旅立ちの準備
「えーと、冒険者の本は……と」
私は図書館で冒険者の本を探してみた。先日、冒険者ギルドを見て気になったからだ。が、今まで魔法関係の本しかよんでいなかったため、探すのに手間取ってしまった。
「っと、まずはこの本がいいか……」
タイトルは『冒険者の心得』、出版元は『冒険者ギルド』
この本は冒険者ギルドで売っているらしい。
読んでみると、冒険者の主な仕事は、
・魔物の討伐、素材集め
・馬車や商人の護衛
・迷宮やダンジョンの探索、等
ん?迷宮とダンジョンって違うものなのか?それに商人の護衛って、確か傭兵もやっていたはず。ガンボが大臣の護衛をしてたぐらいだからな。何か違うのか?
調べてみると、まず迷宮と呼ばれているものは神が創ったもので、人類への試練だと言われているらしい。迷宮の中でも大迷宮と呼ばれているものは世界に12あり、この国商業国『トレー』には3つの大迷宮があるみたいだ。それより小さい迷宮は、その大迷宮の周りに点在している。そして、迷宮に入れるのは、基本的に冒険者だけ、と書いてある。
迷宮内では魔物が闊歩しており、倒すとその迷宮に応じたアイテムが手に入る。また、スキルや魔法なども覚えられる場所もあるらしい。ちなみに、普通に命を落とすこともあるようだ。
ダンジョンは、古代に栄えていた文明の作り上げた遺跡や洞窟などで、世界に点在しており、未だに全貌が分かっていないらしい。今は、魔物の巣窟になってることが多く、かなり危険が伴うようだ。だが、古代の遺物や武器防具、魔道具などが発見されることもあり、一攫千金を狙う冒険者たちは迷宮や討伐などでお金を貯め、未開の土地を旅して回る人もいるそうだ。こちらもかなり命の危険が伴うようだ。
冒険者と傭兵の違いは、基本的に戦う相手が魔物か人間かによるようで、冒険者は魔物が多い場所を通る時に雇われることが多く、盗賊が多い場所では傭兵を雇うことが多いらしい。
が、冒険者も盗賊が出たら戦うし、傭兵も魔物に襲われたら戦うので、あまり明確な決まりはないようだ。
また、冒険者は冒険者ギルドに、傭兵は商業ギルドに所属していて、傭兵は長期契約が出来るそうだ。荷馬車を使って街と街を行き来している商人は、やはり傭兵と長期契約することが多く、同じ商業ギルド内で依頼できるので、護衛ほ傭兵が多いようだ。
と言うことは、私がもしお金を儲ける事が出来た場合、傭兵に依頼を出した方が楽ということか……。
まあ、迷宮では食材も手に入るらしいから、冒険者に依頼することもあるかもしれないが。
取り敢えず、調べるのはこんなものでいいか。依頼が出せるぐらい稼げるようになってから、考えればいいことだ。
「さて、お昼まではまだ少し時間があるか。それじゃ、もう少しここで時間を潰そう。確か、魔法陣の本が面白そうだったな」
私は、午前中の残りをそのまま図書館で過ごした。
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「エリーゼ姫、行きますよ」
今日の午後は、エリーゼ姫と魔法の練習だ。この前寂しかったと言われてしまったので、出来る限り一緒に過ごそうと思っている。
私はエリーゼ姫に向かってウォーターバレットを放つ。エリーゼ姫はそれを結界を出して防ぐ。
今度は複数のウォーターバレットを多方向から当てに行く。エリーゼ姫はそれを大きめの結界を出して全て防ぐ。
その次は連続で、その次は時間差で、色々なパターンで魔法を放つが、エリーゼ姫はそれを全て防いでしまう。
しかし、今更だが結界魔法とは不思議な魔法だと思う。似たような防御系の魔法にはウォール系があるが、そのどの属性とも違う。
ウォーターウォールで強い攻撃を受けると、水の壁はかなり揺らぐが、結界の場合はは全く揺らがない。
アースウォールは防御力はあるが、前が見えなくなる。しかし結界は透明なので前はしっかり見える。
最初はそういう魔法だと認識していたが、魔法の知識が増えた今ならその異常さがわかる。薄く透明な綺麗な円形で属性は無し。それなりに魔力を消費するみたいだが、物理、魔法共に防いでしまう。
結界師にしか使えない魔法だが、最強の防御魔法なのではないだろうか。そう言ってみると、
「んー、でも正面にしか出せませんし、長時間や連続での使用ができないので。もしかしたら、慣れてくればもっと色々できるのかもしれませんけど……」
もし、常時結界を張れたら無敵かもしれないと思ったのだが、やはりそう上手くはいかないのか。
話をしながら休憩をしていると、エルさんがエリーゼ姫を迎えに来た。いつのまにか結構時間が経っていたようだ。
「姫様、そろそろお時間です」
「えっ?もうですか?」
エリーゼ姫は残念そうな顔をしている。っと、ちょうどいいから今渡してしまおう。
「そうだ、エルさん」
「はい、何でしょうか」
「これ、いつもお世話になっているのと、魔法を教えてもらったお礼です。よかったら受け取ってください」
私はそう言って、水色の魔石が付いたブローチを渡す。アクアスネークという魔物の魔石で、水属性の魔力を少し上げてくれるものだ。
「えっ?いいのですか?」
「はい、日頃の感謝ですから」
そう言ったのだが、エルさんはしばらく考え込んでしまった。そして、
「……もしかして、旅立たれるのですか?」
ドキッ!まだ、エリーゼ姫やエルさんには言ってなかったはずなのだが……。
「もしかして国王様から聞きましたか?」
「いえ、そうではありません。ですが、あまり人に頼り過ぎるのは心苦しそうでしたので、いつかはそうなるのではと……」
おそらく、レシピの使用料を半分国王様に渡していることを言っているのだろう。相変わらず、察するのが早い人だ。そして、エルさんはチラッとエリーゼ姫を見る。
つられて見ると、エリーゼ姫が目に涙を浮かべていた。
「あの、ヨシキ様、出て行ってしまわれるのですか?」
「……はい、そのつもりです。私も大人ですから、ちゃんと働いてお金を稼がなければいけないと思うんです。いつまでもこの国に、国王様達に甘えていてはいけないとおもうんです」
「ここの、お城のお仕事じゃダメなんですか?」
「ダメではないです。ただ、私はこの世界の事を知らないので、色々見て回りたいと思っているんです」
日本にいた頃は、忙しさと金銭的な理由、そして対人関係の悩みなどで、出かけることが全くなかった。だけどこの世界に来て勉強して、魔法も使えるようになって、色々挑戦してみたいと思えるようになった。だから私は、自分の足で色々見て、この世界の事を知りたくなったのだ。
その事を説明している間に、エリーゼ姫は泣き出してしまった。
「大丈夫です、必ずこの街に戻ってきますから」
私は泣いているエリーゼ姫をそっと抱きしめた。暫く泣き続けた後、エリーゼ姫は
「必ず、必ず戻ってきてくださいね」
「はい、必ず……」
私はエリーゼ姫と約束をした。いつか必ず戻って来ると……。
自分の部屋に戻り、旅に必要なものをリストアップしようと思ったのだが、エリーゼ姫のことが頭から離れず、作業が捗らなかった。
そういえば、エリーゼ姫は最初から私に懐いてくれていたが何故だろう?今日も、永遠の別れではないのに、何故あれほど悲しんでいたのだろう?疑問に思ったのだが、聞くと旅立ちの決心が揺らいでしまいそうな気がする……。
なので結局、私は聞くことが出来なかった。




