夫の愛情は不要な妻2
何もない結婚だった。
誓う儀式もない。婚礼衣装もない。花婿もいなければ、祝う人もいない。リーンリアナの結婚は何もなかった。
花婿であるアルバートは貴族の子弟が在籍する学校に通う準備で忙しく、その日は過ぎて行った。
誰も招待する必要もなく、何事もなかったようにその日は終わった。
それでもリーンリアナは気にしていない。
本来なら側妃として離宮に入った日が結婚した日となる筈だった。しかし、アルバートが歳下であったために、結婚は一年延びた。
姉たちやハルスタッド一族の女たちに形ばかりの結婚式を行ってはどうかと聞かれたが、リーンリアナは何も用意せず、アルバートを招くこともなかった。
離宮の女たちの結婚に立ち会えるのはそこの住人とその侍女、そして住人の夫たちだけ。それも花嫁が希望すればの話で、リーンリアナは希望しなかった。
いつもと変わらないささやかなお茶会すらその日はなかった。
リーンリアナはその日に何もしたくないと言い、姉たちや叔母たちはその望みを叶えようとし、あえてお茶会を開かなかったからだ。
自分の結婚の日が近付いても無関心だったアルバート。それに気付いたリーンリアナは結婚などどうでもよくなった。
姉との三人だけのお茶会が終わる日すら心待ちにしていた。
そして、結婚する日になってもアルバートは訪ねてくることはなかった。リーンリアナが離宮に招かなかったとしても、アルバートには結婚する日が伝えられていた筈なのに。
結婚後にアルバートが離宮に入ったのは、学校に通い始めてからだった。
離宮にある小さなサロンの一室でリーンリアナと二人きりにされたアルバートの目は、いる筈のもう一人を探して部屋を彷徨う。
「どうかなさいましたか?」
そう尋ねる黒髪の少女にアルバートは小さく頭を振る。
妻であるリーンリアナと一緒なのだ。その姉を探していると言えるほどアルバートは厚顔無恥ではない。
「いや、大丈夫だ」
「左様でございますか」
淡々と答えたリーンリアナにアルバートが話題を振らなければ、その日の会話はそれで終わってしまったことだろう。
会話が弾まない相手とも話すことを余儀なくされている立場のアルバートは、リーンセーラに会えないからと即座に帰ることもできずにお茶が冷めるまでは話を振り続けた。
それ以降、何度リーンリアナを訪ねて離宮に赴いても、リーンセーラが同席することはなく、小さなサロンの一室で冷めたリーンリアナと気まずい空気の中、会話するのが続いた時、ある事件が起きた。
食事に盛られた毒でリーンセーラが倒れたのである。