04
木の上で果実を囓るヒソカを発見した。
そして初めて、ここいらの樹に果実がなるのだと知った。
かしゅっ
灰黄色の皮にヒソカが歯を立てると、瑞々しい果実の汁が白い顎を伝う。
「喰いたいのか?」
見上げるボクの存在に気づき訊いてくる。ボクが頷くと、
「ダメ。やんない」
とにべもなく断られる。なんだか腹立たしい。もう少し言いようというものがあるではないか。
「ケチッ」
だがそれに対して返したボクの言葉も、あまり……かなり高尚なものではなかった。
ボクのその発言に、ヒソカは右目尻に人差し指を立てて応えた。所謂「あっかんべぇ」である。
カチンとしたボクが更に言葉を募ろうとした時、背後で一部始終見ていたヒメルの笑い声がそれを諌めた。空気を振るわせる、静かな音のない笑い声が。ボクはまだ一度も彼女が声をあげて笑うのを聞いたことがなかった。
「別に空腹というわけでもないでしょう?」
白い顎に指をあて、首を傾げてヒメルは問う。
そのとおりなのでボクは頷いた。でも、目の前で誰かが何かを食べているのを見ると、つい自分も欲しくなってしまうものだ。
「満腹というわけでもないけど」
と、つい屁理屈を言ってしまう。ヒメルの顔を窺うと、彼女は微笑んでいた。
「あれは、ヒソカだけが食べるものなの。あれを食べるのがヒソカの仕事でもあるのよ」
「じゃあヒメルも食べたことないの?」
「そうね」
それではヒメルは何を食べているのかが気になった。だが、これ以上この話題にこだわるのはなんだか卑しい気がしてボクはやめてしまった。
※
昼も夜もない『ガーデン』は時間の間隔があやふやになってしまう。
ここに来て、いったいどれくらいの時間が経ったのだろう。……あぁでも、そんなことがどうでも良くなる居心地の良さなのだ。
大地を覆う下草はとても柔らかく、眠たくなれば何処でも寝床となる。暑くも寒くもなく、過ごしやすい気温に保たれている。
記憶がないことにさして不自由を感じないボクは、別にこのままでもいいかなと思い始めていた。
ここはボクにとって、『楽園』だった。