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67.5「超級モンスター2」

シリアス「さぁ! ひと狩行こうぜ!!」

鱈「(イラっ)」

 「馬を引け!!」

 「引かなくていいよ……」


 オルナリスは半龍化し、槍をもって部下に叫ぶ。だが、その命令は横に居たジロウに取り消される。


 「……大の大人が捨てられた子犬の様な顔をしても駄目だ。お前大将なんだろ? どんと構えろ。それがお前の仕事だ。戦に出て死ぬのは部下の仕事。死ぬ数を減らす采配をするのは大将の仕事だ。はき違えるなよ」


 これが悪魔ちゃんの前じゃなくて良かったと思うジロウだった。

 隠しているつもりだろうが勇者を発見する神官と言うのは神の眷属である。このことはある程度国の中枢に近いものであれば皆知っている事だ。なにせ百年に一度は確実に超級モンスターが発生するので暗黙の了解という奴である。

 通常ならば頼りがいのある味方だが、イットを勇者として連れてきた時点でコムエンドの重鎮たちの間では油断ならぬ相手となった。そしてジロウが放った密偵がもたらした情報が彼らが単純に味方でないと結論付けた。


 さて、ここでジロウとオルナリスの話をしておこう。

 この2人そもそもは冒険者仲間の腐れ縁である。

 初めは駆け出しのジロウと、英雄と呼ばれる冒険者オルナリスの関係だった。

 圧倒的上位者と運良くダンジョンに潜った頃の自分をジロウは思い出したくなかった。

 一度の冒険で、憧れは無残に砕かれた。そしてジロウに眼を掛け、パーティに誘ってくれた先輩冒険者は、引退間際にジロウの肩を叩きこう言った『馬鹿だが可愛いうちの英雄をたのんだぞ』。

 『いや。勘弁してください!』とジロウは心の中で叫んでいた。

 その頃、ジロウ駆け出し、冒険者2年目の16歳だった。無茶である。

 だが、残念ながら他の冒険者も皆、先輩冒険者を告げるのはジロウしかいないと思っていた。何故ならば……。


 『ぬ? 補給? ハハハハハ。わからん! 頼りにしてるぞ! ジロウ!』

 『このボケリーダー! 収支位見ろ! いくらかかってるか確認しろ! 仲間に払いすぎて、冒険収支いつも赤字寸前って! オラ! そこに正座しろバカリーダ!』

 

 なんてやり取りを既に2年目にして出来ているからである。

 尚、後年、先輩冒険者が危篤の時だった。

 何故だかジロウが先輩冒険者の家族に呼ばれ、今わの際と思われる先輩冒険者の前に連れてこられ、そして先輩冒険者はこういった。


 『おつ』


 ツッコミを入れなかったジロウは大人だったと思う。

 葬儀の席で先輩冒険者の家族から、『父はいつも、オルナリス様の英雄譚とジロウ様の影の活躍を聞いて、【儂の英雄はよき副将に恵まれておる。誠、良きかな】と笑顔でオルナリス様の話をしておりました』と言われて涙がこぼれそうになった。人生を掛けて応援していた英雄を自分が目を掛けた後輩に託せたのがうれしいかったのとだと聞かされて……。でも最後の一言はあれでいいのか。ジロウ最大の悩みであった。


 こうしてその後勃発した戦争でもオルナリス部隊に副将として付き従い。時には冒険者と商人。時には領主のお守り。ジロウはオルナリスの為に3足の草鞋を履くこととなった。


 結果、商会は領内を飛び越え国内で知らぬものなしの大商会となり。その商会は領主の暗部として活動する。更にはジロウ自身オルナリスに引き摺られ遂には英雄級と呼ばれる冒険者となった。そして家を出た原因となった元婚約者と遭遇した。ジロウ28歳の時の話であった。


 はぁ


 ジロウはこっそりと溜息をつき、そわそわしながら上目遣いに自分を見上げるオルナリスを冷たい目で見下ろす。


 「戦況報告を」


 ジロウの言葉に本陣の天幕に控えていた領軍幹部が張り出された簡易地図を前に報告を始める。


 現在最前線は冒険者7割と領軍5割の投入で維持されている。

 想定よりも多い数を投入している。


 この戦はあくまで防衛戦である。

 兵站に関しては、飢饉を想定して貯蔵していた食料があり、現在封鎖状態のコムエンド市民全員を3ヵ月は維持できる。


 問題は戦力である。

 この戦線をどの程度維持できるか。

 敵は休みなく出てくるだろう。

 その勢いが今と同じなのか、減衰するのか、それとも増してくるのか。

 最悪を想定しなければならない。

 現在怒りで我を忘れており、モンスター放出量が最大だとしても、この戦力にあの黒いタヌキチが合わせられることを想定すべきだ。

 現在、半数以上を投入しているようでは先が見えない。

 しかし暗い話ばかりではない。戦力が増強される兆しはある。


 引退した冒険者たちの招集だ。

 今、彼らの仕事を一度止めて弟子たちの実力を測り、装備を整えている最中である。

 最速で明日の夜。と見込んでいる。


 報告を受けてジロウは祈らずにいられなかった。


 (友よ。耐えてくれ……)


