魔法の訓練
「やっぱりこのままじゃマズイよなぁ……」
俺は部屋に戻って来て、考えた。
確かにあんな風に武器を使って戦うのは、平和な日本で暮らしていた人間にとっては無理だ。格闘技や武道をやっていたならわからないけど。
でもこの世界には魔物がいて、万が一襲われたら戦わなくてはいけない。大臣みたいに傭兵を雇うという手もあるが、おそらくかなりお金がかかるはずだ。
お金が貯まるまで街の中だけで過ごすという方法もあるが、もしかしたら街中でも強盗やガラの悪い奴らに襲われるかもしれない。
かといって、このまま王城内で過ごしていきたいとも思わない。明らかに場違いな感じだし、一般市民だった俺にとっては上品過ぎて生活しづらい。
かといって、まだこの世界のことを十分知ってる訳じゃないし、不安も大きいから出ていけないんだよな……。
やっぱりなるべく早く情報を集めるとともに、自衛の手段を手に入れなきゃ。そして自分に適した生き方を見つけここを出て行こう。
俺はこの日の残った時間を使って考えをまとめたのだった。
次の日の朝、
「俺に魔法を教えて貰えませんか?」
俺はエルさんに頼んだ。
「突然どうされたのですか?」
俺は説明した。何か自衛の手段が必要だと思ったこと。でも、武器を扱うことはできないこと。なので、魔法が使えたならそれを自衛の手段にしたいと思ったこと。
「わかりました。ですが私も雇われている身、国王様の許可が出ましたらお教えいたします」
「わかりました、よろしくお願いします」
そして、あっさりと許可は下りたのだった。
その日の午後、早速教えてもらえることになったのだが……。
「では、まず属性の適性をみていきましょう。」
と言って、エルさんは色の付いたビー玉ぐらいのサイズの玉を6個、テーブルの上に置いた。エリーゼ姫もワクワクした顔で眺めている。
「この玉を手の上に乗せれば、その人の得意な属性がわかります。得意な属性の色の玉が強く光るので、すぐわかると思います」
「なるほど、ではやってみます」
が……
「あの、光らないんですけど……。もしかして、俺は魔法が使えないとか、魔力が無いとかなんですかね?」
「おかしいですね?魔法が使えない人というのは聞いたことありませんし、ヨシキ様からはちゃんと魔力を感じるのですが……」
と言って、青色の玉と赤色の玉を手に取ると、青色の玉だけが強く光った。
「本来ならこのように得意な属性が光り、不得意な属性は光らないはずなのです」
そしてエリーゼ姫も真似をして、緑の玉と茶色の玉を手に取った。すると緑の玉だけが強く光った。
今度はエルさんの青色の玉と、エリーゼ姫の緑の玉を交換する。すると、先ほどより弱く玉が光った。
「そして、ある程度適性があるのなら、このように弱くても光るのです」
だが、俺の手の上に玉を戻しても一切光る気配がない。
これは、魔法を自衛のために使うという手段がとれないのか?もしかしたら、武器を扱うことになってしまうかも……。
「もしかしたら、属性の得手不得手が無いのかもしれません」
「どういうことですか?」
「この玉を使ったやり方は、簡単に安価に出来るということで広まった方法です。ですが、その人の魔力の強く出ている属性に玉が反応してるだけなのです。なので、もし強く出ている属性がない場合は反応しない可能性があります」
どういうことだ?
「先生、ということはヨシキ様はどの属性も満遍なく使えるということですか?」
「はい、その可能性はあります。ただし、現段階では満遍なく得意なのか、満遍なく不得意なのか、そこら辺はわかりかねます」
なんか中途半端な感じだな……。まぁ、今までの人生も中途半端な感じだったから、俺にはお似合いなのかもな。
っと、自虐してる場合じゃないか。
「とりあえず、全属性使えると仮定してやってみましょう。そしてもし何かありましたら、その都度対応していきましょう」
「そうですね、そうしていただけると助かります」
「では、基本的な魔法で何か覚えたい魔法はありますか?」
「自分で選んでもいいんですか?」
「はい、最初は興味のある魔法を教えた方が、やる気が出ますから」
なるほど。だったら何にしようか?確か最初にエリーゼ姫に教えてもらったんだよな。 うーん、やっぱり自衛のために攻撃魔法か?でも、まだ魔法が不得意な可能性もあるんだよなぁ。それなら出来るだけ簡単な……あっ!
「でしたらまず、生活魔法を教えて貰えませんか?簡単で便利そうなので」
生活魔法ならほとんどの人が使えると言ってたから、魔法が不得意だったとしてもなんとかなりそうだし、それに覚えておいて損は無い魔法のはずだ。
「わかりました。ではまず、魔力の動かし方からお教えします」
そう言って、エルさんは俺の手を握ってきた。一瞬ドキッとする。女の人の手に触るなんてこと今まであったっけ?
女に縁遠かったし、心が半分死んでたからそういう感情は無くなったと思ってたけど、なんかスゴイドキドキする。
そんな俺の気持ちを知らないエルさんは、握った手から自分の魔力だろうか?それを俺の中に流し込んできた。
すると、俺の体の中から同じようなものが、その魔力に引かれて手の中に集まってきた。
なんか、目に見えない柔らかいスライムみたいなものが、手の中で揺れている気がする。これが俺の魔力?
その不思議な感覚に気を取られ、ドキドキした気持ちはいつのまにか落ち着いていた。
「では、その魔力を手の平の上に集めてこう言ってください。『我が力よ、水と化せ』」
俺は言われた通り、見えないスライムみたいなものを手の平に集めエルさんの言葉を復唱する。
(確か魔法言語だったっけ……)
『我が力よ、水と化せ』
すると手の平から水が溢れ出た。
そして、テーブルの上は水浸しになった。
「うわっ!」
俺が慌ててなんとかしようとすると、
「大丈夫です、そのままにしておいて下さい」
と言われた。
ああ、そういえば言ってたっけ。
「魔力で生み出したものは、基本すぐ消えますから」
そして1分ほど経つと、水は跡も残さずに消えてしまった。
「素晴らしいですね。初めてで、この水の量を出せる人はなかなかいません」
「そうなんですか?」
「はい、大体は水滴がポタポタ出てくるだけですから」
エルさんが笑顔で褒めてくれる。ヤバいドキドキする。まともに顔を見れなくて視線を逸らすと、エリーゼ姫が少し膨れたような、寂しいような顔をしていた。
「エリーゼ姫?」
「えっ」
俺が声をかけると、エルさんは何か察したのかエリーゼ姫に話しかけた。
「姫さま、比べる相手が悪いですよ。ヨシキ様は天落者さまなんですから。姫さまも練習すればきっと上手くなりますから」
どうやら、エリーゼ姫は生活魔法が苦手みたいだな。よし、ならここは、
「エリーゼ姫、もしよかったら一緒に練習しませんか?もちろん、エリーゼ姫が辛くないならですが……」
自分よりできる人と練習するのは辛いかもしれないけど、一人で練習するより練習仲間がいる方が、楽しい場合もあるからな。まあ、それを決めるのはエリーゼ姫だけど。
「あの、よろしいのですか?」
「ええ、私も一人より一緒にやる人がいた方が楽しいので」
エリーゼ姫は、エルさんのほうを見て確認すると、エルさんも笑顔で頷いてくれた。
「あの、ではよろしくお願いします」
こうして俺は、エリーゼ姫と共に、生活魔法の練習に励むことになった。




