06
登場人物が暴言を吐くシーンあり。
ボクは『ガーデン』に来て、初めて夢を見た。
想い出の中で、一番懐かしいと思うのは高校時代だろう。
小さな頃はすごく大人に見ていた。なのに、いざ自分がそうなってみるとまだまだ子供だった。まだ子供であることを許された時代だった。
何故、私はその日、高校へ足を向けたのだろう。
久しぶりに足を踏み入れた母校では、学校祭が開催されていた。
ほっ、とする。一般開放日の今日ならば、容易く校内に入ることができる。
ああ、そういえばイトコが言っていたっけ。「見に来てね」て。忘れていたな。
でも、……。
ここに来て何が得られると思っていたのだろう。ただ孤独感が募っただけだった。
卒業式のあの日、制服を脱ぎ捨てたあの瞬間、ここは私の居場所ではなくなってしまったのだ。後輩たちに明け渡してしまったのだ。
もう、私の居場所はここにはない……
ヒトがこんなにもあふれているのに、静寂が私を包む。どんな喧騒も鼓膜を叩かない。ヒトの動きは何処か緩慢で、サイレントムービーを観ているような錯覚を覚える。
外は陽射しがあふれているはずなのに、天井からはこんなにも照明が光を降り注いでいるのに、この瞳に映るのは色褪せたセピア色の風景が広がる。
なんだか、ノスタルジックで物哀しい。
※
きっかけは単純だ。
嫌なことがあった。ただそれだけのこと。
物知らずなところがあるのは自分でも自覚している。でも、『バカ』なんかじゃない。課題でわからない部分があって、「教えて下さい」て聞いただけなのだ。なのに勝手に勘違いして、他人のこと『バカ』呼ばわり。
はっきり言ってムカつく。
『前にやったこと、あるでしょう? 知らないって? やったて、やった。絶対やったて。覚えてるんだから。お・し・え・てるよ。絶対やってるって』
だから、勘違いだって。
『何? ホントにやってないの? それじゃアンタ、今まで何やってきたの。やってないって威張れることじゃないでしょう』
それはそうかもしれないけど、だけど先生、こっちにはこっちの事情がある。去年、半年近く体調崩して学校来られなかったんです。
それを聞いて、フンって鼻で嗤われた。細い目を更に細めて、キツめの目を更に吊りあげ見下すようにヒトのことを見た。
『いや、やっぱりゼッタイ一度やってるって。……覚えてないの? アンタ、バカじゃない』
バカじゃない、バカじゃない、バカじゃない……
その日は一段と機嫌が悪かった。
やだね、あぁホント。そんなんだから彼氏の一人もいないんだよ。それで焦っちゃってみっともない。『先生』てだけでそんなにエラいわけ!? 知ってるんだ、今日機嫌悪い理由。主任の先生と、またぶつかってんの。ていっても、アンタが勝手に反発しているだけじゃない。あの先生は、全然アンタのことなんて相手にしてないから空回りしているの。それ自覚しているから、だから私たち生徒に八つ当たり。でも、エコヒイキしている子には絶対当たらない。そこらへん、しっかりしているね。
「……ぁ」
パン
「ちょっと、聞いてるの!?」
背中を叩かれたのと一緒に、感情が弾けて急激に萎む。ついさっきまで目眩がするほど熱かったのに。
「ホント、アンタだったらボーッとしてるよね。そん時もその調子で聴いてなかったんじゃないの。ああ、そうに決まってる。やっぱりやったんだよ。どうして覚えてないかねぇ。たるんでるんじゃない」
身体に似合わないキンキンした声でさえずる。
ホント、うっさいおばさぁーん。弛んでるのはアンタのお腹でしょ?
でも、どんなに嫌でも学校に行けば顔合わせなきゃならないんだ……。
※
別に、それだけがすべてではないけれど。
確たる理由なんてきっとないし、いくつもの『なんとなく』が集まったにすぎない。
いい年して、とも思うんだ。
なんて世界は儘ならないんだろう。
こんな世界、いらない。なくなっちゃえばいいのに。
世界が消えてくれないなら……。ボクが消えてしまえばいい。