言語と暦
「そういえば、気になっていたのですが……」
エルさんは不思議そうな顔をして、俺に質問してきた。
「ヨシキ様は普通に話されていますが、言葉は元の国と同じなのでしょうか? 先ほど国によって、通貨も言葉も文化も違うと仰ってましたけど……」
そう言われれば……。俺は普通に日本語を話していたつもりだが、それで通じていたので全く気にしていなかった。
俺は確認をするために、ゆっくりとエルさんに話しかけた。
「ちょっと待ってください」
俺は日本語でそう言った、つもりだった。しかし自分の口から出てきたのは、知らない言葉だった。
俺は少し驚いたが、なんらかの力が働いているのだろうと思った。先程発覚した『適応能力』のスキル、もしくは大臣が言っていた『女神の加護』。おそらくこのどちらかの力だろうと結論づけた。そして、考えをまとめてから口を開いた。
「今まで気づきませんでしたか、私は普通に元の国の言葉を話してるつもりでした。ですが今確認したところ、口から出てるのはこの世界の言葉のようです。」
二人は驚いた顔をして、こちらを見ている。俺は話を続ける。
「そして、お二人の話す言葉も、元の国の言葉に聞こえるのです。恐らく、私の『適応能力』のスキルのおかげでしょう」
とりあえず女神の加護は、まだ本当にあるか確認が出来た訳じゃないから話さなくても良いだろう。
それからスキルを調べた時、『適応能力』の文字は知らない文字なのに読めたことも伝えた。
「そんなことも出来るのですね」
エリーゼ姫は感心したように言ってくる。まあ、俺の実力じゃ無いんだけどね。
「じゃあ、この文字は読めますか?」
エリーゼ姫はメモに何かを書き、こちらに見せてきた。
「これは『エリーゼ』と『トレー』、姫様の名前ですね?」
「はい、正解です。本当に読めるのですね」
エリーゼ姫はニコニコと嬉しそうな顔をしている。
するとエルさんも同じようなことをし始めた。
「では、これは読めますか?」
「えーと、『我が力よ、水と化せ』?」
「ええ、正解です。普通の文字だけでは無く、魔法言語も読めるのですね」
ああ、これは普通の文字じゃ無いのか。道理で全然違うと思った。普通の文字は直線で作られてるのに対し、魔法言語はほぼ曲線で作られていた。
「こちらの普通の文字は、過去に天落者によってもたらされたと言われていますから読める可能性はあると思っていました。ですが魔法言語はこの世界で作られた文字だと聞いています。それが読めるということは、恐らくほかの文字でも読めるということでしょう。」
なるほど、魔法の無い世界では魔法言語は使われないから、それが読めるということは、そういう事なのか。
そしてこの世界の普通の文字は、よく見るとアルファベットを元に作られたのか? どことなく、そんな感じがする。
「そういえば、こちらでは学校みたいなところで文字を教わるのですか?」
俺はふと気になったので、聞いてみた。
「いえ、一般的には教会で教わることが多いです。裕福な家庭は家庭教師を雇う場合の方が多いですが」
教会では7日に、読み書き計算を教える教室を開催していて、よほど貧乏では無い限り支払える程度の料金らしい。その料金は教会の運営費に充てられるそうだ。
そしてこの7日というのは曜日のようなものらしい。
一週間は7日で地球と同じ、というか過去に来た天落者が影響してるのだろう。しかし、曜日名までは定着しなかったらしい。
ひと月は35日で、1週目の1日から始まり7日で週が終わる。
次は2週目の1日から始まり7日で終わる、というように全部で5週間繰り返してひと月が終わる。
週の終わりの7日は、商売以外の仕事はお休みとのことなので、7日というのは日曜日に相当するのだろう。
商売をやってる人は1〜6日の間に休みを入れるが、いつ休むかは店によってそれぞれ違うらしい。
そして1年は10ヶ月で、350日。ということは、季節は2ヶ月半で変わっていくのかと思ったら、
「季節ってなんなのですか?」
と、帰ってきた。
「姫様、気候のことではないでしょうか?」
エルさんも知らないらしい。
俺は日本の四季について説明したが、どうやらこの世界には季節は無いらしい。
「標高の高いところは気温が下がりますし、雪も降ります。火山に近いところは気温が上がりますし、砂漠に近いと湿度も下がり乾燥します。ですが、それ以外は一年を通して気温はあまり変化しません」
そうか、この世界では四季の変化を楽しめないんだな。
まあ、しょうがないか……。
少し残念な気持ちになったところで、今日の勉強会はお開きになったのだった。