 頼らずにいられない。かつて共にダンジョン制覇を成し遂げた友たち。この危機に仕事を投げ打って駆けつけてくれた彼らに。


 ・・・

 ・・

 ・


 「千刃おろし!」


 シュッツは弟子たちが動きを押さえた牛型のモンスターに奥義を叩き付けてモンスターを肉片に変える。


 「師匠! このあたりの侵攻は停止しました!」

 「うむ。ではいったん我らも下がるぞ! 信号を放て!」


 シュッツとその弟子10名の隊は後方の領軍へ合図を送ると後方に下がる。その足でついでとばかりに他の部隊が戦っていたモンスターを後ろから強襲し援護するのも忘れない。


 「一杯奢れよ!」

 「あとでこいつ捌いて差し入れしてやるから、それで勘弁しろ!」


 今倒した巨鳥型のモンスターを指して師匠の弟子たちは笑いあう。

 無理はしない。長期戦を想定している戦いで彼らは本能的に笑う事を重視していた。


 「ふむ。」

 「ランカス師匠。何かありましたか?」


 この戦線で最前線に立つのはランカス率いる槍隊である。

 彼らは長物部隊は戦線の中央で1部隊だけ突出していた。

 この戦の始まりは弓兵隊と魔法部隊の長距離砲撃から始まった。

 そして一瞬空いた戦線にねじ込むように入り込んだのが近接戦闘で最も長距離の攻撃が可能かつ、攻撃力に定評のある槍隊であった。


 魔法や弓部隊でなぜ殲滅戦をしないのか、とお考えだろうが次弾装填速度の遅い魔法効果の付いた弓矢や、発射数に制限のある魔法では作戦完遂するレベルの攻撃はできんかった。攻撃を続けることはできないのである。

 故にこの世界でも魔法や弓部隊は防御兵器である。そうかつて織田信長が鉄砲の有用性を防御戦略に見出したように。


 「あれが見えるか?」

 「すみません。見えません。」


 ランカスが指した先には、魔法使い型のモンスターが居た。

 現在、獣型のモンスターを相手にしているからこそ少しの余裕が持てている。

 そこに後方支援型のモンスターが戦線に加わればどうなるだろうか。


 ランカスはここで魔法や弓部隊へ集中砲撃を依頼しようかと悩む。

 今魔法や弓部隊は部隊の入れ替えの際にモンスターを牽制する為の砲撃戦をしている。

 それが止んらどうなるだろうか。


 「……ミイ。ジロウに報告、【多数の魔法型モンスターを発見した。我らこれより敵攪乱の為に敵陣に突入する。後を頼む】」

 「師匠!」


 ミイと呼ばれたエルフの女性は非難がましくランカスを見つめる。


 「これより死地に赴く。貴様では力不足。あと、何を勘違いしているか知らぬが戦にて情報こそ要よ。力は足りぬが、我らが戻る為の命綱を預けると言っておるのだ。黙って従え、未熟者」


