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107.4「妄想の中で(アユム欲望4)」

すみません。お待たせしておりますm(__)m

「「ぷはぁーっ!」」

 リムとタナスは溜まっていた鬱憤を吐き出すかのようにジョッキを飲み干した。


「……喉越しを楽しむ種類の酒ではないのだがな……」

 サムはカウンターでグラスを磨きながら呆れている。


「しかし、何なのかしらね。アユム」

 リムとタナスが座るソファー席の前に置かれた豪華なテーブル、その前に正座させられているアユム産人衆。左から1番「筋肉モリモリアユム」2番「細マッチョでチャラいアユム」3番「さわやか結婚詐欺師風アユム」。各々釈然としていない様子である。


「何か文句でも?」

 リムの威圧にビクリと怯えるアユム一同。幼い頃より培われた姉と弟の力関係は骨の髄までしみわたっている模様です。


「1番。筋肉ね……。力の象徴とか安直に考えて憧れた姿なんでしょ?子供ね。どうせ、先行したチカリさんあたりに論破されているわね、これ。それでも、私たちに通用すると思って、馬鹿の一つ覚えの様に『見せかけだけの男としての強さ』を誇示しようとしたわけだ……」

 図星である。

 チカリチームの様子は短く伝えたが、アユムの短慮は他の2名、賢者の娘には魔法学で、悪魔ちゃんには物理学で、封印術によって肥大化させられたアユムの思い込みは論理的に追い詰められたうえで、完ぺきに否定されている。封印術によって肥大化させられた思いあがったアユムは、3名の前で『現実と向き合っている』。

