01
目覚めたボクを、よく似た顔立ちの少年と少女が見おろしていた。
先程からボクの頬を叩いていたのは、少女のほうらしい。目覚めたボクが握りしめていたのは、彼女の細い手首だったから。
「手、痛いわ」
少女は顔をしかめると、抗議の声をあげる。
「痛いのよ、手。いいかげん離して」
静かな怒りをはらんだ声は、不思議と耳慣れたような感じがして、ボクは首を傾げた。
「はれ?」
「ようやく起きたのか、コイツ」とは、少年が。
「やっとお目覚めね」とは、少女が
その眼差しに非難する色を感じて、ボクはそろそろと握りしめていた少女の手首を解放した。その白い手首は、うっすらと赤く染まっている。申しわけないと思う。
「なぁ、大丈夫かコイツ」
まだ夢醒めやらぬボクに、少年の言葉は容赦ない。
彼は失礼にもヒトを指差し、傍らの少女に問う。少女はやっと解放された手首をさすっていた。
「さあ、どうかしら。目立った外傷は見あたらないけれど、意外と頭を強く打っているかもしれないわ」
だとしたら判断のしようがないわと、少女はもっともらしく頬に掌をあてるとため息をつく。
「ねぇ、あなた大丈夫。何処かいたむところはある?」
「ここ、どこ?」
「げっ!!」
ボクの精一杯の返答に、少年は呻いた。露骨に目をすがめて、『ナニ言ってんのコイツ』と表情が語る。
少女のほうは、ただ目を瞠っただけだった。その反応は、有り難い。むしろ冷静になることができる。ここでわざとらしく口許に手を当てられて、『まあお気の毒』という表情をされたほうが気が滅入ってしまう。
寝転がったままボクはため息をついた、胸郭が痛むくらいに。そして、今度は短く息を吐きだし起きあがろうとした……が。
「――――――!?」
ボクの身体を激痛が駆けめぐった。破鐘が響き渡っているような頭を抱える。己れの叫び声さえ激痛を煽るが、叫ばすにはいられない。その痛さのあまりに転がることさえも許されない唯一の抵抗だった。
「大丈夫?」
高くも低くもないその気遣う声は、少しこの痛みを和らげてくれる気がする。
きつく握りしめた掌の痛みが、なんとかボクを留めてくれる。歯を食いしばり、何度か呼吸を整えようやく顔を上げた。手にぬくもりを感じる。
「バカヤロウ。痛いだろ」
白くすっかり強張ってしまっているボクの手を、少年が解いてくれていた。
「ああ、大丈夫だ」
不思議と言葉にすると少し症状が治まってくる。
「本当に?」
まだ気遣う少女にボクは頷く。
「ああ、少し治まったよ。……それと、ありがとう」
二人に向けて、ボクは少しぎこちない笑みを向ける。ハハ、正直言って笑っている場合ではない。気持ちに少し余裕ができると、考える余裕ができ、そうしてとんでもない事実に思い至ったのだ。
ボクは、本当にここが何処なのかわからなかったし、何故こんなところに転がっているのかも、それどころか自分のことさえもわからないのだった。
「記憶喪失?」
少年とボクの言葉が重なる。