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101「アユムの独白」

体調不良から復帰。毎年元旦付近は体調崩します。

緊張感から解放されるから油断するのでしょうか……。


前半:大天使ヤー・カーことイエフ君の冒険、つづき

後半:タイトル回収

では本文をどうぞ

 イエフが生まれたアーテルランドは大陸中央部に位置していた。

 海と見間違う湖の北東部を囲様に領土を持つ国だった。

 気候的には四季豊富な気候を持ち北部は縦に山脈を挟んでいるため冬場雪を振らせ、夏は南からの風で温暖である。だが、極端に熱くもならず、寒くもないこの地方は水資源豊かで、農作物も豊富、湖を囲っていることで流通も盛んな……はずの国だった。


 理由わけがある。

 こう言っては何だが、イエフを差別した人たちにも理由わけがある。

 この国、アーテルランドは立地はよい。

 しかし、北に広大なエリアを有するフィールド型ダンジョン。

 南、つまり湖には巨大な海底ダンジョン。この2つの大型ダンジョンに挟まれていた。

 流通が死んでいる国、アーテルランドが人間が維持しなければならない。放棄しないで生きるに辛い地で生きるのにも理由わけがあった。

 

 太古の昔、世界への魔法導入余波でモンスターが発生し、人類が一番先に放棄した地域、それが大陸中央。そして【人類敗走開始地】という不名誉な称号を得た国がある。それがこのアーテルランドであった。


 人間の歴史ではこう書かれている。

 歴史では大陸北東部に追いやられた人類が、大魔王の指揮の下大陸北東部から反抗を開始した。

 人類はモンスターを駆逐し大陸中央部を切り取り、そこに大魔王と人類軍の最高戦力たちを置木徐々にその生存圏を広げていった。人間種は遅れながらこの戦線に加わり大陸中央部の安定に粉骨砕身貢献した。我々は人類種の一員としてモンスターとの戦いの長い歴を開始したのだった。


 一方魔族の歴史にはこう記載されている。

 モンスター被害発生当初、魔法を戦術に反映するまでの期間優先を約束した人間は、あろうことか守るべき民を置き去りにして、当時安定していた大陸東北部に撤退していた。

 人間以外の人類種は、人間種が明けた穴を塞ぎながら、見捨てられた人間種を救い、多くの犠牲を払いながらも大魔王陛下に導かれ、逆転の為の敗走を行った。大陸北東部へ逃げ延び、再戦を誓った我々は人間種を信用せず奮闘した。

 大魔王陛下の卓越した指揮をもって大陸中央を制圧したところで、大魔王陛下と神々の慈悲により人間種達を後方支援に配した。モンスターとの戦いは長きにわたると予測されるが、子孫たちよ人間種を信じることなかれ。


 状況から察するに魔族たちの記録の方が正しいく表現されている。

 魔法の発展に伴うモンスターの大量発生が起こる前までは人間種は一定の評価を得ていた。

 人間種は数が多かったからだ。数が多いという事は食料の消費量も多いが生産量も多い。大規模生産を行うという事は効率化も進むことを意味する。多少であれば他の人間種へ施し、または商売に転用可能なほどに。故に人間種の意見も尊重されていた。


 例えば、人類種はモンスター出現の前に神より新たな力を賜った。

 新たな力を【魔法】と命名したのは人間である。

 魔、つまりこれまでの世界の法則を破壊する悪魔。

 法、新たなる法則。

 人間は当初、この世界を生きるために神がもたらした新たな法則を、使いこなせなかった……。

 なので、決めつけと偏見で遠ざけるように【魔】を冠する命名をしてしまった。

 同時に、もとより異能に長けた複数の種族たちが【新たな力】こと【魔法】を巧みに使いこなす姿を見て、人間種はやっかみを込めて彼らをまとめて【魔族】と呼んだ。


 認識の違い。【違い】は人類種間で争いを生んだ。何故神が魔法を与えたのか考えることもなく彼らは争い始めた。そしてそこに……モンスターの大発生が起こった。


 モンスター発生当初、人類種の種族たちは人間種に期待した。

 人間種は1番数を持ち、成人する期間も短かった。その為、人間種には数というメリットをもって人類種の生存圏維持のために協力すると思われていたのだ。だが、人間種は大陸中央部に持って居た領土と領民をあっさりと破棄し、一目散にモンスター被害の少ない大陸北東地域へと逃げ出した。


