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57話「格闘大会1日目午後」

書きずらい!

あいふぉんで書いてると目がぼやけてくる。。。

 午前の部、最終試合クラス20の5人で行う試合。

 気づけばそこにはダジルだけが立っていた。

 一拍遅れて盛り上がる観客達。


 ダジルは周囲を見回し目的の人がいないことに気づき落ち込んで退場する。


 アユムも思わずポカーンと観戦していた。

 想定外だった。まさかダジルが棒術で戦うとは思いも寄らなかった。


 初見の対戦相手は全く対応できなかった。

 突然に棍を持ったような構えで飛びかかってきたダジルの一撃は、明らかに届いていなかった。だが、その迫力が対戦相手に避けることを選ばせた。

 正にその手に棍があるような動き、態勢を大き崩した相手に1回転したダジルの肘打ちが決まる。あっという間に1名の意識が刈り取られる。


 最大の敵を再認識した残り3人はダジルをジリジリと包囲する。どんな達人であろうと3人以上に囲まれては勝ち目はないはずだが、ダジルは薄っすらと笑みを浮かべる。


 それを合図に一斉に飛びかかる3人のクラス20の男達。

 ダジルの背後に回った男が初手の一撃を見舞う寸前、ダジルの体か薄く青に輝く。

 不恰好で不十分だが初期段階の魔纒である。

 背後の男は突き出されたダジルの一撃を顎に受け昏倒する。

 次に飛び込んできた男は鳩尾を強かに打たれて悶絶、最後に仕掛けてきた男は、意識していた筈のだが幻影の棍に進路を阻まれ、致命絵的な隙を晒してしまい、一撃見舞われ崩れ落ちた。


 目の肥えたものにはこの異常性が理解できただろうが、殆どのものには変な構えのダジルが何故か圧倒したようにしか見えなかった。


 ふと見やるとダジルの見学にきていた兄弟子は不出来で不器用な弟弟子の成長に満足げに頷いていた。ダジルはそんな兄弟子達に対して恥ずかしそうに一礼して選手控えに戻ってきた。


 アユムと視線を交わすがその視線には『まだまだこんなもんじゃないぞ』とばかりに自信に満ちていた。


「アユム! ぼさっと青春してないで手伝って!」


 バトルの空気さんもお昼休憩である。

 アユムのお昼休憩はマールの屋台で焼き鳥を焼いて終わる。


「コケ!(アユム! 追加で100本仕込み終わったよー)」


 リトルホワイトコッコが仕込みを手伝っている。鶏が鶏の肉料理を仕込んでいるのはシュールな姿だ。


 ……あれ? そういえばなんで君たちいるの?


「コケ!(私たちモンスター判定されなかったから結界通りぬけたみたいだよ!)」

「コケ!(世界の声は変態だからその部屋から出られないんだよね?)」

「コケ!(因み私たちと鶏は、人間と犬ぐらい種類が違うので気になりません!)」


 おい! 二匹目!!!


「みんな誰と話してるの?」

「「「コケ!(取るに足らない変態だから気にしなくていいよ!)」」」


 くそ、あの作物食べたモンスターは揃いも揃って………。


「いらっしゃいませ! 美味しい焼き鳥販売中でーす」


 徐々に列ができてくるマールの焼き鳥屋台。値段はお祭り価格だが、良い肉を使っているため評判も上々である。


 サントスですか? クラス60に向けて特訓中です。肉屋で肉を捌きながら。

 どこからか『ダンジョン農家はブラック企業だ!』とサントスのような声が聞こえてきた。だがきっと気のせいだろう。ダンジョン農家はホワイト企業です♪


 さて、忙しかった1時間が過ぎ。用意した素材も綺麗に無くなったところで午後の部が始まる。


 クラス40の予選だ。

 会場に現れたのは30手前の青年と30半ばの中年である。


 開始の合図で中年は魔纒を纏い、青年は身体強化で対抗する。

 その試合は午前最後にダジルが残した余韻を吹き飛ばし、観衆はそのハイレベルな試合に注目する。


 驚いたことに試合を優勢に進めたのは青年であった。魔纒をマスターしていない駆け出しのクラス40の青年が熟練の中年を押し込むその姿に観衆は、ジャイアントキリングを期待する。


