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はぐれ神童の異世界戦記  作者: 月見酒
第一章 『  』の歯車は動き始める
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好きなことは戦いとお金!

誤字脱字報告があれば宜しくお願いします。

更新は不定期です。出来るだけ早く投稿出来るよう頑張ります。

男爵を準男爵に変更しました。

 それから数日、援軍として向かってきていた敵軍の待ち構えていたが、斥候部隊からの報告でどうやら引き返したらしい。それもそのはずで、向かってきていた敵軍は六千。こちらは俺たち援軍合わせて七千。砦を落とすのに必要とされる兵数は敵の3倍は必要とされるため引き返すのは当然と言えた。

 一週間後、援軍が到着するなり、俺は報酬を受け取るため列に並んでいた。


「次!」

 ようやく俺の番か。

 俺は女指揮官の前に立つ。


「今回の戦いでは見事だった。お前が敵大将を討ち取ってくれたおかげで敵は総崩れをおこした」

「褒め言葉なんていいから。さっさと金を寄こせ」

「貴様! 無礼であろう!」

「よい。こいつはこういう奴だ」

「しっ、しかし……」

 納得いかないのか男は俺を睨んでくる。さっさと報酬貰って出て行きたいぜ。


「これが、お前の報酬だ」

 皮袋に入った袋が机の上に置かれる。

 俺は袋の中身を確かめる。金貨6枚。

「随分と多いな」

「意外だな。お前からそんな言葉が出てくるとは」

「別に金は嫌いじゃない。どちらかといえば沢山欲しい。だが、今回の戦果からしては多いと思っただけだ」

「何気に常識人なんだな」

「からかうな」

 女はクスクスと笑みを零す。


「それは当然の報酬だ。お前は単独で敵陣を突破し、敵大将を討ち取ったのだからな」

「だが、それでも多い」

「いわば、それは投資だ」

「投資だと?」

「ああ。お前は敵大将を討ち取った。つまりお前は我が国だけでなく敵軍にも名が知れ渡ったという事だ。そうなれば傭兵であるお前を引き込もうとする者たちが現れてもおかしくは無い」

 なるほどな。俺は軍人ではない。金で雇われた傭兵だ。傭兵を庇う者などいないが、傭兵であるからこそ引き込むことも容易いというわけか。


「つまり、お前は俺を引き込みたいというわけだな」

「ほう、図体が大きい分頭は悪いかと思ったが頭も良いようだな」

 お前は俺を引き込みたいのか、貶したいのか。


「そうだ。私はお前が欲しい。どうだ私の隊に入らないか」

 確かにこんな美女の傍で戦える事に不満はない。だが、


「断る」

 俺は金貨の半分を机に置く。


「理由を聞いてもいいか?」

「俺はお前の下につくつもりはない」

 ま、俺が認めた奴意外だけどな。

 だが、女指揮官の気に障ったのか、眼光が鋭くなる。おお、こわっ!


