第二話 竜
宴会の翌朝。
宿屋の店主がカイルに問う。
「カイル遊撃隊の皆さんはこれからどうするご予定なんです?特に予定が無いようでしたらしばらく村にとどまってもらえませんか?」
それに対してカイルが答える。
「これから隣りのディアマンテの町に行こうと思います。こちらの国の冒険者ギルドに登録もしなくちゃいけないですし」
「そうですか……」
店主はは落ち込む。
「大丈夫ですよ。昨日皆さんとお約束した通り、魔王は我々が倒します」
カイルが元気づけるように言うと
「分かりました。よろしくお願いします」
と言って店主も気を取り直す。
村の出口では多くの村人が見送りに来ている。
「村を救ってくれてありがとうございました!」
「気つけて下さいね!」
「また来てくださいね!」
村人たちに手を振って応えながら歩いて行くカイル一行。
レティシアが
「話してみれば良い奴らだったじゃないか」
と言うとエレオノーラが
「そりゃ、嘘つき集団から村を救った英雄になったんだから扱いも変わるさ」
と返す。
それを聞いてたプルムが
「それにしても、誰があんな噂を立てたんでしょうね」
と疑問を口にする。
グスタフがそれに答える。
「王国側の間者の可能性が高いと思うがな。だってそうだろう?王の娘との結婚を断ったからって魔王を倒した英雄を国外へ追放したなんて外聞が悪い。王国側としては何としても揉み消したい事実だ」
カイルも
「そうだな、その可能性が高いと思う。だとすればかなり広まってると思う。何せ、悪意を持って意図的に広めようとしてるんだからな」
と同意する。
そんな話をしていると、遠くからフェンリルが五匹、カイルたちに向かって一直線に走ってくる。
「五匹か。丁度一人一匹だな」
カイルが言うと皆が武器を構える。
襲い掛かってきたフェンリルに対し、カイルは剣、グスタフは戦斧、レティシアはドラゴンクロー、プルムはフレイル、エレオノーラは女帝の鞭でそれぞれ一撃喰らわせる。
フェンリルは全てその一撃で息絶えた。
何事も無かったように歩いて行くカイルたち。
一泊、野宿して次の日の昼頃にディアマンテの町に到着する。
そこそこ大きな町の様で人の往来も多く賑わっている。
カイルたちは、先ずバルバロッサ帝国で冒険者登録をしないと依頼も受けられないので冒険者ギルドを探す。
通行人に聞くと、町の中央の大通りにあるとの事なので行ってみる。
「ここか……」
カイルがドアを開け中に入る。
冒険者の数も多いし、掲示板に貼られた依頼の数も多い。
カイルが受付に行き声をかける。
「冒険者登録したいんですが……」
「新規ですか?移籍ですか?追加ですか?変更ですか?」
思いもよらぬ質問に考えて質問で返すカイル。
「え、と、ミストラル王国の方では登録してあって、今回こちらの国のギルドで登録したいんですが、この場合は、移籍になるんですかね……?」
受付は答える。
「ミストラル王国の方を除籍するなら移籍、残すなら追加になります」
「あ、じゃあ追加で」
「分かりました。ミストラル王国の方で登録してあるパーティー名をお聞かせください」
「カイル遊撃隊です」
「カイル遊撃隊?プッ」
パーティー名を聞いて噴き出すと受付は続けて言う。
「魔王を倒したなんて嘘をついて国を追われた方々を登録するなんてみっともなく手出来ません。そんなことしたらバルバロッサ帝国の冒険者ギルドの名が地に落ちますから」
それを聞いたグスタフが
「何だと?」
と言うとレティシアが続いて
「もう一遍言ってみろ!」
と喰ってかかる。
しかし周りの冒険者たちは笑い始める。
「こいつらがカイル遊撃隊か」
「良く恥ずかしげもなく冒険者ギルドに来れたな」
「全冒険者の面汚しめ」
カイルもイラッとしたがあくまで冷静に言う。
「俺たちが魔王を倒したというのは本当だ。実力を示したら登録してくれるか?」
