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40話「新種。」

こんばんは!

 「新しい弟子だ」

 「キャウ(おっす! 兄弟子! オラ、タヌキチ!)」


 アユムの前にタヌキチが現れる。二足歩行で。

 そして何故だか道着を着て鉢巻を締めている。


 師匠達の悪乗りにタヌキチが根性で答えてしまった。


 「がう(根性で骨格は変わらないよ?)」

 「ボウ(ちょっとは常識的な見解を述べよ)」


 え?  


 「がう・ボウ(え?)」


 非常識の塊2匹に言われると自信を無くす………。


 「がう(アユム! 俺常識的だよね?)」

 「ボウ(アユム! 俺も常識的なモンスターだよな?)」

 「え? あ、うん」


 詰められて何が何だかわからないアユムである。


 「もし、常識的じゃないって考えるなら。きっといい意味で常識から外れていると思うよ」

 「がう(アユム! 褒めても何もしないよ~♪ えへへへ)」

 「ボウ(アユム! そうだな俺の在り方は俺が決めるのだったな……)」


 駄猫竜と子ブタは納得したようだ。………お二方。そ、そのノートをそっと見せつけるのやめてもらえますか? 全面的に私が悪うございました。


 「アームさん、権兵衛さん。どうしたの?」

 「がう(いや、天界のストーカに注意喚起しただけ)」

 「ボウ(ストーカの弱みを握ったから安心してくれ)」


 アユムはハテナマークを浮かべたが、すぐに気にしない事にした。

 そして、茹でていたトウモロコシを取り出す。


 「キャウ(兄弟子! それとうきびじゃなかですか!)」

 「ん、タヌキチ君。興味あるの?」


 さっと塩を振りかけて黄金色の実を堪能する。


 「これ収穫後1日過ぎちゃってるから茹でたやつなんだよ」

 「キャウ(ふふふ。このタヌキチ、半分は道民の血が流れている……。いわばとうきびエリート! こだわり派ですよ。兄弟子)」


 さらっと何か言ったタヌキチだがアユムはあっさりスルーする。タヌキだしね。ただトウモロコシに興味深々なのはアユムも理解してそっと差し出す。


 「この間は害獣扱いしてごめんね。お詫びじゃないけどこれあげるね」

 「キャウ(さんきゅーです! 兄弟子! そして美味そうなとうきび!)」


 そっと葉っぱのお皿に置かれたトウモロコシにかぶりつく、甘味はやはりエリートの口に合わない。その程度かと鼻で笑いそうになる。だが、次の瞬間タヌキチの脳にトウモロコシの味わいが直撃する。トウモロコシを口に含んだまま固まるタヌキチ。


 「あれ? やっぱり口に合わなかったかな……。新鮮な方が美味しいもんね……」

 「がう(そんなことない。うまいよこれ?)」

 「ボウ(フム。とうきびエリートとかいっていたな。相当なものを食べていたのか……。それとも……感動でフリーズしたか?)」


 ちょっと寂しそうにしているアユムにアームさんはそっと寄り添いを癒す。【卑しい系お猫】アームさん。そして意外と核心ついている権兵衛さん。


 「キャウ(なんだこれ………)」


 確実にとうきびエリートの地元の方が美味しいの……。だが、ダンジョン作物には【別の】やめられない美味さがある。1口2口3口とタヌキチは無言で食べ続ける。その黄金の実がなくなるまでタヌキチは目をむいて只々食べ続けた。師匠達のちょっかいやアユムの言葉があったがそのどれもタヌキチの耳には入らない。


 実を食べ終わったところで一つ大き目の息をつく。そしてそこでタヌキチはアユムがじっとこちらを見つめていることに気付く。


 「キャウ(美味い。夢中になった。このとうきびエリートの僕が………)」


 そう言いながらタヌキチは残念そうに芯を口でついばむ。意外とボリボリ行けた。さすがモンスター肉を生で行ける牙。苦みがあると思ったが意外と旨味の宝庫だ。

 

 「がう(ほう、芯まで食べるとは………このタヌキ中々やりおるわ!)」


 アームさん。そのキャラは何? 突っ込んでいいの? ……放置だな。

 皆はアームさんを見なかったことにした。


 「……………これも食べる?」

 「キャウ(リンゴっすか………リンゴは海峡を挟んで戦争してるんです………世間的にはうちが圧倒的に劣勢なんでですがね………)」

 「なんか重い思い出があるのかな? あとこれはリッカだよ」


 タヌキチは相も変わらずわけのわからない事を言っているがリッカを前に置かれると真剣なまなざしを向ける。そして尻尾に魔法力を溜め込み魔法剣を発動。縦にリッカを切り裂く。

種周辺の実の色が他よりも濃い色になっていた。


 「キャウ(蜜か中々の糖度みたいだな………いただきます)」


 タヌキチはリッカに一礼するとかぶりつく。甘味はやはり納得のいかないレベルだった。どちらかと言うと酸っぱさが目立つ。だが、やはりタヌキチの脳を刺激するのは別の味わいがある。

 タヌキチはリッカも一心不乱に食べる。一口食べて種が苦かったので避けたが全て食べつくして一息。


 「キャウ(ご馳走様でした)」

 「うん、喜んでくれて何よりだよ」

 「キャウ(また、食べさせてくれると嬉しい。お手伝いもできることをする)」


 15階層のフロアニートはタヌキチの真摯な態度をみて、大あくびをかいている。


 「盗み食いしなければ毎食べさせてあげるよ」

 「キャウ(兄弟子……あんた、いい人だ……今度僕が理想の筋肉になったら一番に披露するよ)」


 タヌキチが筋肉信仰にはまっていた。アユムはただただ苦笑いであった。


 「キャウ(あ、そうだ……お代替わりにはならないかもだけど…………)」


 タヌキチは器用にカバンを漁ると大きく膨らんだ革袋を差し出す。


 「キャウ(ミミック倒した時に拾った……良ければ受け取ってほしい……)」

 「……ありがとう」


 アユムはタヌキチの頭をなでると革袋を大事そうに受け取る。

 アユムはこれまでどこに行っても一番年下という事もあって、自分より下がいなかった。

 タヌキチに関しては正式な弟弟子だ。初めて出来た弟をアユムはかわいく思えたのだ。


 「タヌキチ! 稽古だ!」


 元モンク、リンカーがせかすとタヌキチは一礼して走ってゆく。二足歩行で。


 「せい!」

 「キャウ!(はっ!)」


 「せい!」

 「キャウ!(はっ!)」


 15階層の端でおかしな師弟が正拳突きをしている。

 異様な気迫と面白い光景だった。


 アユムは作業の手を止めてその光景を微笑ましく思いつつも受け取った袋を開く。

 中身は新種のダンジョン作物の種だった。


 「がう(そーいや、ミミックのやつそんなの持ってたな……え? アユムそう言うの好きなの? え? これが美味しい物の元なの! ぐわーーー色々損してた!!!)」


 こうしてダンジョンマスターの好意によって拡張された新15階層の作付け候補作物が現れたのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

ブクマ&評価ありがとうございます。


タヌキチ。株の急上昇に気付かない!の巻き


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現在、こちらを更新中! 書籍1・2巻発売中。
アームさん
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