 つまりは封印がからめとったアユムの「思い込み、決めつけ」などは内部から破壊され、更に彼女らの力の前で論理的にアユムの力の流れは解きほぐされている最中であった。

 ちなみに師匠達が破壊したのは「驕り」である。

 現実を現実ではなくアユムのルールで理解していた意識に封印術が深く入り込んで変質させていたところを師匠達が破壊、封印術の解除に至っている。

 未だ師匠達がアユムが作り出した世界で遊んでいるのはご愛敬である。


「……筋肉。憧れだよな……」

 筋肉のつき辛い体質のサム(タナスのストーカー。イケメン魔法剣士())は何気なく呟く。

 それにいつの間にかカウンター席でチビチビとやっていたセル(チャラい商人、略してチャラ人)がどこか別な場所を見つめながら相槌を打つ。そして苦笑いである。


「……筋肉。いいね……」

 過去。といっても昨年の話であるが、セルは筋トレに嵌っていた。

 筋肉もつきやすい体質であったらしく、短期間の間に自他ともに認めるほどの筋肉をつけていた。

 そんなセルが筋トレをやめてしまったきっかけがある。

 とある日。師匠の手伝いの合間、休憩時間であった。

 姿見が置かれていた師匠宅の一室にて次の仕事の資料を見ていたセルは……つい、本当につい、無意識で、息抜きにと筋肉チェックを始めてしまった。

 これは特にとがめられることはない。1人でやるには。

 だが……、ポーズをつけ、筋肉育成具合を確認していたところ……師匠の娘(当時12歳)が通りがかってしまった。

 師匠の娘、硬直。

 セルは『やれやれ、この筋肉に見ほれでもしたかな』と自惚れながら振り向く、そのセルに対して師匠の娘が一言。


「うわぁ、セル兄、きもっ。明日から外で声かけないでね」

 心底気持ち悪そうな表情で、冷たい視線と、冷たいお言葉を頂戴したセルはその場で崩れ落ちた。


「……」

 セルはグラスの氷を遊ばせ過去の間違いを思い起こしていた。


「……アユム、それは俺も通った道だ……」

 謎の上から目線であった。

 さて、リムたちに視点を戻すと、運ばれてきたお代わりのジョッキを片手に8度目の「「かんぱーい!」」を交わしていた。


「2番。お前は剣士への憧れね」

 2番のアユムは「ようやく俺の良さが分かった」とか勘違いしながら髪をかき上げる。


「剣士にあこがれてる癖に長髪って、死にたいの?いっそ、死ぬ?」

 固まる2番。


「あんた、現実でも髪伸ばして視線を隠していた過去があったわね。パーティー組んでるこっちからしたら迷惑だったわ~。いつ髪が死角になって前衛が崩れるかと」

 何とも言えない表情の2番。

 その横で2番を心配そうに見つめる1番。

 同類相哀れむ。そんな心境の1番は油断していた……。隙だらけの1番の背後に、奴はそっとたたずんでいた。


「……そーっと。つーーー、つん!」

 正座、それは重量のある筋肉アユムにとって悪魔の体制である。

 簡単に足をしびれさせてしまうからだ。

 しびれ敏感となった足に、タナスは指を這わせた。敏感に反応した筋肉アユム(1番)の1番張っている個所で強めに指を突き刺す。


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 声にならない叫び声をあげてもだえる1番。

 タナスはけらけらと笑いながらリムに向け親指を立てる。

 リムも『よくやった』とうなずく。

 ……えーっと、良い子はマネするなよ!


「3番……、もうなんて言っていいのかわからないくらいね。これが我が幼馴染とは情けない」

 リムはそこまで言うと思い切り息を吐きだし、緊迫した空気を作り出したのちに言葉を続ける。


「変身願望。英雄願望。承認欲求。……なんともまぁひねり出したものね。【人形】の癖「リムっ!」に」

 リムの言葉にそれまで我関せずを貫いてきたイットが食いつく。

 アユムたちはすがるような視線をイットに向けながらも、正座を続けている。

 好きな女性に非難のまなざしを向けられ苦笑いのリムだが、構わず言葉をつなぐ。


「かわいらしい見た目だけど、感情を表に出さない人形。苦しくても笑顔を張り付ける。気遣う大人の方が痛みを感じる。そんな人形「だから! むっむぐう」」

 割り込もうとするイットを羽交い絞めにするタナス。

 アユムは特殊な村の中でも一目置かれる存在であった。

 その出自による苦痛、幼子には過ぎた試練に大人たちは過剰な気遣いを見せていた。

 それがリムには気にくわなかった。

 もちろん、愛しのイットがいつもアユムを引っ張り出してかわいがっていたのも理由の8割であるが、残りの2割は……。


「痛いも、苦しいも言わずにいつも張り付けたような笑顔で、【一生懸命でありたい】と押しつけがましい姿を見せつける癖に、だれにも頼らない。滑稽な人形ね」

「「「黙れ!」」」

 弟分への愛情である。

 歪んだ。歪んだ。愛情である。


「「「僕を殺そうとしたのに、説教なんか!」」」

 アユムは歪んでいた。

 頼りたいのに頼らず。しかし、幼馴染には依存する。

 結果として真っ直ぐ純粋に歪んでいた。


「……あれで死ぬとでも思ったの?」

「「「……」」」

「……魔法の威力的に気絶が関の山、しかも倒れた場所はセーフティーゾーン。悪くて自力で帰還。良くて中級冒険者に保護。てか、死ぬ方が珍しいわ」

「「「……」」」

 その通りである。パーティーで情報を一手に受け持っていたリムはアームさんの元となった魔物の性格を行動を知っていた。有名な話である。『中級の階層へ行こう』と言い出した参謀役が知らないわけはない。


「あんたが帰還して、私たちは喧嘩別れ、あんたが誑し込んだ有力者の影響で私とイットは別の町へ。あんたを置き去りにした罪悪感に苛まれるイットに反省して寄り添うのは私。……途中までうまくいっていたのにね」

 クスクスと笑うリム。


「で、だれが殺そうとしたって?」

「「「……」」」

「同情が引きたかった?」

「「「……」」」

「でも、あんたは私のおかげで、今の充実した生活を送っているんじゃないの?感謝の言葉くらいほしいものね?……あ、そっか。農業もあんたにとっては同情を引くポーズなんでしょ?『一生懸命生きて、人の為になる食物が愛おしい』。な~ってとっても乙女チックな理由だっけか?うっそくっさ(笑)」

 祈る乙女の様なポーズのリムについにアユムたちは激昂する。


「「「ふざけるな!」」」

「僕を否定してもいいけど、僕の好きなものを否定するな!」

 1番のアユムが立ち上がりそう叫ぶと、白い光となって消える。



 

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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アームさん
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