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「ところで、どこに向かって歩いてるの?」
まことの爆弾発言に大げさにおののいたキノコと吉本。
「オマエ、何も考えずについてきてたのか?」
「や、考えずにっていうか、他のこと考えてて」
「オレが言うことではないが、もちょっときちんと考えて行動しないと犯罪に巻き込まれるぞ?」
キノコの意外にも常識的な発言に、まことは少し考えるようにしてから、違う方向を向いて小さく息をついた。黒い雲が街に暗い影を落としていたが、一部だけ雲が途切れていた。青い空が黒い雲の間から小さく覗いている。
(晴れてくるのかな)
雨が降らないのでほっとした。
雨が降ると風邪をひき、雨が降る直前の曇りだと偏頭痛を起こし、日差しが強いと熱射病か日射病になるという厄介な体質の持ち主を側にしてから、なんとなく天気が気になるようになっていた。思いっきり晴れではなく、少しうっすらと白い雲がかかってるくらいがちょうどいいらしい。
「おい聞いてるか犯罪娘!」
「それではまことが犯罪を起こしてしまっているぞ」
「で、どこに向かって歩いてるの?」
そういえば本当に勢いでついてきてしまったため、自分たち三人まで学校を抜け出してきてしまった。これでは犯罪とまではいかないが校則破り娘だ。
「とりあえず、貴一の家に行ってみようという話になっているようだぞ」
吉本のフォオロー。
「えっ」
「なんだその反応は? 何か問題があるか? 犯罪娘」
「えっと、あっちゃんちは……なんか……いいのかな……」
伝えた方がいいのだろうが、伝えてしまっていいのだろうかという疑問もある。
(噂だしなー)
事実無根な噂だったら大変な失礼を敦実家に働くことになってしまうので、この情報の取り扱いについては慎重になってなりすぎることはない。触るな危険マークがついている。
まぁ案外とただの友達として行く分にはなんの問題もないのかもしれないし、むしろ誰もいないかもしれない。後者を切望したいところではあるが、あまり楽観視できるものでもない。
「ん、なんでもない」
「そういうのが一番気になるぞ!!!! 言え!!!! 言うんだああああ!!!!!」
「うん、じゃあ家に行って、帰る時に言うね」
「それでよいのか? 行く前に聞いておく類のものではないのか?」
「さーてれっつごー!!」
拳を上に突き上げて、今度は先頭に立って歩を進めるまこと。後ろの男二人がしきりに首を傾げたり顔を見合わせたりしているのが視界の端に見えたが、気にしない事にした。
(かくたる証拠もないのに言える訳ないじゃない)
――――あんなこと。
☆ ☆
「いたっ」
貴一の短い悲鳴に、伊吹はびくっと指を動かす。連れてこられた先は、アパートの裏側にあたる場所で、公園だった。こんな所に公園があるとは知らなかった。公園内のベンチで絆創膏を貼ってもらっていた。
「大丈夫?」
「うん、まぁ。そんなに血も出てなさそうだし」
見せてもらった鏡の中にうつる自分は、緑の目と茶色の髪の毛をした異形のモノに見えて少しどきっとした。コンプレックスの象徴。
(まぁそれはそれとして)
頬に小さな血の筋が何本かあった。痛みがなかったので気づかなかった。痛みがなかったというか、それ以外の症状の方が強かったためにそこまで気が回らなかったのだろう。自分の神経は。
動悸はなんとか少しずつ収まってきてるが、まだ危ない雰囲気だ。できれば歩きたくないので、彼女を見つけても声をかけるべきではなかったが、勝手に身体が動いてしまった。何をやってるんだろうと思う。
「で、何をしてたの? 学校どうしたの? また捜し物?」
最後の問いかけは、少しからかう口調で言ってみた。
だが、驚いたことに、彼女は静かに頷いた。長い髪の毛が前に落ちる。さらり、という音がしそうなくらい綺麗な長髪だ。それを見て、どくん、とひときわ大きく心臓の音がした。息が上がるが、別にやましい理由ではない。単純にときめいただけだ。
「ほんとに捜し物?」
またこくりと頷いた。
「何を探してるの?」
「センパイ。……あの、カメコの」
彼女を動かす原動力は、やはり百合だった。