「それは私が女だからか?」

「は? 何言ってるんだ?」

「違うのか?」

 兜を被って表情は分からないが、俺の言葉に女指揮官はきっと呆けた表情をしていたに違いない。


「当たり前だ。お前は俺が知る限り指揮官の中ではトップの指揮官だ」

「なら、何故だ」

「俺は縛られるのは御免だ」

 ま、俺が認めた奴なら構わないが。


「俺は自由に生きたいんでね。俺が傭兵をやっているのは手軽に金が手に入るからからだ」

「つまりは地道に働くのが嫌だと」

「そうだ」

「なんとも変わった怠け者だな」

「ほっとけ」

 俺は金貨が入った皮袋をしまい踵を返した。


「待て」

「まだ何かあるのか?」

「忘れ物だ」

 女指揮官は机に置いた金貨を渡してくる。


「これはお前の物だ」

「良いのか?」

「私は貴族だ。貴族には見栄を張らないといけない時があるんだ」

 小声で呟くように言ってくる。


「面倒だな」

「それに関しては私も同感だ」

 どうやらこの女指揮官は根っからの軍人らしい。たまには居るんだな。こんな奴も。


「なら、これはありがたく貰っておく。じゃあな。また何処かの戦場であったときはまた雇ってくれ」

「ああ、ぜひとも雇わせて貰う」

 俺はそのまま砦を後にする。

 一ヵ月後。一つの噂が流れる。

 戦いを好み、2メートルを超える大剣を自由自在に操り、戦場を捜し求める黒い鬼が居る。と。

 それがおれ自身だと気づくのはそう遠くないことだった。



 街道を歩く。馬を買えば楽だろうが生憎とそんな金は持ち合わせていない。

 一ヶ月前に貰った報酬も食い物と酒と女と大剣の修理に飛んでいった。悪いが割合だけは言えない。俺の人生に関わるからな。


「ん?」

 次の都市に向かって歩いていると後ろから蹄の音が聞こえる。騒々しいな。数的に二百は居るか。

 徐々に音は大きくなる。

 俺は街道沿いから離れ、その場で止まり後ろから迫る一団が通り過ぎるのを待つ。

 ようやく見える距離まで来る。あれは騎馬隊か。随分と急いでいるな。


「止まれ!」

 先頭を走る兵が大声で命令する。勿論これは俺にではなく追尾してくる兵隊に向けられたものだ。俺はその場で止まっているからな。

 先頭で走っていた兵が数名の部下たちであろう者たちをつれてやってきた。


「貴様何者だ」

「俺は傭兵だ」

「傭兵、一人でか?」

「ああ、人に気を使うのが苦手なもんでな」

「そうか。それでお前は何処に向かっている?」

「この先の都市だ」

 その言葉に男たちの視線が鋭くなる。現状から見て何かあったようだな。


「何しに向かう?」

「別に。噂で都市付近まで敵が来ていると聞いたからな。金になると思っただけだ」

「ほう、それはつまりあの都市を襲うということか?」

「何故そう言う考えに至ったかはしらないが、あながち間違ってもいないだろうな」

 おお、一瞬にして殺気をぶつけて来るか。流石は訓練を受けた兵士だな。


「俺は傭兵だ。雇われればなんだってするさ。ま、戦だけだがな」

「なるほど。ならお前を雇えば都市を守るために戦ってくれるのか」

「た、隊長! こんな得体の知れない奴を雇うなんて!」

「ああ、勿論だ」

「そうか。なら雇う」

「隊長!」

「今は一人でも戦力が欲しいところだ。傭兵であろうとな」

「それはそうですが……」

「一つ聞いておきたい。お前は傭兵だ。先に雇った私たちよりも敵が提示してきた金額で裏切るということはないのか?」

 ま、当たり前の質問だな。


「裏切るという表現は間違っている。俺は傭兵だからな。お前の味方ではない」

「貴様!」

 部下の男が剣を抜こうとするが隊長が手で制止させる。


「だが、傭兵全てがそうだとは言い切れないが、俺には俺のやり方があり、心に決めたことがある。それは最初に受けた依頼は必ず完遂する。とな」

 隊長は俺の眼を覗き込む。その間街道には沈黙が漂う。


「良いだろう。おい、さっき落馬して怪我した兵の馬を連れて来い!」

「いいのですか隊長!」

「今は一刻を争うときだ。責任は全て俺が取る」

「……分かりました」

 馬を引き連れてくる。

 よしよし。俺は馬を撫でて軽くコミュニケーションをとったのち馬に跨る。馬は森に居たときにも乗ったからな。大丈夫だろ。


「そういえば名前を聞いていなかったな。私はレイーゼ帝国西方軍騎馬隊で千人長をしているオウル・オレディーだ。男爵の位ではあるが、オウルと呼んでくれ」

「分かった。俺はジン。宜しく頼む」

 俺はオウルと握手する。思った以上に出来るな。こいつが男爵となると子爵や伯爵はもっと優秀なのかもな。だが、そうなるとここまで攻め込まれる理由が解らない。いや、ただ単に無能連中が多いだけかもな。


「ジン……黒服……それなりに長身………2メートルを超える大剣…………隊長こいつですよ!」

「どうしたカマル、騒々しいぞ」

 まったくだ。鼓膜が破れるかと思ったぞ。


「ですからこいつですってオウル隊長!」

「だから何がだ」

「ほら、先日噂で聞いた、黒鬼ですよ」

「あれか。だがあれはどう見ても尾ひれがついた噂話……でもないようだな」

 オウルは俺を見て、何故か納得したような表情を浮かべる。お前らだけ解決してもなんのことだがさっぱりなんだが。


「なんの話をしているんだ?」

「お前の噂についてだ」

「俺の噂?」

「ああ。戦いを好み、戦場を捜し求め、2メートルを超える大剣を自由自在に操り、敵を屠り、喰らう、黒い鬼が居るとな」

「もしかして俺の事か?」

「ああ、見たところお前以外いないだろう。お前なんだろ、『大槌使いのゴーラン』を斬り倒したのは」

「ああ……あの髭面男か。確かにあいつを斬ったのは俺だが、別に食ったりはしないぞ」

「だが、戦いが好きで戦場を捜し求めているんだろ」

「ああ、大好きだ」

 戦えて、尚且つ簡単に金が稼げる。一石二鳥だからな。


「なら正解ではないか」

 確かに。


「おっと、こんなところで立ち話をしている場合ではない。急ぐぞ、目的地は現在戦闘中のデモナス領、都市ソンブルへ向かう。進軍開始!」

 オウルの命令で再び騎馬隊は土煙を舞い上げながら都市ソンブルへと向かう。てか戦闘中なのかよ。こんなところで駄弁っている場合じゃねぇ! 新しい雇い主も見つかったことだしな!