 太古の戦いで人間種に英雄が居なかったかというとそんな事はない。残り戦った勇気あるもの、勇者たちも存在した。


 人間種の権力者達が、働き盛りの男たちを従え早々に逃走し、領地には女子供と老人が残された。渋る男達を無理やり売れ出し、『逃げた先で生き残り増えればよい』とのたまった権力者達。数の多い人間らしい考え方であった。

 これに激怒したのは、子を得るのに特殊な儀式が欠かせないゴブリン族である。

 女子供と老人が取り残されていると一報を受け、いち早く駆け付けたゴブリン族の部隊は『1人として見捨てぬ!』と鼻息も荒く救出活動を進めた。


 取り残された村・町・都には必ず複数残った人間種の勇者が支えていた。

 そこに人間種の勇者以上に必死に戦い。生き残るための道筋を、人類軍への合流を示した人類種がいた。ゴブリン種である。

 無情にも自分たちを見捨てた同族と、ただの1人も見捨てないと戦場を駆ける他種族。人間種の勇者はどの様な心境でそれを見ていたのだろうか……。想像に難しくない。

 後に勇者たちは人間種を率い、戦線に参加する。その時強力な戦力となったのは、この時取り残された者たち、であった。女子供老人たちは逃避行中にゴブリン部隊から魔法を学んだ。確かにほかの人類に比べれば覚えは悪かった。だが必死さは何よりも学習効果を高めていた。その後の人類による逆転反抗作戦の際に、それは戦力として大きく貢献することとなる。


 現在人間種の生存圏で女性の魔法適性が高くその職に就くのも、女性冒険者が少ないが存在するのも、全てはここから始まったと言われている。


 さて逆転反抗、そんな混乱期にアーテルランドは国として誕生した。

 初代王に勇者を、権力者に取り残されたもの達を民に、彼らによって作られた王国アーテルランド。同じ様な志しで作られた王国はこの時代無数に存在した。

 そしてアーテルランドと同様に、国々の民は【とある使命感】をもって生きていた。『この国から、この地方から撤退することは……もう2度とない』。全ては先祖の間違いを正す為、人類の中での人類種の立ち位置を回復する為に……。

 大魔王が治める大陸中央部はその様な志に寄って立つ人間の国が多かった。

 ……だが、長い時を経た現在。大陸中央部で残っている国はアーテルランドを含めて3か国のみになっしまっている。


 次にイエフを差別されていた理由わけだが……。

 異物への拒絶反応。

 先祖から受け継いだ長い期間【尊い志】(と本人たちが代々思い込んでいる思考)を維持する為、何者であろうと異物は受け入れない。ましてや黒などという不吉な色の子供など捨ててしまわなければ……。

 その思い込みがイエフに向かった。

 イエフを愛していた家族も全てを見通せるはずもない。国民の大勢が是というものを否定することもできない。してしまえば国体の根幹が崩れかねない。それ故に己を正義と信じる臣下達が行う幼いイエフへ嫌がらせを止めることも、公然とイエフを甘やかす行為もできず。間に挟まれたイエフの家族は向ける愛情をひねくれさせていった。

