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妖怪村生活日記

作者: 那智

プロローグのみだから生活シーンすらない。これなんてタイトル詐欺。

「おお~。 これはなかなかグッドなド田舎ですねぇ」


ぐるりと辺りを見回して目に入ってくるのは山、山、畑、畑、畑、田んぼ、山、山。

そしてその奥に木材オンリーで造られた家屋がいくつか見えます。おそらくあれが目的地の村ですね!

それにしてもこんな時代劇にでも出てきそうな村が未だに現存してるとは!山奥という立地条件を加味してもなかなかこんな場所はありませんよ。

いやー、日本もまだまだ侮れませんな。


「おい待てっての、宇月うづき

 ったく、なんで助手のお前がどんどん先に行っちまうんだ?」


「え~、いーじゃないですか。 センセの荷物だっていくつか持ってあげてるでしょう?」

 

「持ってるって言っても軽いのばっかじゃねーか!

 ほら! この鞄でいいから持て!」


「しょうがないですねぇ」


この助手使いが荒いのは瀬高清十郎せたか せいじゅうろうさん。

物書きのお仕事をしていて僕の雇い主です。主に妖怪とか民俗学なんかをテーマにした本なんかを書いています。


「にしてもまさか作品の舞台にした村からお礼をしたいからぜひ来てくれなんて招待状が来るなんてな」


そう、僕たちがこの田舎に来たのはセンセの家に届いた一通の葉書が理由なのです。


『拝啓

 

 この度は清十郎先生の作品にてわが村を舞台にしていただいたことにささやかながらお礼をしたくお誘いしました。

 ご足労願いましてまことに申し訳ありませんがこちらで用意した宿にておもてなしを致しますのでごゆるりとくつろいでいただければ幸いです。』


ちょうど次回作の構想に行き詰っていたセンセはネタになれば幸いとばかりに承諾の返事をしたというわけです。


「そーですよねー。 売れない小説家のセンセにそんなものが届くなんて夢にも思いませんでしたからね~」


「売れないとはなんだ売れないとは!」


「違いましたっけ?」


「そ、そこそこは売れてるぞ! そこそこは!」


なんでそこで弱気になっちゃうんですかね~センセは。

まぁ実際売れてないわけじゃないんですよね。結構コアなファンとかがいるみたいですし。

もっと自信を持ってくれればいいんですけどねぇ。


「ええいもう! とっとと行くぞ!」


「あ、待ってくださいよー」


僕に先に行くなと言っておきながら自分が先に行ってしまうなんてどういうことなんですかね。

まぁどうせセンセ歩くの遅いですからすぐに追いつけますけど。

――――それにしても……


「・・・・・・センセが書いた作品に村を舞台にしたものってありましたっけ?」


なかったと思うんですが僕の記憶違いですかね?

まぁセンセが疑問抱いていないならそれに従いますか。今はただセンセについて行くだけです。



――――――――――――


よーやく村の中心部に着きましたね。

村には時代劇……とまではいきませんが昔ながらという感じの光景が広がっており、ちょうど村という言葉に対するイメージをそのまま形にした

てかセンセバテてますねぇ。早歩きで行くからそうなるんですよ。


「センセだいぶ荒い息をしてますが大丈夫ですか?」


「ああ……だい……じょうぶ…だ…」


やだ、駄目っぽい。

しばらく待ってようやくセンセの息が整ったころ村の人が話しかけてきました。

空気読んで待っててくれたみたいですね。ありがたいことです。


「ようこそいらっしゃいました! この度はこんな山奥までお越しいただきありがとうございます」


「いえ、こちらこそわざわざ招待していただいて……」


話しかけてきたのはおそらく村長さんですかね?

ご老人を想像していましたが髪に白髪も混じってませんし予想以上にお若そうな方です。


「私はこの村の村長をしています天城あまぎと申します」


「瀬高清十郎です。 それとこっちが俺の助手の宇月です。 お世話になります」


「お世話になりますよ」


「誠心誠意おもてなしさせていただきます」


むぅ……この村長さんだけでなく村人の皆さんも思ったより若い人が多いですねぇ。まぁ若いって言っても30代半ばって感じの人が多いのですが。

こういう村にしては珍しく過疎とかも起こってないようですし……。

逆に言えばご高齢の方が少ないですねぇ。なんか抱いてたイメージと違います。


「ささ、どうぞこちらに。 宴の用意をしておりますので」


「おお、それはありがたい!」


あー、生活結構厳しいですもんね。

まぁそれは半分ぐらい僕のせいなんですけど……。

それにしてもさっきから感じるこの違和感は何でしょう?なんとなく覚えがあるような……。

まぁ結論を急ぐものではありませんね。ここは警戒しつつ様子を……


「酒も取り揃えておりますのでぜびご賞味ください」


「すみませんね。 何から何まで……」


・・・・・・じゅるり。

・・・好意には甘えるのが礼儀ですよね。

ええ、他意はありませんとも。


――――――――――――


「んぐっんぐっ……ぷはぁーーー!!!

