02
ここは『ガーデン』といい、彼女らはその『管理人』のようなものだと説明してくれた。
花ひとつない、ただ樹が乱立する薄ぼんやりとした周囲の風景を見まわし、ボクは素直に首を傾げる。
すると少女は顔をしかめ、
「以前は花だって咲いていたし、明るかったのよ。でも、ほんの少し前からこの状態なの」
こんなことは初めてだわ、と頭を振った。
彼女は『ヒメル』と名乗った。色素の薄い髪を背に流し、華奢な身体を生成色のノースリーブのワンピースが包んでいる。飾り気のない恰好は、落ちついた彼女の雰囲気とよく合っている。
その横で行儀悪く胡座をかき、むっつり黙り込んでいる少年の名は『ヒソカ』。ヒメルと同じ色素の薄い髪を、彼は無造作に襟足で一括りにしている。恰好は、タンクトップとショートパンツの上に法被という風変わりさだ。
本当に、目の前の二人は顔立ち、背格好がよく似ているが見分けが容易につく。衣服を取り替えてもたぶん間違えないという妙な自信があった。ヒメルは大人っぽいし、ヒソカはこれでもかと言うほど『小憎らしい』ガキそのものの顔立ちをしている。呼び間違える心配はなさそうだ。
ボクは二人には気づかれないように小さくため息をついた。
先程から、ゆらゆら身体を揺らしそっぽを向いているのだが、ちらちらと向けてくる視線を感じていた。その警戒心は当然かな。最初にボクを見つけたときからヒソカは、徹頭徹尾『無視する』『見捨てる』『捨てておけ』と言って憚らなかったというし。
「しばらくここで休んでいけばいいわ。落ちつけば、そのうち何か思い出すこともあるでしょうから」
そんなヒソカを知ってか知らずか、ヒメルはこう提案してくれた。ちらりとボクはヒソカの顔色をうかがった。目と目が合い「なんだよ」と言う目で見られ、ボクは慌てて視線を逸らす。
「い、いや……だけど」
「あら、迷惑?」
小首を傾げる彼女の言葉に、ボクは焦って首を横に振り否定する。正直いって、これほど有り難い申し出はない。右も左もわからない場所で、ただでさえ自分の存在さえも持て余しぎみなのだ。放り出されたりしたら、途方にくれるどころでは済まないのは目に見えている。
「ありがとう」
「バーカ。勝手にうろつかれたら迷惑なんだよ」
それぐらい気づきやがれ、このバカとヒソカが告げる。ならば、それは『監視』と言うことなのかとボクの表情が心なしか強張る。問う眼差しでヒメルを見ると、
「それに、最近ここも物騒だし」
と彼女は微笑み、さらりと別の危険性を告げる。
「だから、私たちの目の届かないところには行かないでね。この先にある小川に案内するわ」
スカートの裾を払い立ち上がる彼女は、ボクの手を取る。チッ、と舌打ちするような音がした気がするけれども、無視をすることをした。
案内された小川は、まるで銀を流し込んだような鈍色をしていた。それでも、触れると水の感触がしたし、心地よくひんやりしている。
「うん、問題ない」
ひとり納得するボクを、ヒメルは唇に拳を当て笑って見ていた。ボクは頬がほんのり熱かくなるのを感じた。
「できれば、この周辺からあまりで歩かないことをお勧めするわ。守ってね」
「うん。わかったよ」