受付は笑いをこらえながら
「実力?嘘をつく実力ですか?」
と返す。
カイルはそれでも冷静に話す。
「あの掲示板に貼ってある依頼の中で一番難易度が高い依頼を達成しよう。それでどうだ?」
受付は
「いいでしょう」
と言うと掲示板を指さして続ける。
「あの一番左上の依頼が一番難易度が高いので、それを達成してください」
レティシアが素早く依頼書を取ってくる。
「これか」
依頼の内容は“南の岩山に生息するドラゴンを倒す”というもの。
カイルは
「何だ。これが一番難易度が高い依頼なのか。簡単だな」
と言うと受付に
「じゃあ、この依頼を引き受けるから達成したら登録お願いしますね」
と言う。
「待ちな!」
一人の冒険者が割り込んでくる。
「俺は紅蓮の翼のリーダー、オズヴァルド・カルデローニだ。この依頼はたった今、俺たち紅蓮の翼が引き受けた。お前たちの出る幕はない」
カイルが
「“たった今”なら俺たちの方が先に受けたんだから権利があるのは俺たちだろ?」
と言うとオズヴァルドは
「お前らは登録前で正規の冒険者じゃないんだから権利はこっちの方が優先だ」
と返す。
「あ、そ。じゃあ、そっちに譲るよ」
カイルは意外とあっさり引く。
それに対してグスタフが不満を言う。
「良いのかよ!?あっさり譲っちまって。実力を示すって話はどうなるんだ!?」
カイルは
「まあ、心配するな」
とグスタフに言い含めるとオズヴァルドに言う。
「それだけ自信満々に言うんだから今日これから行くんだよな?」
オズヴァルドは
「何っ!?」
と言って少し慌てた様子を見せる。
カイルは続けて言う。
「良いんだぜ。お前たちが今日行かないって言うんなら、俺たちが明日行って、依頼なんて関係なく倒してくるから。そうなればお前らは俺たちに後れを取ったヘタレ集団って事になるけど、それで良いよな?」
オズヴァルドは悔しそうな顔をしながら
「行くぞ!」
と言って他六人のパーティーメンバーと共に出て行った。
グスタフが
「良いのか?行っちまったぞ」
と言うとカイルは
「良いんだよ」
と返し、続けて説明する。
「あの掲示板の左上の依頼書が貼ってあった場所と他の場所、色が違うだろ?」
「ああ、確かに」
「あの依頼書は長い間、あそこに貼ってあったって事だ。つまり、長い間、誰も受けようとすら思わなかった高難易度の依頼だった」
グスタフ、レティシア、プルム、エレオノーラは納得しながら黙って聞いている。
「あの紅蓮の翼とかいうパーティーも倒せる算段が無いんだ。でも俺たちに嫌がらせするつもりで依頼を受けた。おそらくそのまま有耶無耶になるまで時間稼ぎをするつもりだったんだろう」
「じゃあ何か月も待たされるって事か?」
とレティシアが問い、カイルが答える。
「いや。他の冒険者たちの前で俺に挑発され退くに引けなくなったから、おそらく今日倒しに行くだろう」
「それじゃあ……」
とプルムが心配そうに言うとエレオノーラが
「大丈夫だろう。今日行って倒せる相手ならとっくに依頼を受けてた筈だ。それが今まで受けてなかったって事は……」
とそこまで言うとグスタフが
「倒せないって事か」
と言いカイルが
「そう言う事」
と結論を言う。
「だから俺たちは宿屋にでも泊まって、明日行こうぜ」
とカイルに言われ、一行はギルドを出る。
無事に宿屋に泊まれて翌朝、一行は冒険者ギルドへ行ってみる。
しかし、紅蓮の翼の姿はない。
その時、一人の冒険者が慌てて入って来る。
「大変だ!紅蓮の翼がドラゴンに全滅させられた!」
「何だと!?」
「どういう事だ!?」
「昨日、紅蓮の翼が一向に返ってこないから様子を見に行ったんだ。そしたら一匹のドラゴンが紅蓮の翼のメンバーの遺体を喰ってやがった……」
「この町最強のパーティーが全滅……」
