エピローグ
「私たちが来たからにはもう一人ぼっちじゃないわよ、リーンネット!」
「お待ちください、リーンリアナ様。リーンネット様にはまだ安静が必要でして・・・!」
勝手知ったるハルスタッド一族の館の本家の住む棟の二階の端にある部屋の寝室へと続く扉を開けながらリーンリアナは言った。その手は幼い娘のローズマリーと繋がれ、両手でつかめそうなほど細いウエストには部屋の主であるリーンネットの侍女キャットがしがみ付いている。
リーンリアナらしくないテンションは、初めて会う妹に好印象を与えようとしたものだ。
「だ、誰?」
ベッドで起き上がっていた黒い巻き毛の少女が伏し目がちの青い目をいつもよりも見開いて驚いている。
「リアナ姉上・・・?」
少女を庇うようにベッドの前に立ち塞がっている背の高い青年が厳しい面持ちで確認するように言う。
リーンリアナが王宮の催しに参加したせいでハルスタッド一族の女の容貌が貴族の間で知られるようになり、リーンネットの攫われる危険が高まったとオスカーは思っていた。今度はどんなトラブルを起こされるか心配でたまらない。勿論、リーンネットに危険が降りかかること限定で。
リーンリアナが自身の行動でどんなことになろうが、オスカーにとってどうでもいい。
「あなた、オスカー?」
「・・・」
オスカーは姉に胡乱げな目を向けた。ハルスタッド一族の特徴で伏せたように目が半分閉じているので、リーンリアナにその感情は届かない。
返事がなくても、兄弟の中で一人だけ緑色の目をしていた弟と青い目で見つめ返す。リーンリアナは緑色の目をした幼い男の子の面影を少年の中に見つけて言う。
「オスカーよね。すっかり見違えたわ。あんなにちっちゃかったのに、こんなに大きくなっちゃって。私より大きいんじゃない?」
「・・・」
一方的に話すリーンリアナと眉を顰めているオスカーに少女たちはそれぞれに問いかける。
「オスカー、この人は・・・?」
「おかあさま、このかたは?」
途端に二人は自分に話しかけてきた少女のほうを向いて、彼女たちの疑問に答える。
「リーンネット、この何も考えていない迷惑女は一番下の姉上のリーンリアナだ」
紹介するのも嫌そうにオスカーは渋々、ベッドの上の少女に教える。
リーンリアナも負けてはいない。
「この口も性格も悪いお兄さんは私の弟でオスカーおじさんよ、ローズマリー」
「・・・」
「・・・」
少女たちは二人の説明に引き攣った表情になった。
こうして、王宮のハルスタッド一族の女たちの離宮から二人減って、ハルスタッド一族の館の本家の住む棟に新たな住人が二人増えた。
毎日のように崇拝者たちとお茶会を楽しむリーンリアナとそれにリーンネットが付き合わされていることに怒るオスカー。ハルスタッド一族の館の本家の棟では姉弟の言い争う声が響き、少女たちはそれに溜め息を吐く。
本家の棟に住むハルスタッドの少女たちは孤独ではなく、騒がしい家族に頭を痛める。
リーンリアナは呆れる少女たちを見ながら、自分の男を見る目は最低かもしれないけれど姉妹には恵まれたと思った。
その後、リーンリアナがハルスタッドの館でも元訪問者である崇拝者たちと楽しげに交流して貴婦人方からふしだらだという噂を立てられたリ、崇拝者の一人と再婚したり、アルバートが学校に通うハルスタッド一族の少年の中からリーンリアナの息子を探し出して復縁を迫ろうとするのはまた別の話である。
投稿予約を間違えた作品でしたので、至らない点が多いと思いますが、最後まで読んで下さってありがとうございます。