 俺は騎馬隊に混ざり都市ソンブルへと急ぐ。俺からしてみれば稼ぎ場へ早くいけるからありがたいがな。

 馬に乗って走ること数十分目的地の都市ソンブルが見えてきた。

 しかし都市からはいくつもの黒い煙が立ち昇っていた。


「急がねば! 総員速度を上げろ!」

「しかし隊長、このままでは馬が疲弊して使い物になりません!」

「構わん! 都市の中では機動力が落ちる。相手に恐怖を与えれればそれでいい」

「分かりました!」

 騎馬隊が速度を上げる。俺も遅れないよう速度を上げる。それにしてもオウルはほんと優秀だな。騎馬隊の凄さは、その機動力を持って相手に恐怖を与えることにある。しかし、自由に動けない市街地では発揮するのは難しいだろう。


「隊長、門が閉まっています!」

「こんなときに」

 このままでは都市内部に入ることは不可能。俺たちが来た方向は東。敵が入ってきているのは西からだ。その事にオウルは苦渋の表情を浮かべる。


「なら、俺に任せろ」

「何か策でもあるのか」

「策というほどでもない」

 俺は騎馬隊から飛び出す。俺が得意な単独専攻だ。兵士なら絶対にあとで問題になるだろうが、俺は傭兵だ。そんな事関係ない。

 馬の腹を蹴り、速度を上げさせる。


「あいつ門に突っ込むぞ!」

 後ろから驚きの声が聞こえるが、今は無視だ。

 俺は馬の背に立つ。

 馬が恐怖で曲がる瞬間、馬の背を蹴って跳ぶ。


「おらっ!」

 背中に担いでいた大剣を思いっきり振り下ろす。

 馬に乗っていたときの速度のまま振り下ろされた大剣はらくらくと門を両断し、吹き飛ばす。

 それにしてもやりすぎたな。手が痺れた。


「ば、化け物だ」

 誰だ化け物なんて言った奴は。俺は人間だぞ。それに道を切り開いてやったのにその言い草はないだろ。


「それよりオウル。開いたぜ」

「っ! 総員突撃!」

「「「「おおおおぉぉぉ」」」」

 騎馬隊は都市内に突入する自分たちの存在を知らしめるため、力強い咆哮をあげて。

 それより俺も行くとするか。そろそろ懐も寂しくなってきたしな。

 俺は先ほどの馬に跨り都市内部へ入り敵兵の許へ駆ける。

 ここからでも聞こえる悲鳴と怒声。

 剣と剣がぶつかり合う音。

 あらゆる感情とそれを具現化する破壊音が向かう先にある。それは近づくほど大きくなり、正確なものとなっていく。そろそろだな。


「死ね!」

「お前がな」

 物陰から飛び出してきた敵兵の首を飛ばして渦中へと向かう。そこに大量の武功があるからだ。

 味方を避け、襲ってくる敵を薙ぎ払う。やはり近づくほど敵の数も増えていた。しかし、


「見えた」

 俺は笑みを浮かべる。理由は敵が侵入してきたであろう壊された門が見えたからだ。

 まだ、入ってきてるな。数からして六全部で千と言ったところか。

 数は多いが、味方もそれなりに居る。それに、


「俺には関係ねぇ!」

 敵が何人いようが殺せば済む話。それに半分も死ねば敵は撤退するだろう。そうなればこの都市は守られ俺には金が入る。


「それだけのことだ」

 近づく敵を斬って、蹴って、殴って、おれ自身が出来る事を徹底的にやっていく。


「おい、なんだあいつは!」

「あんな奴がこの国に居たのかよ!」

「おい、あいつ黒鬼じゃねか! 『大槌使いのゴーラン』を倒した」

「嘘だろ……そんな奴を倒せるわけがねぇ!」

「死にたくねぇよ!」

 一部の敵兵は恐怖で逃げ出す。が、


「逃がすわけねぇだろ!」

「「「え?」」」

 背を向けた敵の頭を斬り飛ばす。ふざけた声で疑問符浮かべていたがお前たちにはもう必要ないだろう。


「さて、次は誰だ?」

 馬から下りて敵兵に問う。しかし敵兵は一瞬の出来事とも言える早業で殺されている味方を見てすでに恐慌状態になっていた。ひとりを除いては。


「貴様が黒鬼か」

「そう呼ばれているらしいな」

 他とは格好が違う男が騎馬に乗ってやってきた。たぶんだが、こいつがこの隊の隊長だろう。


「私はゴルム王国の辺境伯にして『知将』と呼ばれている男だ。貴様も耳にしたことがあ――」

「知らないな」

「………」

 どうして貴族はこう己の自慢話が好きなんだ。さっさとやれば良いだろう。戦場に正義も悪も無ければ卑怯もへったくれもないんだからよ。


「まあ、良い。傭兵風情に教養を求めた私が愚かだったようだ。すまない」

「いえいえ、そんな事はありませんよ。なんだって貴方は『恥将』なのだから」

「き、貴様……」

 敵からは憤怒の感情が味方からは笑い声が聞こえる。まったくプライドの塊は挑発しやすくて助かる。


「もうよい! 貴様はここで私自らしま………つ」

 男の首が地面に落ちる。


「話が長い」

 俺は視線を向ける事無く吐き捨てる。

 さてと、残りは指揮官を失い士気が落ちた残党兵だ。さっさと終わらせて報酬を貰いたいものだ。



 散り散りに逃げていく敵兵を馬に乗って残党狩りを行う。姿を俺は眺めていた。俺ももっと戦って武功を挙げたかった。金のために。


「これもオウルのせいだ」

 追いかけようとするとオウルにここからは私たちの仕事といわれたため、俺はしかたなく門番みたいな事をしていた。本音を言えば逃げ遅れた奴がいないか期待していた。が一人も居なかった。残念だ。