冒険者の一人がカイルに食って掛かる。
「お前らのせいだぞ!」
カイルは落ち着き払って
「何で?俺たちが受けた依頼を横から掠めて行ったのはアイツらだぞ。自業自得じゃないか」
と言う。
「何だと!」
「だから最初から俺たちに任せておけばよかったんだよ」
「この町最強のパーティーが倒せなかったドラゴンをお前ら如きが倒せるわけないだろう!」
「じゃあ、見に来いよ。俺たちはこれからドラゴンを倒しに行くから」
カイルは他の冒険者たちを指さしながら続ける。
「お前たちと、それからお前たちも」
「何っ!」
「勝手な事言うな!」
「誰が行くか!」
カイルは雑嚢から金貨を出して言う。
「じゃあ、俺から依頼を出そう。まず最初に前金として金貨一枚、俺たちの戦いを見届けたら、俺たちが勝とうが負けようが、戻って来て報告。そしたら金貨四枚。遠くで見届けて戦闘の結果を報告するだけで金貨五枚だ。ぼろ儲けじゃないか。それとも、ビビッて戦闘を見るだけもできないのか?」
カイルの挑発と金貨につられて三つのパーティーがカイルの依頼を引き受けた。
カイルたちは準備を整え、南の岩山に向かう。
道中、グスタフが問う。
「戦闘を見届けるパーティー何だが三つも必要だったのか?一つのパーティーだけで良かったんじゃないか?」
それに対してカイルが答える。
「いや、一つのパーティーだけじゃ嘘の報告をする可能性がある。俺たちの戦いを見届けもしないでギルドへ行って、俺たちが勝てないと見て“負けた”って報告するかもしれん。そこへ俺たちが帰って来て“倒した”と言ったところで、“逃げ帰ってきただけだ”と言われて信用されないだろう」
それを聞いたグスタフは
「なるほど。一つのパーティーが嘘をついても他の二つのパーティーが本当のことを言えば意味が無いから、結局どのパーティーも嘘をつけないって事か」
「そういう事。それに俺たちの戦果を広めるのにも人数が多い方が広まりやすいだろ」
「そこまで考えてるのか」
カイルの考えの深さにグスタフが感嘆する。
南の岩山に着くと一匹のドラゴンが現れる。
その姿を見たエレオノーラが言う。
「あれはグレータードラゴンだな。並みの冒険者じゃ倒せないのも無理はない」
カイルは
「グスタフとレティシアは下がっててくれ」
と言う。
グスタフは
「どうする気だ?」
と聞く。
カイルは
「エレオノーラとプルムの最強呪文でダメージを与え、俺のディバイン・スラッシュで止めを刺す」
と言う。
それに対してグスタフは
「そんなことしなくても普通に戦って倒せるだろ」
と反論するがカイルは
「観客がいるからな。格の違いを見せつける」
と言う。
グスタフは
「なるほどな」
と納得すると
「レティシア、下がるぞ」
と言って、納得いかなそうなレティシアを連れて後方に下がる。
それを見ていた冒険者パーティーは
「何だ?後ろに下がった二人は戦う気がなさそうだぞ」
「何かの作戦か?」
「まさか、俺たちを戦闘に巻き込むつもりじゃないだろうな?」
と混乱する。
カイルの号令。
「エレオノーラ!頼む!」
エレオノーラが呪文を唱える。
「雷光電撃!」
傍観者パーティーの一人が叫ぶ。
「あれは雷系最強の魔法だぞ!」
雷撃がグレータードラゴンを捉える。
ドラゴンはうめき声をあげる。
翼を損傷して飛ぶことが出来なくなる。
「プルム!頼んだ!」
プルムが呪文を唱える。
「女神の裁き(ゴッデスジャッジメント)!」
「今度は僧侶系最大の攻撃魔法だ!」
巨大な光のハンマーがドラゴン目掛けて打ち下ろされる。
動きが鈍った隙にカイルが唯一使えるスキルを使う。
「スキル:神の斬撃!」
巨大な光の斬撃がドラゴンを真っ二つに切り裂く。
傍観者たちはあっけにとられている。
「グレータードラゴンだったよな、あれ」
「たった三人で、あんなにあっさりと……」