 だが、本人達に至っては全くの逆の状況であった。

 青年は焦っていた。自分の拳が中年の魔纒を打ち破れない。一見押してる状況だが、わざと魔纒の濃い部分に打ち込まされている。

 駆け引きにおいても青年はこの先輩に勝てないことを悟り始め、最後の賭けに出た。

 未熟な(といってもダジルよりは十二分に立派な)魔纒を発動させ……。その場に倒れた。


 慣れない魔纒を瞬時に打ち破られ、その反動で体が固まった所に悠々と拳を打ち込まれ昏倒した。


『勝者!ラムズ! 年の功!』

「まだ若い! 嫁募集!」


 ラムズは大会役員の軽口に反応できるほど落ち着いて勝者として歩き去った。

 そして、会場のざわめきが収まらないまま、アユム達の出番が回ってきた。


「アユム……」


 いざ、会場に向かおうとした時、アユムはマールの真剣な眼差しで足を止める。


「氷売りの格好で行くのはいけないと思うの、そしてそのシロップでこの屋台で氷売るからおいていきなさい」


 非常に真剣な眼差しにアユムは何もなかったように自然にシロップと麦わら帽子をコッコ達に渡して会場に入る。途中『氷屋! 頑張れ!』と先輩冒険者達に茶化されたが、ご愛嬌である。


「アユム、悪いがお前から消えてもらう」


 20前後の青年4名とアユムはまるで4対1の様に向き合う。よくある光景である。ただ強いだけで上に登るのであれば、圧倒的であれ。5人でのバトルロイヤルはその意味がある。クラス40以上はその数が少ないので1対1であるが、それ以下のクラスは実力差もつきやすいのでその様な配慮になっている。


 そして、アユムはそれでも構わないと思っていた。

 なぜならばこの興奮が治ってくれないのだ。


『早く始まって』


 アユムの心の声は明確に表情に出ていた。

 5つ以上歳下の少年に思わず青年達は怯える。


『クラス20予選! 始めるぜ! 開始!!!』


 怯えた青年達はアナウンスで正気に戻り、逆に怯えた屈辱をバネに闘志を燃やす。


 だが彼等全員が一歩踏み出す前に体に力が入らなくなり大地に沈んだ。

 辛うじて体を支え、踏みとどまった青年はそこに完璧な魔纒を発動させたアユムが勝ち名乗りを受ける前に青年達に背中を向けていたのを、見た。


(くそっ! 反則じゃねーか! そんなことできるやつがクラス20なんかに出るなよ!)


