王女と過去
「えっ?それって……」
「……私も詳しくは知りません。ですが3年前、私が11歳の時にお母さんが病で亡くなってしまって……。その時に初めて私の父が国王様だと知ったんです。お母さんは国王様に手紙を書いていたみたいで、その後すぐに王宮に呼ばれて……」
エリーゼ姫はうっすらと涙を浮かべたまま話し続けた。
「不思議ですよね?ちょっと前までは普通の田舎の村で生活していて、お母さんは裁縫の仕事をしていて、私もその手伝いをしたりして普通の暮らしをしていたのに……。」
「姫さま……」
「それが、実は王女さまで、王宮に住むことになって、王女としての言動を求められてるんですからホントに不思議ですよね。いまだに夢を見てるんじゃないかって思うんですよ。もう3年も経ってるのに……」
こういう時は、なんて声をかけたらいいんだろう。元気出してっていうのも違う気がするし、その内いいことあるよ、なんて気軽な言葉も言えない。
もしかしたら、エリーゼ姫は孤独だったのかもしれない。だから寂しそうな顔をすることがあったのかも。
それも当然か。突然母親が亡くなって、王宮に住むことになって、王女であることを周りから求められて……。そりゃ不安になるよな、いきなり知らない場所でわからないことを求めらるなんて、これじゃまるで……
「……いろいろ大変だったんですね、エリーゼ姫。不安でどうしていいか分からなくて、でもやらなきゃいけない事があって。だから、今まで頑張ってたんですね?」
「えっ?あの、わかるのですか?」
エリーゼ姫が俺に縋るような目を向けて来た。
「ええ、全部ではないですけど。私も今、似たような状況ですから」
俺は笑みを返す。
そう、今の俺の状況に似てるんだよな。見ず知らずの世界で、その世界で生きていかなきゃならなくて。天落者だ、凄い力だって言われて、生きてくために頑張って勉強して……。
俺はいつのまにか、エリーゼ姫の頭を撫でていた。最初は一瞬ビクッとなったエリーゼ姫だけど、今は普通に撫でられている。
「いろいろ大変だったんですね。いっぱい無理してたんですね。そしていっぱい我慢してたんですね」
俺はなるべく優しい声で語りかけた。
「ヨシキさま、私は……私は…………」
嗚咽をこらえてるエリーゼ姫をそっと抱き寄せると、静かに泣き出した。そしてしばらくすると、落ち着いたのか寝息を立て始めた。
「ヨシキ様、ありがとうこざいます」
エルさんがお礼を言ってくる。
「俺は大したことはしてませんよ」
「私は姫様の不安はなんとなく分かっていました。けれどデリケートな話でしたので、何も出来ませんでした」
「しょうがないですよ、こういう話は。今回はたまたま、立場が似ていたから出来ただけですから」
「それでもありがとうこざいます」
エルさんは改めてお礼を言ってくる。
しかし、前の世界にいる時はこんな気の利いた事出来なかったんだけどな。大体、人とは関わらないようにしていたし。
もしこれが、俺の『適応能力』のお陰だとしたら、悪くないかもしれない。少なくとも、戦闘で人を傷つけることに適応するより、こういう平和的な使い方ができる方が良いと思う。
エルさんに眠ったエリーゼ姫を預けながら、俺はそんなことを考えていたのだった。