 こうして都市防衛戦はあっけなく終了した。



 月日が流れること三ヶ月。

 あれから各地で小競り合いは起きていたが、先月ゴルム王国と休戦する事が決まった。

 理由をあげれば、需要拠点の一つである砦を奪還された事と、都市ソンブルを奪えなかった事が大きいようだ。

 で、現在俺は何故か知らないがレイーゼ帝国王宮謁見の間にて跪いていた。


「何故こうなった」

「静かにしろ!」

 隣で跪くオウルに叱られてしまった。だってそうだろ。俺は戦いが好きで楽に金が稼げるから傭兵をしているだけであって、皇帝に呼ばれるために傭兵をやっているわけではない。

 それしたってだだ広い部屋だな。無駄に豪華だし、ここの部屋にあるもの全て売ったら幾らになるんだ? 一生遊んで暮らせるんじゃないだろうか。

 それに、さっきから妙に空気が重い。停戦が結ばれてまだ一ヶ月だし無理も無いが、一番の理由は俺だろうな。貴族ってのは爵位の高いものにはゴマをするが下級貴族にたいしては見下す傾向がある。ましてや俺は平民。それも傭兵だ。誇りだなの、愛国心だのはない。そんな奴が皇帝に呼ばれたとなれば、貴族連中からしてみれば最悪なんだろうな。ま、俺は金さえもらえれば良いけど。

 おっと、そんな事考えたら皇帝が来た。跪いているから顔までは見えないがあんな派手な服を着るのは間違いなく皇帝だろう。それに後ろの奴は宰相か? 随分と白が多い服だな。


「オウル・オレディー男爵、それにジン面を上げよ」

「「はっ!」」

 俺はオウルから教えられた手順で顔を上げる。さて、この国の王がいったいどんな奴なのか知るときだ。


「若すぎだろ!」

 思わず本音が叫びとなって出てしまったが、仕方が無い。だって目の前に居る男はどう見ても二十歳前後にしか見えないぞ。普通は白い髭を生やした爺が出てくるんじゃないのか。

 どう考えても皇帝には見えない。

 紅の髪に、整った顔立ち。特に少し釣り目の中にある瞳は縦長だった。

 人間じゃないな。


「お、おい!」

 オウルが隣で慌てているが今はそれど頃じゃない。本当に大丈夫なのか。この国はこんな若い奴を国王にして。


「貴様、皇帝陛下に向かって無礼であろう!」

 宰相の爺が怒り出した。ってそう! あんたみたいな奴が国王の風貌だろう。


「よい」

「し、しかし陛下」

「良いと言っている」

「畏まりました。では、これより戦果褒賞の儀を行う。オウル・オレディー」

「はっ!」

 オウルは返事をする。


「オレディー卿、貴公は都市ソンブルに攻め入ったゴルム王国軍四千の兵をたった千の騎馬隊で援軍として向かい混乱する都市の者たちに迅速な指示をだし、纏め上げ、撃退したと余は聞いている。よくぞ守ってくれた」

「身に余るお言葉を誠にありがとう御座います」

「余は褒賞として、金貨三百枚と男爵から子爵に陞爵とする」

「有難き幸せにございます」

 視線をオウルに向けると奴は泣いていた。そんなに嬉しいのか。良かったなオウル。


「次に傭兵ジン」

「はっ!」

「貴公は都市ソンブル防衛戦にて、単身で敵軍の中を突き進み、最後には将を討ち取ったそうだな」

「その通りで御座います」

 いったいどんな報告をしたかしらないが、貴族連中が敵意を平然と向けてくるから早くここを出て行きたいんだが。


「その他にも、奪われた国境の砦の奪還作戦においては敵将の『大槌使いゴーラン』との一騎打ちのすえ、これも討ち取ったとある」

「陛下、お言葉ですが、この者は部隊を離れ独断専行を行ったとも報告を受けております」

「確かにそうだったな……」

 国王は顎に手を当てて何か考えている。頼むからさっさと褒賞金だけよこして帰らせて欲しいんだが。

「ならジン、貴公には――」

「兄上!」

 な、なんだ? 突然開かれた謁見の間の扉。そこには茜色の長髪をなびかせる凛々しい女性が威風堂々と現れた。恐ろしいまでに怖い顔で。

 うん、瞳が縦長のせいか、迫力が違うな。


「王女殿下、今は戦果褒賞の儀の最中に御座います!」

 宰相が慌てた表情で言ってくる。しかし王女さんがひと睨みしただけで黙って下がってしまう。いったいどんなガンを飛ばしたんだ。宰相の爺、真っ青だぞ。それにしてもどっかで見たことがあるような………ないような。