 イエフにとって幸だったのは、王族の側仕えの人々が王家絶対主義だったことだ。

 彼らは偏見の目を持ちつつもイエフを王子として取り扱った。

 優しい乳母を母と信じていた幼児期。

 イエフが厳しい家族と思っていた時期も彼らは王子としてのイエフを支えた。

 やがて5歳を契機に大天使としての記憶を取り戻し始めたイエフは彼らに感謝した。

 だが、使徒として地位を得て、大天使としての記憶に耐えられる程度に精神と器が成長した12歳の時、イエフは家を出た。

 民衆はイエフが王宮を出たことを称賛した。

 人間種の威厳を取り戻すべく伝統を重ねる国、その旗印である尊敬すべき王族がついに忌むべく【災厄の王子】を捨てた。表向き白髪の無能を率いた王都北部のダンジョン攻略の為。捨て駒、12歳という幼い王子に与えた任務としては過酷だった。


【空白の部隊】

 白髪で先天的に魔法を持たなかったもの達。つまりは教育を受けさせられず、与えられる仕事は忌み嫌われる汚れ仕事のみ。

 イエフの前に集められた白髪達は、押せば倒れそうな栄養状態の悪い少年少女だった。

 つまり、白髪達の中でも生存競争敗れ、いつ下水に浮かんでいるか割らない者たちだった。

 イエフは初顔合わせで苦笑いを浮かべると、白髪達にとある行動を命じ、1人ダンジョンに潜った。

 ダンジョンの入口。後に彼らの拠点となる【空白の為の空き地】で命じられた行動を行う。

 それをすると空腹が和らぐと誰かが言った。

 それに続いて次々と始める。初めは上手く行かなったが彼らはそれをするしかなかった。

 外部魔法力の吸収。

 高位魔術へと至る者が行う秘術である。

 そう白髪は無能ではなかった。白の才とは力を自在に操る才。その魔法的素養であった。


「お肉食べるよ!」

 記憶があるときから常に感じていた空腹から一時的に解放された白髪達だったが、イエフの言葉に絶望を感じた。自分達は食べられないのだ。そう決めつけていたから……。

 それでも何のためかわからないが、あの苦しみから脱出させてくれたイエフの為に、肉屋で労働させられていた者を中心に、イエフがどこからか運んでくるモンスターを処理し始める。

 どんどんと積み重ねられていくモンスター。

 熊型が5匹。豚型が8匹。馬型が3匹。

 あまりの量に白髪達は目を丸くするもすぐさま下処理に入る。


「皆は枝を拾ってこよう~」

 このダンジョンは木々を壁としたダンジョンである。

 枯れた枝であろうとその耐久力は岩に匹敵する。

 集めたところで燃やせなどはできないのに……、なぜ集めるのか。そんな疑問を抱えながらも残った白髪達はダンジョン近くの枝を集める。


「女の子はこっちにおいで」

 『白を抱くぐらいなら羊の世話になるわ』と揶揄され続けた枯れ枝の様な少女たちは、イエフがそういう趣味なのかと不安を抱えながら列を作る。


「炎の魔法回路を描いていくからね。皆、今日から火の当番は君たちだよ~。あ、そこの男の子達。君たちは水魔法ね。お風呂も入るよ~」

 炎の魔法回路を書き込まれて少女は書き込まれた魔法を試してみることにした。

 知っていた。魔法の炎で焼けるくらいであればこのダンジョンはもっと早く攻略されている。


「もえ……た」

 1人ではない、魔法回路を書き込まれた全ての者たちが驚愕の表情を浮かべている。


「お風呂は私が大きいの2つ作るよ! あ、女湯はどうしよう……」

 20m四方の岩でできた風呂桶が2つ出来上がる。

 白髪達はこの時をもってイエフの行動が全て自分たちの為であることを知る。


「お肉班の人、半分こっちに来て~」

 彼等は肉を切るためにと、風魔法の魔法回路を書き込まれる。

 その日、白髪達は生まれて初めて満腹になり、常に痒かった体が清潔になり、軍より与えられたテントで丸くなった。夜風が吹き込まに路地裏に肩を寄せ合って眠っていた前日までとは全てが違った。『これは幸せな夢だ』。『翌日目が覚めたら路地裏に戻っているのだ。神は残酷なことをなさる……』。その夜、白髪達のテントですすり泣く漏れていた。無論、夢などではない。翌日からイエフと白髪たちの伝説が始まる。


