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 大きな木のうろいだかれ、二人の子供は眠っていた。

「……始まりの樹」

 誰に言われたわけでもなく、それが私にはわかった。ヒソカもヒメルも、ツネさんも何も言わない。頷くわけでもない。でも、私にはわかった。この樹が、この『ガーデン』に最初に芽吹いた樹なのだ。

 そして、その木の洞に懐かれて眠る子供は、きっと最初の子供だ。

 『ホマレ』、『ヨミシ』……

 くすぐったいが、自分が誕生した瞬間はそんなものがあふれていたのだ。

 向かい合って無表情で眠る二人は、よく似ていた。そして、ヒソカにもヒメルにも似ている。

「本来ならこの樹は、色とりどりの花が咲いているのよ」

 でも今は、くすんだ緑の葉が繁るだけだった。

「そっか、残念だな。見たかったな」

「白い花が好きかな」

 とはヒソカ。

「桃色の花をつけるのは、あまり見かけぬな」

 とはツネさん。――申し訳ありません、そういった話題に縁がないもので。

 私は二人の淡い色の髪を撫でた。

「君たちにも、迷惑かけたね」

 やっぱり、ツネさんは背後で鼻を鳴らした。

「ツネさんにも」

 振り向いて私が告げると、

「ついでかえ?」

 と皮肉る声が返ってくる。笑って誤魔化した。

 

 




「ま、取り敢えず頑張れよ」

 と見送るヒソカがはなむけの言葉をくれる。

 自分に励まされるのも、よく考えれば変な気分だ。でも決して嫌でもない。

「まぁ、ね」

 私はあいまいに頷いて、ヒソカの差し出す拳に拳を当てて返した。

 帰るのだという決心を示すように、川上に向かって私は歩き出すことにした、彼女らに手を振り。それでもまだ未練がましく、背を向けてもしばらく手を振り続けていた。

 だんだん、景色が白みはじめていく。

 風が後ろに向かって吹いた。

 思わず振り返ったその先に、濃い灰色のローブに縁取られた良く見慣れた白い顔が見えた。その表情は、思いのほか優しかった。

 そうか、ツネさんも若かったんだね。

 

     ※

 

 想像通り、目覚めた私はまず見知らぬ白い天井と対面することになった。

 ここが、新しい私のスタート地点なのだ。

 また、息切れすることがあるかもしれない。うん、きっとするだろう。

 その時は、迷惑かもしれないがあの『ガーデン』へ行き、息抜きするのもイイかもしれない。今度は、あんな人騒がせで迷惑な来訪ではなく、ね。

 まずは、その時のために土産話をいっぱい仕入れなければ。

 さぁ、外へ踏みだそう。

 今よりほんの少し日当たりのいい場所に踏みだし、この『ガーデン』にも陽射しを当ててあげよう。







 本文中触れなかったのですけど、主人公は事故にあったという設定です。

 高校の学校祭に行った帰り、交差点で車に~と言うことになってます。本文中触れなくてすみません。こんなところに書くなって感じですか。

 微妙なのは、彼女は向かってくる車を呆然と見ていたというところで『ああ、別にイイかな~』と思ったのです。




◆おまけ◆



 信号が青になった。

 私は横断歩道を渡りだした。

 その時・・・

 

(あ・・・・・・)

 

 振り向いた時、フロントガラス越しにドライバーと目が合った気がした。口と目を大きく開いた表情が、なんだかやけにはっきり見えた。

 あともう少しで交差点を渡りきるところだった。

 私の進行方向から左折してきた車が、迫っていた。

 頭の芯が、何故かひどく冷えていた。走馬燈なんてものは走らなかった。ただ、迫ってくる車の動きが、ドライバーの表情がストップモーションのように視覚に飛び込んでくる。

 

 不思議と、よけなきゃという考えが湧いてこなかった。

 いいや、という諦めのような気持ちと開放感があった。


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