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天 落 者  作者: 吉吉
第1章 異世界転落
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心の距離

 あれから私とエリーゼ姫の距離は、かなり近くなった。結婚どころか彼女もいなかった私にとって、エリーゼ姫は娘がいたらこんな感じだったのかも、と思わせてくれるような存在になっていた。


 エリーゼ姫にとっても私は、父親と一緒に生活していたらこんな感じだっのかも、と思えるような存在になっているらしい。


 実際の父親は国王さまなんだけど、エリーゼ姫曰く、


「恐れ多くて、緊張してしまうんです。実の父親だと言われても実感がありませんし、あまりお話しさせて頂く機会もありませんから……」


 とのこと。確かにいきなり『国王様が実の父親です』と言われても戸惑うだろうし、国王様も立場上、忙しくてあまり家族と触れ合う機会が少ないのかもしれない。もしかしたら王妃の子供ではない為、あまり接しないようにしているのかもしれないけど。


 まぁそれはさておき、私はエリーゼ姫との勉強会を楽しませてもらっている。そういえばエリーゼ姫は14歳と言っていたが、それより少し幼く感じるのは精神的な拠り所が無いからだろうか。

 母親は死別しており、父親……国王様とはあまり接点がないみたいだから不安がでているのだろうか? 街や村で仕事をしていたらもっとしっかりしていたのかもしれないが……。


 そして今日は私がこの世界に来て丁度1週間らしい。個人的には6日しか経ってないと思っていたのだが、最初の1日はずっと眠っていたそうだ。

 そんなわけで、1週間お世話になりっぱなしで何もしないのは忍びないので、今日は元の世界の日本のスイーツを、恩返しでご馳走させてもらおうと思ったのだが……。



「ええと、ここにある材料は使っても良いんですね?」


 私は食材置き場で、料理長に確認をする。


「はい、ここにある材料でしたらご自由にお使いください」


 目の前にはこちらの世界の材料が並んでいる。銀麦粉、白卵、白砂糖、白牛乳、バター、苺ジャムと、名前はともかく一通りの材料があるのだが……。


「白牛乳というのは、ここにあるだけなのですか?」


 そう、明らかに牛乳の量が少なかった。まぁ食べてもらうのは、国王と王子に大臣、エリーゼ姫とエルさん、そして料理長と人数が少ないから大丈夫だが、牛乳の量だけ在庫がかなり少ない。


「えっと白牛乳を使われるんですか?」


「ダメですか?」


「いえ、そんなことは。ただ、大抵は飲むだけで、料理に使わないので……」


 なんでも、牛乳は輸送が大変な上に日持ちがしないので、大抵チーズやバターに加工して輸送する為に出回る量が少ないらしい。だから、価格も高くなり牛乳はお金持ちの嗜好品として扱われている、とのこと。

 さらにこの世界には魔物がいる為、広い土地での放牧が難しい。狭い土地で育てるにしても、肉の方が需要があるので、肉用の家畜の方を優先して育てる為、乳牛の数は少ない。乳牛を育ててるのは、大概チーズやバターを名産としている村ぐらいらしい。


「氷の魔石で冷やしておけば日持ちしますが、肉ですと牛乳のようにこぼさないように気をつけなくても良いですからね」


「なるほど」


 これが異世界事情というやつか。地球でも狼の被害があったらしいが、魔物だと被害の規模が違うんだろうな。


 とりあえず牛乳が少ないということは、生クリームも無いんだろうな。となると……。






「お待たせしました。こちら、

『カスタードクリームのミルクレープ、苺ジャムを添えて』

 です」


「おぉ、これは美しい」


「綺麗な層になっていて、食べるのが勿体ないぐらいですな」


 この世界のスイーツは、今のところ焼き菓子かジャムかフルーツぐらいしか見たことがない。だから地球産のケーキはウケがいいだろうと思って作ってみたが、思った通りだ。まあ、材料が地球のものとは違うから少し戸惑ったけどなかなか上手くできたと思う。


「この間に挟まっている黄色いものは何だ?甘く滑らかでとても美味しいぞ」


 国王様はカスタードクリームが気に入ったようだ。


「それも美味しいですがこの生地、柔らかくしっとりしていて食べやすい」


 大臣はクレープ生地の食感が好きみたいだ。


「この両方と苺ジャムを合わせてもとても美味しいです」


「うむ、たしかに」


 エリーゼ姫とアレク王子にも気に入ってもらえたようだ。


 そして程なくして、全員が食べ終わった。国王、王子、大臣は満足そうな顔をしているが、エリーゼ姫は寂しそうな顔をしている。


「皆様、お代わりもご用意しておりますが、いかがなさいますか?」


「え、まだあるのですか?」


 エリーゼ姫が素早く反応する。


「はい。ただ食べすぎるとご夕食が入らなくなってしまいますのでほどほどに、ですが……」


 私の言葉を聞いて、エリーゼ姫は満面の笑みを浮かべた。

 王子も大臣も嬉しそうにお代わりをしている。しかし、国王様だけはエリーゼ姫をジッと見てから、


「儂の分はエリーゼにやってくれ」


「え、良いのですか?」


「ああ、エリーゼがとても嬉しそうじゃからな」


「ありがとうございます、お父様」


 国王様はエリーゼ姫が喜んでるのを見て、とても嬉しそうな顔をしている。もしかしたら、国王様もどう接して良いかわからないだけなのかもしれない。正妻の子供じゃなくても、自分の子供だもんな。


 笑顔でミルクレープを食べるエリーゼ姫と、それを優しく見守る国王様。それを見てると、胸が痛くなる。私の家族もこんな感じだったら……。





 その後別室で、王様たちと一緒に食べるわけにはいかなかった、エルさんと料理長にミルクレープを食べてもらおうと用意していると、


「スマンが、皆と一緒でいいので余っていたらもう一つ食べさせてもらえんかね?」


 と国王様がやってきた。どうやら自分が食べたいのを我慢して、エリーゼ姫の前でカッコつけてたらしい。


 そして、国王様と一緒に食べることになってしまったエルさんと料理長は、とても美味しいと言ってはくれたが、終始どこか緊張した様子だった。まぁ、そうなるよな。


 そして最後に、


「エリーゼには内緒にしておくように」


 と国王様に言われ、3人とも苦笑しながらも頷くのだった。








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