盗賊と転落
思ったより長くなりました。
朝、まだ明るくなる前に目を覚ます。今日の駅馬車は、日の出過ぎに出発予定だ。なんでも次の街までの距離が結構あるらしく、日の出ごろに出発しても到着するのは夕暮れ過ぎらしい。
荷物を持って1階へ降りると、食堂で簡単な朝食ができるみたいだ。
「ありがとうございます」
「なに、フォード方面に向かう人は結構居るからね、いつものことだよ」
私がおかみさんにお礼を言うと、そう返されてしまった。それなら、有り難く頂くことにしよう。
朝食を食べ、改めてお礼を言ってから宿を出る。入ってきたのと逆の門へ行くと、すでにいくつかの馬車が停まっていた。
さて、旅の二日目の始まりだ。
二日目の旅も順調に進んでいた。が、異変が起きたのは昼過ぎだった。
馬車での移動は長時間になる。なので、途中で休憩のために何度か停車する。その時に、身体をほぐしたり、軽く食事をしたり、草むらや岩陰で用を足したりするのだが……。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
突然、叫び声が聞こえた。声が聞こえた方を見ると、
「と、盗賊だぁぁぁっ!」
男が叫びながら、こちらへ走ってくる。たしか、岩陰に用を足しに行っていた人だ。その後ろから、10人ほどの覆面で顔を隠した男たちがこちらへ向かってきている。
とっさに背負い鞄を魔法庫の中にしまう。
おかしい……。この街道は人や馬車が多く走っているので、治安維持に力を注いでいると聞いていた。にもかかわらず、盗賊が出るとは。
しかし、実際に出てきたのだから、どうしようもない。とりあえず、追いかけられてる人を助けなければ。
「ウインドバレット!」
私は魔法を、一番先頭の盗賊に向けて放つ。が、魔法が盗賊に当たる直前、かき消されてしまった。
「えっ?」
思わず動揺してしまう。今までこんなことは一度もなかった。その間に、盗賊に追いかけられていた男は、追いついた盗賊に背中から斬られてしまう。
目の前で人が斬られる……。
真っ赤な血飛沫が飛び散る……。
斬られた男はそのまま動かなくなる……。
目の前で起きたことがあまりにも衝撃的で、一瞬我を忘れてしまう。
「ひぃぃぃっ!」
その声に我を取り戻したが、遅かった。なんと馬車が走り出してしまったのだ。
「なっーーちょ、ちょっと待ってくれ!」
慌てて馬車を追いかけようとしたが、体が鉛のように重い。目の前で人が斬られた所為だろうか? うまく走ることができないーー。結局、馬車は止まってくれず、私は立ち止まるしかなかった……。
が、呆けている場合ではない。私は心の中の恐怖を振り払って後ろを振り返る。盗賊たちはゆっくりと近づいてくる。他に人はいない。あるのは斬られた男の死体だけた。
他の乗客は馬車に乗ったのだろうか? おそらく、私が男を助けようとしている間に乗り込んだのだろう……。
私は自惚れていたのかもしれない。魔物を簡単に倒せるようになったから、調子に乗っていたのだろう。しかし、実際に戦闘に遭遇した今なら分かる。人が死に、自分が死ぬかもしれない状況というのは、思った以上に心を縛る。遠距離から魔法で魔物を倒していた場合と全く違う。
今頃気づいても遅かったが……。
緊張のせいか、口の中が乾いてくる。目の前に死が迫ってきているからだろうか。が、盗賊たちは私を取り囲むように立っただけで何もしてこない。
襲ってこない? 不思議に思っていると、一際体格のいい男がやってきて、私に話しかけてきた。
「貴様、名前は?」
「ヨ、ヨシキです……」
私は素直に答えた。もしかしたら、助かるかもしれないという考えが頭をよぎる。
「そうか、貴様が……。大人しくするなら命は取らない。もし出来なければ、あちらの仲間入りだ」
そう言いながら、男は最初に斬り殺された男を指差す。
「わ、わかった……、大人しくしよう」
私は震える声でなんとか言う。そうすると、盗賊の1人が私の首に首輪のようなものをはめ、手を後ろで縛ってきた。
そして、盗賊たちは最初に出てきた方向へ、私を引っ張っていった。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
2時間ぐらい歩いただろうか……。私は森の中にある遺跡のような場所へ連れてこられた。その間に、違和感を感じたが、取り敢えずされるがままにしていた。
遺跡のような場所についたら、ボディチェックを受ける。荷物は魔法庫の中に入れてしまい、手ぶらなので怪しまれるかと思ったが何も言われなかった。おそらく、馬車の中にあったと思われたのだろう。
結局取られたのは、胸ポケットに入れておいた身分証だけだ。
私は腕を解かれると、そのまま部屋の中へ監禁されてしまった。場所は結構奥の方だろうか? 人の頭ほどの穴が壁に空いていて、外の景色が見える。
部屋の中には2×1mサイズの段が壁際にある。ベットの代わりだろう。私はそこに腰掛け、考える。
そう、私は今、とても落ち着いている。目の前で人が死に、自分が死ぬかもしれない状況が先程あったと言うのに……。この感じは、初めて魔物を倒しに行った時に似ている。さっき感じた違和感は、おそらく今の状況に慣れ始めている、ということなのだろう。
あの時は、生き物と戦うことや殺すことに慣れてしまった。と言うことは、今度は人と戦い殺すことに慣れてしまうのだろうか?