 魔法使いたちが使う魔法力とは何か。

 世界を貫流する力。

 魔法を使う際の世界の法則に働きかけるエネルギー。

 通常人間が体に留めて使う魔法力は先天的な才能に寄る。扱える魔法力は才能で決まる。というのが一般的である。

 だが、それよりも圧倒的に多い量が世界の法則として人体より外部で流通している。

 その外部魔法力を扱う才能。白髪は分ってしまえば無才どころではない。

 魔法に関する初歩は苦手だが、応用に移ればその可能性は大きい。

 何せ通常の魔法使いより球数が多く、また先天的に方向性が決まっているわけではないので多芸である。


 2年。

 たったの2年で王都民の認識は覆った。

 日々多くのモンスター資源をもたらす王子と白髪達はたったの1カ月で、ダンジョン木材を市場にもたらす。

 その可能性を知った他の白髪たちは我先にと縋るように王子の下に殺到した。

 王子は彼らに食を与え、健康を与え、住処を与え、そして仕事を与えた。


 【空白の空き地】からダンジョンは白髪たちに侵食されていく、先頭に立つ王子は率先してモンスターを倒し、切れないはずの木を伐り、ダンジョンを切り拓くと土地をならし、開拓を始める。

 ダンジョンは地形を変えていく、王子率いる白髪たちはまさに、【侵攻した先の地図を空白にする】、【空白の部隊】であった。


「やぁ、聖剣君。とっても奥深くに居たね」

 100mはあろうかという大木を伐採し、中心部に浮かんでいた剣を手に取り王子は笑んだ。

 光に照らされ聖剣を引き抜いた王子のその姿はまるで天の使いの様に神々しい物だった。

 一端の目的を達した王子はその年増えた手勢を率いて王都の南に向かった。

 

『釣り竿……私、聖剣なのよ?』

「まぁまぁ固い事言わないで……あ、君剣だったね。固くて当たり前か~」

 ツッコミは居ない。王子に連れられた者どもは皆『なるほどそういう意味か』とうなずいている。

 繰り返す、ツッコミは居ない。


『かかった……なんで?私剣なのに……大物掛かったよ……』

「みんなー、今日はシーサーペントだよー。頑張ってさばこー!」

 打ち上げられたシーサーペントは威嚇の声を上げるが、イエフの気の抜けた掛け声にその効果をそがれてしまう。本来であれば威圧に負けた数人がシーサーペンの餌食なるはずなのだが、誰1人シーサーペントにひるむ者はいなかった。

 そんなことを1年続けた。


『脱! 釣り竿!!』

 海底ダンジョンの得る方向に高らかに掲げられた聖剣は歓喜の声を上げる。

 王子はそんな聖剣を気にせず真下に振り下ろすと、海が割れた。

 海底ダンジョンへ至るための方法『聖剣を持ち、海を割る事』。

 割った後海底ダンジョンへの歩みを横から攻撃されないために、釣りをしていたのだ。


「釣れなくなったのは残念だな……もうちょっと釣りしてたかった」

 目的と手段が逆になっていたなんてことはない。

 イエフは海底神殿を半年攻略するとダンジョンマスターと対峙した。


「お世話しきれなくなったからって、そのあたりに捨てるって、あなた責任って言葉知っていますか?」

 結果、海底ダンジョンのダンジョンマスターは海に放流していた狂ったモンスターを特定の地上地域に打ち上げる事を約束したのだった。


「これで海運が……「海産物安定ゲットだね」」

 イエフによって次々と切り開かれてゆく国土、それまでどうしようもなかった白髪差別の根絶。

 たった3年。イエフが15歳になるころまでに成した偉業であった。

 そしてイエフ15歳と半年の時、海底ダンジョンから持ち帰って半年の間磨き続けた、さび付いた剣が光を取り戻す。


『神剣再生!』

「やぁ、神剣君、初めまして」

『うっわ。一生懸命磨いてると思ったら神剣だったのね』

「神剣君には探してほしい人がいるんだ♪」

『おう、どんと任せないさい、神剣だけに一生懸命探すよ! 本気まじで!』

「……『』」

『……ん?なんて?』

「……そこは『真剣まじで』の方じゃないの!? 神剣のくせ……にっ!」

『おっと、イエフ選手大きく振りかぶって、神剣を……なげた~~~~!』

 なお、投げ捨てられた神剣は餌場を探して飛んでいた黒竜を貫き、森林ダンジョンの深部に堕ちた。

 

