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79話「潜水艇!それは男(魚)の夢!後編」

遅くなり申し訳ございません。

本当に本当に。

では魚の活躍をご期待ください。

 俺の名前はアッラーイ・モルフォス。世にも珍しい家名が先に来る血族だ。

 噂によるとかの大国の主、神王家も同じく家名が先に来る血族とか。

 つまり何を言いたいかというとそんな尊い血族の俺がリーダーを務めるパーティー「栄光の刃」がダンジョンに挑むのだ赤字などありえない。


 ん? 踏破? そんな不経済なことするわけないだろ? いくら投資が必要だと思ってるんだ? 人員・物資どれだけそろえればいい? 超一流の前線が2部隊。前線に補給をもたらす一流部隊が数知れず。不経済だ。どこのお貴族様ができるというのだ。そのような無駄遣いの果てに得られるのは名誉だ。ロマンで飯は食えん。


 そういうとこのダンジョン都市、コムエンドの酒場で爆笑される。


 何だこいつら。


 「お前さん程度が現実語ってる時点で御察しだな」

 「まったくだ。素人丸出しの歩き方をしおって、どうせちょっとだけレベルが上がったお坊ちゃんが調子乗っているだけだな。最近新人はこれだから……」

 「おいおい、それは20年前に俺がお前に言ったセリフじゃねーか。嫌味か?がはははは」


 イライラした。王都で名を馳せたこの「栄光の刃」のリーダーに向かってその物言い。だから言ってしまった。この物言いは3流であることを自覚しながら。


 「俺たちはレベル35の冒険者だ。新人扱いはやめともらおうかロートルの皆さん」


 一瞬場が静まり返る。……やってしまった。力をひけらかすのは3流がやることだ。


 「ぷっ」


 一斉に噴き出す酒場の連中。

 年相応のレベルじゃないから、盛っている、とでも思ったのだろうか。


 「くそっ、気分がわるい。マスター。勘定を頼む」

 「……いや、今回は良い。生きて帰ったら大目に払ってくれ……」


 酒場のマスター、エルフの美人が切れながらの眼で地合いを込めて言うう。


 「…………坊主。8階層で引き返せ。……忠告だ」


 騒がしいおやじどもとは反対に座っていた黒髪のドワーフが静かに俺に告げる。その眼にはあざけりが浮かんでおらず。ただただ酒と向き合っていた。この様子では俺が何を言っても聞かないだろう。


 ~~~~コムエンドダンジョン9階層


 俺は後悔していた。

 コムエンドのダンジョンは西の守護神、神樹の眷属が最近ダンジョン運営に参画し、聖樹のダンジョンと呼ばれ、死にづらい、という言葉だけを真に受け油断していた。


 「せぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は渾身の力を籠め仲間の魔法で動きを止めたワイルドキャッツと呼ばれる1m程度の黒い猫に剣を振り下ろす。

 ワイルドキャッツは頭を件でたたきつぶされ息絶える。

 俺は剣を離しその場に倒れる。

 モンスターの増援? 来たらそこまでだ動けない俺たちはそこで終わる。

 くそっ。酒場の忠告は本当だった。8階層ですでにメンバーには疲労が浮かんでいた。引き返すべきだった。視界には映らないがほかの5名のメンバーも俺同様にあるものは体力、あるものは魔法力を切らして倒れ伏しているだろう。

 皆、済まない。俺はプライドとレベルだけ高い間抜けなリーダーだったようだ。そんな俺に突き合わせて、本当に済まない。

 情けなかった。情けなくて泣きそうだが、俺にはそんな権利はない。……そろそろ立ち上がってモンスターに備えねば。。。そう俺が殿だ。仲間だけは生かして帰さねば。間抜けなリーダーに付き合ってくれた仲間だけは。


 そう覚悟を決めた俺に、そのあけ放たれ口に一滴の液体が落ちてきた。一滴とはいえ遺物に侵入、とっさに吐き出そうとしたが、その液体は口内ですでに俺の体へと溶け込んでいた。体に刺激が走った。不快な刺激ではない。

 なぜか勢いよく上半身を起き上がらせた俺は仲間を見る。すると仲間たちも口を押さえて唖然としている。

 聖樹の滴。

 俺が奇跡の現象に感謝をささげようと、ダンジョンの天井に張り巡らされた聖樹の根が薄い光で俺たちを照らしながらも『早く帰りなさい』と言っているように見えた。


 「モル?」


 回復術師のヌラルートが不安そうに俺を見上げる。

 おいおい。こんな目にあってまでまだ、10階層を目指したりはしないさ。


 「俺たちには早かった。未熟だった」

 「うん」


 攻撃魔術師ポールが答える。


 「でも、あきらめたりはしない」

 「ああ」


 スカウトのジャミが当たり前だとばかりに笑う。