怖い気持ちはある。しかし、このまま奴隷にされたり、殺されたりするよりはマシなのではないかと言う気持ちもある。
…………取り敢えず、現状確認からしていこう。今の自分の状況、周りの状況を把握すれば、自ずと取るべき行動が見えてくるかもしれない。
まず、自分の状況だ。私がつけられた首輪、おそらく魔封じの首輪だろう。魔道具図鑑という本で見た記憶がある。たしか、魔法を使えなくする魔道具だった筈だ。
試しにウインドバレットを使ってみるが、そよ風すら起きない。ウオーターバレットも使ってみるが、水一滴も出てこない。私は武器の練習はしてこなかったから、魔法が使えないと戦えないだろう。
そう思っていたのだが、思わぬことで解決することになった。
「…………魔法庫に入るのか」
私はあっけに取られてしまった。魔法を封じられているので、魔法庫も使えないと思ったのだが、使えてしまった。
首輪をしたままでも物が出し入れできるし、首輪自体も出し入れ出来てしまった。
「一つ目の問題は解決したか……」
さて、もう一つ確認しなければならないことがある。それは、首輪をつけた状態で他の能力が使えるかどうか。
森の中で手に入れた、敵の気配を察知する能力や自分の気配を消す能力、遠くの声を聞く能力などだ。
結論から言うと、これらの能力は首輪をした状態でもつかうことができた。ついでに気配を探してみると、この場所には20人ぐらいの盗賊がいるようだ。また、捕虜のように捕まっている人はおそらく居ないだろう。理由は、一つの場所から動かない気配がなかったからだ。
あとは敵の能力だが、魔法の効果を消したのは、おそらく私がエリーゼ姫にプレゼントしたペンダントのような魔道具の効果だろう。であれば、広範囲の魔法や直接攻撃、ウォール系の魔法にぶつけるなどの方法が取れるかもしれない。
そして敵の強さだが、一番強いのが一際体格のいい男で、あとは似たり寄ったりだ。これも気配察知で気配の強さを感じてわかったことだ。便利な能力だ。
「それにしても……」
うん、思考能力も上がっている。今どういう状況なのか、今何をすればいいのか、どうすればいいのか、それらがすぐ思い付くし、答えが出るのが早い。
まあ、思いついたのが最善ではないのかもしれないが、それでも答えが出るまでウジウジ悩む必要がないのは、精神的に良い。
さて、考えがまとまったところで、一休みしよう。脱出するとしても、夜遅い方がいい。周りが寝静まるまで待ってから、壁に魔法で穴を開けて、気配を遮断しながら逃げればおそらく逃げ切れるだろう。
私は魔封じの首輪をつけたまま、横になった。
しばらく休んでいると、盗賊の1人が食事を持ってきてくれた。といっても固いパンに、野菜が少しだけ入った塩味しかしないスープだけだが。いつのまにか夜になっていたようだ。
取り敢えず、情報収集の為に話をしてみる。
「私はこれからどうなるんですか?」
「さあな、大方隷属の首輪をつけられて、売られるんじゃないか?」
隷属の首輪ーー奴隷の首輪より厄介で、自分の意思がほとんど出せなくなる首輪だ。操り人形になるといってもいいぐらいの代物で、確か古代文明の遺品だったか。
なるほど、この盗賊団はそう言うツテがあるのか。
「ここは遺跡みたいですが、なんの遺跡なんです?」
「さあな、数十年前の大魔法使いが建てたって話だったが、何にも残ってなかったからな。大方一時的に住んでいたか、研究資料を持ち出した後なんじゃないか?」
なるほど、大魔法使いが使っていたのか。なら、魔法で壁に穴を開けられるか、確認しなければ。魔法防御が高かったら、逃げられないかもしれない。
「何故、荷馬車じゃなくて、駅馬車を狙ったんですか?」
「さあな、俺ら下っ端は言われた仕事をしているだけだからな。大方あんたが高く売れる要人とか、その関係者なんじゃないのか?」
うん? 何か引っかかるな……。私は食事を食べ、盗賊に食器を返してから考え込んでしまった。
そもそも、私のことを知っている人は王宮にいた人たちだけだ。
もし、隷属の首輪をつけて売られるとしたら、私のことを利用しようとしている人に限られる。
盗賊団のボスは私の名前を聞いて『そうか、貴様が……』と言っていた。
かなり安全なルートを通る予定だったのに、『盗賊に気をつけて』と言ってきた人が居た。
……そう言うことか!