 ミイは悔し気に足元を見る。

 そこで優しく頭に手を置かれる。


 「俺が無事戻ったら結婚しよう」


 いつまでも結婚しないイケメンの兄弟子がミイに言う。

 ミイ的には優しいお兄ちゃんなので恋人はお断りである。


 「あー! ずるい。じゃ俺も!」

 「何の! では拙者も!」


 次々に手を上げる野郎ども。ここでミイはようやくその意図に気付いた。


 「ごめんなさい。もう心に決めた人がいるので」


 なので、へし折ってやった。


 「なん……だと……」

 「兄貴! 108回目の失恋おめでとー!」

 「心に決めた人とは……もしや、アユムでござるか!!」

 「なんと! ショタコンだったのかミイ!!」


 ミイの顔から思わず笑みがこぼれた。

 それを合図にワイワイとやかましかった兄弟子たちが押し黙る。


 「いけ、ミイ。お前が俺達を救ってくれると信じているぞ」


 手は出されない。だけどミイは兄弟子たちの優しい心に背中を押され、本陣へ駆けだしていった。

 多分泣いているだろう。


 優しい罪悪感に苦笑いの一同にランカスが言う。


 「帰ったら、お見合い調整してやるから、生き残るぞ。振られ男ども」

 「師匠! 奥さんいるからって上から目線はいただけません!」

 「おちついて、妻帯者はある意味勝ち組だけど、ある意味負け組だよ!」


 また、ワイワイガヤガヤ始める。


 「静まれ」


 小さいがその場に重く響くランカスの言葉に弟子たちは、師匠に注目する。


 「敵が魔法型モンスターの防衛に動いている。今が時だ! 奴らの背後を突き! そのまま魔法型モンスターを殲滅するぞ!!」

 「「「「「「「おお!」」」」」」」 


 ランカス隊は敵陣へ突撃を敢行する。それは勇猛であり、蛮勇である。ランカス隊の動向を知った隊長たちは下唇を強くかみしめ自分の得物を拳を強く握りしめ、持ち場の維持に奮闘した。


 「師匠。私が援護に行きます」


 ランカス隊が突撃を敢行したのを見つめてチカリが零す。


 「不許可だ」


 ギュントルは外部魔法力を取り込む秘術を行いながら無謀なことを言い出した弟子を窘める。


 「なぜですか! 私なら、近接もいけます! 魔法力も多くが残っています! 彼らを見殺しにするのですか! 送れる戦力は送らないと、彼らが全滅してしまいますよ!」


 ギュントルはため息をつく。才気あふれるこのチカリとは言え、所詮は小娘。命を懸けた戦で何が重要かを見極める目が無いのだ。


 「ではお前を失った我が隊はどうなる。お前の抜けた穴をカバーする為に火力が下がった魔法部隊は支援砲撃を実行する機会が減るだろうな……」


 ギュントルはちらりと疲弊しポーションやギュントルの秘術によって魔法力の回復に努める部下たちを見る。チカリもそれに気付いている。


 「支援砲撃を受けられない部隊はどうなる。交代の為の援護が受けられなくなる他の部隊は見殺しにしろと言うのか?」


 チカリは押し黙る。それでも、味方の為に命を懸けて突撃した勇者たちを何もせずに見捨てずにはいられなかった。


 「戦で重要なことを認識せよ。我が隊の使命はなんだ?」

 「……」

 「組織で最も重要なことはなんだ?」

 「……」


 チカリは祈るしかない。

 力のない自分を呪い。チカリは自らがすべきことをした。

 長距離砲撃の魔法を放つ。

 そして賢者の娘から伝授された外部魔法力を取り込む秘術を使う。

 気付けば同じタイミングでギュントルも長距離砲撃をしていた。

 目が合う、気まずい表情の魔法師弟。


 「ほら……あれだ。余剰魔法力は使っておいた方が良いだろう」

 「魔法って精神力も消費しますけど……」


 白い目でチカリに見つめられギュントルは明後日の方角を見る。

 

 「えっと、ほら吾輩って鍛え方が違うだろ?」

 「……会長はバカですね……」

 「…………誉め言葉だ。そしてその馬鹿は副会長にも伝播してしまったようだな……」

 「本当に知識の牙城の2トップが揃いも揃ってバカとは……」

 「最高の組織だろ?」


 自信満々の笑みをチカリに向けるギュントル。『……本当にこの会長は……』。チカリはその言葉を出さずギュントルの横に並んだ。その顔には自信と決意に満ちている。

 ランカス達へしてやれることやった。

 生き残れるか否かは彼ら次第だ。これは戦。もう仕方のない事だ。


 そうチカリが覚悟を決めていた頃、ダンジョンからのそりのそりと這い出る黒い影があった。


 「がお(あー、狭かった。モードチェンジしても狭かった)」

 「ホラ、暗黒竜先輩ガモジモジシテタカラ、戦ガ始マッチャテマスヨ」 

 「がお(モジモジいうな! 私はそんな少女みたいな……少女♪)」

 「エイ」

 「がお!(ぎゃー、この子刺した! 刺したよ! いい素質をお持ちで!!)」

 「モウイイカラ暴レテキテクダサイ」


 ナイトウさんに言われて暗黒竜先輩は周りを見回す。


 「がお(やっちゃうよー! いっちょかっこよく決めちゃうよー!!)」


 ダンジョンから超級モンスターさえ予測していなかった援軍が現れる。

 それは幼児の姿をした神、ブラックが仕組んだ一つ目だった。



鱈「シリアスさん、仲よくしよう」

シリアス「くっ、ちょいちょいとはさみやがって! でも僕負けない!」

ブラック「うふふふふ。いつまでもシリアスがまかり通る作品だと思わない事なのです」

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アームさん
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