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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
28/87

盗賊と転落

思ったより長くなりました。

朝、まだ明るくなる前に目を覚ます。今日の駅馬車は、日の出過ぎに出発予定だ。なんでも次の街までの距離が結構あるらしく、日の出ごろに出発しても到着するのは夕暮れ過ぎらしい。


荷物を持って1階へ降りると、食堂で簡単な朝食ができるみたいだ。


「ありがとうございます」


「なに、フォード方面に向かう人は結構居るからね、いつものことだよ」


私がおかみさんにお礼を言うと、そう返されてしまった。それなら、有り難く頂くことにしよう。


朝食を食べ、改めてお礼を言ってから宿を出る。入ってきたのと逆の門へ行くと、すでにいくつかの馬車が停まっていた。

さて、旅の二日目の始まりだ。



二日目の旅も順調に進んでいた。が、異変が起きたのは昼過ぎだった。

馬車での移動は長時間になる。なので、途中で休憩のために何度か停車する。その時に、身体をほぐしたり、軽く食事をしたり、草むらや岩陰で用を足したりするのだが……。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!」


突然、叫び声が聞こえた。声が聞こえた方を見ると、


「と、盗賊だぁぁぁっ!」


男が叫びながら、こちらへ走ってくる。たしか、岩陰に用を足しに行っていた人だ。その後ろから、10人ほどの覆面で顔を隠した男たちがこちらへ向かってきている。

とっさに背負い鞄を魔法庫の中にしまう。


おかしい……。この街道は人や馬車が多く走っているので、治安維持に力を注いでいると聞いていた。にもかかわらず、盗賊が出るとは。


しかし、実際に出てきたのだから、どうしようもない。とりあえず、追いかけられてる人を助けなければ。


「ウインドバレット!」


私は魔法を、一番先頭の盗賊に向けて放つ。が、魔法が盗賊に当たる直前、かき消されてしまった。


「えっ?」


思わず動揺してしまう。今までこんなことは一度もなかった。その間に、盗賊に追いかけられていた男は、追いついた盗賊に背中から斬られてしまう。



目の前で人が斬られる……。

真っ赤な血飛沫が飛び散る……。

斬られた男はそのまま動かなくなる……。



目の前で起きたことがあまりにも衝撃的で、一瞬我を忘れてしまう。


「ひぃぃぃっ!」


その声に我を取り戻したが、遅かった。なんと馬車が走り出してしまったのだ。


「なっーーちょ、ちょっと待ってくれ!」


慌てて馬車を追いかけようとしたが、体が鉛のように重い。目の前で人が斬られた所為だろうか? うまく走ることができないーー。結局、馬車は止まってくれず、私は立ち止まるしかなかった……。



が、呆けている場合ではない。私は心の中の恐怖を振り払って後ろを振り返る。盗賊たちはゆっくりと近づいてくる。他に人はいない。あるのは斬られた男の死体だけた。


他の乗客は馬車に乗ったのだろうか? おそらく、私が男を助けようとしている間に乗り込んだのだろう……。


私は自惚れていたのかもしれない。魔物を簡単に倒せるようになったから、調子に乗っていたのだろう。しかし、実際に戦闘に遭遇した今なら分かる。人が死に、自分が死ぬかもしれない状況というのは、思った以上に心を縛る。遠距離から魔法で魔物を倒していた場合と全く違う。


今頃気づいても遅かったが……。


緊張のせいか、口の中が乾いてくる。目の前に死が迫ってきているからだろうか。が、盗賊たちは私を取り囲むように立っただけで何もしてこない。


襲ってこない? 不思議に思っていると、一際体格のいい男がやってきて、私に話しかけてきた。


「貴様、名前は?」


「ヨ、ヨシキです……」


私は素直に答えた。もしかしたら、助かるかもしれないという考えが頭をよぎる。


「そうか、貴様が……。大人しくするなら命は取らない。もし出来なければ、あちらの仲間入りだ」


そう言いながら、男は最初に斬り殺された男を指差す。


「わ、わかった……、大人しくしよう」


私は震える声でなんとか言う。そうすると、盗賊の1人が私の首に首輪のようなものをはめ、手を後ろで縛ってきた。


そして、盗賊たちは最初に出てきた方向へ、私を引っ張っていった。



◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎


2時間ぐらい歩いただろうか……。私は森の中にある遺跡のような場所へ連れてこられた。その間に、違和感を感じたが、取り敢えずされるがままにしていた。


遺跡のような場所についたら、ボディチェックを受ける。荷物は魔法庫の中に入れてしまい、手ぶらなので怪しまれるかと思ったが何も言われなかった。おそらく、馬車の中にあったと思われたのだろう。