 いやーこのお酒最高っすねー。 ぐいぐい飲めますよー」


「いやお前飲みすぎだろ……。 つかお前未成年なんだから酒飲むなよ……」


「いいじゃないですか。 無礼講ってやつですよ」


そういうセンセも結構飲んでますよね。顔真っ赤になってますよ?

お酒にそんなに強くないセンセがこんなに飲むなんて雰囲気に当てられちゃったんですかねぇ?

それもしかたないです。だってもう歓迎会っていうよりは普通の宴会になってますもの。村の人たちも皆飲んでますし。


「おーい、誰か芸のひとつでもしろー」


「おっしゃ、ならばオイが……」


「あははは、いいぞーっ」


「よぅしオレもひとつ」


「酒まだかぁー?」


大賑わいです。踊りだす人、リズムをとる人、便乗する人。いろいろいます。

こんなに楽しいのはいつ振りでしょうか?


「ははは、楽しんでいただけているようで何よりです」


「ええ、楽しんでますよ。 センセも女の人にお酌してもらってご満悦のようですし」


いつの間にかセンセの隣には妙齢の女性がいて甲斐甲斐しくセンセのお世話をしていますね。

センセもまんざらではなさそうなのであちらは任せてよさそうです。なので存分にのんびりしますかね。


「さ、村長さんも一献」


「おお、ありがとうございます」


ふぅ、たまにはこんな風に過ごすのも……。


「おい! 先生が倒れたぞ!」


「うわっ顔真っ赤でねえでか! だれだこんなに飲ませたんは!?」


「すすすすいません! お酌すると本当においしそうに飲んでくれるのが嬉しくてつい!」


「謝るのは後にしろっ! 誰かっ! 水持って来い水!」


任せるのは失敗でしたね。あ、この魚おいしいですねぇ。


――――――――


その後センセは別室に寝かされました。

看病をしようとしましたがあのお酌をしていた女性が自分の責任だからというので任せてきました。

歴史が繰り返されそうな予感がしますがそこには目をつぶっておきましょう。

さて、センセも別室に行ったことですし


「そろそろ本題に移りませんかね? 妖怪の皆さん?」


僕がそう言うと同時にその場にいた人・・・いや人に化けた妖怪たちが一斉にこちらを見ました。

ていうかこういう時ってほんとにザワッ、てなるんですねぇ。


「静まれ! 客人の前で見苦しいぞ!」


おお、さすが村長と言うべきでしょうか。あっという間に騒ぎが収まりました。

てか口調変わりましたね村長さん。こっちが地なんですかね?

しかし客人ですか。なら危害を加える気は無いと解釈して大丈夫ですね。どうせ警戒してもいざ襲われればどうすることもできないですし。


「宇月殿。 まずは騙していたことの謝罪をしよう」


「いえ、かまいませんよ。 普通の人間がいきなり妖怪に会ってまともに話せるとも思えませんし人間に化けていたのは当然だと思いますから」


「しかし宇月殿のような方がいるなら話は早い。 何故この村に呼んだのか説明しよう。

 ほれ、皆の者もう変化を解いてもよいぞ」


そう村長さんが言ったとたん目の前が歪みました。

いえ、これは村人たちがいる場所が歪んで見えていると言ったほうが正しいですね。

これが幻術ってやつですか・・・。僕今めっちゃ貴重な体験してますねー。


「ふう、さて改めて話をしよう」


村長さんは天狗ですかー。ほかの方は・・・一つ目入道、鬼、ぬらりひょん、化け猫・・・ほかにもいろいろ。人型からちょっと形容しがたい姿の妖怪までいますね。

うっはー、メジャー所が盛り沢山ですよこれは!