「エレン。宰相が言ったとおりだ」

「兄上こそ、何故私を呼ばない!」

「うむ、そういえばお前は王族だが今回に関しては、無関係ではないな」

「そうだ。私が砦奪還の増援部隊の指揮を執っていたのだからな」

 そうだったのか。ん? 待てよ。って事はだ。俺に話しかけてきた女指揮官ってもしかして。

 面倒ごとになりそうだな。なんて思っていると王女様が俺に近づく。


「久しぶりだな、ジン」

 よし、ここは知らん振りだ!


「初めまして王女殿下」

「何言っている。お前とは砦奪還の際に私の歩兵部隊に配属になったはずだ」

 そうだが面倒だから知らん振りだ。


「申し訳ありません。生憎と記憶力には自信がありませんので、王女殿下のような美しい方を戦場で見た覚えは」

「ま、確かにあの時は甲冑と兜を着けてたからな。分からなかったのも無理は無いが」

 なんとかなったな。


「だが、お前が記憶力に自信がないのは随分と己を過小評価しているようだな」

「そんな事はないかと」

「あんまり自分の隊の不手際をこんなところで暴露はしたくはないが、仕方が無い。兄上」

「まだ何かあるのか?」

「戦争中において我が国での一般市民の扱いはどうなっているかご存知のはず」

「無論だ。敵国であろうと兵士で無い限り、暴力や陵辱、強姦といった事は禁じている」

「その通りだ。しかし情けない話私の隊の者が砦奪還後、砦内に住む女性を陵辱しようとしたのだ」

「ふむ、それは残念だ。エレン、隊長としてお前にも罰を与えなければならない」

「それは覚悟している。しかし、陵辱されようとしていた女性は犯されることはなかった。ここに居るジンが命令に従い断罪したからな」

「ほう、宰相それは真か?」

「はい……真に御座います」

「ふむ……余の所には報告が無かった事については後で聞くとして、ジン我が兵士が迷惑をかけたな」

「勿体無いお言葉に御座います。私はただ言われた事を成しただけに御座います」

「そうか。だが、独断専行は立派な規則違反だ。その場で処刑されていてもおかしくは無いのだぞ」

 そうなれば他の国にでも逃げるさ。

「兄上、それはそうだが、結果的に砦は奪還に成功した。それにジンが敵陣に穴をあけたおかげで我が隊も難無くと敵陣を突破でき、今回作戦が成功したのだ」

「確かにそうだ。報告とエレンの話を聞く限り、ジンの戦闘能力を考えると単独行動のほうが向いているのかもしれない。いや、この気に新しい部隊を設立するのもありかもしれんな」

 随分と持ち上げてくれるのは有難いが、嫌な予感しかしないんだが。それと皇帝が不穏な内容を呟いているのだが。


「陛下、恐れながら申し上げます」

「なんだ」

「この者は単独行動を行ったのは事実です。なによりこの者は平民の出。それはあまりにも」

「宰相、お前は平民だから駄目だと言うのか?」

 皇帝が宰相の爺を睨む。流石は王女さんの兄、目つきが怖ぇ。だが、宰相の爺さんもっと言ってやれ! 俺は軍なんぞに入るつもりは無いからな。


「そう言うわけでは……」

 そこで引くな爺さん!


「そう言う事であろう。いや、余がはっきりと言っていなかったのだ。これは余の落ち度だ。宰相、それに他の貴族連中もよく聞いておけ! 余は平民だの、亜人種だので差別するつもりはない。功をあげたものには、相応の褒美を与える。貴族の血脈など興味はない。その代の王が、領主が、有能であろうと次の代が有能とは限らん。貴族だからと民を無碍に扱うなど言語道断! 余への忠義を示したければ結果を出してみろ! そこのオレディー子爵のようにな!」

 皇帝はオウルを指し宣言する。思ったより良い皇帝かもな。だが忠誠を誓うつもりは無いがな。


「陛下それでは貴族の立場が」

「我が兵の失態を傭兵に後始末させる時点ですでに我が国の危機だ。貴族連中も誇りがあるなら切磋琢磨すれば良いだけの事だ。そうすれば余は相応の褒美を与える。これは貴族も同じだからな」

 この皇帝は面白いな。階級社会でありながら実力主義にしようとしてやがる。そうなれば現在に満足している貴族連中、特に上級貴族連中は黙っていないだろう。その反面下級貴族たちはオウルのように努力するだろう。本当に面白いな。国の外だけでなく内でも弱肉強食にしようとは。


「話がそれたな」

 しまった。俺もすっかり忘れていた。皇帝も忘れてくれればよかったのに。


「さて、ジンよ。お主は何者だ?」

 ん?


