08
大きな木の洞に懐かれ、二人の子供は眠っていた。
「……始まりの樹」
誰に言われたわけでもなく、それが私にはわかった。ヒソカもヒメルも、ツネさんも何も言わない。頷くわけでもない。でも、私にはわかった。この樹が、この『ガーデン』に最初に芽吹いた樹なのだ。
そして、その木の洞に懐かれて眠る子供は、きっと最初の子供だ。
『ホマレ』、『ヨミシ』……
くすぐったいが、自分が誕生した瞬間はそんなものがあふれていたのだ。
向かい合って無表情で眠る二人は、よく似ていた。そして、ヒソカにもヒメルにも似ている。
「本来ならこの樹は、色とりどりの花が咲いているのよ」
でも今は、くすんだ緑の葉が繁るだけだった。
「そっか、残念だな。見たかったな」
「白い花が好きかな」
とはヒソカ。
「桃色の花をつけるのは、あまり見かけぬな」
とはツネさん。――申し訳ありません、そういった話題に縁がないもので。
私は二人の淡い色の髪を撫でた。
「君たちにも、迷惑かけたね」
やっぱり、ツネさんは背後で鼻を鳴らした。
「ツネさんにも」
振り向いて私が告げると、
「ついでかえ?」
と皮肉る声が返ってくる。笑って誤魔化した。
「ま、取り敢えず頑張れよ」
と見送るヒソカがはなむけの言葉をくれる。
自分に励まされるのも、よく考えれば変な気分だ。でも決して嫌でもない。
「まぁ、ね」
私はあいまいに頷いて、ヒソカの差し出す拳に拳を当てて返した。
帰るのだという決心を示すように、川上に向かって私は歩き出すことにした、彼女らに手を振り。それでもまだ未練がましく、背を向けてもしばらく手を振り続けていた。
だんだん、景色が白みはじめていく。
風が後ろに向かって吹いた。
思わず振り返ったその先に、濃い灰色のローブに縁取られた良く見慣れた白い顔が見えた。その表情は、思いのほか優しかった。
そうか、ツネさんも若かったんだね。
※
想像通り、目覚めた私はまず見知らぬ白い天井と対面することになった。
ここが、新しい私のスタート地点なのだ。
また、息切れすることがあるかもしれない。うん、きっとするだろう。
その時は、迷惑かもしれないがあの『ガーデン』へ行き、息抜きするのもイイかもしれない。今度は、あんな人騒がせで迷惑な来訪ではなく、ね。
まずは、その時のために土産話をいっぱい仕入れなければ。
さぁ、外へ踏みだそう。
今よりほんの少し日当たりのいい場所に踏みだし、この『ガーデン』にも陽射しを当ててあげよう。
本文中触れなかったのですけど、主人公は事故にあったという設定です。
高校の学校祭に行った帰り、交差点で車に~と言うことになってます。本文中触れなくてすみません。こんなところに書くなって感じですか。
微妙なのは、彼女は向かってくる車を呆然と見ていたというところで『ああ、別にイイかな~』と思ったのです。
◆おまけ◆
信号が青になった。
私は横断歩道を渡りだした。
その時・・・
(あ・・・・・・)
振り向いた時、フロントガラス越しにドライバーと目が合った気がした。口と目を大きく開いた表情が、なんだかやけにはっきり見えた。
あともう少しで交差点を渡りきるところだった。
私の進行方向から左折してきた車が、迫っていた。
頭の芯が、何故かひどく冷えていた。走馬燈なんてものは走らなかった。ただ、迫ってくる車の動きが、ドライバーの表情がストップモーションのように視覚に飛び込んでくる。
不思議と、よけなきゃという考えが湧いてこなかった。
いいや、という諦めのような気持ちと開放感があった。