「夢でも見てるのか……?」
カイルはパーティーメンバーに
「せっかくだから、売れそうなものはもらって帰ろう」
と言って角やら牙やら爪を採集し始める。
持てるだけ持ったらカイルは傍観者たちに声をかける。
「おーい!お前たちも何か持ってけよ!牙もまだ少し残ってるし、鱗や肉や骨ならまだ充分あるぞ!」
傍観者たちは駆け寄って来て
「良いのか?」
と聞いてくるがカイルは
「俺たちはもう持てないから、残りは好きだけ持ってけよ」
と言う。
ドラゴンから取れる素材は高価だから傍観者パーティーのメンバーは喜び勇んで我先にとドラゴンの死骸に群がる。
一足先にギルドへ帰ってきたカイル遊撃隊はギルドの受付カウンターに持ってきた素材をドカッと乗せる。
「ドラゴンを倒してきたぞ。これが証拠だ」
カイルが言うと周りの冒険者たちは騒然とする。
「まさか……本当に倒したのか……?」
「この町最強の七人パーティーが全滅して喰われたってのに、たった五人で……?」
「し、信じられん……」
カイルは受付に
「これ、全部換金してくれ」
と言うと受付は
「分かりました……。それで、一緒に行った他のパーティーは……?」
と問う。
カイルは
「ドラゴンの残りの素材を回収してるよ。そろそろ戻ってくるんじゃないか?」
と答える。
受付は素材の価値を計算し、金貨を持ってきてカウンターに乗せる。
「こちら金貨千枚になります」
周りの冒険者たちは感嘆の声をあげる。
この世界での金貨一枚の価値は今の日本での五万円ほどに相当する。
金貨千枚なら五千万円ということになる。
「すげえ……」
「あれだけあれば、慎ましく暮らせば一生働かなくて良いな……」
そんな中、一人の冒険者が異を唱える。
「それにしたって高くねえか?」
カイルは冷静に答える。
「ドラゴンはドラゴンでもグレータードラゴンだからな。並みのドラゴンとは質が違う」
それを聞いてまた周りがざわめく。
「グレータードラゴンだって……!?」
「ドラゴン種の中でも最強クラスじゃないか!」
「それをアイツらが倒したってのか……」
そうこうしているうちに傍観者パーティーたちが帰ってきた。
「おい!お前ら!アイツらがグレータードラゴンを倒したところを見たのか!?」
「ああ、見たよ」
「どうだったんだ?凄い戦いだったのか?」
「凄いなんてもんじゃない。アイツら、二人を後ろに下げて三人だけで戦って、しかも魔法二発と斬撃一回で倒しやがった」
「何だと!?本当か!?」
「ああ、俺たち全員この目で見たんだ。間違いない」
「ところで、お前らの持ってるそれは?」
「ドラゴンの牙、肉、骨、鱗だ」
「何!?」
「俺たち全員、おこぼれもらってきたんだ。これで当分遊んで暮らせるぜ!」
「そんなすげえ戦いを見れた上に、それだけの素材を手に入れたのかよ」
「羨ましい……」
「俺たちも行けば良かった……」
カイルが受付に
「これで俺たちの登録、問題無いだろ?」
と言うと
「わ、分かりました。昨日の無礼の段、お許しください」
と言いながら書類を出す。
「こちらにメンバーの方のフルネームと職業を記入して下さい」
カイルたちが書類に記入して提出する。
「それでは、ミストラル王国の方のギルドの情報と統合しますので四、五日お待ちください」
カイルたちがギルドを出ようとすると冒険者たちが集まってくる。
「昨日はすまなかった」
「バカにして悪かった」
カイルは
「まあ、そういう事もあるさ。ただ、これからは下らん噂に惑わされないようにした方が身の為だぞ」と言うとギルドを後にする。
外に出るとカイルはグスタフに声をかける。
「金貨千枚は、流石にお前でも重いだろ」
「ああ。宿に戻る前に両替商に預けて行こうぜ」
「そうだな。大金持ち歩くのも物騒だし、そうしよう」
カイルたちは両替商に向かった。