 一歩踏みとどまり、一歩前に出た青年はそのまま崩れ落ち、アユムの勝利を大会役員のアナウンスが告げた。


「はぁ?」


 先ほどの試合の勝者であるラムズは驚きのあまり口を大きく開けたままアユムを見送った。


「冗談じゃない、あんなの俺の知る魔纒じゃない。あの爺さん共どんな化け物育ててやがる……」


 ラムズの呟きは熱狂する会場にかき消される。

 少し前倒しに進むスケジュール調整の為、休憩時間が挟まれ人の流れが屋台に戻ってくる。そして、アユムも氷屋に戻ってくる。大繁盛である。


「コケ!(氷作成魔法! てや!)」

「コケ!(風魔法で氷ザクサク!)」

「そして椀で拾って、シロップかけて販売中でーす!」

「コケ!(食べ終わった椀はここで洗う! 水魔法!)」


 マールは夜の材料調達のため不在である。


「サントス! スケジュール前倒しで進んでる! ダッシュ!!」

「マジでか! て言うか、俺明日試合あるのに……」

「どうせ瞬殺される試合なんか気にしたらダメ! 今は稼ぎどきよ!!」

「………」


 どんまい! サントス。

 そのまま、マールとサントスは屋台で夜の部の仕込みを始める。


 夏の暑さと大会の熱気もあって氷は馬鹿売れである。ダンジョン作物で作ったシロップも大好評でアユムは格闘大会のことを忘れてガッツポーズを取る。


 やがて15時となりクラス40の試合が始まる。

 30手前の男が2人、真剣な表情で向かい合っている。

 1人は右腕を剣に見立てその部分を硬化させるような魔纒を身に纏う。片やもう1人は標準的な格闘スタイルだ。


 2人の拳と手刀が交差すると金属がぶつかり合うような音が会場中に響く。

 その後も真正面から足を止めて打ち合う2人。あまりの状況に皆、息を呑み、そして拳を握り締める。いつ崩れるともしれない状況だがそれでも己の拳を信じて打ち合う2人。


「あれとやりあって勝てる自信はある? クラス60のサントスさん」

「むーーーーりーーーーー! クソ師匠共恨むぞ! レベルだけ上がっても勝てないよ……」

「うん、知ってる」


 なんで聞いた、とばかりに固まるサントス。

 もう一度言おう。どんまい、サントス!


 さて、勇敢な打ち合いを制したのは手刀の男カインズであった。


 陽が傾きかけて暑さが残り、日が落ちてやってくる涼しさが待ち遠しい時間帯にアユムとダジルの試合が始まる。


 静かに向き合う2人。アユムは魔纒を、ダジルは魔を纏わず、棒状に制御する。正直グレイゾーンだが、ダジルはそんな些細な事は気にしていない。勝たねばならないのだ。

 一方アユムは背中を駆け上がる感覚に頰が緩んでいた。そして小さく呟く。


「いきます」


 ダジルはアユムを見失う。だが、体に馴染んだ棍は的確に嫌な気配を察知して防御を取る。


 バン


 アユムの拳がダジルの根にめり込むような格好になる。魔纒の棍を破壊寸前まで追い込まれたダジルだがアユムを止めたことで反撃に移る。


 振り回される棍を紙一重でかわすアユム。

 ゾクゾクが止まらない。


(楽しい)


 アユムの感情をその一言が支配していた。

 紙一重の攻撃に追い詰められる自分。

 万が一、一撃打たれても全く問題ないがその次何かあるのかものしれない。


(当たってみようか)


 好奇心がアユムを誘う。

 だが、それはこのゾクゾクを消してしまう。


(違う。この先がある)


 ダジルの攻撃速度が上がっていることにも気づいている。十二分に対応可能で『もっと早く』『もっと強く』とアユムの思考も加速する。


 渾身の攻撃を全てかわされ、体力も気力も限界に近づくダジルだがここから更に力を振り絞る。もうカラカラの体を更に絞り上げる。自分も知らない何かが出てくる様な気がして苦しいけど、必死に。苦しいけど、楽し気げにダジルはひたすら攻撃を続ける。


 2人の楽しげなダンスを観客達は唖然と見守る。これがクラス20の試合だなど誰も信じられない。ハイレベルな攻防が続く。


 しかし、その攻防もやがて終る。

 限界を超えたダジルは動きが鈍る。そこを見逃すアユムではない。アユムの一撃はダジルの中心を撃ち抜いて、立ち上がる体力も気力もダジルから奪いさった。


 すぐさまアナウンスはアユムの勝利を叫び。医療班がダジルに駆け寄る。


 いつもならアユムも駆け寄るところだがしない。

 それは敗者へ失礼だ。


 やがて人の手を借りて立ち上がったダジルが憑き物が落ちた様な顔でアユムへ近付いて来た。


 2人は静かに見つめあった後、アユムが荷物の中から赤い果物を持ち出しダジルに放る。


 受け取ったダジルは迷うことなく噛り付き静かに咀嚼して飲みくだした。


「美味い! 甘い!」

「はい! 皆さん、これが噂の15階層のダンジョン作物! リッカです! 幻の甘味! 15階層に赴かなければ食べられない珍味が今日は限定50名様! ジロウ商会が用意したこの財布をご購入の先着50名様に特別販売します! さぁ、ならぶならあちらの屋台ですよー!」


 一気に動き出す群衆。

 そう、アユムは農家であった。

 いわゆる直販である。


 ん? 抱き合わせ販売?

 なんのことでしょう?


 とういう事で大会初日は夕暮れ時の決戦を迎えるのであった。

 アユム、この後大会運営とクラス40の2人に謝罪に行こうな……。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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アームさん
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