『やめて! 半年間僕の話し相手になってくれていたエンペラーオークの豚野郎君を倒さないで!!!』

『大事な友達に対するネーミングセンス……』

「神剣君、聖剣君。悲しいけど彼らは僕たちにとって敵(食料)なんだよ……」

『怖い。悲しそうな顔で刈ったモンスターをおもむろに捌き始める人間の一団……』

『で、天使……いや、ハーフ天使か。その君が神剣の僕に何のようだい?確かに現世で神剣の能力を十全に活用するためには、現世の器を持ち神に至る精神を持つ。そうお前の様なハーフのみだが……』

「……を探してほしい」

『ほう……執着か……だが、お前は今の生が大事ではないのか?』

「私の本質はあくまで……大天使ヤー・カーなのです……」

『嘘が下手ね……』

『……好感の持てる奴だな』

 神剣がイエフに託された目的を果たしたのは半年後。イエフが16歳になった朝の事だった。


『で、何で鍬なんだ……』

『頑張れ神剣。私は釣り竿だった……』

「畑たがやすの、楽し~」

「王子様~。そこまで終わったら休憩にしましょう~」

「は~い」

『こうなったら特殊能力【豊穣】を発動して……』

「させない!」

『ちょっ! お前! 半年前に見せた執着はどこにやった!!!』

「今は芋がおいしい季節~。ほ~どっこいしょ~。どっこいしょ~。」

『聞く耳もって~~~~お願い~~~~』

 鍬を振るイエフは無心である。

 歌を口ずさみながら土を耕す。

 豊穣の女神に仕える大天使としての本能が、この難攻不落のダンジョン開拓に向かっていた。


『え?だから南東から波動が……』

 因みに今日のおやつはモンスター肉による肉厚ハンバーガーである。


『ちょっ、匂いだけで作業スピード上がったんだけど! この使徒!』

 イエフが物語に書かwルのはもう少し後の事であった。


「王子~、あとで釣り竿貸して~」

「ほいほ~い」

『……私は聖剣、私は聖剣……つっ釣り竿じゃないんだからね!』


☆☆☆

 不思議着ぐるみこと大志が地球に帰って2カ月が過ぎていた。

 アユムは少しだけ広がった農地を眺める。

 鍬を杖代わりに体重を乗せて全力の脱力をしている。

 優しく吹く風、肌に優しい暖かさ、土と草の匂いが鼻孔をくすぐり、この階層唯一の食事処まーるからは香ばしい香りが流れてくる。


ぐぅ

 朝日が昇ったころから肉体労働を続けていたことで、アユムの腹の虫は料理の香りに敏感に反応する。


「皆、お昼にしようか」

 アユムは近く場で収穫作業に精を出していたオークに声をかける。

 声を掛けられたオークは汗をぬぐい背筋を伸ばすと笑顔を浮かべ、ボウボウと言いながら周りのモンスター達に声をかけて歩く。

 アユムはアユムで問題児たちに近寄る。

 

