか?」
光の中から突然現れた少女は、そう言いながら両手を祈るように合わせて目を閉じた。すると、両手の中に白く柔らかい光が生まれ、その光か私に当たると痛みがどんどん引いていった。
「えっ?」
私は驚いて、その少女を見た。
年の頃は20歳前ぐらいだろうか?少し童顔で、身長もそんなに高くない。ピンク色の綺麗な髪に、絵画や神話に出てきそうな、白い衣服を身につけていた。あと白い羽も見える。
私も若い時に結婚していたら、こんな娘が出来ていだだろうか?
……いや、無いな。結婚どころか彼女の「か」の字も無かったし、応援してくれる友達も居なかったし、なにより、夢破れて生きるのに必死だったんだから……。
それ以前に、見た目の所為か、小さい頃から女子には嫌われまくってたし、周りからもイジメられてたし、大人になってからも、それらはあんまり変わらなかったし……。
まぁそれ以外にも、何もかもうまくいかなかったから自殺した訳だしね……。
こっちがそんなことを考えてるなんて知らない少女は、白い柔らかな光を止めると、
「それじゃあ、怪我の方も治しちゃいますね?」
少女はそう言って、今度はピンク色の光を手の中に集め始めた。
「……いや、いいよ」
私はそう答えた、というか、いつのまにか、そう言っていた。
「えっ?で、でもそのままだったら死んじゃいますよ!?」
おかしな話だな、死んだ後の世界で死んじゃうなんて言われるなんて……。もしかしたら、魂が消滅してしまうってことかもしれない。まぁいいか、これで楽になれるなら……
私は、少女に言った。
「私はもう、十分に生きたよ。と、言うより、生きることに疲れたんだ……。だからもうこのままで……」
「そんな!生きていれば、辛いこともあるけど、楽しいことも沢山あるじゃないですか!?」
「無いよ、楽しいことなんて……」
楽しいことは、確かにゼロでは無いのかもしれない。仕事後のビールが旨いとか、休日の二度寝が幸せだとか。
でも、それを上回る大きな不幸が重なった時、その小さな楽しみは無意味なものに感じてしまう。
それ以前に私の場合は、生きること自体が困難になってしまったからなぁ。
「そ、そんな……」
私が心の底から絶望しているのを感じたのか、少女は泣きそうな顔をしながらこっちを見ている。
もしかしたら、私みたいな人は初めてなのかもしれない。
「だから、私の事は放っておいていいから……」
少女は泣きそうな顔をしたまま黙っていたが、暫くして、
「何が、何がいけなかったんですか?」
と聞いてきた。
……なんだろう。何がいけなかったんだろう。私はゆっくり考えてみる。
まず容姿、気持ち悪いってよく言われてたっけ。
それから家庭環境、両親とも、家にほとんど居なかったから、でも容姿や家族は生まれた時に決められてるから変えようもないよな。
あとは、クラスメイト、職場の上司、同僚、後輩……。
ああ、今改めて思い返すと、人間関係がうまくいってなかったんだなぁ。
子供の頃は真面目で、でも気が弱くて、いつもビクビクしてて、他人を避けるような子だった。
学生時代は、不真面目なのが嫌で、悪ノリやふざけたりも一切しなくてクラスで浮いてたっけ。オタクだったこともあって、友達は少なかったし。
就職してからも変わらず、不真面目な奴らとは合わなかくて、飲み会でもノリでやるゲームなんかは嫌いで、それで誘われなくなったんだっけ……。
そうか、私は真面目に生き過ぎたのかもしれない。
もう少し他人に合わせて、ノッたりふざけたりして遊んでたら、少しはマシな人生だったかもしれない。
はぁ、死んでから気づくなんて遅すぎだよなぁ……。
私はゆっくりと口を開く。
「私は、人や周りに合わせることが出来ない生真面目すぎる人間だっだ。多分それかな、悪かったのは……」
それを聞いて少女は、少し考えた後、
「もし、人や周りに合わせることが出来たら、上手くいってましたか?」
「……上手くいってたかどうかはわからない。けど、きっと今より良かったと思うよ。でも、もう終わったことだから」
と答えた。
ふぅ、長く考え話していた所為か、凄く疲れてきた。ふと少女を見てみると、涙を流してこっちを見ていた。
ああ、なんだろう。自分の為に涙を流してくれるのが、こんなにも嬉しくて、幸せな事だったなんて。
そういえば、私は他人の為に涙を流した事はなかったなぁ。
そう考えていると、徐々に意識が遠くなって来た。そろそろ終わりが近づいてきたらしい。
私は近くに来た少女の頭を撫でて、
「ありがとう、泣いてくれて。最後に君のような娘に会えてよかったよ」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って!まだ、まだ最後じゃないから!」
そんな泣き顔で慌てる少女を見ながら、私はゆっくり瞼を閉じた。
「もう……終わりでいいんだ……」
そして、俺の意識は沈んでいった………。
主人公は「トラウマの塊」設定です。