 「鍛えてこんどこそいくぞ! 10階層!!」

 「「あたりまえじゃん!」」


 双子の獣人剣士マリーとイジーが近寄ってきてよろいの上から俺の胸を突く。


 「だから、今は引く!」

 「「「「「おお!」」」」」


 はい。奇跡によって俺たちは油断していた。

 大きな声を出したのでモンスターが寄ってきていた。


 1匹で前線力投入したワイルドキャッツが2匹と、その二匹を従えた、この階層のレアモンスターレッドボアがその存在を見せつけるように現れた。


 勝てる相手はない。


 だが、仲間が逃げる時間くらいは稼げる。

 俺はアッラーイ・モルフォス。重戦士レベル35で、それで、あいつらのリーダーだ!


 そう思うだけど俺の体に普段ではありえないほどの力が漲る。

 仲間たちに逃げるように叫ぼうと振り向くと8階層に繋がる階段の方面から小さな影がかけてくるのが見えた。あまりの場違いな影に俺は行動を止めてしまった。


 「危ない!」


 行動を止めた俺に襲い掛かろうとしたワイルドキャッツが振り向いた時には俺を追い抜いた陰に一刀両断されていた。…………俺たちが全身全霊でやっと勝てた相手がいとも簡単に切り裂かれた。


 「あはははは、これはきっと夢だ。俺たち9階層で死んだんだよ。きっと……」


 誰かが言ったが、俺はその言葉を否定する。

 誰が言おうが、俺は仲間たちを生きて帰すことを誓ったのだ。

 俺は前を向いて盾を構え戦闘体制に移行する。

 何が起ころうと守る。

 しかし、現実は俺の決意などまるで紙屑の様に吹き飛ばす。


 「割って入ってしまって、すみません」


 影はモンスターが警戒して距離を取ったのを見て振り返る。成人前だろうか身長は少し低め、長い茶髪を後ろにくくり、快活な笑顔で俺を見た少女はとんでもない言葉をつづけた。


 「割って入ったついでにあの獲物もらってもいいですか?」

 「いいが、あれは……」

 「ありがとうございます!」


 俺の言葉を聞き終わる前に少女は花が咲いたような笑顔でモンスターに躍りかかった。

 少女の身を案じて伸ばした俺の腕は次の瞬間意味を持たなくなった。


 「奥義、風の太刀!」


 少女とモンスターの間に2m以上の距離があった。

 少女が振るった剣から、振るわれた『剣筋』から風の刃が生まれた。そしてモンスターの体を切り裂いていく。1・2・3、3振りでワイルドキャッツとレッドボアの首が落ちた。その光景はまるで剣舞の様に可憐で、美しく、命を絶つ剣という武器を表現するに相応しい怜悧な舞だった。


 俺達全員魅入られていた。


 「お兄さんたち、ちょっとごめんよ。あ、きれいなおねーさん。今度お酒でも……」

 「サントスさっさと働け」

 「あ、アユム! お前またそんな大きな獲物……、お、レッドボアじゃんこいつ狩った後の処理が味を左右するぞ! 作業はいるから作業道具とか持って来てくれ!」

 「はーい。じゃあ、今日はここでキャンプした方がいいかな?それも師匠と相談しますね!」

 「くくく、腕が鳴るぜ。このでか物が」


 怒涛の展開に俺たちはただただ口を開けているだけだった。

 やがてそんな俺たちに気付いた、英雄シュッツが俺たちに声をかける。


 「坊主ども、俺たちは今日ここでキャンプをする。ついでだ一緒に寝ていけ」


 同行していたメンバーをみえればだれもかれもが有名人。そして彼らを継ぐといわれる弟子たちだ。

 その彼らが俺たちをまるで客の様にもてなそうとしていた。落ち着かない。小さなことでもお手伝いに走る。

 ダンジョンの中と思えない食事と寝床。

 別れ際には全員にアユムちゃんから各種ポーションをもらい、柔らかく騒がしい、思い起こせばコムエンド酒場の様な雰囲気を纏った彼ら別れ、俺たちは無事地上の酒場に帰還した。自らの未熟を痛感した俺たちは再びあの酒場に戻り頭を下げる。礼を言うために。そこで俺たちはそれまでの価値観をひっくり返される事実を知る。


 「は? アユムちゃんのレベルが22???」

 「あはははははは。初めての奴はみんなそんな反応だ。だがそれは事実だ。かかかかかか」


 世の中レベルが全てだと思っていた。

 レベル5とレベル10の者が殴り合えば確実にレベル10の者があらゆる点で勝つ。

 それが当たり前だと思っていた。

 だが、違った。国有数のダンジョン都市コムエンド。

 馬鹿な俺たちが、はき違えたプライドを打ち砕き。そして新たな目標。そして伸びしろを教えてくれた。


 「のむぞ!」

 「「「「「おーーー!」」」」」


 立ち上がり木のジョッキをかざすと仲間たちが続く。皆晴れやかな顔だ。

 俺たちはこの日初めて冒険者となった。



