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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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旅装と買い出し

「とりあえず、こんなものか……」


私は旅に必要なもののリストアップを、なんとか終わらせた。思った以上に時間がかかってしまったな。

それにしても……私はエリーゼ姫の事を思い出して不思議な気持ちになった。

今までここまで他人に好意を向けられたことがあっただろうか?

父も母も自分のやりたい事を優先させて家庭を顧みなかったし、学校でもイジメられていた。就職しても差別はあったし飲み会も誘われない。そう考えると、ここまで好意を向けてもらえたのは、生まれて初めてかもしれない。


実際にエリーゼ姫に理由を聞くのは怖いが、それより嬉しいという気持ちが強い。

もし日本にいる時に、私に好意を向けてくれる人がいたら、きっと自殺なんてしなかったんだろう……。まぁ、過ぎた事を考えてもしょうがないか。今は旅をして、いろいろ学んで、ちゃんとこの街に戻って来る事を考えなければ。


そういえば、旅人の服装ってどんなのだろうか?やはり、軽い防具などあった方が良いのだろうか?今度お店に行ったら店員さんに聞いてみよう。


◽︎ ◽︎ ◽︎ ◽︎ ◽︎ ◽︎ ◽︎ ◽︎


翌周、レシピの使用料を貰ってから買い物に出かけることにした。今週は金貨200枚……。大体200万くらいか。週ごとに増えていくので、少し怖くなってきた。


出かける時にエリーゼ姫に会ったが、買い物に行くことを言うと、寂しそうに「行ってらっしゃいませ」と、言われてしまった。やっぱりショックなんだろうか。

しかしエリーゼ姫のことも気になるが、旅の準備もしっかりとしなければ。この世界には魔物がいる以上、地球の旅行より危険なはずだ。


そんなことを考えながら、中央通を歩く。途中、屋台で肉の串焼きを買って食べながら目当てのお店に向かう。そういえば、屋台で買い食いするのは何年、いや何十年ぶりだろう。祭りなんてここ二十年は参加してなかったから、少し楽しい気持ちになってきた。


そんな時間を過ごしながら、目的の店に到着。店名は『旅人屋』。その名の通り、旅の必需品をまとめて扱っているらしく、皮の水袋からテント、火の魔石を使った超小型の魔道具のコンロやちゃんと飲める水を生み出す魔道具など、旅の道具が充実していた。が、やはり魔道具の類いはかなり高い。


しかし万が一のことを考えると、水と火は確保したほうがいいだろう。なので、金貨70枚で超小型コンロと水の魔道具を購入。丈夫な旅の服や下着、小さい鍋、水袋も必要なので購入。後はこれらを入れる背負い鞄を買って、しめて金貨4枚……。やっぱり魔道具はかなり高いな。


旅に防具はあったほうがいいのか店員さんに聞いてみると、普通はあまり買わないそうだ。ただ、用心の為に軽い胸当てや小手を使っている人はいるらしい。念のために買っておくことにして、近くに売っている場所を聞いて向かう。邪魔なら魔法庫の中に入れておけばいい。


道を歩いていると、デカい蟻の頭が飾ってある店があった。わかりやすい。この店は軽くて丈夫な魔虫系の素材を使った防具を扱っているらしい。

そういえば、虫系の魔物はまだ見たことがない。店の前に飾ってある蟻が本物なら体長1メートルぐらいあるだろうか。虫はあまり好きではないから、旅の最中に会わないことを祈ろう。


店員さんに、旅をするので軽くて動きやすいものを教えてもらう。勧められたのは、看板と同じ蟻の魔物の素材を使った胸当てと小手。軽くて丈夫で値段もそこそこ。色は蟻らしく黒だ。個人的に好きな色が黒なので、これを購入。ついでに防水の丈夫なマントもあったので、これも買っておく。しめて金貨7枚。


荷物が増えてきたので、裏路地の人目がないところで魔法庫に収納。見える範囲に気配がなかったから大丈夫だろう。


用心のため、別の場所から大通りに出て、保存食や調味料などを購入。新鮮な野菜などは旅立つ直前に買うことにした。魔法庫のなかに入れておけば大丈夫なのだが、心理的になるべくギリギリで買いたいと思う。


王宮へ帰る途中、露店でバナナを売っていたので、つい買ってしまった。日本で売っているのよりも甘さは控えめだったが、美味しかった。久しぶりに、バナナパンケーキでも作ろうか。そう思い、材料を買って帰った。


なんか平穏だな。日本にいる時に、こんな生活ができたら……いや、考えるだけ無駄か。こっちの世界に来れたから、こんな気持ちになれたのだから…………。




王宮に帰り、すぐに厨房を使わせてもらう。白牛乳に卵を混ぜ、潰したバナナと小麦粉を加える。この段階で、厨房の入り口に人の気配がした。

フライパンにバターを溶かし、生地を入れ1センチくらいの厚さに広げる。バナナとバターのいい香りがしてくると、厨房の入り口から薄い緑色の髪が見え隠れし始める。


二枚焼いて、それぞれ皿に移して、残ったバナナをスライスする。フライパンにバターを溶かしバナナを入れ、そしてブランデーとシナモンで香りをつけフランベを作る。厨房の入り口から半分顔を出して、エリーゼ姫がこっちをジッとみている。

最後に、フランベしたバナナとカスタードクリームを盛り付けて完成。すると入り口から、「キュ〜ッ」と、お腹の鳴るかわいい音がする。


「フフッ」


思わず笑ってしまった。見るとエリーゼ姫が顔を真っ赤にしている。


「良かったら、一緒に食べませんか?」


エリーゼ姫は暫く考えたあと、コクンと頷いた。




部屋に移動して、2人で食べ始める。


「あっ、美味しいです……」


エリーゼ姫は笑顔で食べてくれる。やはり自分が作ったものを、喜んで食べてもらえるのは嬉しいものだ。

私が笑顔で見つめていると、気づいたエリーゼ姫は顔を赤くして目を逸らしてしまった。


見ててもしょうがないので、私も食べる。うん、美味しい。材料が少し日本と違うので、思った通りの味ではないが、十分美味しかった。

あと、シナモンがあったのが嬉しかった。この香りは私の大好きな香りなので、つい多めに買ってしまった。


そんなことを考えていると、いつのまにか食べ終わっていたエリーゼ姫が、こちらをジッと見ていた。


「……どうかしましたか?」


「……あの……本当に行ってしまうのですね?」


「はい、旅に出ます」


先週と同じようなやりとりになるのかと思ったが、


「あ、あの、違うんです。こんなことが言いたいのではなくて……」


エリーゼ姫は少し慌てた様子だったが、少し落ち着きを取り戻すと、


「あの、私はヨシキ様が戻ってくるのを待っています。だから、だから……いってらっしゃいませ」


ああ、理由は分からないが、この娘は本当に私のことを慕ってくれているのだな。私は胸にとても熱いものが込み上げてくるのを感じた。


「はい、行ってきます。そして必ず帰ってきます。だから、だからもう泣かないでください……」


エリーゼ姫は、涙を流していた。本当に何故こんなに私を慕ってくれているのだろう。なぜ、こんなに私との別れに涙してくれているのだろう。


泣いているエリーゼ姫を見て、私は必ずこの場所に帰って来なければならないと、強く感じたのだった。











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