十一話
とりあえず、ここで一つの話が終わります
「いてててて・・・なんだぁ?」
意識を取り戻した時、俺は彼女(愛莉)の部屋にいた。
「さっきは、ごめんなさい。乱暴してしまって」
愛莉の声は穏やかだった。俺は殺されなかった。でも、佐藤を殺したんだ。この人は人を殺せる人間なんだ。
「・・・・・そんなに怖がらないで」
・・!?俺は体が震えていた。
「あの、俺はもう帰りますね」
「待ちたまえ。」
後ろから、低い声が聞こえた。大人の男の声だ。俺は後ろを振り返る。
「おっす、幼い高志よ」
「・・・・祐樹!!・・さん」
写真で見て顔は知ってたが、いざ実際にあってみると爽やかだと思った。中学生のあいつは陰気なやつだったのに。
「はははぁ!祐樹でいいよ・・・しっかし俺、佐藤に殺されたなんて未だに信じられないよ」
・・・・彼の死は自殺じゃなかったのか?
「ああ、そのことなんだけどね」
俺の不思議そうな顔を見て、愛莉が答えた。
「あなたに、嘘付いてた。ごめん。佐藤はね、祐樹を殺したの。祐樹は自殺したわけじゃないの」
「なんでそんな嘘付いたの?」
「本当の事をあなたに言ったら、失敗したからよ」
なんでそう言い切れる?
「私はあの時代に戻って、佐藤が祐樹に近づかないように誘導して、この時代に帰ってきた。でも、彼は死んだままで未来は全然変わってなかったのよ。もう一度戻って、他の行動を起こして戻ってもダメだった。戻って、行動起こしては返ってくる。これを繰り返したわ。彼が生きている未来にたどりつくまで。そうしてる間に気づいたの。佐藤を殺さないとダメだって。あと、あなたの協力が不可欠だって。」
「その割には、最初、俺に話しかけるの下手じゃなかった?何回もやってたんだろ?」
「普通に話しかけたら、あなた協力してくれないのよ。もう!!なんでよ!!」
そんな事怒られても。別の世界の俺の話しで俺ではない。
「はぁ、すいません」
「・・・・まあ、いいわ。やけくそであなたに話しかけたら協力を得られたわけだし」
「なるほど」
暴力的な手法で俺を未来に連れてきた理由もなんとなくわかった。
「あとね。無理やりでもあなたを未来に連れてこないとダメだったのよ。その・・・乱暴して本当にごめんなさい」
・・・ちゃんと事情があった。ただの殺人者じゃなかった。そのことに俺はとてもホッとしている。
「もうわかってますよ。ところで何回、過去に行ったんですか?」
「・・・80回くらいよ」
80回!?俺は正直驚いた。せいぜい20回くらいだと思ってたからだ。
「もう疲れた。休みたい。おやすみ。」
彼女はソファに横になって目を瞑ってしまった。俺はその様子をボォーと見ていると、横から声をかけられた。
「愛莉から、高志が意識を失ってる間にいろいろな事を聞いたよ。なにげない会話の一言ですらも気をつかってたらしいよ」
「そうだったんですか・・・・」
「ところでさ、受験勉強はかどってる?」
「いえ・・・親と進路のことでよく喧嘩して・・・あまりはかどらないです」
「ははははは!そういえば、君はそんな事で悩んでたなぁ~」
大人は中学生の頃のつらいことなど、思い出話(笑い話)になる。だけど、中学生の俺からすると腹立たしい。特に同級生の親友に言われると。
「でも安心しろ。君は親と和解することができるよ。君の行きたいところにいけるんだ。」
・・・・マジか!?
「こらぁぁぁ!!祐樹ぃぃ!!!そんな事教えちゃダメでしょがぁ!何やってんのバーーカ」
ソファに寝転がってた愛莉がマジ切れしてた。
「今の彼なら大丈夫だよ、愛莉。・・・・・高志君、将来どんな事があっても自分を信じて自分のやりたいように生きろ。そして、これだけは譲れない。そういう信念を持て。大人になってからじゃ遅すぎるんだ」
「・・・!!!?」
大人は身勝手な論理を押し付けてくるものだと思ってる。それがどんなに的外れでも。祐樹(中学生)が口にした言葉だ。俺はこの言葉に支えられるときがある。その祐樹がこれから12年間で得た教訓だ。自分のためになるものに決まっている。俺は久しぶりに大人の説教を頭の奥にねじ込んだ。
「・・・わかりました!!」
「ふむ、よろしい。愛莉、高志君を過去に送ってくるね。」
「わかった!いってらっしゃい!」
そうして俺は、もとの時代に帰った。