「申し訳ありません。無知な私では理解に図りかねます」

「………まあ良い」

 鋭い視線で睨み付けてきたが直ぐに普段の凛々しい表情に戻る。頼むから止めてくれ。心臓に悪いから。


「さて、ジン」

「はっ!」

「改めて、余は貴公に褒賞として金貨二百枚と――」

 金貨二百枚。マジか。これで好きな事が出来るぜ! 戦争も停戦状態になったし、長期間は働かずにすむ! おっと返事を忘れていた。


「有難き幸せ」

 俺はこうして金貨二百枚を手に入れた。ま、傭兵家業も好きだがそろそろ落ち着ける場所が欲しかった事だし丁度いい。それに戦乱の世へとなりつつある現代なら休む暇も無く戦場に向かうことになるだろう。

 その後は騒ぎが起きる事無く終わり、王宮を後にする。そう言えばあの王女さんの名前何処かで聞いたような気がするが今はベッドでぐっすりと寝たい気分だ。




 で、次の日なのだが俺は何故か再び王宮に来ていた。

 それにしても傭兵の俺がなんでまた王宮に呼ばれてるんだ。

 そんな疑問に悩まされながら俺は応接室にて出された紅茶を飲む。俺は紅茶はそこまで好きではない。紅茶よりコーヒー、コーヒーより禄茶が好きな元日本人だ。

 それから数分して陛下と王女殿下がやって来た。あの宰相の爺さんは居ないようだ。


「呼び出してすまないな」

「いえ、陛下からの御呼びとあらば地獄からでも駆けつける所存に御座います」

「随分と凄い事を申すが、今は余と妹しか居らぬ。敬語は止せ」

「兄上流石にそれは」

「よいのだ。ほら、何時ものように話せ」

 公私混同ははっきりとさせる人間のようだな。ま、この状況が公私混同していないかと言われれば微妙だろうが。だが、俺にとってはありがたい。


「なら、遠慮なく話させて貰う」

「それでいい。俺もそうさせて貰おう」

 どうやら国王陛下の一人称は俺のようだな。うん、こっちの方が話しやすくて良いな。


「で、今回わざわざ呼びつけた理由はなんだ?」

「幾つか理由はあるが……ジン、お前には俺の友になって貰いたい」

「友だと」

 どういう事だ?


「生憎と皇帝なぞやっていると本音で言い合える相手が居なくてな。見ただろ昨日宰相ですらあの様だ。血統だの平民だのとそんなものにしがみ付く連中や俺に気に入られようと下心で近づく者ばかりなのだ。その分お前はそういった事には興味がなさそうだしな」

 それは褒めているのか馬鹿にしているのか、微妙だがまあいいか。


「別に俺は良いぜ。こうして歳が近い男友達ってのも居なかったしな」

「そうか。それなら安心だ。なら、プライベートではヴォルフと呼んでくれ。俺もジンと呼ばせてもらう」

「分かったよ、ヴォルフ」

「順応が早いな」

「礼儀を知らないだけよ」

 妹さんや、随分とキツイですな。


「それで、まずお前の姓を考えないとな」

「なんだ、それは?」

「平民には姓は無い。ま、商人の中には持っている奴もいるが、貴族には姓がいる。だからお前にも姓を考えてもらう」

「まて、俺は傭兵だぞ。姓なんていらないだろ」

 その言葉にヴォルフと皇女は目を丸くする。なんだその表情は。


「昨日言っただろ。お前には準男爵の位を授けると」

「言ったのか?」

「まさか聞いていなかったのか?」

 嘘、マジで。


「え、金貨二百枚だけじゃないのか?」

「まさかとは思うが大金が手に入った事が嬉しくて聞いていなかったとは言わないだろうな」

 皇女さん怖いよ。顔が般若だよ。頼むからオーラ収めてくれないかな。


「それでどうなんだ」

「…………」

 目を逸らす。


「貴様!」

 皇女は憤怒した表情で斬りかかって来る。危なっ! 真剣白刃取りでなんとか命を失うことは無かった。が、


「何が、てへだ。貴様の頭の中にはお金の事しかないのか!」

「そんなわけ無いだろ。働く事無く一生過ごすのに大金が必要なだけだ!」

「そんな事を自信を持って言うな!」

 先ほど以上に激怒した皇女。おい、ヴォルフ笑ってないで助けろよ!