「この村は宇月殿が予想している通りわしら妖怪たちしかすんでおらぬ。 ここ数十年人と関わる事無く生きてきた。

 昔はそれでも良かった。 だが近頃我らは人に忘れられてしまった。 人に忘れられては我らは存在できぬ」


「それでセンセの小説に目をつけたってわけですか」


「左様。 どんな形であれ我らという存在が忘れられなければ問題は無いのでな」


なるほど。小説を通じて人々に存在を認識させようってことですね。

まぁ小説のほうが霊能力者なんかより人の目に触れますしなにより受け入れられやすいでしょうからねぇ。


「それでそれを頼むためにセンセを呼んだんですか?」


「その通りだ」


でもそれならわざわざ呼ばなくても良かった気が・・・。どうせセンセは民俗学・・・ぶっちゃけ妖怪の本しか書きませんし。

あ、いいこと思いつきました!


「それならもっといい手がありますよ」


「ほう! それは一体どのようなもので?」


「センセって今年で27歳なんですけど独身なんですよね~。 なのでこちらの村で誰かちょうどいい女女性を紹介してあげてくれません? なんなら移住も可ですよ!」


「それはありがたいが・・・いいのか?」


「別に構いませんよ」


「いや宇月殿ではなくて・・・」


「ああ、センセなら構いませんって。 どーせこのままじゃ嫁さん貰うのは夢のまた夢でしょうからね~。 

 センセってば僕がいるからって嫁探しすらしてないんですよ?」


僕がもしセンセのとこから出てったらどうやって生活するつもりなんでしょ?

ただでさえ生活能力低いのにここしばらく僕に家事任せきりで・・・もう生活能力マイナスいってんじゃないですかね?


「そういうことならこちらとしても渡りに船だ。 

 この村の若い者は少ない上に女子ばかりでな。 お二人が貰ってくれるのならこちらとしてもありがたい」


あれ?いつの間にか僕も嫁さん貰うことになってますね・・・。

僕まだ16なんですけど・・・。


「あー、まぁ僕は法律でまだ結婚できないので保留ってことで」


いや村長さん残念そうな顔しないでください。さすがに早すぎます。

「村に住むなら人間の法律は関係ない」って聞こえてますよそこのぬらりひょん!


「はぁ、とりあえずそういうことで「ぎゃぁぁぁぁあああああああ!?」 おや?」


どうやらセンセが目を覚ましたようですね。

叫び声から察するに「看病してくれた人が妖怪だと気づいて叫んだ」のではなく「目が覚めたら妙齢の女性と二人っきりだという状況に混乱して叫んだ」っぽいですね。

うわぁ、すごい勢いで足音がこちらに向かってきます。ドンだけ驚いてるんすか。


「うううう、宇月!!! 一体何がどうなってあんな状況に・・・ってぎゃーーーー!!! よ、妖怪!?」


「落ち着いてくださいセンセ」


「いやお前なんでそんなに落ち着いてんだよ! いいからとにかく―――」


「お・ち・つ・い・て・く・だ・さ・い!」


「・・・はい」


まったくもう。最初から言う通りにすればいいんですよ。


「とりあえず説明しますからおとなしくしてくださいな」


<説明中>


「というわけでこの村の誰かを嫁に貰ってください。 あ、複数オッケーみたいですよ? よかったですね」


「おい・・・。 その結論に俺の意思は・・・?」


「関与してませんが別にいいじゃないですか。 このままじゃ一人さびしく老いていくのが目に見えてたんですから」


「お前俺に関してはなんか妙に辛辣だよな」


事実じゃないですか。


「しかしいきなりそんなこと言われてもな・・・」


「なにを悩む必要がありますか。 ここに住めば作品のネタには困りませんよ?」


「ううむ、それは確かに魅力的だけどなあ」


「ならしばらくこの村に滞在しますかな? しばらくこの村で暮らし、気に入っていただけたら先ほどの話の通りにということで」


「あー、はい。 そうしていただけると助かります」


「では話は決まりですねー。 そういうわけでしばらくお世話になりますね」


僕たちのこの村への滞在は大きな拍手をもって歓迎されたのでした。







「にしてもセンセ。 嫁貰うこと拒否しなかったあたり実はうれしかったりします?」


「う、うるさいっ!」



登場人物紹介(人間のみ)


瀬高清十郎せたか せいじゅうろう

性別 男

そこそこ売れてる小説家。主に民俗学や妖怪をテーマにした作品を書いている。

その割には妖怪のことは「いたらいいな」程度にしか考えてなかった。

生活能力は皆無。また独身であり密かにそのことを気にしている。



宇月うづき (偽名)

性別 男

清十郎の家で住み込みで働いている少年。アシスタントではなく助手と名乗っている。

とある事情により清十郎のことを慕い「センセ」と呼んでいる。

基本的に家事担当であり小説に関してはほとんど手伝っていない。

幼いころ妖怪と会ったことがありそれゆえにそうゆう存在に対しての耐性が高い。

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