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「夢を見たよ、ボクは」

 いったい何がこんなに哀しいというのか。涙があふれて止まらない。

「夢を見たんだよ」

 丸めたボクの背中を、ヒメルは優しくさすってくれていた。

 ボクは顔を覆い、膝に突っ伏す。

「わかってる……夢じゃ、ないんだよね」

 ヒメルはそれには答えず、ボクの肩にて空いた手を乗せる。そのぬくもりと重さに、ほんの少し慰められる気がする。

「ボクは……」

「もう言葉遣いを戻してもいいんじゃない」

「そうか。全部バレバレなんだね。……そう、ボクは……私は逃げ出したんだ、ね」

 無理に嗤った目許が、頬が痛かった。

 なんだかな、我ながら情けなかった。嫌になった現実からまなこを、心を逸らし逃げだしてきたんだ。

 そして逃げた先が、この『ガーデン』なのだ。

「やっと思い出したんだな」

 頭上からヒソカの声が降ってくる――と、彼女が(そう、彼女なのだ)木々の葉を散らしながら降ってきた。

 降り立った彼女は、手に持つ果実の最後のひと口を口に放ると、果汁に汚れた指に舌を這わせる。

「そっか。ヒソカも知ってるんだ」

「当然だろ」

「だね」

 はは、と私は渇いた笑いを零す。

「じゃあ、もう次にすべきこともわかってんだよな」

「えっ? だって私……」

「ば~か。だったらここになんて来ないって。もっと別の処に行ってるよ」

 ヒソカの言葉に、そうかもしれないと納得する。だが、その前に言いたいことがある。

「『ばか』て言うなよな」

 拗ねた抗議をヒソカは笑って受け流し、ぽんと私の頭に手を乗せる。

「その前に、顔を洗ってきなさいな。せっかくの旅立ちですもの、少しでもすっきりとしていたほうがさまになるでしょう」

 ぽんと肩を叩かれ、ヒメルは私の手を取り小川へと誘った。

 

     ※

 

 川岸の手頃な石に腰を下ろし、ヒメルは語りだす。

「わたしとヒソカ、最初はヒソカのほうが見かけは年上だったわ。でも、いつの間にかわたしのほうがどんどん追い越してしまっていた。これからも、そう。ずっとぞう。ヒソカを取り残していく」

 ヒメルは、ふとヒソカを見た。その眼差しを受けて、ヒソカが笑う。小さく、ひっそりと。それは大人びた――いや、彼女の内面に相応の笑みなのかもしれない。

「昨日はごめんね」

 正確にあれが昨日なのか、時間感覚はつかめないのだけれども。

 私は自分の『分身』たちの首にしがみつく。

「やっと帰る決心がついたかえ」

「ツネさん」

 木立から浮かびあがった濃い影は、小柄な老婆の姿をかたどった。

「ええ、まぁ……」

 煮え切らない私の返答に、老婆は軽く鼻を鳴らした。

 タオルを差し出しながらヒメルは言った。

「まぁ、覚悟しておくことね」

「えっ!?」

「それだけのことを起こしてしまったのだもの、当たり前でしょう」

 うへぇ~、と私は顎を出す。

「その前に、ホマレとヨミシに会ってゆくか?」

 思いがけない提案に、三人は弾けたようにツネさんを見た。その瞬間、彼女が眉間に皺を寄せたような、そんな気配がした。

「いいの?」

「ツネ!?」

「ツネさま!?」

 三様の声をあげる私たちを無視して、ツネさんはローブを翻すと、

「ついてくるがいい」

 とやはり後ろを振り向くことなく歩き出す。私たちは慌ててその後を追った。






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