 なんとか静まった俺はしかたなく姓を考える。が、


「姓ね……」

 いきなりそんな事言われてもな。直ぐに思いつくような苗字なんて無いぞ。前世の苗字だと鬼瓦だしな。鬼……デーモン………デビル……


「トイフェル」

「それで良いのか?」

「ああ、別に姓に興味はないからな」

 ただ単に前世の苗字の一部をドイツ語に変えただけだからな。どこか中二病臭いが気にしないことにしよう。


「分かった。ならこれからお前はジン・トイフェルだ。宜しく頼むぞトイフェル卿」

「あ、ああ」

 早計だったかもな……


「さて、次の話だが。ジン。お前は何者だ」

「昨日も謁見の間で言っていたが、俺はただの傭兵。いや元傭兵だ」

「そんなわけがない。お前のことを少し調べさせて貰った」

 テーブルに資料を無造作に置かれる。


「北東の辺境にある森に住まう戦闘民族に生まれ、一年半前に森を出て傭兵として活動を開始し。その体型と並外れた戦闘能力でいくつかの有名な傭兵団からスカウトされるが全て拒否。その後も傭兵として幾つもの戦場を歩き回る」

「よく調べたものだな」

 ほんとよく調べているな。衛星やネットが無い世界でこれだけの情報を集められるヴォルフは随分と優秀な部下を持っているらしい。


「それで、それがどうしたんだ?」

「お前のその態度や口調はどう見たって戦闘民族とは違う。それどころかお前からは知性を感じる。戦闘民族ではありえないことだ」

「まるで戦闘民族が馬鹿の集団みたいな言い方だな」

「怒ったのなら謝ろう。だが、たった一年半でここまで知性を身につけられるものではい。それは人間であろうが、亜人であろうが、魔族であろうがだ」

 この世界には大まかに別けて四種族が存在する。

 人間族、亜人族、魔族、龍族である。詳細にすればドワーフやエルフ、獣人と多種多様だが、この世界に種族差別という概念は存在しない。崇める神によって種族が偏ることがあっても大半の国に殆どの種族が暮らしている。だから、人間が住む国の王が人間でなくても不思議はないのだ。

 それにしてもヴォルフの洞察力は凄いな。なのにどうして宰相どもを野放しにしているのか不思議だ。おっと今はそれど頃じゃない。別に現実逃避していたわけじゃないぞ。


「お前は何者だ」

 鋭い眼光が俺を射抜く。ここで嘘をついてもメリットはない。今後の事を考えると。けして眼光が怖いから正直に話すわけではい。けして違う。


「分かった話そう」

 別に教えることについて問題はない。言いふらすつもりも無いが。だが、

 俺はヴォルフの隣に座る名前は確か……まあいいや。妹に視線を向ける。


「エレンのことなら心配ない。俺が信用できる数少ない人間の一人だからな」

「そうか、それなら良い」

 そうそうエレンだ。ん? エレン何処かで聞いたような。まあいいや。


「そうだな。何から話せばいいか分からないから完結に言うとだな。俺は転生者だ」

「「てんせいしゃ?」」

 二人とも疑問符を浮かべる。どうやらこの世界には転生者は居ないのか、もしくは知られていないのかのどちらかだろう。ま、ステータスが無い世界だからな。無理も無いかもな。


「簡単に言えば一度死に生まれ変わったと言えば分かるか?」

「それなら分かるが全ては理解できない」

「そうだな。俺は前世で一度死んだ。もちろんこの世界じゃなく、別の世界でだ。その世界で俺は死に、記憶を持ったままこの世界で二度目の人生を送っているというわけだ」

「待て。お前は別の世界から来たと言うのか?」

「ああ、魂と記憶だけを持ってな」

 信じられない表情を浮かべる二人。でも無理はない。俺だってヴォルフの立場なら同じ反応をするだろう。だが、事実だ。


「つまりは死ねば生まれ変われるということか?」

「絶対にそうとは限らない。俺は神様がお詫びにって転生させてくれたからな。普通は記憶を失って新たな生を送るからな。その時は絶対に人間とは限らないしな」

「そうか。ん? お前は神様にあったのか?」

「会ったというか声だけを聞いたが正しいがな」

 俺は会ったことを語るがヴォルフたちは呆けた表情をしていた。


「一つ聞くがお前が元居た世界はどんな世界だったんだ?」

「そうだな……俺からしれみれば嫌な世界だったな。戦争もなく、ありとあらゆる物がこの世界より発展し、人間しか居ない世界だな」

「まるで楽園のような世界だな」

「そうだな。なぜそんな世界で生まれておきながら嫌な世界なんていうんだ?」

「楽園のような世界か……」

 前世の事柄を思い出す。楽しいと感じた時間は殆ど無く、悲しさが湧き上がってくる。


「俺からしてみればあそこは中途半端な、不完全な楽園だよ」

「不完全な楽園だと?」

「ああ、俺が生まれる前に大きな戦争があり、それが終わってからは平和を求めた。だが、それは仮初めに過ぎない。自己満足を満たすためなら平然となんだってする世界さ。いわば水鳥さ。水面に浮かぶ姿は美しくても水中では足をバタつかせている。そんな世界さ。ま、俺には関係ないがな。俺からしてみればあそこは呪縛しか無かったからな。俺は働きたくないのに。働かないと軽蔑してくるからな」

