缶コーンスープで乾杯。
お題小説企画で書かせて頂きましたー。
自販機は相変わらず変な鳴き声。口から飲み物を吐き出す。結構、可愛い奴。
なに買ったのと彼女に聞くと、コーンスープだよと言う。
ふうん。
「私は貴方みたいにコーヒーなんて飲めないのよ」
俺は右手に握られている缶コーヒーを見つめた。冷めた手を缶が溶かしていく。
携帯のデジタル時計は16:26と言っているが壁にぶら下がっているアナログは長い針が6をさしている。
どっちが間違っているのかな。
「最近、全然飲んでない」
中3あたりから、めっきりコーヒー。少しでも大人ぶりたかったあの頃。今でもあまり変わらないというのに。
放課後の学校は淋しいぐらいになにもなくて静か。吹奏楽部の楽器の音が聞こえるぐらい。
象が鳴いているような低い音。言い表せない。吹奏楽とかトランペットしかしらない。らっぱ。
楽器の音が鳴ってるのに静かと感じるのはなぜだろう。
スカートのプリーツを揺らしながら彼女は言う。廊下は少し長い。そして、寒い。
「でも、缶のコーンスープって、粒はいらない気がする。この粒が最後に残るせいで、悔しい気持ちがするんだと思う」彼女はそんな壮大な気持ちを持ってコーンスープに挑んでいるのか。コーンスープを飲む度に悔しくなるなんて損だ。90円で買ったのに損しちゃうなんて。
ところで、すごい缶を振っているが大丈夫かな。コーンスープはそんなにぶんぶん振らなくても大丈夫だと思う。
俺たちの教室は一番端の教室。俺が座った隣の席に彼女は座る。テスト前と言うわけでもないが、勉強をしている。ただの時間つぶしかつ、デート。
「コーヒーって美味しいの?」まぁね、と俺は言って椅子ごと彼女に近づいた。
なによ、と缶のコーンスープを傾ける。綺麗。
俺は一口コーヒーを飲んで缶を彼女の机の上に置いた。少し腰を浮かせて、彼女の肩に腕を回して引き寄せる。歯が当たらないように優しく唇を乗せる。彼女の唇は暖かい。ほんのりコーンスープ。きっと、俺はほんのり缶コーヒー。 彼女の唇に舌を滑らせた。少し口を開けてくれたので、俺は遠慮なく中へいれさせてもらう。「ん、…」彼女が唸った。気にしない。口の中は生ぬるくて、やっぱり、コーンスープ。彼女の顎に手をかけて口を開かせもっと、奥へ。彼女の歯の並びを舌で確かめる。彼女の歯並びは綺麗。平坦。八重歯もない。
不器用ながらも舌が絡まって、離れたり吸い付いたり。思春期。
混ざり合った唾液が口から垂れて頬を伝う。コーヒーとコーンスープが混ざって変な感じ。コーヒーとコーンスープと唾液。ちょっと、気持ち悪いね。 口を離して、垂れた唾液を袖で拭き取る。
彼女はツンとした顔で済ましていた。
「苦いよ。」
「俺の味」
「馬鹿。コーンスープ奢りなさい」
「コーヒーなら」
「嫌い。勉強しよう」
「保健体育の実技?」
「数学」彼女は黒板へ身体を向けてしまった。俺は椅子を元に戻して、黙って教室をでた。
自販機の前でわしゃわしゃ頭を掻いた。ちょっと調子に乗ってしまったなぁ。
自販機は2回変な声を出して、缶コーンスープを二つ吐き出した。
さっきの彼女の真似をしてみる。
ぶんぶん。
あんなに振ってなにがあるのだろうか。変な子。
「はい。」彼女は一度、缶を目に映して俺を見上げた。上目遣い。鎖骨が綺麗ですねお嬢さん。
「ありがと…」頬がピンク色になってますよお嬢さん。「乾杯しよ」缶コーンスープで乾杯。
いつもはうるさい教室が今は静かで。
40人ぐらいで溢れる教室が今は二人で。
僕等はそんな場所で小さく缶と缶をぶつけて音を立たせた。
俺もコーンの粒はいらないと思った。