結局取られたのは、胸ポケットに入れておいた身分証だけだ。


私は腕を解かれると、そのまま部屋の中へ監禁されてしまった。場所は結構奥の方だろうか? 人の頭ほどの穴が壁に空いていて、外の景色が見える。


部屋の中には2×1mサイズの段が壁際にある。ベットの代わりだろう。私はそこに腰掛け、考える。


そう、私は今、とても落ち着いている。目の前で人が死に、自分が死ぬかもしれない状況が先程あったと言うのに……。この感じは、初めて魔物を倒しに行った時に似ている。さっき感じた違和感は、おそらく今の状況に慣れ始めている、ということなのだろう。


あの時は、生き物と戦うことや殺すことに慣れてしまった。と言うことは、今度は人と戦い殺すことに慣れてしまうのだろうか?


怖い気持ちはある。しかし、このまま奴隷にされたり、殺されたりするよりはマシなのではないかと言う気持ちもある。


…………取り敢えず、現状確認からしていこう。今の自分の状況、周りの状況を把握すれば、自ずと取るべき行動が見えてくるかもしれない。


まず、自分の状況だ。私がつけられた首輪、おそらく魔封じの首輪だろう。魔道具図鑑という本で見た記憶がある。たしか、魔法を使えなくする魔道具だった筈だ。


試しにウインドバレットを使ってみるが、そよ風すら起きない。ウオーターバレットも使ってみるが、水一滴も出てこない。私は武器の練習はしてこなかったから、魔法が使えないと戦えないだろう。


そう思っていたのだが、思わぬことで解決することになった。


「…………魔法庫に入るのか」


私はあっけに取られてしまった。魔法を封じられているので、魔法庫も使えないと思ったのだが、使えてしまった。

首輪をしたままでも物が出し入れできるし、首輪自体も出し入れ出来てしまった。


「一つ目の問題は解決したか……」


さて、もう一つ確認しなければならないことがある。それは、首輪をつけた状態で他の能力が使えるかどうか。

森の中で手に入れた、敵の気配を察知する能力や自分の気配を消す能力、遠くの声を聞く能力などだ。


結論から言うと、これらの能力は首輪をした状態でもつかうことができた。ついでに気配を探してみると、この場所には20人ぐらいの盗賊がいるようだ。また、捕虜のように捕まっている人はおそらく居ないだろう。理由は、一つの場所から動かない気配がなかったからだ。


あとは敵の能力だが、魔法の効果を消したのは、おそらく私がエリーゼ姫にプレゼントしたペンダントのような魔道具の効果だろう。であれば、広範囲の魔法や直接攻撃、ウォール系の魔法にぶつけるなどの方法が取れるかもしれない。


そして敵の強さだが、一番強いのが一際体格のいい男で、あとは似たり寄ったりだ。これも気配察知で気配の強さを感じてわかったことだ。便利な能力だ。


「それにしても……」


うん、思考能力も上がっている。今どういう状況なのか、今何をすればいいのか、どうすればいいのか、それらがすぐ思い付くし、答えが出るのが早い。

まあ、思いついたのが最善ではないのかもしれないが、それでも答えが出るまでウジウジ悩む必要がないのは、精神的に良い。


さて、考えがまとまったところで、一休みしよう。脱出するとしても、夜遅い方がいい。周りが寝静まるまで待ってから、壁に魔法で穴を開けて、気配を遮断しながら逃げればおそらく逃げ切れるだろう。

私は魔封じの首輪をつけたまま、横になった。



しばらく休んでいると、盗賊の1人が食事を持ってきてくれた。といっても固いパンに、野菜が少しだけ入った塩味しかしないスープだけだが。いつのまにか夜になっていたようだ。