「それはただ単にお前が働きたくないだけだろ。だが、そうか……結局どの世界でも闇はあるということか」

「ああ、あるさ。だが、あって構わない。無いといけない」

「何故だ!」

「落ち着けエレン」

 俺の言葉に憤りを表して反発してくる。ああ、これは完全に嫌われたな。まあ最初っから好かれてはいなかっただろうが。


「そんなの無いほうが良いに決まってる! そんなものが無ければ悲しむ人々も苦しむ人々も居ないのだぞ」

「確かにそうだ。だが、駄目だ」

「何故だ!」

「幸せな日常が当たり前となれば、何が幸せなのか分からなくなるからだ」

「そんな事無い!」

「違わない。苦労があるから終わったときの達成感がり、怒りや悲しみがあるからこそ、嬉しさや喜びが強くなる。不幸があるからこそ、幸せな時間が嬉しく感じるんだ。つまりは全てにおいて表裏一体なんだよ。片方が無くなればもう片方のありがたみがなくなってしまう。なぜならそれが当たり前だと認識しているからだ」

「そんなことあるわけが……」

「エレン落ち着け」

 悔しそうな表情を浮かべるエレンの背中を摩るヴォルフ。たぶん彼女は俺と会う前になにかあったのだろう。だから俺の言葉に反論してきたのだ。

 だが、俺は間違ってはいない。強さを求め、戦場を彷徨い。最強となった時の達成感。それと同時に襲ってくる喪失感。あれは辛いからな。

 結局は新しい何かが無ければ人は直ぐに興味を失い腐っていく。それが嫌なら己自身に制限をつけて僅かな自由を満喫するしかないのだろう。


「悪いな騒がしくして」

「いや、俺も何か悪い事を言ったんだろ?」

「まあ、全てではないが触れていることには間違いはない」

「そうか」

 駄目だな空気が重たい。だが、このままでは後で飲む酒が不味くなる。


「他に聞きたいことはないか?」

「そうだな。ジンが傭兵でありながら頭が良かった理由はだいたい解ったからな。他に聞きたい事はまたの機会にさせて貰う」

「そうか。なら俺は帰るとしよう。家を買わないといけないからな」

「分かった」

 さてとようやく帰れる。後は家を買うだけだな。兄のヴォルフに妹のエレンか。思った以上に仲の良い兄妹だな。ん? エレン………エレン……。



『僕の代わりにみんなを………エレンを助けて欲しい』



 そうだ。あのふざけた紳士野郎が言っていた言葉だ。


「なあ一つ聞いて良いか?」

「……何だ?」

 流石はヴォルフの妹。睨む姿に貫禄ありだな。この女があの時の指揮官だったとは思いもしなかったが。ま、今はそれよりも。


「カインって知ってるか?」

「「っ!」」

 二人は目を見開き驚きの表情で俺を見つめる。どうやら知っているようだな。


「知ってる――うっ!」

「何故お前がカインを知っている!」

 エレンは俺の胸倉を強く握り締め迫ってくる。く、苦しい!


「し、知ってるも何も話したからな。それよりはな――」

「何処で!」

 先ずは離してくれ息が出来ない。


「エレン、離してやれ!」

 ナイスだヴォルフ。危うくまた死ぬところだった。


「で、何処で話た」

 謝罪もなしか。


「神様と話した時にだ」

「なら、別人だな」

「どうしてだ?」

「カインが……死んだのは2年前だからだ」

 なるほど。俺が会ったのはこの世界に来る前つまりは16年前ということだからな。だが、


「それは分からないぞ」

「何故だ」

「俺が元居た世界とこの世界の時間の流れが一緒とは限らない。もしも一緒だったとしても神様が16年前に俺を転生させた可能性だってある」

「それは……」

「ま、確かにあんたが言っている方が正しいかもな。ならいったい誰なんだ? 俺に『僕の代わりにみんなを………エレンを助けて欲しい』って言った奴は」

「え?」

 俺が神の領域で最後に呟いた男の言葉を復唱する。しかしその呟きにエレンは思考が停止しかけている様子だった。


「どうした?」

「い、今……なんて言ったの?」

「ん? 『僕の代わりにみんなを………エレンを助けて欲しい』って言ったんだが?」

「それは本当か?」

「ああ、俺がこの世界に来る寸前に奴に言われた言葉だ」

「あ……か……カイン……」

 エレンの頬を一滴の涙が伝い落ちる。


「っ! すまない部屋に戻る!」

 飛び出して出て行ったエレン。いったい何があったんだ? そんな疑問符を浮かべる俺にヴォルフが答える。


「そうか……カイン君は、ジンに託したか」

「そのカインって誰だ?」

「俺の元親友にしてエレンの婚約者だった男だ」

「そうだったのか」

 俺は開けられたままの扉をただただ見つめていた。

 その後ヴォルフから色々と教えて貰い、俺は王都大通りを歩いていた。

 カイン・デモナス。公爵家の嫡男として生まれたが12歳の時、両親が流行り病で他界。その後次代のデモナス領領主として6年間全うしたが、ゴルム王国との戦争にて戦死。それがカインという男だそうだ。

 まったくどんな因果関係だよ。これも神様の仕業なのかもな。面倒極まりないな。


「だが、たまには無償で依頼を受けるのも悪くないかもな」

 笑みを浮かべてさっそく商会へと向かうのだった。

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