旅立ちと駅馬車
「それでは行ってきます」
私はいつも使っていた出入り口で言う。目の前には今日までお世話になった人たちがいる。国王、王子、大臣に料理長。そしてエルさんにエリーゼ姫……。
「うむ、あまり無理をしないようにな」と国王
「帰って来るのを楽しみにしてるぞ」と王子
「道中、盗賊などにも気をつけて」と大臣
「新しい料理、待ってます」と料理長
「魔法の力をあまり過信しすぎないように」とエルさん
そして、
「……必ず帰ってきてくださいね」とエリーゼ姫
「必ず帰ってきますよ」
そう言って、私は王宮を後にした。
王宮を出た私は、中央通りを街の正門に向かって歩く。その途中で新鮮な野菜や果物を買って、背負い鞄にしまうフリをしながら魔法庫の中へ。因みにこの前買った高価な魔道具や防具も魔法庫の中へ入れている。
そして、正門を出て、門の前にあるある駅馬車の乗り場へ。 この駅馬車、隣の街までしか行かない、乗車人数が少ないと運行しないなど不便なこともあるが、徒歩より速く行けるので、お金に余裕がある人は使っているらしい。
まあこれ以外だと、自分で馬車を買うか徒歩で行くしかないらしいのだが、馬車の値段はかなり高く、徒歩だと街に着く前に野宿をしなければならない場合も多いらしいので、私は駅馬車を使うことにした。
冒険者など腕に自信のある人たちは、平気で野宿をするみたいだが、普通の人は魔物の集団に襲われたら終わりなので、駅馬車を使うことが多いみたいだ。
そして私が目指しているのは、王都の北西にある
『食の街 フォード』
この街は『食の大迷宮』がある街で、食の聖地と呼ばれている。そして、あらゆる食材が集まり、様々な食材が迷宮や大迷宮から手に入る、まさに料理人にとっての憧れの地。私はここで最低でも一年、勉強をしようと決めたのだ。
卵や牛乳、小麦粉など日本にあったものと似たような食材は確認しているが、それ以外のこの世界独自の食材の知識が少ない。また、調理法や調理道具もいろいろ見てみたい。私は年甲斐もなくワクワクしている。
私は、フォード方面の街へ向かう駅馬車へ乗り込む。乗る馬車は荷馬車を改造したような感じで、白い幌を付けているが、少し巻き上げてあり景色が見えるようになっていた。
目的の街フォードまでは、街を4つ経由しなければならないので、最低でも5日はかかる計算だ。日本にいた時は、旅行なんてほとんど出来なかったから楽しみだ。どんな景色が見えるのだろうか?
馬車が出発すると、隣に座っていた男性が声をかけてきた。
「こんにちは、どちらまで行かれるのですか?」
「えっ?ち、ちょっと、フォードまで食材の勉強に……」
突然だったのでどもってしまった。
「そうなんですね」
「あなたはどちらまで?」
「私はシールの街まで買い付けに」
「シールの街には何があるのですか?」
「あそこは農業の迷宮があるので、野菜や種や肥料、あとは農具なんかもありますね。私は農家なので、肥料の買い付けと珍しい野菜や種がないかついでに見てこようと思っているんです」
「へー、そうなんですね」
男性と話をしていると、他の人も暇だったのか話に入ってきた。フォードの先の街へ海を見に行く人だったり、王都からフォードへ帰る人、次の街で降りる人もいた。
ふと外の景色に目をやると、黄金色の麦の穂と、緑色の麦の穂が綺麗に分かれていた。そういえば、この世界は季節がないから、一年中麦を育てられるのか……。改めて、異世界に来ているのだと、認識させられた。
景色は、麦畑から野菜の畑へ変わり、そして草原に変わると牛や馬が放牧されていた。茶色や黒、真っ白い牛もいる。地球みたいに白黒のホルスタインみたいな牛は居ないようだ。
その後も、同乗者と軽い雑談を交わしながら、夕方には最初の街に着いた。宿を取り、お湯で身体を拭いたあと、宿の食堂で飯を食べる。この街は養鶏が盛んな街らしく、チキンソテーとゆで卵が出てきた。
なんかいいな、こういうのは。知らない土地で、その土地の人と話し、その土地の食べ物を食べる。まさに旅行しているって言う感じだろうか。
部屋に戻り、今日はとてもいい一日だったなぁと、幸せを感じながらその日は眠りについた。
次の日に、大変な目にあうとも知らずに……。