「だから! それは食べるものじゃねーっつってんだろ! クソ猫!!」

「がう!(匂いはいいのに、固いし! まずいし! お前んところ料理人どうなんてんだ!)」

 人形王とアームさんがののしり合っている。人形王はアームさんの言葉を理解できず、アームさんも人形王の言葉を理解していない。だが、何故か波長が合っている。


「いいか! 昼からはまじめにやるんだぞ! 真面目にやったら団子食わしてやるから!」

「がう(だんご! くっそ! いつもまじめにやってる俺に対するご褒美か畜生! ごちそうさまだ、こん畜生!)」

 アユムに気付いた人形王はアームさんに目くばせをしてお食事処まーるへ誘う。

 ちょっと意思の疎通ができていない状況だが、アユムにとってほっこりする光景であった。

 こうしてモンスターと人間達によるにぎやかな昼食が始まる。

 この15階層において現状の課題は2つある。

 1つ、農地の開拓ができていない。

 2つ、現状の収穫もギリギリである。

 この2点を解決するために人形王が現れ、アームさんを動力源として機械化を計画していた。

 人形王としても利点のある話なのだが……。


「……きっとこれは夢……」

 アユムは1人になるとそう呟いて遠い目をするようになった。

 誰とは言わないが、神様が干渉しまくった結果、我らが主人公は現実感をなくしてしまったようだ。


「……本当の僕はアームさんに食べられたんだよね……」

 ……責任者の人!

 はやく事態収拾して!

 え?『ワイハーでバカンス中のため不在』?

 ブラック様! あんた、いつの時代の人だよ!!!!!!


ここまでお読みいただきありがとうございました。

ゴブリン族は人間とは身長や、顔のつくり、肌の色、異能など違う理性を持った人類種。

そんな設定です。

平均寿命は150歳。当時の人間の4倍以上の寿命を持つ種族です。

モンスターだったり、邪神の眷属だったり、邪悪な妖精だったりしません。

イメージしやすいのでゴブリンの名前を付けてみました。


~~アームさんの愛の説教部屋~~

アームさん(以下ア)「皆さん今晩は、お久しぶりです。みんなのアイドル、アームさんです」

(何故か、ゆっくりとお辞儀するアームさん)

アームさん(以下ア)「今晩、私は、皆さんを代表して問い詰めなければならない人がいます。その人は、3章後半の仕事を放棄した男です。職場放棄など社会人として許せないことです。ですが同じ物語を紡ぐ仲間。私が愛を込めてお説教を授け、踏み外した道を戻したいと思います。……では、罪人。入りなさい」

……ガチャ

・・・

・・

世界の声「なんで俺やねん! ってアームさん正装って蝶ネクタイ? え? 何? そのどや顔。うざいんですけど?」

アームさん「迷える子羊こと世界の声さんです ○(#゜Д゜)=(  #)≡○)Д`)・∴'.」

アームさん「(蝶ネクタイを笑うやつは、眠らされた挙句好き勝手喋ったことにされる……のだ。……セクハラ事案を作る事だって容易ぞ?)」

世界の声「……はい。というか何で俺が呼ばれたの? 心当たりが……」

アームさん「3章の後半、お前いなかっただろ?」

世界の声「ギク━━━━━━(゜A゜;)━━━━━ッ!!!!」

アームさん「やたらと静かだと思ったんだよ。なんだ。上司から制限喰らったのか? って思ってたけど無音のまま、あの変体着ぐるみ帰っていったよな?」

世界の声「エー、そんなことないよー(棒)」

アームさん「アテレコしてたのねーちゃんだろ? いいねーちゃんもったじゃねーか?」

世界の声「ちがうんや。儲け話に乗せられて複数世界放浪させられてたとかそんなんじゃないんだ!!」

アームさん「……」

世界の声「……え、『分ってるよ』的なその表情何? お馬鹿キャラじゃん。おま……○(#゜Д゜)=(  #)≡○)Д`)・∴'.」

アームさん「じゃ、みんなちょっと【教育】してくる。まったね~」

(アームさんに引きずられて隣の部屋に連行される世界の声)

世界の声「……まて! やめて! ねーちゃんの彼氏とか興味ないから! や~~~め~~~……」

アームさん「合掌……。いや~、いいことするのって気持ちいいですね♪では皆さんまたお会いしましょう~」

~~アームさんの愛の説教部屋(完)~~

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現在、こちらを更新中! 書籍1・2巻発売中。
アームさん
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