~~~~~~~~~~~~~~~ダンジョン10階層


 「今日こそ主役と聞いていたのに、この置き去り感! 魚的に詐欺であると訴えます!」

 「無理やと思うで、お、ネイちゃん、腕で挙げたな。このかりふわ感そして骨もポリポリいける。なかなかの焼き魚やで! 熱燗がほしい!」


 デスマーマン(本物)が吠える。10階層の端36階層に繋がる水路の上で。


 『何に吠えているんだあの魚?』


 久しぶりのカンペで登場、ピンクの猫の着ぐるみミイちゃん(中の人はおじさん)がイックンの前に座りだされた焼き魚をはしでキレイに食べ始める。骨も皮も食べる主義の人である。


 『魚も、野菜も皮に栄養があってうまいのだ』

 「ミイちゃん、中々わかるやないか!」


 『うむ。そういえば。幼児神より日本酒をもらってきたぞ2回戦突破記念だそうだ』

 「なんやと!!! それは日本産か!」

 『いや西部最大の都市グルンド産だ』

 「こっちの日本酒かい……」

 『いらぬのであれば俺だけで……』

 「みいちゃん! いやミイちゃん先生! 後生や、そんなこと言わんといて」


 結局、イックンから秘蔵の一品の提供があって無事日本酒は二人で飲むことになった。


 「魚的にご相伴にあずかっています! うまっ! 魚的に!」

 『魚が魚食べてる。共食い?』

 「違うで。人間かて同じ哺乳類の豚食って『共食い?』とはならんやろ? それに小魚を中型魚がおいしく頂いとるしな。弱肉強食や!」

 「弱肉強食! そして焼肉定食! 魚的に!」

 『魚は今日何しに来たの?』

 「せや! それ俺も気になっとった! あ、そのチーズわしんや!」

 「心が狭いです。魚的にそのチーズ気に入ったので土産に包んでほしいくらいです。ちなみに今日はここでアユム君発案の潜水艇計画があるとかで暴走したモンスター達を10階層に誘導してきた次第です。あー、なんでチーズ没収するんですか!!」

 「お前のせいで10階層メンバー総出で討伐とかさせられたんや相応の罰や! てか、潜水艇か……」

 『では俺もこれを取り上げよう……。お前のせいで10階層の農業見学が半分も終わっておらん(イラッ)。あと潜水艇などよりかまぼこ工場だ。そっちが重要だ』

 「あー! 秘蔵のかまぼこが! 魚的に陳謝します。ですがかまぼこの素材が今回大量入荷したので、慈悲を要求します! あ、ありがとうございます。魚的にお姉さんに感謝です!」

 「ごらっ! 魚! 誰の許可得てネイちゃんに話しかけとるねん!! ってメイちゃんまで」

 『茶碗蒸しをお願いしていたのだが、イックンは食べないようだな……』

 「すみません。どうぞお話をお続け願います」


 ワイワイガヤガヤとおっさんたちが日本酒片手に楽しそうにしていると、巨大な猪を担いだアユムたちが10階層に降りてきた。


 「あ! 知らない料理食べてる!!」


 アユム君のおっさんたちへの好感度が少し下がった。


 「……え、今回もこれでおわるの? 魚的にあり得ない! あ、、、はしがうまく使えないです魚的に。。。。え、スプーンですか、お気遣いありがとうございます! 将来良いお嫁さんになれます! ……………イックンですか? 甲斐性ナシはやめた方が言いと思いますぅぅぅぅぅ。イックンさん? 脇を攻撃したらだめですよ。魚的にNGです!」

魚「魚的にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


もはやお約束である。

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アームさん
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