取り敢えず、情報収集の為に話をしてみる。


「私はこれからどうなるんですか?」


「さあな、大方隷属の首輪をつけられて、売られるんじゃないか?」


隷属の首輪ーー奴隷の首輪より厄介で、自分の意思がほとんど出せなくなる首輪だ。操り人形になるといってもいいぐらいの代物で、確か古代文明の遺品だったか。

なるほど、この盗賊団はそう言うツテがあるのか。


「ここは遺跡みたいですが、なんの遺跡なんです?」


「さあな、数十年前の大魔法使いが建てたって話だったが、何にも残ってなかったからな。大方一時的に住んでいたか、研究資料を持ち出した後なんじゃないか?」


なるほど、大魔法使いが使っていたのか。なら、魔法で壁に穴を開けられるか、確認しなければ。魔法防御が高かったら、逃げられないかもしれない。


「何故、荷馬車じゃなくて、駅馬車を狙ったんですか?」


「さあな、俺ら下っ端は言われた仕事をしているだけだからな。大方あんたが高く売れる要人とか、その関係者なんじゃないのか?」


うん? 何か引っかかるな……。私は食事を食べ、盗賊に食器を返してから考え込んでしまった。



そもそも、私のことを知っている人は王宮にいた人たちだけだ。

もし、隷属の首輪をつけて売られるとしたら、私のことを利用しようとしている人に限られる。

盗賊団のボスは私の名前を聞いて『そうか、貴様が……』と言っていた。

かなり安全なルートを通る予定だったのに、『盗賊に気をつけて』と言ってきた人が居た。



……そう言うことか!


私が1人納得をしたところで、盗賊が2人呼びに来た。


「オイ、ボスが呼んでるぞ」


私は盗賊に掴まれて、地下へと連れて行かれる。

マズイな……。地下だと壁を壊して脱出が出来ない。戦闘になるのは、ある程度心構えが出来ているが、出来ればコッソリ出て行きたい。


そんなことを考えていると、地下の部屋の中へ連れ込まれる。おそらくボスの寝室か何かだろう。部屋へ入ると、私は押し出され、私を連れてきた2人はドアの前を塞いでいる。


「何の用ですか?」


私はボスに毅然とした態度をとる。昼間の恐怖心は大分薄れたようだ。


「ククッ、昼間とは雰囲気が違うな、面白い。ちょっと楽しいことをしようというお誘いだよ」


「楽しいこと?それは私を捕まえるように依頼した人の話ですか?」


私はストレートに言う。少しでも動揺してくれれば、確信に近づけるはずだ。しかし、ボスは動揺せずに、


「ほう、なかなか頭が回るようだな」


肯定するのか⁉︎と言うことはやはり。


「やはり大臣ですか」


私がそう言うとボスは、


「大臣⁉︎ククッ、まあ、半分は正解と言ってもいいか」


えっ? 大臣が黒幕ではないのか? 思わず動揺してしまう。しかも半分ってなんだ?


「まあ、そんなことはどうでもいい」


そういうと、ボスは上着を脱ぎズボンに手をかけた。


「は? えっ? ちょ、ちょっと何を……」


「ホントは女も手に入れられたら良かったんだが、馬車には逃げられたからな。まあ、戦場やこう言う場所じゃ男も嗜みって言うからなぁ」


思考が一瞬止まる。ニタニタしながらボスが迫ってくる。

嘘だろ? 私は後ずさる。思考が戻ってくる。身体中から嫌な汗が滲み出てくる。もう一歩後ずさる。


ボスの言うことは理解出来たが、理解したくなかった。


「い、いやだ……」


嫌だ、この歳で初体験もまだ(どうてい)なのに、初体験うしろのあなをするなんて……。

そんな私の気持ちを無視して、ボスが近づいてくる。


「やだ、いやだ、嫌だぁぁぁぁ!」


咄嗟に首輪をしまい、半裸のボスに向けてウインドボムを放つ。魔法を使われると思ってなかったボスは、無抵抗で吹き飛ばされる。そして壁にぶつかりベットの上へ落ちる。


「なっ! こいつ魔法を!」

「封魔の首輪もない!」


ドアの前にいた盗賊が近づいてくる。


「やめろ、俺に、オレに近づくなぁぁぁぁ!」


魔法を放つが、少し怯むくらいだ。咄嗟にドアと反対の方へ逃げる。が、そこには壁があるだけだ。


「キサマ、大人しくしろ!」


盗賊2人が襲いかかってくる。


「それ以上、それ以上こっちにくるなぁぁぁぁ!」


襲いかかってきた盗賊相手にオレは滅茶苦茶に魔法を放つ。その時


「うぉっ!」


床の一部が光りだす。そう、オレと盗賊2人がいる辺りの床が。


「なんだ? 何をした!」


怒鳴り声がする。そっちを見ると、ボスが起き上がってこっちを見ている。しかし、何が起きているかわからない以上、説明は出来ない。

すると、床が黒くなった。と、思ったら、身体が落下し始める。床に穴が空いたらしい。


「うぉぉぉぉ!」

「「うわぁぁぁぁ!」」


オレと盗賊は穴に吸い込まれるように消えた……。そして、残されたボスは、


「一体、何があったんだ?」


1人、部屋で立ちすくむのだった。



見てくれた方、ありがとうございます。

遅くなりました、そして思った以上に長くなりました。


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