追放された騎士団長が敵国に寝返り、また追放されたらしい
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あーあ、まただよ。
私こと、世界最強の騎士はどうやらまたやってしまったらしい。
それは、些細な事だと私は思う。
うっかり『破国』という極大剣技を寝ぼけて放ってしまっただけなのだ。だから、どうか寛大な心で許して欲しいと私は皇帝に頼み込んだ。
たとえ、どのようなモノでも半壊させるという剣技にして絶技『破国』をたまーに寝ぼけて放ってしまうとはいえ、私はこの国の為に一生懸命働いたのだから。祖国の弱点を的確に攻め、滅亡寸前だった帝国を立て直したのだから。
許して?
私は、非常に可愛らしい顔を皇帝に向けた。
幼少の頃よりこの顔をすれば大抵の願いは叶うのだ。
……だが、皇帝は半壊した玉座に座り、青筋を立てながら首を横に振った。
それは何故。
私の言葉に、皇帝は深くため息をついた。そして周囲を見渡した。
最初に皇帝が目に映したのは聖母像。もっとも半壊しており、見るも無残な姿なのだけど。
けれど、あれは今回の『破国』が原因ではない。三回目の時に壊れただけだ。その時の事はもう許したって言っていたから、多分大丈夫。
次に皇帝が目にしたのは古代英雄が使用していたという巨大な石剣。ま、半壊しているのだけど。
けれど、あれも今回の『破国』が原因ではない。多分、五回目の時に壊れただけ。これも、許してもらったのだから、きっと大丈夫なはず。
……じゃあ、今回は何故いつもどおりあっさり許してくれないのかしら。
皇帝は最後に、手に持った魔杖を目に映した。
魔杖には帝国の至宝『龍の眼』という宝玉が取り付けられている。……はずだけれど、はずだったけれど。
「あ、もしかして今日の寝ぼけ破国でやっちゃいましたか。私」
皇帝はとても苦い虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
どうやら、そういう事らしい。
同じような事を別の国。というより生まれ育った王国でもやってしまった私だったが、いやはや二度ある事は三度あるというし、はたして次はどの国の至宝を壊してしまうのかしら私。
そんな事を、皇帝に言ってみた。すると、皇帝はこの哀しみを世界に広げる訳にはいかない、なんてまるで物語の主人公のような事を言って、ドン!と魔杖で床を突いた。
その直後、見覚えのある鎧姿の衛兵が私を取り囲むように現れ―――――。
「とりあえず、どうにか逃げてきたんだけど。しばらく匿ってよ。幼馴染のよしみでさ」
私は事の顛末を幼馴染の青年が住む、森の中の小屋で話した。
その結果。
「マジで帰れ!」
そんな言葉が帰って来た。
まったく、薄情な幼馴染だ。久しぶりに会ったというのに……。
この美少女天才剣士かつ騎士、かつ救国の英雄と呼ばれた私、ウルル・カーリを蔑ろにするなんて。
ともあれ、二度ほど国外追放された私の仮の棲み処は見つかった。
しばらくはたった一人の幼馴染の彼、マッキー・コマレの家で厄介になろうかな。