私が1人納得をしたところで、盗賊が2人呼びに来た。
「オイ、ボスが呼んでるぞ」
私は盗賊に掴まれて、地下へと連れて行かれる。
マズイな……。地下だと壁を壊して脱出が出来ない。戦闘になるのは、ある程度心構えが出来ているが、出来ればコッソリ出て行きたい。
そんなことを考えていると、地下の部屋の中へ連れ込まれる。おそらくボスの寝室か何かだろう。部屋へ入ると、私は押し出され、私を連れてきた2人はドアの前を塞いでいる。
「何の用ですか?」
私はボスに毅然とした態度をとる。昼間の恐怖心は大分薄れたようだ。
「ククッ、昼間とは雰囲気が違うな、面白い。ちょっと楽しいことをしようというお誘いだよ」
「楽しいこと?それは私を捕まえるように依頼した人の話ですか?」
私はストレートに言う。少しでも動揺してくれれば、確信に近づけるはずだ。しかし、ボスは動揺せずに、
「ほう、なかなか頭が回るようだな」
肯定するのか⁉︎と言うことはやはり。
「やはり大臣ですか」
私がそう言うとボスは、
「大臣⁉︎ククッ、まあ、半分は正解と言ってもいいか」
えっ? 大臣が黒幕ではないのか? 思わず動揺してしまう。しかも半分ってなんだ?
「まあ、そんなことはどうでもいい」
そういうと、ボスは上着を脱ぎズボンに手をかけた。
「は? えっ? ちょ、ちょっと何を……」
「ホントは女も手に入れられたら良かったんだが、馬車には逃げられたからな。まあ、戦場やこう言う場所じゃ男も嗜みって言うからなぁ」
思考が一瞬止まる。ニタニタしながらボスが迫ってくる。
嘘だろ? 私は後ずさる。思考が戻ってくる。身体中から嫌な汗が滲み出てくる。もう一歩後ずさる。
ボスの言うことは理解出来たが、理解したくなかった。
「い、いやだ……」
嫌だ、この歳で初体験もまだなのに、初体験をするなんて……。
そんな私の気持ちを無視して、ボスが近づいてくる。
「やだ、いやだ、嫌だぁぁぁぁ!」
咄嗟に首輪をしまい、半裸のボスに向けてウインドボムを放つ。魔法を使われると思ってなかったボスは、無抵抗で吹き飛ばされる。そして壁にぶつかりベットの上へ落ちる。
「なっ! こいつ魔法を!」
「封魔の首輪もない!」
ドアの前にいた盗賊が近づいてくる。
「やめろ、俺に、オレに近づくなぁぁぁぁ!」
魔法を放つが、少し怯むくらいだ。咄嗟にドアと反対の方へ逃げる。が、そこには壁があるだけだ。
「キサマ、大人しくしろ!」
盗賊2人が襲いかかってくる。
「それ以上、それ以上こっちにくるなぁぁぁぁ!」
襲いかかってきた盗賊相手にオレは滅茶苦茶に魔法を放つ。その時
「うぉっ!」
床の一部が光りだす。そう、オレと盗賊2人がいる辺りの床が。
「なんだ? 何をした!」
怒鳴り声がする。そっちを見ると、ボスが起き上がってこっちを見ている。しかし、何が起きているかわからない以上、説明は出来ない。
すると、床が黒くなった。と、思ったら、身体が落下し始める。床に穴が空いたらしい。
「うぉぉぉぉ!」
「「うわぁぁぁぁ!」」
オレと盗賊は穴に吸い込まれるように消えた……。そして、残されたボスは、
「一体、何があったんだ?」
1人、部屋で立ちすくむのだった。
見てくれた方、ありがとうございます。
遅くなりました、そして思った以上に長くなりました。




